東方蟹怪談   作:夜鯨の町長

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話はスピーディかつ説明不足に進んでいきます。

ついていけなくなれば、ほっといていいですよ?
きっと寂しくなって戻ってきますから。

ともあれ、二話目です。


ツクリバナシの話

幻想郷の夏。

夏はなんともお得な季節だ。

なにしろ風情がてんこ盛りなのだ。

昼も夜も晴れも雨も、オールマイティで楽しめる季節は夏。世の大人が昔を懐かしむ時に大抵やって来る季節は夏。生き物が活発になり生命が燃え盛る季節は夏。

そしてなにより夏は

 

 

『怪談の季節』だ。

 

 

つまり私達のカセギドキなのだ。

 

 

饅頭「皆無が居なかったらこの夏で死んでたかもしれないな」

 

皆無「.....」

 

この人の名前は『皆無(かいむ)』。

鬼のような反り立った二本の黒い角が、般若のように眉毛の上辺りから生えている。白髪赤目のアルビノ体質で、見た目すごく怖い。

フード付きの丈の長い紺色のコートをいつも着けている。背中に携えた立派な錫杖がなんとも不釣り合いだ。

そんな皆無は【キャンセルする程度の能力】を持っており、どんな事象も無かったことにできる消しゴム的な存在なのだ。

店の中だけ熱気をキャンセルすることで、涼しくは無いが暑くもない。店の外の熱との気温差があるので、店の外から入ってきた者には相対的に涼しく感じることだろう。

 

霊夢「お邪魔するわよー....え、なんでココこんなに涼しいのかしら?」

 

昨日取り付けた扉のベルがカランカランと静かになったかと思えば、汗だくの巫女が心底不愉快といった顔で入店してきた。

 

饅頭「熱中症対策なんだよ。文句があるなら帰ってくれ」

 

霊夢「じゃあ帰るから私の神社も同じように涼しくさせなさい」

 

帰るのは君だけだ。

霊夢は汗で肌に張り付いた服を引き剥がすように襟をつまみながら、店に置いてあった団扇を勝手に使って扇ぎ始めた。

 

饅頭「暑いも何も、この店にあるものがなんなのか知ってるだろう?」

 

霊夢「はぁ?じゃあ怪談で涼しくなっていけっていうのかしら?」

 

そう言ってるつもりなのだが不満なようだ。

なんで怪談が売りの店に来て怪談で涼むのは御免だと言うのだろう。じゃあ来んなよ。

 

霊夢「あら、今日は皆無さんも居るのね」

 

皆無「.........」

 

皆無は無言で霊夢を見つめ返す。

前はお使いに出たっきり帰ってこなくて、今日の明け方にのそのそと帰って来たのだ。

皆無は基本的に喋ることがないので、理由を聞くこともできなかった。まぁ頼んでいたものはちゃんと買って来ていたし、帰ってくることができたので別になんとも思っちゃいないけど。

 

霊夢「それで、今日は遊柳さんが居ないみたいね?仕方ないわ、自分で出す」

 

霊夢はもてなしをしてくれる人が居ないことに嘆息すると、台所へと消えて行った。

 

饅頭「珈琲。エスプレッソで」

 

霊夢「訳のわからない片仮名語を使わないで」

 

珈琲の淹れ方を知ってるくせにそれは知らないのか。偏った知識で教えてもらったようだ。誰にだろう?親?

 

霊夢「はい。皆無さんも珈琲でいいわよね?」

 

皆無「..................」

 

皆無は霊夢から珈琲を受け取ると、それを二度見したのちに霊夢へと視線を移した。

 

霊夢「何かしら?いつものように淹れたんだけど?」

 

人の家の飲み物を淹れるのがいつものことであるのが普通だと思ってしまってはいけない。

 

饅頭「霊夢、また湯呑みに珈琲淹れやがったな。見ろ、皆無が唖然としてるだろう」

 

霊夢「この人いつもこんな顔してるじゃない」

 

皆無がいつも無表情なことを普通だと思ってしまってはいけない。皆無だって笑うことはある。

 

魔理沙「おーい!蟹よーい!お客連れて来てやったぜー......ってなんだか涼しいんだぜ」

 

再び扉が乱暴に開けられると、いつものごとく魔理沙が屈託のない笑顔で立っていた。

このいつものことも普通だと思ってしまってはいけない。

世の中、普通だと思ってはいけないことで溢れている。

 

饅頭「どうしてそう乱暴に入店する?鬼だって丁寧に扉の開け閉めをするっていうのに」

 

霊夢「そうでもないわよ?うちの居候は2日に一回は障子を壊すわよ?」

 

霊夢の家には鬼がいるのか?

