歴史改変有。
窓から覗く空はいつの間にか曇り、
柔らかな雨がシトシトと降り続いていた。
…特別酷くは無いけれど、あまり好ましくは無い。
降るなら思いっきり降って欲しい。おっとそういう問題じゃない?
「…雨か。私は雨は好かんのぅ」
「このところこんな天気ばかりですわ。
大雨など無い分まだよいのかもしれませんが…不安です」
「不安、ねぇ…」
私は呆然と空を見ていた。
風はほぼ無く雲はしばらくここにとどまりそうだ。
「失礼する」
不意に戸を開けたのは少し若さの残る青年。
それを見るとせいこが喜び、駆け寄る。
「…お、おぉ!晄姉さん!久しぶりです!」
青年はにっこり微笑んだ後、深々と頭を下げた。
…あれはまさしく…!!!
「あきひと!久しぶりね!」
「姉さんこそ…もう、十年あまりになりますか。
門番の話を聞いてまさかとは思っていましたが…」
「立派になったわねぇ!私より背が高いじゃない!」
「姉さんはあの頃のままなのですね」
私達は再会の喜びを口にし合う。
いつの間にやら随分逞しくなった気がする。
「そのお連れが…せいこの先祖様であらせられるのですね?」
「い、いかにも。儂は呼び捨てで良い。畏れ多くてかなわん…」
妹紅は、姿勢を正して頭を深々と下げていた。
本当に深々と下げていた。
「…それで、姉さん。今日は一体何をしに来てくれたのでしょうか?」
「ん~…様子見よ。今まで何かあったか話してくれる。
ついでに…『問題』とやらも一緒に、ね」
「…わかりました。せいこと入内してからは、
特に私自身には何も起きていなかったのですが…
やっぱり、父上との仲は良くなっていませんね」
…泣いていた原因を作った父親、か。
どうしてそんなに憎めるんだろう?不思議に思う。
「それと…弟のまさひとが、少し…」
「少し?」
「遊び過ぎて困ってますね…」
「遊び過ぎ…」
きっと凄い遊び方をするんでしょうねぇ…。
具体的に聞きたくないな。
「…それで、問題って…?」
「はい…私達は夫婦仲も良く、特に問題も無かったのですが…」
「無かったのですが?」
「子供が産まれず、跡継ぎに困っていました」
「………」
せいこが嫌な顔をし、妹紅は目を閉じ考え事をしている。
うわぁ、何か大変そうだなぁ…。私はどうしたらいいのやらわからない。
「そこで、孤児を見つけて産んだ事にして育てようとしたのです」
「はいはいなるほど…?」
「ところが…「私、外へ出ていますわ。
用が済みましたらお呼びくださいまし」わかった。では後で…」
せいこはとうとう部屋を出てしまった。
逆鱗に触れそうな内容なのだろうか?ちょっと怖い。
「…それが、孤児に母親がついていまして」
「えっ、それって…」
孤児じゃないじゃん?じゃあ赤子泥棒に…!?
私は何だか怖くなってきた。
私も女であるが、嫉妬と愛憎が繰り広げられそうなのは苦手だ。
「しかも…その母親、独身でして…」
「後家って事?」
「…えぇ。
その後家が、その赤子の父親が私だ、と言い張るんです。それを聞いたせいこが、
泣き出す上、後家が私を気に入りまして…入り浸ってるんです、城に…。
城は後家をほぼ公認してしまうし…」
一言一言につまりがあった。とてもお疲れな様だ。
察するに凄く大変そうだ、色々と世間の目が。
「せいこもあんな調子で、この話や後家が来ると逃げるんです。
かと言え、後家は追い出そうとすると、
赤子と一緒に出ていくと言うので追い出せず…」
…変わってないや。苦労体質な所は。
私はどちらの言い分も察し、なんといって良いのやら見当もつかない。
何とも言えぬ息苦しさが部屋を支配する。
「も、妹紅どう思う?」
「苦労をするのは子供じゃぞ。陛下の撒いた種であらせられましょう。
陛下自身がそれを考えるべきかと申し上げますじゃ」
「ですね…」
駄目だ重い、空気が重い…雨の如し。
どこも楽なところは無いんだねぇ…。
「それが、問題なのね?」
「はい…」
あきひとの顔に影がさす。
私は意を決して別の話題にすることにした。
「あ、あのさ…私はこれからは修行しようと思うの」
「修行…ですか?」
「えぇ。旅に出てみて、わかったわ。
この世界はとてもおもろしろくて、私は力不足だってね。
だから…結構長い間修行してると思う」
「また、遠くへ…?」
「いえ、そこまで遠くは無いと思うから、ちょくちょく顔を出すかな」
「わかりました。姉さんと再会出来て大分気分も良くなりました」
「えぇ
…じゃあそろそろ失礼するわ」
「それでは、お元気で」
「帰るのね?じゃあ儂も失礼させてもらう」
戸の前に立ち、再びあきひとの方を向く。
静かに優しくあきひとはこちらを見ていた。
暗に私達は眼で再会を約束する。
「では、姉さん。そう遠く無い内に会える事を期待しています」
「いや、遠くは無いわよ?…フフ、じゃあ、またね」
「ではお達者で、陛下…」
戸の向こうへ私と妹紅は足を踏み入れた。
あきひとの影が、長く外へのびていた。
□□□
「…やれ、ようやっと終わったのぅ」
色々口調が混じっている妹紅と共に城を出る。
シトシト雨が降っていたので、簡単な傘をもらった。
あの時の空は雲はあったけど蒼い空が覗いていた。
…何だか皆苦労してるんだなぁ。私はそう思いながら門を出る。
「…家族、ね。羨ましいものだわ…」
妹紅が、まるで問いかける様に話す。
私の答えを聞きたいのだろうか?
「…良いもんよ?もっとも、仲が良いからかな」
「…そ、ごちそうさん。
…まったく、とんでもない復讐ね」
妹紅が今度はぼそりと呟く。
「いや、復讐じゃないし…」
「晄の事じゃないわ。…で、晄は修行するって?」
「う、うん…」
…私は弱い。だから、強くならないといけない。
簡単な話だ。山へ一度帰って修行して…。
…でも、これから妹紅はどうするんだろう?
私は妹紅が心配になった。
生活出来ない、とかそういう話じゃあない。
一人で『復讐』をしようとしないだろうか?
妹紅の目は再び、遠い所を見ようとしてはいまいか…?
「妹紅は…どうするの?」
「さぁ、ね。
…修行、か。その修行、私も混ぜてくれない?」
「ええっ!?…それで良いの?」
妹紅はゆっくりと頷く。
てっきり、京に着いたら『復讐』をしにいくと思っていた。
…もしかして、私の言葉が妹紅を変えたのだろうか?
…そんな訳ないね。『復讐』の為、かな。
「料理の修行」
「いや、違うから!!!」
「フフ…料理の修行もお願いするわ。もう空腹はいやだからね」
「…もう、仕方ないわね。どうぞ!」
…妹紅が、笑った。
私はその時初めて妹紅の笑顔を見たのだった。
続く