戦場は一時的にその動きを止めた。
純白のIAD、ネメシスクロスの登場で緊張感が高まる。
「アヤメ、公共回線に繋いでくれ」
「わかった」
ネメシスクロスのコックピットに座る少年、ローゼフ・ドリムがサブシートに座る少女、アヤメ・ディスラ・ノルンにそう指示すると、ネメシスクロスから公共回線で通信ラインが張られた。
「お初にお目にかかろう、我々は
NEXA
ローゼフはそう名乗ると、そこにある戦闘が自分の声を聞くために停止しているのを確認しつつ言葉を続けた。
「我々の目的は、ここにある戦闘を終わらせることである。直ちに武装を解除し、後退するよう両軍に要請する」
ローゼフは要請という言葉を用い、あくまで丁寧に言い放った。
しかし勿論、応じない場合は武力を以ってこれを制するつもりでいることは言うまでもないだろう。
そのためのネメシスクロスである。
「恐らくどっちの軍も応じないだろうな。そもそもの力量も自分たちが優っていると考えるのが妥当だ」
「そうね、問題は
「とにかく今は出方を伺おう。先に仕掛けたら元も子もない。ただの過激派に成り下りたくはないからな」
形はともあれレジスタンス組織の存在は特別珍しいことでもなかった。
そしてこの情勢の中、ほとんどの場合が過激派で占められているのも事実だ。
それ故、この丁寧な口ぶりや慎重な動きが余計に存在感を不気味に染めていた。
「両軍から返答きた。どちらも武装解除と投降を勧告してるね」
「両軍とも警戒態勢でいるのがわかるな。なんにせよ、こちらの要請に応じないとなれば、武力を以ってこれを撃退する」
ローゼフがそう言うと、ネメシスクロスの背中から青い光が噴き出し、そのマントを大きく靡かせた。
ツインアイは鋭く煌めき、腰に携えた剣を鞘から引き抜く。
「現時刻を以って全兵装の使用制限を解除。対象を駆逐する」
瞬間的に地上へ舞い降り、まずは連邦のクイン部隊に飛び込んだ。
敵機の間を縫うように鮮やかに疾走しながら、的確に急所を斬り裂いていく。
地上部隊を駆け抜けると振り返り、剣先を正面へ突き出した。
すると光のマントが形を変え2門のキャノン砲を形成、高出力の照射ビームを放った。
その光束に飲み込まれたクインは瞬く間に消滅し、照射が終わると抉られた地面とクインの残骸だけが残っていた。
ネメシスクロスはそれだけでは止まらず、今度はイスダルンのヴァット部隊へその眼差しを向け、土煙を上げながら突貫する。
剣を横一閃振り抜くと、光のマントは巨大な刃に形を変え、ヴァットを多数同時に薙ぎ倒していく。
「バ、バケモノか……!」
その圧倒的戦闘力と非現実的な現象に驚愕し、軽く竦みあがるエリン。
実力は十分ながらも若さが残る彼には、こういった隙が生まれやすかった。
彼以上にローゼフは若いが、こういった精神的な点でエリンはローゼフに敗北していると言ってもいい。
「何をしている、イスダルンのエース!」
ダイレクト通信でハルトの声がエペイストのコックピットに響いた瞬間、光の大槍によってエペイストがいた場所は貫かれていた。
間一髪、ハルト駆るオーバーカスタム-アカツキがエペイストを弾き飛ばしたことで損害は受けずに済んだ。
情けなく地面に転がるエペイストを背に、オーバーカスタム-アカツキがネメシスクロスの前に立ちふさがる。
「ここは私が引き受ける。君は早急に後退しろ」
「あ…あぁ…あ……」
恐怖で声が出なかった。
シュミレーションでは敵無しで模擬戦では無敗の彼だったが、その若すぎる心が彼の逃げ足を引っ張った。
敵である連邦軍人に命を救われた挙句、戦場に背を向けて敗走する。
屈辱的なことだったが、今の彼にはこうすることしかできなかった。
「また面白い機体と相対することとなるか…これもまた奇遇な話だ」
オーバーカスタム-アカツキが斬鉄刀と斬鋼剣を納刀し、背中の斬艦刀を両手でどっしりと正面に構える。
「この気迫…久しいな………また私の敵となるということか、ネメシス…!」
輝く粒子のマントを自在に操るネメシスタイプ。
その神々しさ故の不気味さに対峙してもなお堂々と立ち塞がるハルト。
常識はずれ、もはやファンタジーの存在とも言えるそれ。
いつかの宿敵と相対した時と同じ緊張感を肌で感じながら、操縦桿を強く握り直す。
「正直その機体の性能を目の当たりにしては1対1をする気も失せるところだが、今は時間を稼がねばならんのでな!」
オーバーカスタム-アカツキが斬艦刀を大きく振りかぶり、全速力で間合いを詰めにいった。
ネメシスクロスは納刀していたもう1本の剣を抜き、2本の剣でその一撃を受け止める。
鍔迫り合いになると、ネメシスクロスのマントが1対の腕に形を変え、その爪を地面を斬り裂きながら振り上げた。
ハルトはそれを見切り、間一髪回避すると、斬艦刀を地面に突き立てて大きく跳躍した。
空中からさらに斬鋼剣、斬鉄刀を、ネメシスクロスの逃げ場を塞ぐように投擲する。
