もうどれ程たったのか。
西の空は徐々に赤みをまし、青き空を染めてゆく。
陽は揺らぎ、この空を月に受け渡す足取りを進ませていた。
その中を、二羽の烏が翔る。
■■■
私は、あきひとの城へ飛んでいる。
いや語らずともそれはわかるだろうけど。
徐々に日は傾きつつある。いや~まずいわね…。
また更に速さを上げる。
「ねぇ、晄?」
「ん!?何よ?」
「そのせいことか言う奴を、どうしてそこまで見極めるっていうの?」
「… … … …。
…小さな頃、辛い時、悲しい時ってさ、文はどうしてた?」
「え?
…どうするって言われてもね。
私自身はただうちひしがれてるだけよ。
何かする訳じゃないわ。
…そういえば気が付くと皆励ましてくれてたわね。
飯綱様、晄、山の皆…。懐かしいな」
「…あきひとには『皆』がいないのよ。
辛い時、悲しい時、ずっとずっと、独り。
助けてくれる人が、信じてくれる人が欠けているの。
それはとても辛いことよ。
だから人より心の傷は深いし、広い。
傷口を抉る奴が来るって言うなら…問答無用よ」
「なるほどね…で、もし良いやつだったら?」
え?それは考えて無かったかも…。
ん~…どうしたものか…
「… … … … …そう…ね。あきひとのことを任せるわ」
「え?うぇえ!?」
一言で二度驚く文。お得感は無いわね。
「何よ、その反応…」
率直に聞く。
「いや、まさか任せるなんて…。
… … … … … …
…どうしても旅には出たいって事ね」
文が小さく、密かに話す。
やっぱり文にはわかってしまうのかな。
…本当は側にいてあげるべき、なんでしょうけど…。
でも…。私は…私は卑怯ね。
「…うん。勝手なのはわかってる」
今、言える言葉はただそれだけだった。
ただただ自分勝手…。それはわかってるけど、
旅に出たい。世界を知りたい。人間を知りたい。
それが押さえられない。
普段からあった探究心が今になって重く感じた。
「そう…。
っと着いたわね」
ふと気がつくと城に着く。
話し込んでいたせいか、
こんな大きな城が目前にあるというのに気がつくことがなかった。
ちょっと危ないわね、私。
「で、どうするの晄?」
「とりあえず、せいこを探すわよ!」
「そこから!?」
「っと思ったけど…あきひとの所に行けばいいわね」
「っとやれやれ…」
■■■
「ん?あれは…」
庭に人が見える。
一人はあきひとで、もう一人が…。
「あきひと様!私、名をせいこと申します!」
その『せいこ』だった。
(ちょっと晄、手遅れだったんじゃ…)
(出来ればここに来るまでの様子を見たかったけど
この際、ここで見極めたって遅くは無いわ
よ~く、この目で見極めてやろうじゃない!)
(ふーむ。どこを見れば見極められるのか…)
… …しかし、せいこってあきひとより背が小さいわね。
年が違うのかしら?
「あきひと様、趣味はなんでしょう?」
「え?趣味?うーん、歌を詠むこと…かな」
「まぁ、素敵…!では試しにおひとつお聞かせください!」
「えっ?…うーん今は持ち合わせが無いんだ」
「あら、そうなのですか…?」
思いの外馴染んでいる気がしなくも…
いや、まだよ。まだ馴染んでは…。
ハッ!
よし!作戦壱!
(文!)
(え?何?)
(これをあーしてこーしてファハハ、よ。良いわね!)
(良くない。まぁ仕方ないわね…)
□□□
「グワァ!ガァ!」
「あら?烏…?」
「あ、本当だ!」
「っ!烏がまた弱って…!」
作戦その壱、弱ったふりしてどんな対応か確かめる!
今度はちゃんと弱っている風に見せて… と。
埋められちゃかなわんって…。
「あぁ、可哀想に…この烏は、あの烏とは違って生きているようですね」
いや、あの烏だって生きてましたからね?
勝手に殺さないでね…。
で、この後文が私について来る!
で、文は私が空腹で弱っているところを慰める!
そこの反応を見て考えるとしましょう。
「グワァ!グワァ!」
「あぁ、あれはきっとお仲間の烏ですね…!」
文を見て嘆くあぁっとせいこ。
飲み込みが早いわね。うん、筋書き通りよ。多分。
で、ここからが見ものね…。
「とりあえず…どうしよう」
あきひとが若干戸惑っている。
「あきひと様はどうなされたいのです?」
せいこがあきひとに近づき目線を合わせ真剣に問う。
結構しっかりしてる?
