すみません、ふざけました。
「…ったく、どうし…紅」
暗い闇の中、歪みつつも誰かの声が聞こえてくる。
…誰?頭が…ボーッとする。目を開こうとしても開かない。
薄れた意識の中で、たくさんの、それでいて幻の様な声が響く。
「……の玉の枝を…かなければ……ぬ」
何?何を持っていくの?どこへ行くの?
私を置いていかないでよ…。
父上は、私を通り抜け、跪き何かを献上する。
「…………!勘定の…で…ますが」
「そう、……たは偽…を持っ…来たのね?」
偽物…!?そもそもそんなもの存在したって言うの!?
父上は無いものをねだられて恥をかかされたんだ!!
父上は後ろに足を引きゆっくりと倒れこむ。
「…………はとんだ嘘つきじゃないか!この恥さらしめが!」
「……………!しっかりと……ってくだ……!!」
…!父上!倒れちゃ嫌だ!死んじゃ駄目!!
私はようやく開いた目で父上を追うが、目の前で静かに消えてゆく。
父上の影から長い黒髪がのびて、やがて一人の女の形をとる。
私は腕を振り上げ、輝夜を追う。
「輝夜~ッ!!!!」
「…う、私は月…らの使者が…るから…行かなくはならないの
だから、貴方には悪いけど、構ってなんかいられないのよ」
「何だってッ!?逃げる気!?待てッ!
私がこの手でお前を…!仇を討つんだ!」
「さようなら、もう会うことも無いわ」
手のひらの向こうで、長い髪が静かに消えて行く。
このままで、終わる訳にはいかないのよ!!!
私はとにかく走った。
「…………?これがあの輝夜の遺した薬よ。
きっと大事なものに違いないわ」
「…こんなもの飲み干してやる!あの女の全てを私は許さない!!!」
私は蓋を切り、思いきり喉へ流し込む。
女は恐ろしそうな顔してこちらを見た。
「……妹紅!!その、姿は……!?」
「……!?何…これ、白い!?」
長い髪が白く染まり、体にあった傷が全て無くなっていた。
私は驚き、膝をついてついて叫んだ。
そして疲れて倒れると木々の間から月が覗く。
「……輝夜はきっと地上にいるはず!見つけたら…今度こそ!!
…でも、どこ?どこにあの女はいるの?」
呆然と歩いていると家が見えてきた。
もう、疲れたわ…今日はあそこに止めてもらいましょう。
私は家に声を掛ける。
「お願いします、泊めてください」
「は~い…」
出てきたのはまだ小さい童だった。
私は口角を歪ませてその次の言葉を待った。
「よ、妖怪だッ~!!!!!お母さん!助けてッ!!」
童が奥へ逃げていく。私は止めようとするが、闇の中に童は消える。
「何言って…!?……ガッ!?」
お腹に鋭い痛みが走る。息が止まった。
恐る恐るお腹を見てみる。
お腹から出ていたのは、長い槍だった。
槍の先は私の血に濡れて鉄の臭いを発している。
やがて勢いよく槍が抜かれ、男が私の背中を突き飛ばす。
男の目は殺意と侮蔑の色をたたえている。
「山婆め…!!こんな幼子を喰おうと言うのか!!」
「ち、違う…わ、私は…」
「…な、何だ!?き、傷が炎に包まれて消えた!?」
「…え?」
鈍い痛みが全く消えて、傷も何もなかった。
男の顔が、途端に蒼くなる。槍を置き、尻を地面について後ろへ引く。
「よっ、よせっ!!妖怪!!こ、殺さないでくれ…!!」
「私は妖怪じゃな…!!「見て、あの人…!!」
「妖怪だわ、汚らわしい…!!」「逃げろ!妖怪だぞ!」
「巫女様を呼べ!!!」「武器を持て!!」……」
や、やめて…!
「「「「殺せ!妖怪を殺せ!!藤原妹紅を殺せ!!!」」」」
「や、やめて!!!私は妖怪なんかじゃ……!!!!
いやああああああああああああああああああっ!!!!」
■■■
「いやああああああああああああああああああっ!!!!」
「うわっ!!」
私は、少し足を引いた。
妹紅が揃いも揃って毒草毒キノコを食べていたので、
不安で寝かせていたところ、急に叫びをあげられました。
私がこっそり、妹紅に額のお蓋を貼り返したからかな…。
…でもこの御札、飯綱様曰くとんでもない代物みたいだ。
巫女が直々に法力を注いだ特注品で、
貴族が持っているような物らしい。
妹紅って、何者なんだろう…?
「………!!!!」
妹紅の体から黒い炎が出たかと思うと夜の空へ飛び出して行った。
…あれはこの間の…怨霊!?話が繋がったかもしれない!
「妹紅!!」
「…私は、妖怪なんかじゃ…!!」
「妹紅…?」
妹紅は涙を流して叫びをあげた。
妖怪…。
妹紅は、妖怪を嫌っている。それは仕方がないとは思う。
妖怪じゃない…。彼女が、妖怪に間違われている?
…そうか、それで妹紅は一人で…!?
「……あれ、ここどこ…?」
「め、目覚めた?凄い魘(うなされ)されてたわよ…?」
「…もう、私には構わないでよ。私はあなたとも皆とも違うの。
誰とも関わりたくないの…ひっそりと…死にたいの…」
「何言ってるのよッ!!」
私は泣く妹紅を起こして平手打ちをした。酷いことしてるわね…。
だが、黙っている訳にはいかなかった。
「人と違うから何!?
私なんて変な妖怪で異端の天狗で、しかも弱いわよ!
人と違う?そんな事で一々死のうとしてどうするのよ!!」
「貴女に何がわかるのよ!!
私は、ただ普通の幸せが欲しかったの!!
それなのに!父上がッ!!あの女に殺されて!
私も人間じゃなくなって!!妖怪扱いされてっ!!!
誰も…私を認めてなんかくれないのよ!!」
「…!
私が認めるわ!貴女がとても優しい心を持っている事を!
普通の人に準える必要なんかないわよ!
私はあなた自身を知っているから!あなた自身を求めているから!」
「いい加減にしてよ…。私は、私は…一人なの。
もう、誰の助けもいらない。誰の声もいらない。
一人で静かに死にたいの…」
「妖怪でも、人間でもない、妹紅自身を私は認めるわ。
貴女は一人じゃないわ。貴女を認めてる人は絶対にいる。
例え貴女を嫌う人や妖怪がいて何よ、私が斬ってやるわよ!!」
絶対妹紅は一人じゃないんだ。絶対に。
私も激情からか涙がこぼれ落ちていた。
やがてしばらく妹紅のむせびなく呼吸が穏やかなものとなった。
「…………はぁ」
「………?」
「大概貴女もお人好しね…。妖怪だけどさ」
妹紅がフッと笑う。
もう先程までの悲しい顔は消えて安らかな顔をしていた。
「私は…藤原妹紅。それで良いわよね?」
「
…何当たり前な事聞いてるのよ。そうに決まってるじゃない。
むしろ、捨てることも無くなる事も出来ないわよ?」
「……そう。ありがとう…。本当、今日は疲れたわ。
少し、また寝るわ…」
妹紅は、安らかな寝息をたてて眠った。
私には何が出来るのだろう…。何が出来たのだろう…?
「おやすみ、妹紅…」
きっと…………
朧な月が、ゆっくりと雲から顔を出して大地を照らす。
儚くて、暖かい、静寂の夜をたたえて…。
続く。
妹紅の回でした。
かなりシリアス回です。
あなたなら、今どうしますか?
何をしてあげられますか?
その手を誰かを救うためにのばしてみませんか?