自慢ではないが、俺はシューティングゲームが大得意だ。ゲーセンであろうとオンラインであろうと、たとえそれがサバゲーであっても負けたことはない。自他ともに認める生粋のシューティングゲーマーな俺だが、今回新発売される大人気シューティングゲーム、”バレットクエスト”――――略してバレクエの最新作が発売されると聞いていてもたってもいられなくなったので一人暮らしの自宅からショップまで買いに走った。自転車をこぐ事約20分。最寄りのホビーショップではこのバレクエの発売を待っていた人の列で一杯だった。こんな中、並ばなくてはならない。ざっと目視できるだけでも50はあろうかと言う人だかり。まるで高校受験の合否発表のような雰囲気のあるその列に、俺も律儀に並ぶ。しかしながら、俺の心にはゆとりがあった。実を言うと、この店の店長とは知り合いでサバゲー仲間だったりする。そのよしみでここに来る前に連絡を入れ、一本確保してもらっているのだ。
デキる男は、常にクールに、そしてゆとりを持って行動する。
そんなこんなで開店と同時にドアが開き、整理券が配られる。俺も一枚受け取り、列の流れに従って中へと入り無事ゲット。意気揚々と自転車にまたがり早速帰って休みを有意義に過ごす――――筈だった。
ごくごくありふれた、テンプレのシチュエーションに出くわさなければ。
◇
「ようこそ、死後の世界へ。加藤大和さん」
ふと気が付けば、間の前には銀髪のそれはそれは可愛らしい女の子が対面に座っていた。見た感じからしてどこかの教会のシスターか、RPGのそれを思わせるような神聖な空気がでている・・・・いやちょっと待て。この子なんだ?俺、たしかさっきゲーム買って帰る途中で・・・そもそも今なんて言った。死後の世界?
「混乱なさっているようでご説明しますと、加藤さんは帰宅途中に車に轢かれそうになっている車いすの女の子を見かけて助けようとし、巻き込まれて亡くなりました」
「うそ、だろ・・・」
「いきなりこんな事言われて動揺なさるのも無理ありません。ですが、事実なんです」
そう言って女の子が手を翳せば、俺と女の子の間に大きな円が現れ、そこにまるでテレビでも付けたかのように映像が映し出された。辺りの喧騒はすさまじく、つっこんできた車のフロントガラスには、まるでペンキでもぶちまけたかのような赤がべっとりと付いており、グニャリとへこんだバンパーには・・・俺が、いや、正確には俺だったものが力なくだらんと横たわっている。歩道の向こう側には、助けられたであろう女の子が泣きじゃぐりながら救急隊の人に縋っているのが見える。
「い、意外と凄まじかったんだな・・・」
「はい。ご理解いただけましたでしょうか?」
「まあ・・・えっと」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はエリス。この空間で死した方の魂を導く役割をしている女神です」
自分で自分のこと女神とか、なんて思ったけどこの子が言うならそれも頷ける。可愛い。控えめに言って天使とはまさにこのことかもしれない。
「今回加藤さんには、その勇敢な行動を讃えてもう一度、生き返るチャンスを差し上げます」
「マジで!?」
「はい。ただし、元の世界での貴方の躰はあの有り様なので生き返ることはできません」
マジか・・・・せっかく発売したガンクエをプレイしようと思ったのに・・・。項垂れている俺に、女神エリスが続ける。
「えっと、その代わりといっては何ですが、異世界への転生をすることができます」
「マジで!?」
「はい。転生した貴方は、冒険者となって魔王と戦っていただきます。そして見事魔王を討伐なさったあかつきには何でも一つ願いを叶えることができます」
