俺がこの世界に転生して一週間。最初は戸惑うことも多かったけど、ウィズの懇切丁寧な解説と持ち前の器用さを駆使しどうにかこうにか上手くやれている。あ、最初の日以来ウィズのことは呼び捨てにさせてもらってる。外見的に年齢もさほど離れてなさそうだったっていうのもあるけど、これから一緒に暮らす相手と距離感がずっと縮まらずに他人行儀ってのもなんかヘンだなと思っての事だ。ちなみにウィズは俺をヤマト君と呼んでいる。
「ラストぉ!」
和やかな草原に鈍く乾いた音が鳴る。白と赤に彩られたハンドガンと呼ぶには少し大きいそれを獲物に狙いを定めて引鉄を引く。淡くオレンジ色に発光する光の弾丸はさながら矢の如く空間を裂き、巨大な蛙の眉間を貫いて消えた。すると、巨大ガエルモンスター、”ジャイアントトード”はまるで糸を失った操り人形が如くフラッと躰の力を脱力しバタンと倒れる。
「うし、これで今日のクエストクリア。ま、ざっとこんなもんか」
息をついて銃・・・”レイジングバレット”を瞬間収納すると、手の中にあったそれはまるで雪でも掴むみたいに光となって消えた。あ、武器の名前は最初からついていたものらしく戦闘の際に心の中で名前を呼べば自動で握れるようになっていた。いやーあの女神さまドジではあるけどやることはきちっとやってくれるから助かる。これで武器はないわ金もないわだったらホント詰みになるところだ。
ウィズから教えてもらったのは他にもある。戦い方や、特に魔法関連は本当にお世話になっている。教えるのが上手いから呑み込みもその分早く済むし、何より楽しい。いままで架空の存在だった物が現実になっている、その高揚感がたまらなくワクワクさせるんだ。
「とは言うものの・・・」
クエストを終えた俺はいったんギルドへと戻って報酬を受け取る。まだ朝早い時間帯でほとんど誰もいないような空間に一人テーブルにへ垂れ込む。
「魔王討伐するってのはまぁいいとして、問題はパーティーだよな・・・」
どんなに強い武器をもっていようが、どんなにチートな能力を持っていようが道中絶対に躓くのが目に見えている。そんな時、ともに助け合い高め合える仲間が必要だ。俺のポジションは遠近距離での射撃とちょっとした魔法。”レイジングバレット”も一応は近接ができる使用にはなってるけどやっぱり本職の剣士に比べたら心もとない。だから最低でも冒険者は欲しいところだ。だが、こんな駆け出しのペーペーを雇ってくれるチームもなく。オマケにガンナーというバグ中のバグを目にしては誰でもやんわりと断りをいれられるばかりで現在、絶賛ボッチなうだ。
「これじゃ現実と殆どかわんねーよ・・・」
再び溜息。でも、こんなことをやっていてもどうにもならないのが現実だろうと仮想だろうと同じこと。まずは考えるより行動あるのみと頬を叩いて気合を入れ直す。さて、まずは店に帰って在庫整理を――――と、意気込んだところで鐘の音が鳴り響く。そういえば、こんなに朝早く起きたのはこの世界に来てから初めてだったなと思いギルドを出る。まだ鐘の音は朝焼けの包む街に響いていた。たまには一人でアクセルの街を散策してみるのもいいかもしれないと鐘の音を辿って歩いていく。穏やかな小川の流れと鳥のさえずる音色は、まさにゲームの世界そのものだ。
やがて、教会のような建物が見えてきた、どうやら鐘の音はここから聴こえていたらしい。
「あら、今日はお若いお客さんが多いわね」
なんとなく足を運んでしまった教会だったが、早起きは三文の徳と言ったところか。シスター服がこれでもかとエロスを引き立てているにも関わらず、聖職者特有の神々しい雰囲気を纏った女性に話しかけられる。
「ここはエリス教の方がお祈りを捧げる教会です。私はここのシスターをやってます。司祭様は現在留守なので、入信の手続きはできないのですが・・・」
「あ、じゃあお祈りってできますかね?冒険者なもんで、一応願掛けみたいな」
「ええ、かまいませんよ。ちょうど今、貴方と同年齢くらいのクルセイダーの方もいらっしゃいますので、どうぞ」
シスターに許可をもらい、扉を開ける。天窓から降り注ぐ光はステンドグラスで屈折を繰り返して虹色に降り注いでいる。祭壇へと続く赤い絨毯を境にして左に規則正しく並んだ長椅子には彼方こちらで腰掛け、胸の前で手を組んで祈りを捧げているエリス教信者の姿があった。
「すげぇ・・・」
