※お礼(れい)の部分もあります。
「…さて、ここどこかしら?」
森の闇が永遠と広がっている。
どこを見ても、黒。果てなど見えそうにもない。
先程の怨霊から目が覚めたらここにいたのだが、
全然知らないし、夜になってしまっているし、
何だか絶望的である。
備えも無いので、山で探すしか無いと言いたい所だが、
そうするとさらに訳が
わからなくなってしまうため遠くには動かない事にする。
空も…
「駄目ね…」
月は暗雲に覆われ、木が空をも狭めていて、飛ぶのは無理。
で、寝るにしたって布団が無ければ寒い上、危険だ。
じゃあ落葉布団を作るとして…。
ついでに木の枝さえあれば火もつけられるし一緒に探そう。
…と、なると結構移動しそうだ。
何か目印になるものは…
「目印…目印…っと」
自分の持っているもの身に付けているものを確かめる。
秘伝書に、おにぎりの包み草に、髪の紐に刀…。
刀?
□□□
「うーん、何か刀が痛みそうだけど…」
目の前には誇らしげに刺さった刀があります。
…ごめんなさい、飯綱様。
私は、刀の前で手を合わせ、そこから離れる。
「うーん、本当、真っ暗ね…
妖気が所々あるし長居はしたくないんだけど…」
私は足元をよく見ながら、歩く。
時期の問題か、落葉がほとんど見当たらない。
オマケに枝は小さくて使いものにならない。
したっぱ時代にしてもこんな山で物探しなんてしなかったけど…。
塵も積れば…って事ですか。
自然師匠には敵いませんわ!おほほほ…!
… … …。
「さて、真面目に探さなきゃ」
ここに住まないにしろ、設備はあった方が良いに決まってる!
明日にしろ、今日にしろ、あって不便は無い!
前向きに考えて、備えを探す。
寒さこそ森の中ではひどくは感じないが…
「木も痩せてるし、ただただ
うっそうした森って感じね…ちょっと本格的にやばいかも」
見方を変えても木しか無いです。
味方になりそうに無いです。
スーッとこう、何かが冷えて行く。
…ま、参ったわね…。
色々ヤバそうだし、一度さっきの場所で状況を整理しましょう!
私は足早にふりだしに戻ってしまった。
□□□
で、戻っても特にこの状況を解く案も道具もありませんでした!
…どうしよう。
一人項垂(うなだ)れる。
ジュッ!
…何の音!?
私は木に近づき周りを見回す。
妖怪の襲撃かもしれない…!
慌てて音を立てないように刀を引く。
「今日はここで野宿にしようかしら。
もうこの辺には妖怪は大体いないみたいだし…」
いるわ、ここに一人ね。
退治屋らしい人が近くにいるらしい。
人がいるのに、むしろ不安になった。
幸い木の向こうにいるので気がついてはいないらしい。
ちょっと拝見…。
首を伸ばし、こっそり木の影から覗いてみる。
銀…いや白?凄く長い髪ね。
着物はそれなりに高そうな…。
焚き火してるわね。良いなー…。
特徴を推測するに老婆だろうか?
別に敵意は感じない。会ってないので当たり前だけど。
老婆なら…ひょっとすると助けてくれるかも知れない。
山婆(ヤマンバ)じゃないわよね?祈る思いで声をかけてみる。
「こんばんは~…!」
「ッ!?妖怪か!?人間か!?」
妖怪です、なんて言ったら攻撃されそうなので困った。
そして声が凄く若い声だった。
とりあえず…
「私、妖怪ですけど悪い妖怪じゃないですよ?「燃えろッ!」
流石に直球過ぎた!
身を隠していた木が赤く燃え上がる。
火の粉が辺りに散る。大変…!!
「ちょ、ちょっとやめなさい!山火事になるわよ!」
「く…それも…そうね」
ふぅ、肝を冷やした…!
攻撃はとりあえず止まっ…
「破魔の札!!」
「あっちゃ~ッ!!!!」
おでこにお札がくっついた。
顔にくっついた札が私の妖力をすいとっていく上、
妖怪退治用の呪文が書かれているのか、恐ろしく熱い!
て言うか、白い炎が頭を包んでおりますです…
「あちっ…あちち…!!!」
「これでトドメよ、妖怪!封印してやるっ!」
キョンシーの気持ちがちょっとわかったかも。
さて、そんな場合じゃあないわよね!
こんな所で封印だなんて
「お断りよッ!!」
迫り来るお札を斬り捨てる。
斬った感覚が薄いから斬れているのか少し不安。
「まだまだ!」
「!!」
構えを取りながら力を溜め迎撃の準備を行う。
時間がかかる!間に合うの!?
多少の集中力は抜きで良い!とにかく早くなんとかしないと燃え…
「一閃は空をなが…アチチチチッ!!!!!!!!!!」
「今度こそトドメよ!」
腕も足も顔もお腹も、背中すらもお札で焼ける。
何で背中についてるのか…。
痛みからか意識が薄れる。…本当に死んじゃう…!
