東方風雲観察誌   作:カップワードル

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いつから後編が終わりと錯覚していた?



風に思いを 終編

あれから、丁度終わりまで。

私(あきら)はまだ、存在しているらしい。

 

 

頭がすっきりする。

いや、何も無いと言うべきか。余計な考えは一切浮かばない。

数日前までの空腹感は消え去り、ただ意識がある、と言う状態だ。

考えよう、と思わない限り、身に感じた物が全てに思える。

風か、感触が、嗅覚が、聴覚が、視覚が、頭に状況を訴えかける。

まるで、頭がこの空気に溶けて行く様な感覚だ。

 

これを極限状態と言うのだろうか?

ありとあらゆる物を体で感じ、考えを、意思をその中に流す…。

 

生きている、とは俄(にわか)には信じがたいが、死んでいる、とも違う。

これを悟り、とか言うのだろうか?

自然と同化する様な、この練磨された感覚…。

 

感じた物が、思った物が、考えた物が、私の全て。

こうして見ると私はえらく限られた存在なのだな、とわかる。

 

大風が、私に触れる。これほどの大風は飯綱様をおいて他にいない。

飯綱様は、ゆっくりと降り立つと不敵な笑みを作り私を見る。

この感覚を覚えさせたかったのだろうか?

 

「……ほぅ。その顔、何か掴んだか?」

「……これを『悟り』と言うならば、

私はとても続けられそうにありません。

生きているのか、死んでいるのかもわからない…

私と言う存在がこの自然に溶けて行き、

流れ行く風が思いを乗せていつしかただの空っぽの器となる、

 

…そう感じます」

 

不思議なまでに言葉が紡がれて行く。

感じた全てが、思い全てが、すらりと体から出て行く。

 

「怖いか?」

 

少し顔を渋くして飯綱様が問う。

しかしそれは問われて考える、と言う事をせずに

私自身に残された思いが、言葉を綴る。

 

「怖くないか?と、問われれば怖いです。

しかし、私は死ぬ訳には行かない。

そう思う事で自分自身が存在すると感じ、酷く安堵します」

「…頃合い、か。

 

晄よ、今すぐに儂について来い。良いか、今すぐにだぞ!」

 

飯綱様が、山へ飛んで行く。

私はゆっくりと立ち上がり、山の奥へと足を進める。

 

 

 

■■■

 

 

 

あれから私(もこう)は晄を見ていない。

体を鍛える、修行とやら、どうやら今日で終わりらしい。

どういう結末を迎えているかは不明だが、何とも救われない気がする。

 

私の体は疲労と空腹ですっかり重くなってしまった。

結局、あの予定を漏らさず毎日行い続けたのだから当然とも言える。

 

…そろそろ朝食の時間だ。飯綱が来る頃だ。

 

「妹紅殿!待たせたな。今準備をしておる。

 

や、ここまで御苦労であったな。人間にしてここまでやるとは」

 

飯綱が口角を歪ませる。

正直、朝食を食べてから聞きたい位、今の私は空腹だ。

 

「…では、準備が出来たら呼ぶのでしばらく待たれよ」

 

そうして飯綱は森の奥へ消えて行く。

 

 

 

 

 

「ッ!!?」

不意にとてつもない寒気が背中を刺す。

森の奥の闇からまがまがしい風が吹く。

 

「…何?この邪悪な感じ…!!!」

 

カチャリカチャリ、と金属の擦れる音がする。

明らかにこちらへ来ている。

 

…この殺気と邪悪さはあの鬼とは違う。

もっと直接的でとても重たい…。

 

 

「ミ…ツけた…!ふじワらノ モこウ…!!!」

 

かすれた声が頭に響く。耳を塞いでもかすれた息づかいか聞こえてくる。

ゆっくりゆっくりとこちらへ歩みを進め、ようやくその全容が明らかになる。

 

黒い甲冑に身を包んだ白い骨が錆びた刀を持っている。

地獄から蘇った落武者か?私にはそんな面識は無い…!

 

「以前はあの天狗めに邪魔されたが…!

 

ほウラいジん…!ワれラの望んダ、体ダ!

 

さぁ、悪夢の中で心を壊し我等の永住の肉体となれ…!!」

 

交互に飛び交う声が鎧から響く。

ゆっくりと近いてくる、私の心を壊して乗っとる…!?

冗談じゃない…!!

 

私は手を前につき出して炎の弾を込める。

…なるほど、修行の効果と言う訳か。

炎はもう、体の半分程の大きさにまでなった。

 

「燃えろッ!!!」

 

いささか、火力を強めすぎた気もしなくもないが

落武者は炎の中に包まれた。良い燃えっぷりだ。

これなら鳥位、黒焦げになるだろう。

 

「ゲァオォオオ…大人しクしテロ!!!」

 

突然炎の中から、刃が私に飛んでくる。

それは、心臓へ目がけられていた。ま、まずい、一度死ぬ…!!!

恐怖のあまり、目を閉じる。

 

 

 

 

 

「捉えたッ…!!!」

 

金属のぶつかる音が響いた。

目を開けると、白く輝く刃が、錆び付いた刀を止めていた。

 

「久しぶり」

「…誰?」

 

「誰って…。御挨拶ね」

 

長い黒髪が、風に揺れる。

刀を持つ、かなり寡黙そうな雰囲気な少女。

こうして見ると凛している。

 

外見が同じ天狗なら知っている。

しかし、この沈黙した、達観したこの人物が同一人物とは思えない。

 

「オのれ…!!!出たカ!天狗メ!!

 

まずは貴様かららしいな…!死ぬがよい!」

「妹紅を…助ける!」

 

空気が渦巻いて行く。

晄の周りに渦巻く螺旋の風が、

怒気を帯びたかの様に大きく風が唸りをあげ、辺りが不意に暗くなる。

 

「…これ、雨?

 

…きゃあっ!」

 

酷い雨が降りすさむ。

空中を水の線が幾度となくなぞる。酷いどしゃ降りだ。

 

「雨…?お前の仕業か?」

「……多分」

「ナニはトもあレ!死ぬガヨい!」

 

落武者が刀を振り上げると同時に辺りが閃光に包まれる。

思わず、腕を交差させ、目を閉じる。瞼の中にも光が見える。

 

「アゴァアアアッ!!!!!!!」

 

 

目を開けると雷を受けて砕け散った

甲冑と骨の中で黒い炎が風に揺れている。

 

…終わったらしい。しかしこれは一体何なんだ?

とても、嫌なものにしか思えない。

 

「オ、おノレ…!!!

貴様ら…生かしてはおかぬ!

 

お、おの…れ…!!!我等はしょ…ん捨て…ま……か……!!」

 

そういったかと思うと風に揺れて消える黒い炎。

雨も完全に止み、残されたのは甲冑と骨くずだけだ。

 

「妹紅…」

 

どこか、魂の抜けかかった天狗に何となく動揺する。

本当に別人にしか思えない。

 

「飯、食べにいきましょ?」

 

…やっぱり、晄らしい。

別人にはそう簡単になれるものじゃないな、

と私は溜め息を吐きつつ飯綱の小屋へ出向く。

 

 

 

■■■

 

 

 

「どうやら上手く処理出来たか。

しかし、あの黒い魂ども…。ただ者ではない。

 

…怨霊と言う奴か。何にしろ気味が悪いのぅ」

 

 

こうして、それぞれ思い思いに足を進ませる。

 

 

続く

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