「助けよう」
「えぇ」
あきひとが真剣に答える。せいこが頷く。
そして私は、二人にゆっくり城の中に運ばれた。
そして座布団におかれる。
あぁなんか嬉しい。
なんか嬉しい誤算である。
…本当はここで文が私を回収するはずだったんだけど。
雰囲気に飲まれて動いてないみたい。
これは…いいのか?
…よくないわよねぇ。
そんな事を考えているとせいこが喋りだす。
「それにしても可哀想に…私がついていてあげます。
…苦しい時は誰かがついてあげないと」
え?あ?う?
「せいこ…」
あきひとがなんとなく思うものがあるみたい。
…さて、どうしよう。
「あきひと様、強い…強く賢い帝になってくださいまし」
「え?」
「誰もが、傷付くこと無く笑い助け会える時代を作ってください」
「…うん。強く…強くなろう」
… … … あ。
口が開いていた。
いや、これは…。
想像以上だったわね。うん。まいったわ。
…私って何してるのかしら。
あまりの想定外に思わず自問自答してしまう。
「そうだ、薬箱を持ってきますね」
せいこが向こうへ歩いていく。
別に私傷は無いのでとっととゴメンしましょう。
…あきひとに別れを告げて
■■■
せいこ…が薬箱を取りに部屋へ出向く。
ちょっと…考えてたりする。入内の話。
…本当は今日は断ろうと思っていたんだけどね。
…晄には言えないな。
照れ隠しに少し笑ってみた。
そして、ふと座布団の上の烏を見ると。
何故か晄がいた。
■■■
「え "」
「え?」
「ながっ、うえおっ!?なんでここに!?」
凄く取り乱すあきひと。
目が白黒して、耳は紅く、手は上下に動く。
…面白い。
「フフ、あー…落ち着いて。深呼吸よ」
「すー、はー、すー、はー
…なんでここにいるの?」
落ち着いたらしい。
…来た目的は話さなくていいわよね。
「あきひと。今日は…大事な話があるのよ。それで来たの」
「え?」
私の思いが通じたのか姿勢を整えるあきひと。
…凄く言いにくい。あれほど考えていた言葉が中々声にならない。
しかし何とか…何とか言うしかない。
「私ね…旅に出ようと思うの」
「えっ…!?」
やはり驚くあきひと。うー…ん。
「…どれ位?」
「わからないわ」
「…そう」
「…ごめんなさい」
「…僕、強くなる。晄に…迷惑をかけない位」
「…あきひと」
「だから…大丈夫。それに…せいこもいるから」
「ありがとう…いや、ごめんなさい?
何と言えばいいのやら…」
あきひとは強く、私に目を会わせて話す。
それは、覚悟を持った眼だった。
無垢とは違う輝きを持つ眼が私に向いていた。
…自分でも言葉がわからない。
どう言えばいいのかしら?どう…感謝したらいいのかしら?
「僕は、もっと強くなるよ。みんなを守れるほどに…」
「…あきひと」
「…だから晄姉さん
行ってらっしゃい」
「…えぇ!!」
□□□
暖かい…空は大分冷えたけど、体の芯が暖かかった気がした。
「終わったみたいね」
「あ!文!」
ひょっこり顔を出す文。
「作戦は?」
結果良かったが、これはどうなのだろう。
「うん、実行不可能だった」
「なんでよ!?」
「何か、眩しくてね…」
「…あぁ!」
「納得しないでよ!」
どうしろと…。
「…ねぇ、晄」
「え?何?」
「お土産、よろしくね」
「…うんっ!いいわよ!何か良いもの持ってくるわ!」
「じゃあ期待しないで待ってるわ」
「ちょっと!」
「プッ」
「フッ」
「「アハハハハハハハ!」」
大笑いした。それはもう、思いっきりね。
…文ともしばらく会えないのね。
「じゃあ晄。私は仕事があるから…」
「うん、ありがとうね。行ってくるわ!」
「…ふぅ、行ってらっしゃい」
こうして日はくれ行く…。
「すみません、旅の方ですか?」
私があるいていると後ろから声を掛けられた。
「え?私?はい、そうですよ」
見ると修行僧なのか、陣傘を被り、衣を着て杖を持っていた。
「どこまで行くのですか?」
「え?特に…ないかな」
「では良ければ、途中まで御一緒しませんか?」
なんと!ちょうど私も誰かいたらいいなと思って…っと!
「本当ですか!?ぜひお供させてください!」
まず先に答えないとね…。
「はい。私の名前は…
続く