日本生まれな俺は教会なんて入った事も実物を見たこともない。そういう施設が暮らしていた生活圏になかっただけではあるが。一歩踏み入れればそこはまた別世界に踏み込んでしまったんではないかと軽く錯覚する程度には視覚的インパクトは大きかった。内部の雰囲気に圧倒されながらも、視線をエリス像に向ける。流石に実物を誰も見たことないだけあって色々違っているが神々しさや美しさという意味ではそっくりである。
「きみも、お祈りかい?」
不意に声をかけられた。見ると、俺とさほど身長の変わらない女性が横に立っていた。髪は金髪でポニーテール。何やら高価そうな鎧と整った顔立ち。うん、美人。ウィズとは違った大人なお姉さん系の人だ。
「えっと、まあそんなところですかね」
しどろもどろで返してしまう。無茶言うな、女の子とプライベートで話すなんて学生以来だぞこっちは。精々バイト仲間と業務的な会話しかしたことないくらいには経験ないんだぞ。そりゃこうもなるっつの。いやぁにしても美人だ。
「そうか・・・そう言えば、きみは最近冒険者になった・・・」
「あ、えっと、はい。ヤマトっていいます」
「ああ、そうだった。珍しい職業だったからこの街の冒険者たちの間ではちょっとした噂だったんだよ」
そう言って笑む。ヤバイ、マジでヤバイ。心臓がマッハでデットヒートォ!なんですけど!?何、今日俺死ぬの!?こんな美人に話しかけられてオマケに「貴方のこと、以前から気になって」的な!?いや、そんなこと言われてないけどさ。でもこの展開は初だよ!
「しょ、しょーなんだ・・・」
やっべぇ噛んだ!壮大に噛んだ!
「おっと、自己紹介がまだだった。私はダクネス。
・・・ん?待てよ、今クルセイダーって言ったか。
「なあダクネスさん」
「呼び捨てで構わない。なんだ?」
「俺とパーティー組んでくれません?」
◇
と言うわけで、再びギルドに。時刻はもうじき昼になるということもあり今朝よりも人が多い。今日はいつもに比べれば少ないほうだが、それでも活気に満ちている。みんな昼間からシュワシュワ(外見はビールそのもの)を片手に己の武勇伝を言い合ったり、今日はどんなクエストに挑むかの相談だったりと様々だ。そんな中、俺とダクネスの二人もクエストへと赴くことにする。ボードに張り出されたものの中から手ごろなものを一つだけ手に取りダクネスに見せる。
「ジャイアントトード5匹討伐、か。うん、いいと思う」
「んじゃこれで決まりな。ルナさーん・・・――――」
基本、冒険者たちの受諾するクエストはこうやってクエストボードに張り出されることになっている。それは難易度別に分けられているというわけではなく、自分に合ったクエストを冒険者自らが選んで持って行くということになっている。はて、さっきダクネスは難易度7(最大10まで)のクエストをまじまじと見つめてたけどそれほどレベルが高いんだろうか?話に夢中でカード見損ねたし・・・それほど腕の立つ冒険者なら安心な反面、俺のレベルに合わせたクエストで退屈させてしまいそうでなんだか申し訳ない気もする。そんなこんなで、今となってはほぼ日常になりつつあるこの小高い丘まで来ていた。アクセルの街からは壁門を出て真っ直ぐ、おおよそ500Mといったところか。こんな近場でモンスターが湧いているなんて一般人はたまったものではないだろう。しかも今は繁殖期。家畜だけじゃなく、既に人にまで被害が及んでいる為このモンスターのクエストは討伐数にこそ制限があるものの、多いものでは10匹と中々の経験値稼ぎになってくれる。
「今朝より沢山いるな・・・」
「ヤマト、私はどうすればいい?」
「俺が援護するから、ダクネスは好きなように暴れてくれ。クルセイダーの力がどんだけのものなのか、見てみたい」
「ふむ・・・本当に、好きなように暴れていいんだな?」
その言葉に含みがあった。ダクネスはキリッと顔を引き締めつつも、その瞳は獲物を狩る前のハンターのそれだ。まるで今から楽しい事が始まるのにワクワクする子どものように無邪気で、それでいて獰猛。端正な顔立ちと相まってその迫力はかなりのもの。俺は若干気押されしながらも「おう」と短く返すと同時にジャイアントトード向けて発砲。まずは手近な一匹を確実に叩いていく。それと同時にダクネスが腰の剣を抜刀して草原を駆けて行くが、その動きにはとても重装備のクルセイダーとは思えないほど素早い。
「フッ、ダァッ!」
ダクネスが剣を振るう。その鋭い太刀筋は巨大な蛙と言えどいとも簡単に三枚におろ――――さなかった。むしろその周囲の地面を抉って土煙を巻き上げて蛙には傷一つない。ちょっと待て。え、なに?俺の見間違いか?
