「行くぞ…!儂の剣…超えて見せよ!」
「…わかりました。
私は…あなたを…飯綱様を超えるッ!」
晄が決意した様だ。
私(かせん)は少し離れて二人を見る。
大天狗…あれは、
晄を試す、計らいなのか、
それとも己の技を破った事に対する、剣士の本能なのか…
その瞳、その妖力…いずれも、手加減など…ない。
晄もその瞳には決意が感じとれる。
これは…剣士と剣士、師匠と弟子の真剣勝負だ。
私が手を出す事は無い。…殺し合いにはならない…筈。
もしも…何か(・・)、あった時の為、杖は準備だけはしておこう。
■■■
「… … …」
私(あきら)は刀を強く握りしめた。
これは練習でも訓練でも無い。そんな事位、私にもわかる。
だから…油断も、安心も、全てを捨てていかきゃならない。
心を澄まし、全てに備える。
不意に轟音が響き、湖が酷く波打つ。
…来た!
私は、刀を構え、体勢を取る。
「そこだッ!」
私は何も無い空へ刀を振るう。
えっ…!?
「いや、違うな!」
「グハッ…!」
足が、体が地面を離れて行く。
目の前には、刀を振り終えた飯綱様の目がただただ輝いていた。
「ガフッ!」
「晄!」
地面に落ちた瞬間、華仙の声が聞こえた。
それが、生きていると実感させた。
地面に手を付け、立ち上がる。
「どうした!お前の決意はそんなものかッ!
そんな事では、ここでお前は死ぬぞ!」
飯綱様の声が、体を熱くする。
…私は負けない!負けられないのよ…!
「私は…負けないッ!!!」
飯綱様へ、私は飛び込む。
このままではいられないっ!私の決意…見せてやるっ!
■■■
「私は…負けないッ!!!」
その声が聞こえたか、と思うと晄はもう目の前まで来ていた。
刀は、もう降り下ろす直前。血が昇ったか!
「うつけもの!」
その程度、当たると思うな!
刀を振り、弾き飛ばす。刀ごと、空へ晄が舞う。
「まだまだっ!!」
「ぬぅっ!?」
着地すると共に地面に手を突いて、その反動と共に飛び込んでくる。
ぬぅ、油断したか!?
一閃が儂の腹を走る。…腹か。
しかし、攻撃をさせねば二度と喰らいはせぬ!
「さぁ、避けられるか!?」
刀を引き、駆け寄って一気に距離を縮める。
近づいた瞬間、刀を抜き、兎に角斬って動きを封ずる!
右へ左へ刀が舞う。うまくかわしておるのか、手応えは無い。
明鏡止水の心を持ってせねば、儂は斬れぬ!
さて、それがアヤツには出来るか…!
「… … …でやっ!」
「ヌォッ!?…グググ!」
肩をやられたか…!
今のは…旅の前の戦いを改良した動きか…!
「よろしい…決着の時だ!」
「ハァ…ハァ…の、望むところッ…!!」
お互いに、後ろに跳び戻る。
儂のやろうとする事がわかるならば…
「それを、止めて見せよッ!!!」
■■■
か、体が重い…。
体に残る痛み。そして、全神経を研ぎ澄ました事による疲労…。
色々な事をやり過ぎて、体がもう、ろくに動かない。
後ろに退いて、少し体休ませるだけで体は不意に痛み出す。
「それを、止めて見せよッ!!!」
飯綱様の声が微かに、耳に響く。
妖力が集まるのが感じられる。
微かな意識を頼りに、刀を構える。
「持てる力を……今ッ!放つ!!」
…何だか、あの時の私を思い出す。
旅に出る時の、飯綱様との戦いを…。
あの時の私は…弱かった。でも今は…きっと違う。
そう、私は…!!!
■■■
次で全てが決まる。特に…晄は。
修行と決闘。体の芯から力を絞り過ぎて、今は満身相違だ。
技が勝つにしろ負けるにしろ、勝負は決まる。
お互いが、腰を深く据えて、刀を構える。
恐らく先程の技だと思う。
場合によっては、私(かせん)は割り込む事も考えねば。
杖を引き、顔を引き、その行く末を見据える。
「「剣が一閃は空を流るる!!」」
…来た!!
凄い剣圧が周りに飛ぶ。辺りの木に深い切れ込みが走る。
剣の風と風がぶつかり合い、空が鳴る。
剣の打ち合いの音がそのまま空から響いてくる。
剣風はお互い、忍びを削りあって、全く前に進まない。
「くっ…!」
晄が膝を…!?
今こそ、私の…
「まだよ!まだっ!私は…!!!」
晄が立ち上がる。
その時、空が一筋の光を地面に落とした。
「雷っ!?」
ふと空を見ると、空は黒い暗雲に包まれていた。
不吉の兆候か…!?
「なんと…!!」
「うわあぁぁぁあぁぁあっ!!!」
いや、勝利の吉報…!
晄の力が強まる度、風は流れ、雲をが通り抜けて行く。
…これは、晄の特殊能力…!?
「ぬぉぁっ…!!!」
「… … …」
□□□
勝負は決した。
これは…どっちが『勝ち』と言えるものではない。
お互い、満身相違になっているからだ。
大天狗の方は意識こそあるが、
斬り所が悪かったのか、ぐったりとしている。
「あれは…雲か?」
「えっ?」
大天狗が誰に目を向ける訳でもなく、語る。
「剣の風…して、晄の風…
あれらが重なりあっていた。風が雲を運んだ。
と、言うことなのか…」
風を司る妖力が、空中で剣の妖力と同調した、と言う訳か。
「雲を運ぶ程度の能力…と言ったところでしょうか」
「わからぬ。しかし…儂は努めを果たした。
剣の心…確かに儂は託したぞ」
眠る晄に語りかけて、大天狗は過ぎ去ろうとした。
その潔さ…気になるところ。
「…一つ聞きたい」
「…何だ」
「この結果はあなたの計らいか?」
「ふん…かいかぶりもよせ…。
華仙殿もこの戦いを見たのならわかるはず」
「…信頼が、あったのだな」
「お主も中々、見る目が無いな…
だが、そういわれるのも悪くは無いのが困る。
…晄の力を引き出せたのは儂の修行より、アヤツめの心にある…。
儂は、そう…感じた」
「…そうですか。…もう、行かれるのですか?」
「…儂の教える事はもうほぼあるまい。
後は望むならば…いや、先の話か」
「… … …?」
「では、儂は失礼する」
そういって、大天狗は突風と共に空に消えていった。
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暖かな光が、体に注ぐ。
… … …あれ?もう…朝?
私はゆっくりと、体を揺り起こす。
痛ッ!!
続く。