神様がいるかどうか怪しいと思ってはいたが、鬼がいるとは...

 

魔理沙「鬼が出るとか蛇が出るとか、そんなこと言ってたら今連れて来た客が出ちまうぞ?」

 

魔理沙の言うことはもっともだ。私は霊夢を無視して玄関口へ視線を移す。魔理沙の後ろには背の高い女性が立っていた。霊夢や魔理沙たちと違い、大人びた顔をしていて、白と青の奇妙な柄の長い髪に置物のような帽子。初めて見る顔だ。

 

魔理沙「人里にいながらこいつの顔を知らないってのはおかしいぜ?紹介しよう、こいつは...」

 

??「構わん魔理沙、自分で説明する。おはようございます、突然の訪問大変失礼します饅頭蟹殿。私は人里の寺子屋で教鞭をとっている上白沢慧音という者だ。初めましてよろしくお願いします」

 

そして物凄くてい丁寧で堅苦しい人だ。

 

饅頭「初めまして、こちらこそよろしくお願いいたします上白沢さん」

 

慧音「慧音でいい。他人行儀なのは苦手でな」

 

たった今他人行儀な挨拶をされたのに...

 

慧音「初対面の相手には、何かと堅くなってしまうのだ、これで変に気を使う必要はない」

 

饅頭「はぁ、わかりました。では慧音さん、今日はどう言ったご用件で?」

 

慧音「ここでは怪談を売っていると聞いてな、一つ買ってみようかと思ったのだ」

 

おぉ、すごく珍しくまともな客だ。

一見さんできちんと取引を試みた客はこの人で二人目だ。

 

饅頭「なるほど、ではどのような物をご所望ですか?」

 

慧音「店主のお勧めを貰おうかと思っていたのだが、何か指定をした方がいいのですか?」

 

饅頭「ふむ、お勧めをと言われればどれも秀逸な品で、全てを勧めてあげたいものですが。では、よければ怪談の用途を教えてもらえませんか?」

 

ここで売っている怪談は殆どが消耗品だ。

薬のように要望に合わせて提供し、

買い取ってくれた人に満足してもらう。

 

慧音「実は、私の勤める寺子屋の生徒達の間で怪談話が流行っているのだが、生徒の為に授業の合間を縫って私も怪談話をしてあげようと思ったのだが、手頃な話が見つからなくてな、かといって作れるほどの才はない。そこで専門家の力を借りようかと思い、ここに来たのだ」

 

饅頭「なるほど、なんとも生徒思いのいい先生じゃないですか」

 

私も小学生ぐらいの頃に、怪談話の上手な先生が居て、授業の合間に自分のもつ怪談話を聞かせてくれて、授業で退屈しなかったものだ。そのこともあって人はすごく人気のある先生だったことを覚えている。

 

饅頭「では、あまりショッキングな話はやめておきましょう。寺子屋の生徒の許容を超えるようなことがあればいけませんからね」

 

私は慧音先生の要望にあう怪談を探す為に、奥の本棚へと移動した。

珍しく皆無が接客をしているようで、近くにあった怪談の紹介をしてくれている。

霊夢と魔理沙はお茶を飲んでうとうと舟を漕いでいるので、迷惑になるようなことはしないだろう。

集中して商品を探すとしよう。

 

 

 

ものは思ったよりも早く見つかった。

 

饅頭「こちらはいかがでしょうか?」

 

題目は「貝になりたかった男」。

別に清水豊松とは何も関係無い話で、少し前に買い取った、ここらで噂になっていた話だ。

慧音先生は手記を一瞥すると、満足そうな顔をして、

 

慧音「ふむ、これならあいつらにも聞かせてやれるな、感謝するよ」

 

饅頭「いえいえ、気に入ってもらえて何よりです」

 

噂話でもあったので、値段はそんなにしなかった。お買い得商品のような値段だね。

 

皆無「...........」

 

慧音「ん?なんだ。私はこれだけしか買えないぞ?」

 

と、皆無が先ほど慧音に勧めていた怪談を慧音に渡した。

 

饅頭「気にしないでください。それはサービスですよ。うちを利用してくれた初めてのまともなお客さんですからね」

 

それを聞いた慧音も、ご好意に甘えるとのことで受け取ってくれた。

 

