いつの日からか、生き物の心には闇がうごめいていた。
闇は心の揺らぎに応え、その場所を増やして行く。
闇は、心を澱ませ、歩みを断ち、魂を破壊する。
破壊された魂は、
失った時間を生きようとして果たせず、
過去を消そうとして果たせず
永久にさまよい続ける。
帰れぬ道を歩む者達、全てを捨て、全てを憎む者達。
深く、広い傷痕が、過去の闇を呼び覚ます。
遠き日の叫び(のろい)が、今この世界に響こうとしていた…。
■■■
「えぇっ!?ここに残るの…!?」
「えぇ。ここは良い修行場所です。
ここならば…私も強くなれるでしょう」
充分強いと思うのは私だけなのでしょうか…。
…寂しくなるなぁ。
何だか目頭が熱くなる。
師匠でもあり、恩人でもあり、仲間でもあり…
私はどれだけ華仙に助けられたのか、数えられない。
だから…迷惑はかけられない…よね。
「華仙…今まで本当にありがとう。
私、あなたにどれだけ助けられたか…」
「…これが最後じゃないんです。お礼はまだ良いですよ」
「いいの。私が感謝している事を伝えたいから…」
「…ふふっ」
華仙が茶目っ気のある笑いをした。
…何故?
「晄が改まると何だかこう、むずがゆいです」
それはどういう意味でしょうか。
華仙の顔をじっと眺めるも、
いたずらっこの様な顔が私を見つめ直した。
「ふふ、いえ、
何だか晄と居ると壁が無い様に思えるものですから、
そう改まられると、何だか逆に緊張しちゃいますね」
…なんだソレ。
ちょっと別れ惜しくて泣きそうだったのに
何だか締まらなくて恥ずかしいじゃない…。
「そのお礼は次に会う時、お互いにしましょう。
だからさよならは言いませんよ?良いですね?」
…華仙。
やっぱり涙が出そう。
でも、華仙とはまついつか絶対に会えるわね。
涙を再会の期待に換えて、私は手を差し出した。
「…えっと?」
「握手!」
「…えぇ!それでは…」
お互い、強く固く握手をした。
華仙の手は包帯の様な手だった。
「…そうだ。私からもお祝いしないと」
「…え?お祝い?」
華仙は、衣から一つの巻物を取り出した。
…?なんだろう?
「はい、秘伝書です。修行ほぼ制覇おめでとうございます!」
秘伝書だそうです。
… … … … …。
「うえぇッ!?良いの?こんなものもらっちゃって…!?」
「えぇ良いですよ。私には不要のものですし」
飯綱様と言い、華仙と言い、豪華な余り物をくれるわね…。
嬉しいけど、ちょっと恐れ多い。
「では、お祝いもした事ですし…」
「…そうね」
別れは惜しいけど、私は山を降りる事にした。
「また」
「いつか…」
「「会いましょう!」」
□□□
空が蒼い。
何も、この空を拒むものは無い。
美しく、広大なる青空の下で私は
昼飯を食べていました。
刀を見つつ、私はおにぎりを頬張る。
剣の心…飯綱様。
確かに受け取ったと、思います。
飯綱様に対しての感謝が心の中でこだまする。
文に飯綱様にあきひとに華仙…
私は色々な人に助けられているのね…。
さっきから目頭がよく熱くなる。
原っぱに寝転び、再び空を見上げる。
「さぁて、どうしよっかな~」
おもむろに呟いてみる。
何か、おもしろそうな事、無いかな~。
人間の観察をするのは良いがどこへ行こうか迷う。
して、何か面白そうな事があればそこへすっとんで行くつもりである。
… … …
… … … …
… … … … …
駄目だ私、 早く何とかしないと。
私が立ち上がろうした、その時。
ー・・・オォォォオオォォオオオォオ…!!
「っ!?」
背筋が凍る様な声が頭を通り抜けて行った。
恐ろしい妖力が空に尾を引く。
その先には、黒い…黒い雲?
なんだか形容し難い何かが西の空へ流れていった。
何よアレ…!
ただの雲である筈は絶対に有り得ない。
あの背筋が凍る様な邪悪な感じ…絶対、ただ事じゃない。
私は昼食を片付け(胃袋に)急いで西の山へ向かった。
この時、私は初めて自分の体が怖がっているのを知った。
重く、冷たく、震えが止まらない。
空を飛んでからそれに気が付いた。
□□□
ー・・・我等ヲ追ウ者ハ誰ゾ…!!
ー・・・死に目を見ねばわかるまい…!!
「ッ!?」
頭の中に冷たく、恐ろしい声が響いた。
目の前から、高速で黒い雲が迫って来る。
刀を抜き、少し、体を引く。
ー・・・待てぃ!ここに来たからには生きては帰さぬ。死ねぇ!
ー・・・万物ニ滅ビヲ!!!
2つに別れた黒い雲から紫の障気が飛び出す。
この程度なら…斬れる!
「やぁっ!!!」
ふふ、一刀両断!
後ろでボフッと弾けた音がした。
ー・・・愚カナリ、オ前ゴトキガ、我等ノ邪魔立テスルナ!!!
「ッ!?」
後ろの障気が広がり、私を包む。
不意に、何かが砕けた音がした気がした。
何が起こったのかわからない。
頭が空っぽになって、体が重い。
ー・・・トドメダ!
一つの雲い雲が炎の様燃え上がって突撃していた。
…やばい!
私は無理矢理にでも体を動かし、刀を振りまくる。
これが、修業の結果です。
ー・・・ナンダトォ…!?
黒い炎が、真っ二つになりながら呻き声を上げて空に溶けて行く。
よくわからないけど、一匹撃破って事で…。
ー・・・まだ足りぬのか…!?
後もう一匹!
心を澄まし、剣の心を風に換え、空に流すッ!
ー・・・うおぉおぉ…!!
剣風が、敵を斬る!
…おかしいな。妖力が消えてない…。
ー・・・ファファファッ!ゴ苦労!幻覚相手ニヨク戦ッタナ!
ー・・・お前に救いなど無い…!
重く冷たい声が響いた後、世界が縮み光が何処からか注ぐ。
「… … … … … …!?」
目を開けると私の周りを黒い炎が取り囲んでいた。
これ、ヤバいわよね…!?
ー・・・貴様ノ魂、ユックリト壊シ尽クシテヤロウ…!
「ちょ、ちょっと…!」
私は慌てて逃げ出すが、黒い炎達は私を逃がす筈もない。
先回りされ、目の前が真っ黒に染まって行く…。
ー・・・待てィ!我等の前を通ったからには!死ねィ!
絶体絶命…!?
「キャアァァアァアアァアッ!」
じっ…地獄だぁっ!?
□□□
… … …。
… … … … …!?
私は跳ね起き周りを見る。
辺りは一面緑…って。
「木に引っ掛かったんだ…」
体にいくらか枝が刺さっている。
今のは…夢?
辺りを見回すと夜の闇が空を覆っていた。
この世界が何もかも現実感を持たない様に感じたのは初めてだった。
…夢?でも、やっぱりアレは…。
もし…これが現実だとしたら…。
あの怨霊、ヤバすぎる。
続く
ちょっとずつ、現れる恐怖