「ふぅ~…一服した!しかしあそこがまさか狸達の悪戯だったとは…」
「…暇なんですよ、彼等も」
「あはは、そうかも」
私達は、意気揚々と道を歩く。
やっぱり、どこへ行くか決まってはいないけど。
…でも
そうすると不思議と未知が映えてくる。
草を踏みしめる感覚も、風を浴びる感覚も、橋を越える感覚も
自然と、新鮮味を帯びてくる。
宙に浮く感覚も、川に落ちる感覚も…
え?
ジャボン!!
「ガフッ…な、何よ。もう…」
口の中に入った水をはきだしながら悪態をつく。
空しく、水がピチャリと跳ねる。
「これは…落とし穴ですかね?」
華仙が穴から顔を出しつつ話す。
「は…橋に落とし穴?そんなの聞いた事無いわよ?」
「聞いたことはなくても…ほら」
華仙が指を指す先には『貸船』とあった。
そして人目を忍ぶかのように小さく断り書きがあった。
『※橋は渡らないでください』
なんじゃそら。
そういう言葉しか出なかった。
なんかのとんち?いや私は真ん中あるいたからね。
「多分、何か問題があるんでしょう。何かわかりませんが」
「ふぅむ…」
考えつつも、川から出る。
すっかり濡れて体が冷えてしまった。
「うぅ…さ…さぶっ!」
考えは川を出るときに流れてしまったようだ。
□□□
「とりあえず…どうします?」
華仙が申し訳無さそうに話す。
華仙がそんな表情をする必要は無いんだけどね。
「まず、服を乾かしたいわ。焚き火でもする?
森の中に行けば木の枝位あるでしょうから、それを拾って燃やして乾かそうかしら。」
「なるほど、それはいいですね。では早速行きますか」
こうして近くの森へ足を進める。
濡れてて幾分か体が重く、実に不愉快であるッ!
「うわっ!あんたどうしてそんなに濡れてるんだ!?
…ははぁ、この川に飛び込んで死のうとしたのか?
ハッハッハッ残念だったな!この川は浅くて無理だったろう!」
元気の良い、にいちゃんが気持ちよく誤解している。
晴れやかな笑顔なのでどうでもよくなってきそうにもなった。
「あの~」
「ん?なんだい?」
「あそこの橋って何故渡れないですか?」
華仙が素朴な質問をする。
確かに私もそれは気になる。
「あぁ…最近ここいらで童が妖怪見たって言うんだよ」
「妖怪?」
「あぁすげぇでっけぇ奴でな、童共曰く俺よりもずっと大きいんだと」
「ほう?」
「へぇ…」
「で、まぁ罠しかけて捕らえようっつう考えでな」
「はぁ」
「あそこに罠しかけてあるわけさ」
「………」
「でも、看板にちゃんと書いてあるから
よっぽど間抜けでもない限りは引っ掛からねぇだろうがなぁ…」
そのよっぽどの間抜けがここにいますが?
今私とっても悔しい気分です。
…く!橋姫でも出ればいいのに…!
やっぱ無し。結構あれ怖い…。
「でも、なんでそんな事を?」
「いえ、そのひっかかったひ…「待った!」」
「あ、ああ?」
「私達用事があるので、ごめんね!」
「お、おう」
「ちょ、ちょっと晄…「さらば!」」
□□□
一応森に着く。
微妙に乾いて来たが生乾きとか勘弁なので急いで焚き火をせねば…。
華仙を呼ぶ。
「じゃあ早速枝を集めるわよ!」
「はい!」
私達が二手に別れようとしたその時。
「お~い!御主等!焚き火ならこっちにもあるがどうだ?」
近くから少し低い声が聞こえる。
お、おぉ!!それは真(まこと)か!
「本当!?」
確認の声を送る。
「嘘なぞつくか!ささ!参られよ」
「華仙、行こうよ!」
華仙にも確認を取る。
「ふーむ…えぇ」
また、少し華仙が渋ったがその時の私は気づかなかった。
■■■
晄が小躍りしながら焚き火に向かって行く。
何故だろうか、ここに来た時、晄に申し訳ない気がした。
今の私は華仙…。華扇では無いのだ。
音は何も変わらない筈なのに、
何故か名前を呼ばれていない気がした。
…自分は果たせているのだろうか?