え、何それ。魔王討伐したら何でも一つ願いが叶うっていうのは確かに魅力だよ?でもそれゲームみたいに死んだらリスタートとかできないよね?・・・・あ、一回だけできる。いやでも一回だけでしょ?残機一つだけで魔王倒せってそれレベルカンストしてから行けって言われてる感がすごいんですけど。いや、ゲームならいいよ?でもこれもし生き返ったとしてらさ。現実なわけじゃん?ゲームだからいいのであって現実でそれはちょっと・・・なんて考えてると、エリスさんが条件を出してきた。
「異世界転生にさしあたって、能力や武器など一つだけ与えることが許されています。さ、この数ある特典の中から一つ選んでください」
無数に流れるカード達。そこには何やら奇怪な能力からそれこそゲームの中でしか見たことないような神器っぽい剣まで盛りだくさんだ。しかしこの中から一つだけと言われてもいまいちピンと来ない。
「・・・ね、女神さま。銃とかないかな」
「銃、ですか・・・・あることにはありますが、ちょっと時代錯誤な感じがしますよ?魔剣とか、聖剣なんていかがですか?」
「生憎と俺、剣ってあまり得意じゃなくてさ。こう、振り回すのってどーもしっくり来なくて。だから高校の時の剣道の授業とかそこまで真面目に受けてなかったんだ。で、その銃ってどんなのがあるの?」
渋々、と言うほどではないがエリスさんが見せてくれる。おお!かなりかっこいいじゃん!しかも取り扱い見ると瞬間装着アリってそれかなり便利!サイズは少し大きめだけど、それなりにコンパクトで何より色が白と赤のコントラストってそれなんか主人公っぽい!一目見て気に入った俺は喰い気味にこの銃をリクエストする。
「今まで剣のリクエストが多かったので珍しいですね・・・フフっ」
「あれ、俺なんかオカシなこと言いました?」
「いえ、ごめんなさい。本当にシューティングゲームが好きなんだなって」
「あ、まあ・・・というか、基本ゲーム全般好きですよ?リアルで扱うってなると剣は苦手かなってだけで」
「そうでしたか・・・・さ、準備できましたよ」
エリスさんが器用に指をパチンと鳴らすと、俺の足元が光り輝いてそこから天に向かって柱が真っ直ぐ伸びていく。突然襲う浮遊感。無重力空間に放り出されたような、体の自由が効かない状態で俺は柱を上へ、上へと昇って行く。
「武器は貴方が転生した瞬間から常に共にあります。念じれば、使えるようにはなっていますので!それから、彼方でも行動しやすいよう幾つか最低限のおまけもつけさせていただきました!――――数多ある勇者候補の中から、貴方が魔王を倒す真の勇者であらんことを!」
その声を最後に、俺は光の奥へと吸い込まれていった。
◇
ラノベをよく読む人は転生と聞けば大体の展開は想像できるだろう。まず赤子から始まり、なんやかんやで成長していきなり本編開始みたいな。まずヒロインは幼馴染とかそこら辺がベターだな。あとやたら好かれてる。そんで不思議な力を持ってて、その縁で色々事件に巻き込まれたり人脈に恵まれたりエトセトラ。
しかぁし、この加藤大和が置かれている状況はそのどれもが当てはまらないのである。
まず、現状を把握しよう。今俺はどこかの店の中にいる。みたところ、道具屋だろうか。色々種類があってなんか瓶みたいなものやそれこそ見てくれ的に回復アイテムみたいなものまであるから多分あっている筈。次に、視線を上に上げれば青い、それは青いきれいな空。別に天窓ではない。何かが落ちてきて、突き破った。そんな空き方をしている。そして視線を下げれば、レジカウンターの奥でガタガタと震える褐色髪のやたら顔色が・・・というか正気が薄い女性。
そう。俺はこのお店にダイナミック入店をしたのだ。・・・・尻痛い。
「あ、えっと、その・・・・」
「ひ、人が空から降ってきた・・・アワワワワ」
あの女神、実はドジっ子なんではなかろうか。そう疑いながらも俺は纏まらない言葉を総動員して必死に店主さんらしき女性に事情を説明する。この世界がもしあの女神さまが言っていた異世界ならば、魔法でこうなったって言っとけば何とかなる筈。
