「…おや?あんたは…」
「グオォオン…貴様、何用ぞ…?」
「そりゃあこっちの台詞さね。
あんたが巣を抜けてやって来るなんて珍しいじゃないか」
「貴様には関係ない…!」
「へぇ、そうかい。私を無視して自分だけ楽しもうってハラかい?
と、したら見過ごす訳にゃいかないよ」
「邪魔立てするのか…!!」
「そっち次第さ。どうする?」
「グルル…今は、貴様と戦うつもりなどない…!
邪魔をせんなら、勝手にするがよい…!」
「ふん、じゃあ勝手にさせてもらうよ。
さて、久方ぶりに暴れてみるとしようかね…」
■■■
「さて、こんなもんかしら?
まさか、森を出ないと食べ物が無いなんて…。
まるで生き物を拒んでいる森ね…」
私はたくさんの食べ物を抱えてぶーたれる。
森を出ないと本当に食べ物が無いだなんて、本当におかしいわ。
森を小走りで進む。
落とさない様にしないと…!景色が少し早めに動く。
茶色の細い手首がいくつも空へ手を広げている。
握られた緑は霞み、確かに弱っている。
まるで木々が救いを求めているかのように見えた。
私の知っている森、と言うのは生き物達が栄え、
分別をつければ、食べ物など尽きる事はなかった。
尽きるとすれば冬位のものだった。
と言うのに…ここの森は生き物が疎み、木々が衰えている。
何よ、これじゃまるで病気じゃない…!
…そうか病気、ね。
もしかするとこの森は病気なのかも知れない。
食べ物も無いし、あまり長居はしない方が良さそうね。
ご飯を食べたら、妹紅を連れて森を出なきゃ…!
■■■
私(もこう)は自分の手のひらを眺めてみた。
白くて、父親に比べて、ちょっと小さめの手のひらだ。
これは、紛れもない自分の手だった。
「…私は、妖怪なんかじゃない」
誰に聞こえる訳でも無く、聞かせる訳でも無く私はそう呟いた。
白く長い髪、そして、
どんな事があろうと絶対に変わらない体…。
それは確かに、人間のものでは無いのかもしれない。
しかし私は妖怪でも無い。
…いや、正確に言えば妖怪にもなれない。
人間だった記憶が、人間であることを証明しようして、
非情になろうとして、叶わない。
信頼しようとして、叶わない。
こんな事がいつまで続くのだろう。
復讐の闘志は未だ燃え盛り、消える事は無い。
しかし…世間は冷たく、私を記憶から消そうとする。
私は…仮に復讐を終えたとして、どうするのだろう。
人間にはもう、なれない。妖怪にもきっとなれないだろう。
世を捨て、闇にうごめく影となるか、
それとも忌まれようとも人と共にあるべきなのか…。
わからない。何も。
人間だった頃の考えは世の中には通じないのだ。
…あの妖怪は…私をどう思うのか。
同じ妖怪だと思うのだろうか?
それとも私を人間として見ているのだろうか?
…考えるまでもない。
「ねェ!食べ物取ってきたわよ!食べましょう!」
遠くからあの妖怪の声が聞こえた。
空腹で体は限界に等しいとは言え、死ねぬ体。
とりあえず、何か食べたい。私は妖怪の方を向いて見る。
「ふふ、どう?気合い入れて取って来たわよ!」
魚に、キノコに、山菜に、木の実に、根っこ…
「ちょっとそれ…どこまで行ってたの?」
「森を出て、川とか山とか行ってきたわ。
だってこの森、全然食べ物が無いんだもの」
…え。
私は、珍しくそんな抜けた声が出た。
山を出る?で、山と川にも行ったって?
「そ、そうご苦労様。それ貴女が取ったんでしょう?