慧音「すまない、後日礼をしにくるよ。では、私はこれで失礼しよう」

 

饅頭「お気になさらず。今後ともご贔屓に」

 

慧音はにっこりとした大人の微笑みで一礼し、扉を優しく開いて帰っていった。

 

魔理沙「随分とやさしいじゃないか。贔屓か?」

 

饅頭「優良顧客になりそうな人に媚びを売るのは当然だろう?」

 

霊夢が客として怪談を売りにきたことはあったが、あんな横柄な態度の客は客じゃない、ただの迷惑な訪問者だ。

 

饅頭「魔理沙たちも用がないなら早く帰りな」

 

魔理沙「用ならあるぜ、まだお菓子を食べてる途中だ」

 

魔理沙はそう言って新しい煎餅の袋を開けた。その開封音で、うたた寝していた霊夢がのそりと起き上がり、寝ぼけ眼で煎餅を3枚ほど鷲掴みにし、口に咥えた。

 

饅頭「はぁ、まぁいいけどさ。ところで皆無、お前なんの怪談をあんなに勧めたんだ?」

 

特に内容は見てなかったが、皆無が勧めようとするのは珍しいことなのでサービスにしたのだけれど。

 

皆無「...............『ホラ話』だよ」

 

饅頭「.......ほぉ」

 

皆無は依然として何を考えているかわからない顔だが、皆無が意図していることは何となくわかった。

 

饅頭「じゃああのサービスは、本当の意味での『怪談屋からのサービス』ってことになるんだな」

 

ちょうどいい。

今は怪談の季節なのだ。

サービスするならこれくらいやらないと、怪談屋の底が知れてしまう。

 

珍しく気分がよくなった私は、霊夢が頑として譲らない湯呑みでの珈琲を飲み干し、煎餅にパクつく。

 

思った通りだ。

珈琲と煎餅は、合わない。

 

 

 

 

 

 

 

『貝になりたかった男』

 

 

 

 

ある日の晩。

人里に住むある男が「貝になりたい」

と言い出した。

 

男は里一番の木偶の坊(でくのぼう)で、

頭は雀ほども働かず、脚は蛞蝓にさえ負け、顔は妖怪と相違なく、それで役立たず扱いをされながら、なぜかいつも砂を集めていた。

 

そんな男がある日突然

貝になりたいと宣言した。

 

その日から、

男は貝になるために、石灰を食べ続けた。

一日三食すべて石灰を食べ続けた。

貝になるために、石灰を食べ続けた。

 

やがて栄養失調寸前まで陥った男は、石灰を食べ続けたせいで、青白くなった皮膚はカサカサでボロボロに、骨が角ばり、石でも溜めたかのようなゴツゴツした筋肉。

 

そして目も耳も鼻も機能しなくなった男は、自らが用意した大量の砂が入った五右衛門風呂に埋もれて死に絶えた。

さながら()()()()()()()()()()()()()

 

そして、貝になりたかった男は、今もどこかに貝として転がっている。

 

 

 

 

 

慧音「と、いう話だ」

 

授業の科目は理科。貝殻の成分について話を説いている途中に、あの怪談屋で買った話を生徒たちに聞かせてあげた。

 

チルノ「あ、あたい最強だから、大ちゃん一緒に(トイレ)に行ってあげてもいいよ?」

 

大妖精「う、うんわかったよチルノちゃん。最強のチルノちゃんにお願いするよ」

 

ルーミア「そーなのかー」

 

可愛らしい私の教え子達は、それはそれはとても怖がってくれた。といっても、本気で怖がってしまっているのは居らず、怪談話を聞いたあと特有の、数瞬のトラウマと恐怖感への満足感に満ちた顔をしていた。

 

慧音「怪談屋に出向いて正解だったな。あとで妹紅にも教えてやろう」

 

私はこの時、怪談の語り部の快楽に病みつきになっていた。

怖がってくれる顔というのは、自分を恐れているように見える。恐怖心という他人の弱い部分を垣間見ることで、精神的優位に立てた気持ちになれる。そんな支配感にも似た感情が、語り部には訪れる。

 

その日はこの満足感から、夜遅くまで仕事をしても全くといっていいほど疲れていなかった。このまま徹夜で仕事をすることも可能だろう。

 

慧音「いかんいかん。今夜は妹紅(もこう)とミスティアの店で飲みに行く約束をしているんだ。もうすぐ夜四ツ半刻(現在で夜の11時)だ、そろそろ切り上げるか...」

 