「そうだったんですか。旅に出た途端、ダンジョンに入ったら怪しげな宝箱を開けてそれが実はトラップでランダムテレポートされてここに飛ばされてきた・・・・それはなんとも災難でしたね」
よっしゃ通じた!というかこの人ひょっとしておバカなのかな!?こんなハチャメチャな話信じて大丈夫か!?いやありがたいんだけども。
「でも見たところ冒険者の方の服には見えませんね」
「え、なんか変ですか?」
「変というわけではありませんが、あまり見かけないもので・・・・あ、よろしければこの町をご案内しましょうか」
ラッキー!地図も何もないからどこに行ったらいいかと思ったけどコレはついてるぞ。
ウィズ
「ここがこのアクセルの街の冒険者ギルドになります」
「ここが、か・・・えっと、確かここで登録するんでしたよね」
「それはそうですが、登録してなかったんですか?」
「えっと、恥ずかしながら見切り発車で来たもので・・・」
「それはいけませんね。冒険者登録してないと、たとえクエストをクリアしたとしてもギルドから報酬がもらえませんから」
そりゃそうだ、なんて考えつつウィズさんに案内されて登録手続きの為に受付へと案内された。そこでもこれまたウィズさんに負けず劣らずのロマンが――――あいや、美人さんが。そのお姉さん(名前はルナさんというらしい)にこの世界での通貨である1000エリスを渡す。ちなみにこのお金はRPGとかでよく見る金貨のそれと同じような感じでこの世界に来る際に女神さまから渡されたものだ。すると、ルナさんは何やら不思議な機械を持ち出してきた。ウィズさんによれば、これは俺の冒険者カードを発行する機械であり、同時に俺がなんの職業に適しているか、属することができるかを測るものらしい。
手を翳す。一瞬の光の後、カード作成が行われた。
「えっと、ヤマトさんの適正は・・・・あれ?」
と、ルナさんがなんとも不思議そうな顔で首を傾げて機械とカードとを交互に見つめる。
「どうかしましたか?」
「故障かしら?今までこんなことなかったのに・・・もしかして、さっきの人の?いやでも・・・」
なにやら考えをぶつぶつと言い始めるルナさん。なんでも機械が誤作動をおこしたっぽくて俺の職業が見たことないものになっているらしい。ためしに見せてもらうとそこには、
「
そうなのか。この数字が高いということはカンストしようと思ったら途方もない数値になりそうだ・・・・やっぱ、魔王倒すとなると道はかなり険しい。そんな無理難題に溜息をつく。その後ルナさんに冒険者としての軽い講義を受け、ギルドから出た頃には辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
「今日はありがとうございました。案内してもらっちゃって」
「いえ、そんな。困ったときはお互いさまですよ」
そう言って微笑みかけてくれるウィズさん。ああ、この人天使や・・・そう思っていると、急に思い出してしまった。そう、この人のお店に多大な迷惑をこうむったことを。
「あ、屋根の修理なんですけど、俺一応日曜大工程度ではありますがそれでもよければ・・・」
「え、悪いですよそんな」
「いやいや、悪いも何もあの穴開けたのはこっちですし・・・」
「でも無償でってわけには・・・・あ、でしたらこういうのはどうでしょう。駆け出し冒険者の方は通常でしたら馬小屋で寝泊まりするというのが常なんですが、ヤマトさんさえよろしければ私と一緒ではありますが住まいを提供しますよ?」
・・・・ちょっと待ってこの人何言ってんの。今日会ったばかりの見ず知らずの男を屋根の修理してもらう代わりに自分と一つ屋根の下に泊める、だと?いやこんな美人な人だったら断る理由なんて微塵もないが、それだと俺の中のナニカシラが色々とすり減りそうな気がするんですけどそれは――――
「――――喜んで」
割とどーでもよかった。少なくとも馬小屋よりはマシだろう。・・・・頑張ろう、色んな意味で。