そんな事を思いながら焚き火にむかって行く
「「…あぁ、暖かい」」
完全に意気投合していた。
鏡写しとかそんなものでは足りぬほどに。
晄の前に座っている男は非常に背が高い。
何故か白粉(おしろい)を塗り、髪は非常に長い。
近くの武器篭には様々な武器が押し込められ、身に付けている鎧は紅く分厚い。
戦いに関与する者なのは明らかだ。
敵として現れたら強力だろう。
何故かそんな事を考えていた。
「いやぁ乾く乾く…」
「あぁ暖かいでござる」
「いや、本当にありがとう。おかげで助かったわ」
「なんのなんの!困り事あらば助け会うのが世の情けよ」
かっかっかと豪快に笑う男。
もう晄と馴染んでいる。いや、晄が馴染んだのか。
「あ、そうだ名前はなんと言うの?」
「むむ?拙者か!良いだろう!
遠からんものは音にも聞けい!
近くばよって目にも見よ!
西へ、東へ、流れ続けて三千里!
ある時は、深き山に!ある時は、青き大海原に!
またある時は、袖振り合う下町に!
武器を携(たずさえ)え、風にさすらう一匹狼!
誰が呼んだか『人守の武者丸』!
しかしてッ!その真の名はァッ!
武者丸命守(むしゃまるのみなもり)!
ここにアリィ!!!」
パチパチパチ…
あまりの迫力に晄と揃って拍手する。
気が付くと口が開きかかっていた。
「ささ、今度は御主等だぞ」
「え!?私達!?
…うぅむ…じゃあ華仙、私からやるわ」
黙ってあいづちを打つ。
…色々整理がつかないのだが。
「… … … うぅむ…
じゃあ行くわよ!
ヤァ!ヤァ!遠からん者は音に聞け!
近くばよって目にも見よ!
山の嶺より吹く風より流れ出て!
風に流るる雲と共に、仲間と共に、流浪の旅路を進み行く!
探求の思いこそ我、力なり!
果て無き空へは思いを!果て無き大地へは期待を!
刀携えさ迷うは、巣より出し一匹烏!
崇徳 晄とは私の事だ!」
命守に負けず劣らずといったところか。
少し語呂が悪いが。
「じゃあ次は…
…私か。
■■■
華仙がすっくと立ち上がる。
…とりあえずコレ結構大変よ。頑張って。
と思いながら華仙に視線を定める。
「…ふぅ
我知りたくば、音にも聞け!
近くばよって目にも見よ!
東南西北、三千里!
我、仙の道をすすまなん!
留まる事知らぬ水に流るる水仙の如くさ迷うは、
華仙!ここに推参!と言わしめよ!」
あまり乗り気では無いように見えたが、上手く乗ってくれた。
…はぁ、ちょっと喉痛い。
「ハハハ!まさか皆、名乗りを挙げてくるとは!
いや、良いものを見た!お二方、お見事であった!」
手を打ちながらくつくつと笑う命守。
…やらなくてよかったの?何それ…。
凄く力が抜けた。疲れた…。
「…やれやれ。そうだ、命守は何故ここに?」
あ、確かにそれは気になる。
それこそ音にも聞こう。
「ふむ、近頃ここいらで童泣かせの妖怪がいると聞いてな。
拙者鬼とは言え、困る者あらば助けるのが拙者の義よ、
その妖怪めをひっとらえてくれようと言うのだ」
なるほど。
しかし妖怪にも人に近い者もいたのね~。
なんだか親近感が沸く。
それはさておき、確かにその妖怪は気になるわね。
…ん?鬼?
「鬼ィッ!?」
「なんだ御主は!?どうした!?」
「あぁ…晄は天狗なんですよ」
華仙が命守に説明する。
え?な…何故知ってるの?私、人間の姿に完全に化けている筈…。
「何ィ!?天狗!?…そうか!御主がその妖怪だな!」
「どうしてそうなるのよ!?」
「そうです。晄はそんな事は…」
「ふんどうだかな?貴様等の潔白を証明するものなど無いのだ!」
話が進む進む。
なんかどんどん面倒な方向に。
「町の人に聞けば…」
その声は見事に塞がれた。
「行かせはせぬぞ!」
命守が刀を構える。
ちょっと本気!?て言うか無理矢理でも倒すってこと!?