取った貴女が食べた方がいいんじゃない?」
素直な気持ちだった。
私は、苦しいかもしれないが、死ぬ事は無い。
でも、きっとこの妖怪は食べなければ死んでしまうだろう。
「何言ってるのよ!!!」
その大声に少し肩を引いた。
「妹紅は10日もろくに食べてないんでしょう!?
私の事より、自分の事を心配しないと!」
その妖怪の顔は…真剣そのものだった。
私が不老不死である事を彼女は知らない。
だからきっと強く言ったのだとは思う。
でも…自分の事を心配する、
と言う言葉が何かを目覚めさせた気がする。
「さ、食べるわよ!どれでも好きなもの食べてね!」
「う…うん」
10日ぶりの食べ物だ。
私は…盛大に焼き魚にかぶりついた。
■■■
「はふっ…はふっ…!!」
鬼気に勝る食べっぷりである。
いや、取って来て良かったわね!!口角が自然と上がる。
さて、私もいただくとしましょうか…。
芋に、木の実に、松茸に、椎茸に…(以下略)
食べる物はたくさんあるわ!
「母なる自然を慈しんでいただきますっと!」
こうして小さな、宴が始まった。
「うーん、美味!」
■■■
ー・・・あれか?イワナ。
ー・・・気安く呼ぶな、ヤマメ…!そうだアレだ…!
ー・・・ここでお前さんを八つ裂きにしてやっても良いが、
奴等がいる以上、後回しにしておいてやるよ。
ー・・・行くぞォッ…!!!
ー・・・なっ!?待て、まだ準備が…!!くそっ!単細胞め!
「グオォオォン…!!!!」
■■■
ッ!?な、何!?
森の奥から雄叫びが響き渡る。
「何!?今の!?」
妹紅にも当然耳に入った様だ。
この声、聞き覚えがある。華仙や命守と倒した…
「グオォオォオオォオオォオオッ!!!逃さぬッ!!!」
紅頭の鎧龍!?
紅いあの頭、忘れる訳が無い!忘れたかったけど!
…空気が重い!障気が満ちてる!
「妹紅!」
「何!?アレ!?あんな化け物、見た事無いわ!!」
「グルルル…!食い殺してくれるッ!」
まさか、復讐っての!?カァー!たちが悪いわね!
「気味の悪い…!!私が退治してやる!!」
「グルルル…人間の小娘に何が出来る…?
大人しくこの妖怪が食い殺される様を眺めておれ…!!!!」
頭を降りかぶり、妹紅を打ち飛ばした。
「妹紅ッ!!」
「…だ、大丈夫…」
長い体が森の奥まで続いている。
ってコイツ、あんなにあった傷が回復してる…!?
確かに数年はあったけど、こんなに回復するなんて…!
「まずはお前よ天狗ッ!
そして、お前を食い殺した後は、あの仙人の番だ!!」
華仙にも…!?冗談じゃないわ!
刀を抜き、心を静める…。斬って捨てる!
ツ!?まだ、何かが近くに居る…!?
「元気だねぇ!イワナ!準備も丁度終わったところさ。
あたしも今から混ぜておくれよ!」
茶色の…大きな蜘蛛。
木の上から巨大な蜘蛛が跳んで来た。
「さてと、初めましてかい?あたしは、黒谷 ヤマメさ。
と言ったところで、あんたは溶かされて私の腹ン中に入っちまうがね」
「いや、我腹の中に入るのだ…!」
「じゃあ早い者勝ちって事でいいだろ?」
何か勝手ばっかり言ってるんですが…。
とりあえず、早めに片付けないとね。
ええ、片付ける(・・・・)わ。
以前の私と違う事を見せてあげる!
「妹紅!ここは私が何とかするわ!あなたは先に逃げて!」
「…大丈夫よ。こんな奴等ごとき、私が退治してやるわ!」
…あれ、何かバラバラだけど大丈夫?
続く。
タイトルは足の数です。
百足とか言いつつ、百本足の百足があまりいないのは秘密。