「まっ…待って…!」
「………!?」
一応話は聞いてくれるみたい…。あ、でも、もう、体の感覚が…。
微かな意識を糧に言葉を紡(つむ)ぐ。
わかって…もらえ…るかし…ら…!?
「私は…人間に…危害を加える…つもりは…無いの…!!」
声が震えて…意識が…消えて…!
このお札…強すぎる…!!
体が右往左往している。体が崩れて行く感じに…。
「…その言葉…偽りは無い、と言うの…?」
私ゆっくりと頷(うなず)いた。
目は虚ろで、耳は微かな音しか聞こえない。
「…ッ!」
立つこともならず膝をつく。
や、やば…もう…だ…駄目…かも…?
■■■
目の前の妖怪はお札の白い炎に焼かれ、意識を失おうとしている。
妖怪が一人…死ぬだけよ。
何をそんな後ろめたいと言うの?
人間には危害を加えない…?そんなの、嘘に決まってる。
私は非情になろうとした。
「ッ!!」
妖怪が膝をついた!
…ッ!生々しいもの…見せてくれるじゃないの!
…死ぬ?目覚めが悪いわよ…!
燃え盛る妖怪に駆け寄る。
「… …今剥がすわ!待っていなさい!」
「… … … …」
妖怪は笑いながらゆっくりと頷いた。
罠なの…?それとも…。
ゆっくりと私は手を伸ばす。
私は一つ一つ、丁寧に剥がしてあげた。
顔、腕、足、お腹…これで全部ね。
妖怪はあっと言う間に息を吹きかえした。
「ッハーッ!蘇った気がするわ!助けてくれてありがとう!」
…何だか、随分気のいいものだ。
非情になれない失望をよそに、妖怪はえらく気分が良さそうだ。
「…お礼(れい)はいいわよ」
「良いって言われてもね…何かしたいのよ」
私が殺そうとしたのに?
妖怪の口から出てくるのは、耳を疑うものばかりだった。
人間を信じているの…?そんな馬鹿な。
妖怪なのに?殺そうとしたのに?
ただただ理解に苦しむ。
「私が貴女を殺そうとしたのよ?それっておかしいでしょう?」
「いや、でも私の言い方が悪かったのも事実な訳だしさ…」
…変な妖怪ね。
お礼をわざわざしたいだなんて…変なの。
私は、炎の火力を少し強めた。
■■■
ギリギリ助かった…!死ななくて良かった!
盛大に息を吹い、吐いて実感した。
「ッハッー!蘇った気がするわ!助けてくれてありがとう!」
この娘は、私を助けてくれたのだ。
死ぬ間際だった私を。
これは、何かしないとね…。
「…お礼はいいわよ」
火を見つめたまま、呟く様に喋る。
何故わかったのかしら…。
この娘は、私の言葉に耳を傾け、お札だって剥がしてくれた。
それは…私を信じてくれたからだと思う。
だって、私の事を助ける必要など本来この娘には無いのだから。
だから…結局、私の考えは変わらない。
「良いって言われてもね…何かしたいのよ」
って言ってもここから出なきゃ何も出来ないかもしれないけど…。
何か、お礼考えとかなきゃね。
「私が貴女を殺そうとしたのよ?それっておかしいでしょう?」
「いや、私の言い方が悪かったのも事実な訳だしさ…」
多分、あんな事言っても普通信用されないわよね。
直球過ぎた…。それに刀も抜いたし、現れ方もまずかったと思う。
そんな訳で、私も悪い点があったし、助けてくれたんだから
そこまで卑屈にならなくても良いと思うんだけどねぇ…。
「…お人よしね。いや、妖怪だから妖怪よし、とでも言うの?」
少し気が紛れたのか、話してきてくれた。
でも、何だか無理をしているように見える。
「いやお人よしでいいわよ。何だか歯切れ悪いでしょう?」
「…あ、そ」
… … …。
はい。お喋りは終了なんですね。わかりました。
私の言うことはあまり興味が無いのかもしれない。
何だかさみしい。
会話の時も顔はずうっと火へ向いていた。
警戒心が半端じゃないわね…。
凄く気まずい。これは…妖怪を憎んでいるの?
でもそうだとしても心の底から憎んでいる訳じゃない…。
何か、別の感情、別の事柄があるのかもしれない。
…推測の域を出ないわね。具体的にはわからないわ。
…今日は、もう疲れたわね。
眠たくなって来た…。
「あのー…」
「… … … …」
その少女は火から、目をそらすことは無い。
…まぁ、仕方ないかな。
「ここで寝ても良い?」
図々しいかもしれない。断るなら、それも仕方のない事だ。
「むしろ先に寝て。私が寝られないから」
ここで寝ても良いみたい。
やはり、心の底から…と言う事では無いのかも知れない。
ま、私の妄想だけど。
…今日のあの黒い雲…あれだけが少し気になる…。
でも…それはまた明日考えれば良いか。
■■■
妖怪が目を閉じ、寝息を立てている。
暢気なものね…。
…何だか、私も眠くなって来たかも…。
私は、体を縮こまり、腕を枕にした。
意識が、夜の闇に溶けていった。
続く