「ひぃひぃ…ふぅ」
命守が、息を荒くしながら倒れている。
戦いが終わったという感覚は無い。
むしろ命守が復活しそうで、私としては怖い位だ。
「お主ら…出来るな…!」
「あなたも中々」
「いや、かたじけない。これは拙者が未熟だった故よ
その様な言葉、拙者が勝つまでとって置いてほしい」
『拙者が勝つまで』?
私は命守の言葉を聞きギョッとした。
また来るつもりだ、絶対。
「ふふ…お主ら、拙者と同じく女だてらによく戦える!
拙者、感服致した!次に会う時も良き戦いを!」
…あれ?今衝撃的な言葉が聞こえた気がする。
耳を疑う。ついでに頭の方も疑う。
「良いでしょう、受けて立ちます」
「ファファ…それでこそ!あぁ拙者、血湧き肉踊るわ…」
何か、受けちゃったよ?
まぁいいや、そんな事より聞きたい事がある!
私は疑問と言うか、矛盾と言うか、間違いを指摘した。
「あのさ同じく女だてらって何?」
「ぬ?拙者は容姿端麗にして心麗しき乙女だが?」
…!!!
「あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない」
「お主らだって戦えるでは無いか!」
「いやいやいやいや!だってほら、女っぽい要素無いじゃん?」
「この、美しき髪!清き肌!そしてこの可愛らしい顔立ち!
…何、胸?そんなものは知らぬわ!大きく無くて何が悪いか!!」
「… … … そんな馬鹿な!!だって華仙…!」
「… … … … …」
華仙が顔を青くして絶句している。
解る、解るわ…今なら華仙の気持ちが…。
少し華仙に同情する。
「男と思っていてすみませんでした」
何か頭を下げる華仙。謝っちゃったよ。
謝らなくて良いような気もするでございまする。
だって普通わからないよ…?
「ファファ!謝る事は無いぞ!誤解も解けたところで握手だ!」
にこやかに握手を求める命守。何か復活してるし…。
なまじ、鬼とは恐ろしい。
確かによく見ると腕細いし、手の平もマメが無ければ綺麗。
髪も結構手入れしてるし。
…だからと言って完全に同性とは思えないけど。
「よ…宜しく」
「宜し…く」
「ファファ!宜しい!では拙者これにてゴメン!
ではまたいつか会おうさらばだ!!」
高らかに別れの声を上げ走り去っていく命守。
…疲れた。
□□□
「あ、華仙今日はどこへ行くの?」
道を歩きつつ聞く。
「うーむ…そうですね。晄、どこか行きたい所ありますか?」
「えっ、私?うーん…じゃあ人里でも行きましょうか?」
そうだ、最近人間の観察を久しくしていないじゃん!
とか思い心を浮かせて居たが、華仙の顔は少し沈んでいた。
…そう言えば華仙は人間に対してあまり積極的ではないね。
ふと、そう思うが、それを口に出すことは無かった。
「そうですね…では近くの里を探しましょうか」
華仙と共にまた、歩み出す。
「そう言えば何故私が天狗だとわかったの?」
華仙にふと、問いかける。
…そう言えば敬語をやめて、
と言われてから少し経ったが全く違和感が無い。
何だか私は失礼なのかも知れない。大して気にはしないが。
「それは…妖気ですよ、仙道の修行の身故、少し目が効くのです」
「へぇ仙道って凄いわね…」
「それ相応に難しいですけどね」
修行は確かに難しい。
体に馴染ませるのはまぁ何とかなるけどその先が中々大変だ。
修行の方法は多分違うんだろうけどその大変さは想像がつく。
…同志よ、頑張りましょう!
「そういえば、晄はどうして旅をしているのですか?
天狗なら天狗社会に生きそうなものですが…」
「ありゃ、詳しいわね…。うん、ちょっと長くなるかもよ?」
「あ、良いですよ。それなりに里までは距離がありますので」
里まで私喋るの…?
そこまで長くも深くも無いです。
喉持ちません。
「ん~そこまで長く無いけどね。
私ってさ人間に興味があるのよ」
「…人間に?」
半ば絶句しかかっている華仙。まだ驚くのは早いわよ~。
「勿論、人間以外にも興味が有ることあってね…。
それが旅をする事なの。
山から独り立ちも兼ねて旅に出ちゃった」
「出ちゃった…とは」
「独り立ちのつもりはあんまり無かったんだけどね…」
「ふむ…私と似た様な感じですね」
「へぇ~…
ちょっと本当に着いちゃったじゃない!」
何だか本当に里に着いてしまった。
華仙…ただ者じゃないわね!
冗談抜きに考えても華仙はただ者じゃ無さそうだけど。
□□□
私達は早速里を歩き回る。
今度は狸には見えない。さて早速観察でも…
と思ったら華仙が何だかそわそわしていた。
お嬢さん里に来るのは初めてかい?とか老婆的なお節介をしたくなったが、
私も似たようなものなので下手に出るのはやめることにした。
さて、観察をしようと思う。
私は手帖を取りだし、筆を忍ばせ、周りに目を配る。
鍬(くわ)を持って歩く初老の男、多分作物を育てるのかな?
