この青い青い空の下。
緑に満ちた山の中でただただ虚ろに空を仰ぐものが二人…。
「行ってしまったか…」
「はぁ、早いですねぇ…」
「んぬ?いつの間に…」
「私も晄の戦いのほど、見せていただきましたとも」
「そうか…あやつめ強くなった。最後のあれは儂も食わされたわい
まだまだ未熟と、そう思っておったがなぁ…」
「ふぅ、父親は辛いですな…」
「誰が父親だ」
「もちろん我々ですよ?」
「…っと、これは一本とられたか。ファハハハ…」
「晄~!!俺との修業!役に立てろよ~!!」
「ぬ?修業?なんのことだ?」
「あぁ、はい。飯綱様が地獄の三週間を与えている時に料理の手ほどきを。
飯綱様が体力をつけさせようってなら俺は料理をつけさせようってなもんですよ」
「…中々貴様は隅におけぬな、美喰(みじき)」
「ふふ、料理人を甘くみない事です。
俺にも俺の戦い方があるんです!
隠し味は結構奮発しておきましたから…ね」
「やれ、いい仲間、いや、いい家族を持ったな晄め」
「飯綱様もその一人「やかましい」はいはいっと…」
こうして山にすぅっとした風が通りすぎるのだった。
「強く…賢くなって、土産話でもこさえてこい晄。
さすれば儂も全力でお前を迎えてくれるぞ。ファハハハハ…!」
■■■
青い空…すみわたる空…イイ!
流れ行く白い雲…イイ!
何だか、世界に色がついたかのような気分!
あの空も!あの森も!美しく色がついたかのよ…
「晄~!!」
悦に浸って空を遊泳していると文が飛んで来た。
「ん~?何、文~」
「本当に今すぐ旅に出ちゃうの?」
なんとも変な質問ね。背中を押してくれた友が足を止めるとは…。
…倒れちゃうね、前屈みに。
「もちろんよ!だからこそ!私は飯綱様に挑んだのであって…」
「そ、そりゃあそうだけど!今すぐ行っちゃうの!?明日とかでも…」
「時間と冒険は…待ってはくれないのよ。文」
「~~~!!」
なんだか文が珍しく焦っている。
あたふたと腕を振ったり、腕を組んで考え込んだり…。
いや本当にここまで取り乱すのは珍しいわ。
…鳥乱す…クフッ。
「何がおかしいのよ!もう…」
「ごめんちょっと…フフ
でも晄がそこまで取り乱すのは珍しいわね?」
「あぁもう…。
あ~あこんなに晄の旅が早くなるなんて…」
「何よ、もっと遅くなったって言いたいの?」
「えぇ千年後位?」
「そんな酷い」
「まぁそこまでじゃないにしろ、まさか今日だなんて…」
「何が起こるかなんて、今日も明日もわからないわよ?」
「はぁ…まったくね。ってそうじゃなくて…」
文がめちゃめちゃ慌てている。
いや本当に珍しいわねぇ。普段は冷静で真面目なのに…。
「あぁもうっ!えぇ…ほらあれよ!あれ!」
「あれ?」
「人間!人間はいいの!?」
「あ!!!!」
だ…大事な事を忘れていた…。
あきひとに私が旅に出る事を伝えなんだば…。
「ありがとう!文!大事な事を思い出させてくれて!」
「え!?」
「さて、善は急げ!早く行かないと…!!」
方向良し!風良し!さて、あきひとの所へ急げ!
「急いては事を仕損じるわよ…もう晄ったら~!!」
■■■
あれからもう数年。
晄は確かにここに来る機会は減った…けど、
減る前と同じ、いやそれ以上に会う時は充実していた。
晄は会うたびに色々な話をしてくれた。
その話はとても充実していて僕にとっては非常におもしろく、支えになった。
ほとんどは冒険や修行で、
危険で、爽快、まさに命賭け。
それは勇気があって出来る事。僕にはできるかどうか…。
でも晄はいつも楽しそうに、強くその言葉を綴(つづ)っていく。
僕はもっと強くなるべきなんだろう。
晄の様に、強く、気高く…。
「あ…あきひと様!」
不意に爺やの呼ぶ声が響く。走りながら来たのかな?息切れ切れだ。
「どうしたの?」
「はぁ…はぁ…実はにゅ…なの…話がごほっごほっ…!」
「だ…大丈夫?」
「はぁ…はぁ…やれ、
この爺もいよいよあきひと様に心配される身となってしまいましたか…」
「無理はしないでよ」
「フォッフォッフォッ…伊達に長生きはしとりませんぞ。
これぐらい…、ごふっ…この話に…比べ…ればなんの…その…」
そんな死にそうな声で言われても…。
でもそんな体を削るような事までして伝えたいことって…?
「ふむ…耳を澄ましてお聞きくだされ…
実は…入内の話がですね…」
「…………
うええっ!?」
入内!?えぇ!?ま…まだそんな歳じゃ…。
「実は、今はもう城下の方や城の一部は準備をしているようで…」
「え…」
もしかして…知らないの僕だけ?
当事者なのに!?
「……で!そうだ!な…名前は!?」
「えぇ、名前は藤原せいこ様と…」
「せい…こ?」
それが…入内する人の名前…。
「ふむ…で、ですね今日どうやら入内のでいらっしゃるらしいとのです」
「なっ…ちょっ…」
早い!展開が早い!なんでそんなに早いの!?