いや、そんなことはない。俺とダクネスの距離は100Mどころか50Mも空いていないのだから。しっかりと、はっきりと肉眼で確認できる。今、彼女は、止まっている巨大蛙に突っ込んで行って剣を力いっぱい地面へと叩きつけただけだった。しかも、かなり意気込んだ声と一緒に。
「・・・・えっと、ダクネスさん?」
直後、ダクネスが蛙に食われた。
「ええええええええええええええええええええええ!?」
待って待って待ってッ!え、クルセイダーって確か上級職でしょ!?なんで剣が当たんないの!駆け出しの初心者だってあんな図体デカい奴でしかも止まってるんなら、目を瞑ってたって当たるわ!
ちょっとおい・・・・まさか俺、トンデモナイ人と組んだのか?
「って、ダクネスぅぅぅううううう!?」
◇
† ~ジャイアントトード討伐クエスト:クリア~ †
拝啓、エリス様。僕はどうやらドMの変態とパーティーを組んだようです。
あれから判明したダクネスの
「ハァ、やはりあのヌルヌルはいいものだ・・・思い出すだけでも・・・フゥ」
へ、変態だあああああああああああああああああああああ!!!!!!!。
恍惚とした表情のダクネスは頬を朱に染めながら空を見つめてそう漏らす。美人なのに動いたらコレとかシャレにならん。残念美人は喋ったらダメとかはテレビとかでみたことはあるが、ここまでくるともはやある種別次元の領域にまで達している気がする。
「・・・ところでヤマト」
「ん?」
「本当に私なんかでよかったのか?・・・見てわかった通り、私はクルセイダーという職に就きながら攻撃は一切当たらない。肉壁にはなるが、攻撃はてんでダメ。今回の討伐クエストも、結局は私は壁にしかならず、ヤマトが全て処理した・・・私はこんなだから、どこに行っても――――」
「ストップ」
「ヤマト?」
「ダクネスのクセが強いっていうのはよくわかったよ。でもそれで助かった面もあるんだぜ」
しゅわしゅわと蛙肉のから揚げを二人前注文し、話を続ける。
「俺も近づけば相手に攻撃当てられるから、ぶっちゃけ近接ができないわけじゃない。でも、これはゲームじゃなくて現実だ。ダメージを負えば傷もできるし痛い。冒険者の癖に、そういうのがあるって考えるとスッゲー怖くてさ。だからうまく戦えなくて・・・でも、今日はダクネスが囮になってくれてたおかげでスッゲーやりやすかった!だからさ。これからもよかったら俺と冒険してくれないか?・・・・壁として使うことは多いとおもうけど」
「・・・・きみは、変わり者だな」
「よく言われる」
ダクネスに笑顔が戻ったところで注文したしゅわしゅわと蛙肉が届く。グラスを互いに持って、何を言うわけでもなくニッと笑って打ち付けあう。
「これからよろしく。不器用なクルセイダーさん」
「こちらこそ。よろしく頼む」
これでメンバー一人決定。あとは、回復持ちのプーリストかデカい一発が打てるウィザード。それから・・・できれば臨機応変に動ける頭のキレる冒険者なんかがいいな。バランスもいいし。そんな事を頭の隅で考えながら、俺はダクネスと共に蛙肉としゅわしゅわに舌つづみをうった。
ダクネスって扱い難しい