東方風雲観察誌   作:カップワードル

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山の天気は変わり易くある

あきひとの居た城を後に私は自分が住む山に飛び向かう。

遅れるとは思わないけど…早く行くに限るわね!

そう思い、速度を上げていく。

風が一層体を通りすぎてゆく。

 

 

人里から遠く離れた所に私の住む山はある。

そこはあまりたくさん天狗は居らず、ぶっちゃけ田舎である。

天狗以外の妖怪もほとんど居らず、実質少数の天狗の山である。

まぁ、たまに『お客さん』も来るけど。

『お客さん』?その日によって異なるわ。

 

 

「おっ!着いた着いた!」

私は山の近くまでやって来た。

もうこの辺までくると帰ってきた感がある。

ちょっと物足りない感じがいつもここで待ち伏せしている。

あぁ、今日も一日が暮れてゆく…。

 

山にはあのお方が深々と座って待っていた。

「遅いぞ!晄!!!」

私が山に辿り着く前にあの方は私に気付いたのだろう。大きな声が響いてきた。

 

「すっ…すみません飯綱(いいづな)様!」

地面に着地しながら、私は謝罪した。

 

しかり声をあげた初老の男。

深い紺色の羽織、黒い袴、鈍い光沢を放つ赤い八角帽子を被り、腰に刀を背負っている。

このお方、飯綱四朗様は、この天狗の山を仕切る大天狗様なのである!

 

「やれやれだ。お前の事よ、また人間だろう?」

「ありゃありゃもうバレていましたか…」

 

この小さな山の大将にして、私達の育ての親でもある飯綱様。

私は勿論、他の天狗も飯綱様には敬意を払う。

私が最も信頼する人物の一人だ。

 

しかしもはや気づかれていたとは…流石は飯綱様!

私は感心しつつも、ちょっと気にかかった。

 

「昨日も、一昨日も、それで遅れておったろうに。」

呆れ口調ながらもどこか怒っている気がする。

なんだか申し訳ないかも…。

「す…すみません」

「そぅ顔を曇らせるでないわい!とっと持ち場につけぃ」

笑いながら会場に向かう飯綱様。

『持ち場』と言うのはこの場合座席とかではなく会場のことである。

 

飯綱様が本格的に怒らないのは、まだ集会が始まっていない証拠。

と言うのも集会より前に集まって色々くっちゃべるのがこの集会の通例であり、

私はその通例に遅れただけなのである。それ故、こう言う軽いお叱りですんだのだ。

 

が、おしゃべり好きな天狗なら本格的な説教だったかも知れない。

運が良かった…。

私は少し息を深めに吐く。すると、

 

「あら、晄。また遅れてきたわね…」

私の友達にして同じく烏天狗、射命 丸 文(しゃめいまるあや)がやれやれと言わんばかりに言ってきた。

 

文と私は付き合いが長い。

お互い研究の道と天狗の山で仕事が一緒の事も多いし。

しかし私より真面目である。仕事も進んでこなす。ここ重要ね。

 

「で、また人間かしら?」

さっそく原因を言い当てられる。

早い早い。ばれるの早いって…

 

「なんでそんなすぐにわかるのよ。飯綱様と言い、文と言い…」

 

私は気になる疑問をぶつけてみた。

 

「だって昨日も一昨日もねぇ…

もういつもの事になっちゃたじゃない…」

 

文が呆れつつ飯綱様と同じ事を言う。

が、しかし!今日はいつもとちょっと違うわよ~。

文もきっとこれにはびっくりするはずよね!

変化の様を期待しながら私は胸を張って話を切り出した!

 

「ふふふ…今日はちょっと違うわよ文!」

「え?人間の城でもいってきたのかしら?」

 

…何気なしに言ったの?それとも知ってたの!?

とにかくまず一つ目がいきなりバレてしまった。

あややや…凄いわね。

本当にもう覚妖怪か何かじゃあないの文は…。

なんて思いつつもまだ私には話があったので引き続き話を切り出した!

 

「まぁ一つ目はそうなんだけど…」

「あら?もう一つあるの?」

 

ふふ、どうやらここまでは文の想定通りみたいね。

でもこれを聞いたらきっと驚くわよ!!

私は息を吸い、手や背筋を伸ばし、発音よく話した!