立ち上がって伸びをし、背骨を反らせて軽く首をひねる。いくら疲れていなくても、ずっと同じ姿勢では身体が鈍るな。

 

適度に片付けをし戸締りを確認した後に、私は寺子屋を出た。

 

 

慧音「時間も時間だし、もう人里も人が少なくなっているな...」

 

妖怪は何人かいるようだが、祭りの日以外でこの時間まで起きて外を彷徨く人間は幻想郷にはいない。

 

男「すみません...」

 

慧音「ん?」

 

と、見知らぬ男がいつの間にか側に寄ってきていた。すごく体調の悪そうな顔だをしている。

 

慧音「どうしたんだ?具合が悪いなら私が妹紅のところへ...」

 

私の唯一無二の友人である藤原妹紅(ふじわらのもこう)は、迷いの竹林と呼ばれる竹林の奥にある病院への案内役として有名で、病床人を無事に竹林の奥まで案内できる貴重な人間なのだという。

今日は飲む約束をしているので、このまま私についてくれば妹紅に会える。

と、男は竹林に行く用は無いと言い、その代わりに、

 

男「吉永の家は何処にありますか?」

 

と聞いてきた。

 

慧音「吉永さんの家。確か少し前に火災に見舞われて、建て替え中の吉永さんの家か?」

 

つい最近、吉永という名の男が住む家が、男自身の不注意で火事になってしまい、魔理沙によってダイナマイト消火されたらしいが、家は半壊の始末で、現在は里の棟梁達が立て直している最中らしい。

その関係者だろうか?

 

慧音「それならすぐ近くだし、私が向かう場所と方向は同じだ。よかったら案内してやろう」

 

男「...............」

 

男はゆっくりと頷き、私について歩き出した。この男に薄ら寒いものを感じたが、案内をすれば済む話なのでと、男を送ることにした。

 

 

 

吉永さんの家にはすぐに着いた。

棟梁達はもう帰ってしまっているようで、組み上がった骨組みだけが静かに佇んでいる。

 

慧音「ここが吉永さんの家だ」

 

男「ありがとうございます」

 

男は深く礼をした後、くらい骨組みの中へと歩いていった。そして、木材を押さえている重し袋を漁り始めた。

 

慧音「なにしてるんだ...?」

 

すぐにその場を立ち去ろうと前を向いたその瞬間。

ぐるりと首だけをこちらに向けた男が、暗闇の中からでもはっきり見えるほどに目を剥き出しに見開いて、

 

 

 

 

 

 

男「今日の話。俺のことですよね?」

 

 

 

そういって、砂袋を持って消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、いつものように店で怪談の手入れをしていると、扉が乱暴に開けられる音がした。

 

饅頭「霊夢か?それとも魔理沙か?」

 

はぁ、とため息をついて入り口を見ると。

そこには昨日ぶりのお客さんがいた。

 

饅頭「慧音さんじゃないですか。そちらはどなたで?」

 

昨日とは違い、慧音の隣には真っ白な少女が立っていた。長くて白い揖保乃糸のような艶やかな髪、大量に止められた赤のリボン、ワイシャツにたぼついた吊りズボン(モンペってやつか?)、軍人のようなブーツ。そして火花を散らしている危険色全開真っ赤っか少女だ。

 

妹紅「わたしは藤原妹紅。慧音の友人だ」

 

妹紅という少女は、気分の悪そうな慧音を抱えながら、機嫌の悪そうな顔をしてこちらを睨んでいる。

 

饅頭「あー....」

 

察した。

これはクレームだ。

 

饅頭「もしかして、怪談にお逢いになったのですか?」

 

極力丁寧語で話すように心がける。

いつ妹紅からベギラゴンが放たれるかわからない。

怒っている人間は怖い。

 

妹紅「お前のところで慧音が買い物をしたらしいんだが、お陰で酷い目にあったそうだ」

 

憔悴しきった顔の慧音を見ながらそういってきた。

 

饅頭「...............怪談を体験したようですね?」

 

まぁ、仕向けたんだが。

 

饅頭「ココアを用意しますので、そちらにお掛けになってください」

 

二人を客間へ案内し、極力冷静に台所に向かい、ココアを作って戻ると、慧音が今日初めて声を出した。

 

慧音「饅頭蟹。あれは一体なんだったんだ?」

 

饅頭「はい、全部説明しますよ」

 

慧音先生というよりも、隣にいる妹紅という友人に聞いてもらえるように話をした。

 