「ハッハッ…さぁ、戦いだ!!」
不本意以外の何者でも無い戦闘の火蓋が今切って落とされた。
(晄、逃げましょう)
(同感、何か不毛よね…)
「何をしている!逃げる算段か?」
「その通り!」
「何ッ!?ハッハッハッ!
ならば先手必勝!逃がす前に討ってくれるわ!」
命守が三日月のような弓を篭から出し構えると同時に打ち出す。
「おっと」
「…っと」
矢が風を切ってかすめる。
かなり勢いがある。当たったら…うぅむまずい!
「次こそは当ててくれる…!」
弓矢を再び構える命守。
しかしその体勢は近距離であれば隙だらけとしか言い様がない。
華仙が背後に忍びより杖を構えていた。
よし、気がそれれば…
「やーい命守!この私を射てるかしらね?」
「ふん!囮にはかからんぞ!そこだっ!」
「なんとっ!」
後ろの華仙に大きな刀で斬りかかる。
「くっ!」
杖からでた刃がぎりぎり大刀を止めていた。
仕込み杖だったんだ。
「ぬ…お主出来る…!」
「そっちも中々…!」
つばぜり合いが続く。
少し気は引けるが…
「隙だらけなのよね!」
刀で命守を牽制する。動けば斬ると脅しているつもりだ。
つもりよ?
「…ふふ、小手調べは終わった!これからが真剣勝負よ!」
命守が華仙を吹き飛ばす。
そして即座に私に大刀を斬らんと走って来た。
しかし、その動きは鎧に制限されキレのある動きとは言いがたい。
隙を見て狙い打つことでなんとかなるかもしれない。
多分だけど。
私は構えを取り、反撃の機会を待った。
一秒一秒が遅く感じる。いや、実際命守が遅いのかもしれない。
手に力がこもる。…来るっ!
「ぬぅんっ!!」
斜めから斬りつける攻撃を、左に倒れこみかわす。
大刀が降り下ろされたところは地面に斬った後ができるほど。
まともに当たればやっぱり死ぬ…!
そして…反撃!
瞬時に踏み込み横っ腹の鎧の比較的薄い部分に 力いっぱい刃をつきたてる。
しかし、そう簡単には行かない、
と言ったどころか、刀は鎧を斬り裂く寸前で止まってしまった。
な…!?
「残念だったな!」
命守が、大刀で斬り払う。
なんとか寸でかわす。危なすぎる…!
動きが大振りなのでよけるのはなんとかなるが、長期戦はどう考えても難しい相手だ。
短期決戦で黙らせるしかないだろう。
おまけに鎧が固すぎて、厚すぎる。
あの調子ではこちらの刀が駄目になってしまう。
…実に戦いにくい相手だ。
しかし考ずるより、動くが易し!
とにかく…攻める!
こればっかりね…。
「ていっ!
やぁ!
たぁ!」
「どうした!」
連続で斬りつけるがびくともしない。
あはは、冗談みたいね…。
「ガァっ!!」
不意に大きな衝撃が体を吹き飛ばす。
意識がそこで途切れそうになるのをなんとか繋ぎ止める。
体も木でなんとか止まった。
息も一瞬止まった。
息の根は止まらなかった。良かった…。
「ゲホッ…」
少し血の混じった咳が出る。
…く、思ったよりずっとずっと強い…!
再び刀を持つ。座りこんだ体を起こすと、腹に激痛が走る。
う…嘘、こんなに来るものなの?体から鉄のような臭いがする。
「ふん!これまでだ!」
あぁ…本当にこれまでね。
な~んてね
「諦めるものですかッ!」
今ある力を絞り出し、斬り払う。
正面の分厚いところだったが、もう遅かった。
「うわああああぁっ!!!」
「東南西北…十字斬ッ!」
二人の声が重なる。
華仙が復帰したらしい。
よ…よかった…。
正面、後ろ、共に命守に攻撃が当たる。
「な…なんとっ!!?」
命守の白い顔が歪んだのが見えた。
続く
ちなみそ、命守は2メートル位ありまする。
今でもでかいですね。
しかも当時の男性ですら150センチ位だったらしいですから、かなり大きく見えることでしょう。