 

「えぇ!聞いて驚きなさい!実は…

 

 

(詳しくは第一話を参照くだされ)

 

 

って事があったのよ!」

「……はぁ、なるほどね」

 

溜め息なのか、反応なのか解らない反応がかえってきた。

え?なんか反応薄くない?

うんとかすんとかそんな感じの返事だったので、私はもう一度確認した。

まさかあの反応で終わりってことは…。

 

「もっと驚かないの!?」

何故だ?何故なのよ?文ァッー!?

それくらいの勢いで問う。

…うるさいわね。

 

「あぁ…うん。いつかはすると思ってたから…」

「えぇー…」

 

冷たくなんか鈍い反応がかえってきた。

気分が鉛のように沈む。

『いつかする』?さ…先が見えないから楽しいのに…。

う~、想定って訳ね。残念だわ。

 

「相変わらず無茶苦茶するわねぇ」

「その言葉もう何回も聞いたわ…」

「その言葉もね晄」

 

私は段々残念になってきた。

私が考えた反応は「何ィ!?」とか「なんだと!?」「うえぇっ!?」だった。

…うん普通に「えぇ!?」位はかえってくるかな、と思ってた。

それを『いつものこと』で済まされてしまった…。

 

あ~あ。つまんないわ~。

 

「つまんなくて悪かったわね」

「あれ?口に出てた?」

「顔に書いてあるわよ」

「便利ねぇ。今度から言いたい事は全部顔に書こうかしら」

「間違ったらどうするのよ」

「あぁそうね~」

がっくりと肩を落とした。

気分も落ちた。「あぁ~」と、とにかくうなだれる。

しばらくは青空がいつもより綺麗に見えた。

 

 

□□□

 

「お~い!集会が始まるぞー!」

見張り役の白狼天狗が遠くまで呼び掛ける。

 

うなだれているといよいよ集会の始まる時間になってしまった。

話の内容は特に大した事では無い事が多い。

だから今日も早く終わるでしょうね~。

とか思う。

結構な時間があったが落胆を拭えないままだった。

 

「うぅ…」

 

やる気の無い千鳥足で会場に向かう。

ふらふらしていて我ながら結構危ない。

 

 

 

「さて、今日も集会を始める!

…晄は何故うなだれておるのだ?まぁだいたい想像はつくがな…」

始まりと共に、いつも通りで済まされた。

 

「そんな酷い」

「しっかりせい…。皆!この一週間なにがあったか順に話せ!まずはお前よ!」

「はっ飯綱様!この所私めは…

 

 

 

と言う事がありまして、しかしそこは私!筆と共に延々と紙と激闘してた訳であります!」

 

色々色をつけて語っているが、何て事は無い

『真面目に仕事をしておりましたが

結局何も無くて紙に書くことだけでした』と言う事だった。

喋る事も無いので皆、回りくどい事を言い、お茶を濁す腹積もりなのである。

この集会は、実は事実より面白さが問われるのでは?

と微かに疑問を持っている。

まぁ…どっちでも良いけど…。

と言うかどうでもいいけど…うふふふ…。

 

「次は… 晄よ。そろそろ起きんかお前の番なのだぞ」

「は~い」

「おぬしのこの一週間よ、話してみぃ」

「え~っとですね…」

 

しかし私もお茶濁し位しか言う事が無い訳で…。

私は重くゆっくり立ち上がって重い口を最低限開けた。

 

「と言う事でした~」

そう言い終えた後、すぐ机に流れる。

水の気分ってこんななのかしら~…。

などと思いながら、机どころか地面に流れそうになっている。

 

「ふぅむ。そうか、では次!射命丸!」

「晄!あの事話さないの?」

机(地面?)に流れていると文が何か言ってきた。

ん~?あの事?どの事~?

私は朦朧(もうろう)しながら考えた。

「ん~?」

「どれだけだれてるのよ…人間の話よ!人間の話!話さないの?」

「人間~?あぁ~…」

『いつものこと』よねぇ~….。

あ、私また水に近づいた。

 

「いや、あんなにワクワクしてたじゃない…

ほら、今日は結構冒険して、何かあったんでしょ?

それを話さないの?」

「あぁ~…うん…

 

そうね!」

皆にはまだ話してなかったわね。

うん、話してやろうじゃないの。

そう意気込んで立ち上がる。

「むむぅ?まだあったのか?よし、話してみよ!」

「えっとですね…

 

 

 

 

 

 

 

と言う事があったのです!」

ズバッと締める。今、鼻息が多分荒い。

フフ、どう!…でも文と同じ反応でしょうねぇ…

少し私にも先が読めた。

 

「な、なんだと!?何故だ?何故なんだ?晄ァッー!?」

「何ィ!?人間と友…達…とな?」

「うえぇっ!?本当で!?」

 

まさかの反応。とりあえず一番目、騒々しい。

…私か!?