「…お伝えできなかった事、お許しくださいまし。
何せ、あきひと様の父君が我々に話を渡すなと…そう申しておったらしく
誰もそれを知らぬ存ざぬ申し上げぬと言った風でありまして…
この体たらくになってしまいました。この爺、不覚を取ってしまい…」
「そんな…父上…
…いや、爺が謝る事なんか何も無いよ。頭を上げて」
「くっ…この歳になって涙を流す事になろうとは…
…あきひと様、強くなられておりますな…
っと!そ…そんな問答をしている場合ではないのです!ささ!今すぐ準備の方を…!」
「あっ!そ…そうだった!!」
急がないと…!!
■■■
壁から耳を取る。
なんと…あきひとが入内…とな!?
これは参ったな…。一体どうしてくれようか…。
「ふむ…これはどうした事やら…」
「何渋い顔してるのよ晄…」
飯綱様の真似をしつつ、悩んでいると何故か文の姿が。
「あのさ…なんで文がここにいるの?」
素朴な疑問を文にぶつけてみた。
「成り行きよ」
素朴な答えが帰って来ました。
成り行きって言葉便利よねぇ…。
「とりあえず拙(まず)いわね…」
「何が拙いのよ?」
「あきひとが入内するって言うのよ…」
「入内?」
「え~っと結婚よ。結婚」
「えええっ!?まだ、あんな若い子供が!?」
「えぇ…しかも聞いたら見たことも無いって言うじゃない?
そんな訳のわからない人とお見合いするなんて私が許さないわ」
「おぉ、怖い怖い。晄がまるで飯綱様みたいね…」
「え?そんな事言ってたの?」
「私が妖怪の山に行くって言ったらね…
…ってそんな事言ってる場合?」
「あ!…っく、ちょっと聞きたかったかも…」
「何いっているのよ…で、具体的にはどうするの?」
「うん…まず、そのせいこってのを調べてやるのよ」
「どこにいるのよ?そいつ」
「今日来るらしいから…多分お付きを沢山連れて来るのがそう。
だから城下町の方でそういうやつを探すわ」
「お付きって…本当にいるの?」
「だって城に来る人間よ?で、しかも入内するのよ?何か派手でしょう」
「そんなめちゃくちゃな…」
「私は東、文は西。良い?」
「拒否権は?」
「権利を主張する前に義務を果たせってね」
「晄が言うな。まぁいいわ。
ここまで来ちゃったんだからとことん協力してやるわよ!」
「感謝感激雨あられ~!!」
こうして二手に分かれて捜索開始!
さて、一体どんな奴なのかしら…?
□□□
辺りは町、どこを見ても町だ。城下町って普段早く飛んでいるから
気にならなかったけど…
めっちゃ広いわね。
これはあれね。森の中に種を落として探せって感じだわ…。
いや飯綱様の修行の一つなんだけどね。
あぁ空ってェ…広いわねぇ…。
■■■
で、晄が探せと言った訳だが。
こんな広い町をどう探せと言えばいいのかと小一時間聞きたい。
いくら私(あや)だってこんな町中を探すのは大変よ…。
町を見れば人々が。
時に物を売っていなり、話し込んでいたり、走り回っていたり…。
人間って騒がしいわね。晄が不思議がるのもわかる気がする。
あ、万引き!
あぁ…捕まった。やれやれ、人間って小悪党も多いわねぇ…。
■■■
町並み、人盛り…見てて飽きないわねぇ…。
フフフヒフ…。いやぁ人間って面白…
「せいこさま。後、少しでお城につきますぞ」
「よしなに」
それなりに年いった声と子女の声が耳に届く。
ついに!ついに来たわね…!どんな奴なのかしら…。
牛車を見つけた!…けど幕みたいなのがあって見えない…。
かくなる上は…引きずり出すまで!
「うわっ!」
「どうしたのです?」
「いえ、道のど真中に烏がくたばってまして…いま片付けます」
死にかけの空腹の烏が道にいるわよ?
さて、どう出る?
助ける?通りすぎる?それとも道の外に投げる?それとも…
「可愛そうに…きっと疲れ果ててしまったのですね…」
「あ!せいこ様!」
まだ幼いと言える子女がひょいっと牛車から出てきた。
さぁ…出てきた出てきた…。
さて、酷いようなら私が追い返してやるわよ!
「この烏は…生きてきるのですか?」
「え?あー…死んでますね」
体から汗が吹き出す。
えっ?何言ってるの?この人何言ってるの?
「では厚く弔ってあげてください」
涼しい声で恐ろしい事を言う…
ちょ…お嬢さん?
「へ、へぇ…あぁそうだ。そこの穴に埋めてやりましょう。火葬は時間が掛かるので…」
「では、そうしてください」
な…何ィ!?物騒な単語が聞こえるんだけど…。
火葬?埋める?え?私、生きてますよ?
ナンデツチノナカニイナキャイケナイノ?
「成仏しろよ!せいっ!」
ひょいっと投げこまれる。
ワアアアアア!?ちょっ待っ…
□□□
あぁ…死ぬかと思った。死体の気持ちってこんなのなのかしら…。
なんか変な川が見えかけたわ…。あれが死に目なのね…。
うわぁ…土臭い…。はぁ…もう最悪。帰りたい。
「晄~!!」
「あ、文~!」
「…なんか土臭いわね?」
「も…もうやめて…」
「…そ、そう。で、そのせいことか言う奴はいたの?」
「い…いた」
「どこに!?」
「こ…ここ…」
「で、どうだった?」
「う…埋められた…」
「埋められた!?」
「いやぁ死に目をみちゃったわ!ハッハッハッ…ガァッ!!」
「そ…そう…じゃあどうするの?」
「もち…ゲフッ。あのせいことか言う奴を見極めるのよ…!」
「根性ねぇ…」
「し…城ォ…城に行くわよォ!」
「休んだ方がいい気がするけど…」
「かまわじ!」
急いでせいこを追う。
しかとその心見極めてやる…!!!
続く