饅頭「私の能力は【筋書を決める程度の能力】で、怪談屋に置かれている怪談には殆ど能力をかけています」

 

すごくめんどくさかった。

 

饅頭「怪談屋が売るのは怪談。つまりは恐怖体験です。怪談を買うということは恐怖を体験してもらうということです」

 

妹紅「それはちょいと危険すぎやしないか?」

 

ごもっとも。

でもそうじゃない。

 

饅頭「ここにある怪談は、噂話や眉唾な物が殆どで、実体験から買い取った話以外は、私の能力の影響が弱い。話単体だけなら真実味が曖昧だからね」

 

友達の友達の友達の話は、

もはや信用に値しない。

ましてや何人もの耳を通った話なら、尾ひれがつきまくって羽になっていても不思議ではない。そんな話を現実にできるほど、この能力は甘くない。

 

饅頭「だが例外はある。単純な足し算で、弱い怪談と弱い怪談を合わせれば、それは強い怪談になる。それも相性のいい怪談に限るけどね。つまりは裏付けや後付けのようなものだからね。物語はたったそれだけで説得力が生まれるし、私の能力がしっかり働いてくれる」

 

証人は一人より二人。

証拠には裏付け。

説得力は多数決だ。

 

妹紅「じゃあ慧音は、相性のいい怪談を二つ持っていたから、恐怖体験をしたってことか?」

 

饅頭「そうなるね」

 

ここまで話をしたところで、落ち着きを取り戻した慧音が、深呼吸をしながら妹紅を撫でた。

 

慧音「心配かけてすまなかったな妹紅。もう大丈夫だ」

 

妹紅「慧音.....」

 

先ほどのビリビリした空気が消え去り、妹紅は安堵に頬を緩める。

 

慧音「怪談屋としての計らいだろう?サービス精神旺盛な怪談屋が、私にも怪談を体験させてくれたってことだな?」

 

饅頭「よもや憔悴してしまうほど恐ろしい目に合わせてしまったようで本当にすまない。でもどうだい?怪談を体験した感想は」

 

慧音はニッコリと微笑むと、

 

 

慧音「毎日の平和が、より一層いいものに感じるよ」

 

雨降って地固まる。

恐怖を経験した後に待っているのは、日常の幸せだ。

平和な毎日、現実の毎日、怖くない毎日、当たり前のように見過ごしてきた日常の素晴らしさを感じることができる。

 

饅頭「怪談屋が売るのは確かに怪談だが、この怪談の先にある日常の素晴らしさを経験してもらうっていうのが、怪談屋の売りですからね」

 

慧音「ははは、ありがとう。お陰でいい経験が出来たよ」

 

慧音と妹紅は、またいつか来店すると言って帰って行った。

 

 

 

 

 

慧音と妹紅が完全に帰ったのを見計らったようにして、奥の部屋から皆無が出てきた。

 

皆無「.............」

 

饅頭「ヒヤヒヤしたよまったく」

 

だぁっ、と椅子に持たれかけて四肢を投げるように脱力する。

 

饅頭「蟹ってストレスに弱いんだよな」

 

皆無「................」

 

皆無が少しニヤリとしたように見えた。

私が慌てふためいて適当なことを言ったのが面白かったようだ。

 

饅頭「ああいうしか無いだろう。思いつきで始めたこの商売に崇高な願いなんかあるわけないじゃないか」

 

その場の思いつきにしては良いことを言えたと思う。よかったよかった。

 

饅頭「しかし皆無も面倒なことするよなぁ。相性合わせって結構難しいのに」

 

皆無「............」

 

皆無は慧音たち用に出していた茶菓子をつまみとって食べ始めた。

私も自分用に淹れておいた珈琲に口をつける。

緊張で殆ど手をつけてなかったせいか、すっかり冷めてしまっている。

冷たい。

 

饅頭「冷えたなぁ。皆無の洒落には」

 

お寒いなんてものじゃない。

『貝』と『ホラ』をかけるなんて。

今日び小学生でも笑えない。

しかし遊柳が聞いたら爆笑しそうだ。

あいつはツボが浅いから。

 

怪談屋としてはご法度な気がするが、笑い話もたまにはいいだろう。

怖い思いをした後に笑うよりも、初めから笑っていた方が遥かにいいに決まっている。

 

 

 

 




これから少しずつサイコ路線にしていこうかと考えている
饅頭蟹です。
見直し適当です。
いろんな話をモデルにしているので、探してみるのもありですかね。
ともあれ、次回も頑張らせていただきます。
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