 

「え、えぇそうですよ」

 

何だか不穏な雰囲気…。

本能的に危険を感じる。

 

「晄ァ!お主という奴は!!」

「ひょわっ!?」

 

飯綱様が声を荒げる。

あれ!?ま…まずかった!?

「まったくとんでもない事をしおる!城の人間と関わるなぞ!」

「すっ…すみませんでした!お許しください飯綱様!」

「いやまったく痛快ぞ!」

「……え?」

痛い目を見る…あれ痛快?え?

 

「わしらが出来ぬ事をやってのけおったわ!こやつめ!」

あれ?褒められてる?多分。肩バシバシ叩かれて痛いけど。

 

「え?えっと飯綱様?」

「いやよくやったわ!お前はこれで堂々と人里に出られるのだろう?」

「いやそこまでは…」

ついていけない。いや、本当に。

何がどうなってるのよ?

なんでそんな話になっているの?

「いやぁ!愉快!痛快!!爽快!!!

ひさかたぶりに儂も人間と飲み比べができそうだわい!」

豪快に笑う飯綱様とついて行けずポカンとする私。

よくわからない。それに限る。

とりあえず機嫌が良いことだけはわかりますとも。えぇ。

一応機嫌を損ねないようにしよう…。

私は怖いので刺激しないように努める事にした。

 

「そ…そうですね!あはは」

「いやまったく!お主の行動にはいつも驚かされるわ!ぐははは…」

 

とりあえず笑う。笑うしかない。

 

あはは…ん?驚いてたの?

なんと、驚いておったのですか!?

気付かなかった…。

 

「いや!ほんとう!アハハ…」

やっぱり笑う。それしか無いよね!

ふと気が付くと周り皆笑っているし、

酒持って来てる奴いるし、料理作り始めたし、

なんか宴会が始まりそう…。

 

これは凄いわね…。

 

とりあえずいつも通りじゃなかったと…。

 

いやぁどう転ぶかわからないわね…。

世の中とはかくも予想が付かぬものとは…。

 

腰に掛けられた酒瓶の口が空いていた事に気づいたのは

宴会が始まってからだった。

呑んでたんだ…。

 

■■■

 

な…何が起こっているの!?私(あや)の前で!?

「な…なにこれ」

周りの天狗は酒瓶持って踊りだし、

机には宴会料理がいつの間にか並んでいた。

「いやここ、会議室なんだけど…」

とりあえず、言ってみる。

「「「呑めよ!歌えよ!踊れよ!今宵は愉快な宴会だ!!」」」

完全に宴会になってしまっている。答えになってないし…。

天狗を集めて飯綱様が大笑いすると宴会が起こるのね…。

へぇ…勉強にならないわ。

 

肩を組んで踊りだす天狗。

お手玉を始める天狗。

歌いだす晄。

それに続く皆。

 

見ると全員顔が紅い。しかも楽しそう。

 

 

… … … …明日の夜、ここ出なきゃならないのに…。

多分付き合ってたら、後片付けとかできっと遅れる…。

 

「なんでぇその辛気くせぇ顔わよぉ?

ぶれーこーだろ!?とにかく騒ぐんだよ!!」

そういった後、酔っぱらい天狗が音痴な歌を歌いはじめる。

 

… … … …明日。明日。明日。

そう、明日に関わる。

 

楽しそう皆、呑んでいる。踊っている。

… … … …くっ、私だって騒ぎたいけど、呑みたいけど。

そういう訳には…訳…に…は…。

「プッハーッ!!騒ぎながら呑む酒は最高ーだー!!」

 

… … … … いいんじゃん?

何かが私のなかで切れそうだ。

いや、切れたらそこで遅刻確定…。

 

 

 

 

 

… … … … … … …。

 

何かが私の中で切れた瞬間だった。

 

 

 

「あっ!!酒が残り少ないぞ!」

「「「なんだってぇ!?」」」

「よし…早いもの勝ちだ!」

「「「うわぁあああああ」」」

「う…うわぁあああああ」

 

 

一人また酒樽に続く烏天狗が一人…。

 

 

続く

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