3本の剣に囲まれたネメシスクロスに、空中からその拳を振り下ろす。
「君がネメシスの名を背負うに足る器かどうか、見せてみろ!」
オーバーカスタム-アカツキの一撃をいなし、ネメシスクロスは返しの膝蹴りを放つ。
大きく仰け反って回避し、そのままネメシスクロスの頭をオーバーカスタム-アカツキが蹴り上げる。
すかさず追撃を入れようとするが、不意に死角から無数の棘となった光のマントが襲い掛かかり、両肩のシールドすら貫き、両腕の装甲を溶かした。
「器なんて関係ない、オレとネメシスは文字通りの一心同体」
「
「戦いに興奮を覚える、貴様のような人間を野放しにはしない!」
ネメシスクロスがその剣で大きく斬りかかった。
しかし、オーバーカスタム-アカツキはスラスターの最大出力で大きく跳躍し、それを回避した。
「時間稼ぎはこの辺りで十分だろう。また会うことになるだろうが、今日はここで退かせてもらう」
「………」
友軍機が撤退するのに十分な時間を稼いだオーバーカスタム-アカツキは、そのままネメシスクロスに背を向けて去っていった。
ローゼフはそれを無理に追撃することなく、赤い機体の背中を眺めていた。
「よかったの? 強敵になりそうな相手だったのに」
「連邦とイスダルン、その両軍をたった1機で撃退した。まずはこの事実だけで十分だ」
「それもそうか」
レーダー系のサポートに徹底していたアヤメが四肢を伸ばしながらそう言うと、ローゼフはネメシスクロスをマザークロスへ帰艦させた。
某所
無機質な床と壁、そして天井に包まれた薄暗い空間に、ひとつ淡く光る機械が動いていた。
それは棺桶のような外見をしおり、どうやら中に人が入っているようだ。
桜色の髪をした女がその側でコーヒーカップを片手に、使い古された栞をボロボロの詩集に挟んだ。
それと同時に、機械の棺桶から煙が噴き出した。
いや、これは冷却された空気が放出されることによって空気中の水分が凍ったものだ。
その冷気が収まると、棺桶はその封印を解き、中から翡翠色の髪の女が起き上がった。
「んーっ、おはよ、サクラ。いや、独立部隊スレイヤーズ総司令官さん、って呼んだ方がいいのかな?」
産まれたままの姿で目覚めた彼女は、サクラと呼ばれた女に早速声をかけた。
それに応えるように立ち上がったその女は、よく見るとイスダルン軍の軍服に身を包んでいた。
「記憶のアップデートは欠かせてないのね、流石だわ、フィルシア」
この2人、サクラ・ルルとフィルシア・ナイトウォーカーは、実に3年ぶりの再会だった。
しかしその年月を感じさせないほどに、彼女たちの間で強い信頼関係が結ばれていることがうかがえる。
「それで、どうする?」
「また世界が動くわ。そして、あの人も…必ず」
「じゃ、そゆことで」
具体的な言葉を交わす必要もなく、ただ互いの意思をその眼差しで確認する、彼女たちにとってはこれで十分だった。
たった1人、その人だけを探し続けてきたのだから。
イスダルン軍の空母のとある一室で、壁に拳を叩きつける音が響いた。
電気は付けられておらず、乱雑に脱ぎ捨てられた軍服が、その所有者の精神状態を物語っている。
「何をやっているんだ、俺は……ッ! 父さんなら何もせずに敵に背を向けることはしなかった」
彼、エリン・シュペルヴェンは自分の無力さに怒りを覚えていた。
連邦軍にその活躍と仲間の死、その仲間の存在すら隠蔽された父。
燃え上がるような復讐心に、彼の若さは付いていけていない状態だったと思い知らされた。
「ネメシス…父さんの人生を滅茶苦茶にした、連邦の負の遺産…………」
エリンの父、レーゲンは元連邦軍人であったが、ネメシス関連の計画に参加した後、その計画ごと活躍と怪我の経緯を隠蔽された過去を持つ。
故に軍から十分な補償も下りず、賞賛や労いの言葉すらなく、ただ軍を離反しただけの扱い、いや、所属していた記録すらも消されたという話もある。
エリンはその元凶が、あの禍々しい機体、ネメシスタイプだと決めつけてしまっていた。
悔しさや己に対する怒りが、ネメシスタイプに対する復讐心に変換されていった。
多くの思想、多くの想い、それぞれがそれぞれの目をネメシスに向ける。
複雑に絡み合う関係性は、たった1機の機体に収束される。
禁忌を犯して誕生した人工のネメシスタイプ、ネメシスクロス。
間違いなくそれは、世界を動かすキッカケとなっていた。
どうも星々です!
やっぱり4月は忙しくて中々時間が取れないですね…
字数で言えば今回ちょっと短めだったかなと思います、ただでさえ1話あたりが短めなのに笑
今作はネメシスエイト一連の物語の集結点になるような作品です
過去キャラもたくさん登場する予定です
忙しいのに複雑な設定を組んでしまいました←
まだ忙しい時期は続きそうなので相変わらずスローペースになるとは思いますが、よろしくお願いします