童がそこらを駆け回り蜻蛉を追いかけ回している。
ふぅむ…落ち着いた農村ね。
ちょっとお話を聞いてみよう。私は日向没子(ひなたぼっこ)している老人にお話を聞いてみた。
「あの~」
「ん?なんだ、おめぇさんは?」
「あぁ、私は旅をしている身なのです。京から来ました」
「京から?そりゃあご苦労様でな。
ここは静かな農村だで、つまらんだろう?」
「いえいえ!こう言うところだからこその面白さや暖かさがあるので…」
これは本心ね。私も田舎の出なのでよくわかるつもり。
「ホッホッホッ…そうかのう?」
「恐らく、作物を育ててらっしゃると思いますが何を育てているのですか?」
「あぁ酒米と食べる米だ。
そう言えば家にどぶろくがあったかな。もらって行くかい?」
「え?よろしいので?」
「あぁ、ええよ。家は酒に弱くてみんな駄目なんだで。
ちょっと待ってろよ、おいばあさ~ん!」
何だかお酒もらっちゃいました。
一つの会話で二度おいしい思いをしたわね!
「ほれ、持ってけ!」
酒の入った木箱をくれた。
嬉しいけど、多い。普通に多い。
「ありがとうございます!」
「ハッハッ…良いの、良いの」
こうしてお爺さんからどぶろく一箱をもらった。
普通に重たいけど、酒とくればそこまで重くは…重い!
「華仙~!」
「む?晄ですか」
華仙は木の下で足を組み瞑想をしていた。
多分、修行の一貫だと思う。
「これ、お願いするわ」
「おっと…これは?」
「どぶろくよ。親切なお爺さんがくれたわ」
「へぇ…どぶろくですか」
しかし、ここである事に気がつく。
「あ…そうか華仙は修行僧だから呑め…「呑みます!」」
即答。え?良いの?
思わずあっけにとられる。
「私は仏教ではありません。なので全然大丈夫ですよ!!
間違っても一人で呑まないでくださいね!!!」
鬼気にも勝りそうな顔で迫って来た華仙。
初めて華仙を怖いと思った。
「じ、じゃあよろしくね」
「任せてください」
行き際に後ろを見ると瞑想しつつ、
チラッチラッとお酒を見る華仙が見えた。
大丈夫かな…。
今度は童達に話を聞こうと思う。
川にいる童に近づく。
「お~いっ!!こっちででっかい鱒いるぞ!」
「おいっ網!網は!?」
「ほっ…ほいっ!」
なぬ?鱒…とな?
私の耳はソレを聞き逃さなかった。
ほうほう…。
「走れッ!!」
「おっ動いたぞっ!」
「おい!そっちの岩!岩だよ!」
「おっ!本当か!よ~し捕まえてやるぞ「捕まえたァッ!!」」
鱒を手で掴む。ぬるぬるするけど、気にしない。
「な…」
「え?」
「ちょっと…」
あ、ちょっとまずかったかも…?
「「「おおぉ!!」」」
童達の歓声が響く。
「すっげぇ!姉ちゃんどうやったの!?」
「もう一回見せて!」
「手で取ったの!?」
質問攻めである。ちょっと嬉しい。
でもちょっと面倒かも…。
「ウフフ、それはね…魚が逃げる方向に先回りしてシュバッ!!よ」
「「「おお~」」」
「あ!これもらっても良い?」
「「「いいよ!」」」
三人が顔を見合せて声を合わせた。
鱒、いただきました~。で、話がズレそうになったけど。
「童達は普段何をして遊んでるの?」
「俺達か!?ふふっ、お~い!アレ!見せてやろうぜ!」
「アレ…わかった!」
「いいの?」
「良いんだよ、こんなに凄い事できるんだぞ?」
「そうだね!」
童達が跳び跳ねる様に走りながら案内をしてくれた。
「じゃーん!秘密基地だ!」
「おおっ!これは凄い!」
見ると、小さな洞窟に色々な物があった。
机に、椅子に、棚、
そして魚の骨や毛皮、作物を使ったものが飾られていた。
「これ全部あなた達が作ったの…?」
「へへっ!一年かけて集めたんだぜ!なっ!」
「持ち込んで怒られたりもしたけどね…」
「あ~あれか…」
こうして童達の武勇伝を聞いた。
□□□
日もくれ始め、徐々に夜の闇に空が飲まれていく頃…
あぁ楽しかった!
やっぱり童は素直で面白いわね~。
そう思いながら、意気揚々と歩く。
疲れているはずなとに足取りは軽かった。
「あっ晄!」
華仙が私に気づく。
鱒に、山菜に、きのこ…よりどりみどりである。
今夜の食事にはきっと困らないだろう。
「凄いですね…何してたんですか?」
私の今回の成果に流石に目を丸くする華仙。
「山の中で遊んでたわ」
「へぇ…それで今日はどうします?」
「… …野宿?」
「…そうですか」
「あっ晄姉ちゃん!」
「あら?さっきの…」
「泊まるところ無いの?」
「…うん」
「じゃあ俺ンとこ泊まって行きなよ!」
「いいの!?」
「いいよ、いいよ!そっちのお姉さんもどう?」
「え?良いのですか…?」
「もちろん!じゃあこっちこっち!そろそろ夕飯時なんだ!」
「お!良いわね~ワクワクするわ!」
「晄、少しは自重して食べてくださいよ?」
「大丈夫よ!」
「ほら!そこが俺ン家!」
「へぇ…綺麗なお家ね」
「確かに」
「じゃあ入って入って!」
「「おじゃましま~す」」
バタン!
こうして今日の陽はくれ行く…。
少し安定してきました。
観察誌なのに観察殆ど書いてなかった!
これいかに。
追記、久しぶりに書きたいものを書けた気がします
(書かなかったじゃなくて体調の問題で書けなかったんですよね…)
現時点では一番お気に入りかも。