石矢魔高校。泣く子が黙るどころか一周回って泣きながら絶叫をあげる程の超不良校。
に、在籍する男が1人。
名を佐々木 龍一。
彼は石矢魔高校で生徒としてではなく教師として働いている。
これは、そんな彼を取り巻く非日常の物語。
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春、石矢魔に着任して1日目。俺は基本事項の説明の為校長室に呼ばれた。不良校を納めているのが生粋の超不良だと思ったら大間違い。この校長、石矢魔には似合わないほど大人しい。しかもヒョロい。身体つきや纏う雰囲気でわかるがこのタイプは今まで喧嘩なぞ一回もしたことのないくちだ。
とまあ、校長の話は置いておいて、俺も教師としてはまだまだ新人。多少経験は積んだが至らない点は多々ある。基本事項の説明をちゃんと記憶しようと気合を入れた。しかし。
「くれぐれも怪我をしないように気を付けてください。」
校長はそれだけ言うと頭を下げて窓側を向いた。
いやいや、絶対におかしいだろう。それは小学生が遊ぶときに先生がかける言葉であって、教師に校長が言うことではない。
というかまず基本事項ではない、忠告だ。
知ってはいたが改めて思う。石矢魔を普通の高校と思っては行けない。まあしかし、来ている奴らは所詮は高校生。まだまだガキだ。特に石矢魔の連中は大海を知らない。小山の大将気取りだ。
だから教える。だから俺が来た。
いっちょ、やるとするか。
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なるほど流石は石矢魔だ。教室に入ってくれりゃああとは強制的に授業を受けさせるだけなんだが、奴ら教室にさえこない。しょうがないので1時間目を生徒捕獲とし、学校中に散らばったうちのクラスの生徒を集めることにした。
特に困ることもなく割と早くに集めることができた。しかし見れば見るほどガキだな。
とりあえず授業を行う。話を聞いてない奴も多いが初っ端から注意してばっかだと効率が悪い。
何処かに真面目な生徒はいないものか……。
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いた。俺が受け持った数クラスの中で、女子は割と真面目な部類に入った。が、彼女は特別真面目だった。
邦枝 葵。
彼女はいい。すごくいい。1年生ながらしっかりしていて、成績もいい。他校と比べても遜色のない委員長タイプだ。
だからこそ、そんな彼女が勉強している最中に騒いでる奴は気にくわない。てか俺の授業の最中だしな。少し注意したら黙ってくれたが毎回やられちゃ世話無い。
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現在の石矢魔の勢力図が理解できた。大体の派閥があって、2年の神崎、姫川、1年の邦枝をそれぞれ頭にしている感じだ。ちなみに全員知った顔である。邦枝は元から女子のリーダーぽかったし、神崎、姫川に関しては2年の中でもかなりの自由奔放ぶりだったから"やっぱりな"という感じである。
まあ授業の邪魔をしなければ特にどうということはしない。
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校舎を壊しやがったあいつら。コロス。
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学期も終わるということで生徒たちの成績を処理していたとき、
「ああ?何だこいつ。出席日数が極端に少ない。つかほぼ来てねえじゃねえか。」
名簿にあるのは東条英虎の文字。
「東条……えいこ?女か」
今度会ったときに注意しとかないとな。
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どうやら邦枝 葵は現レッドテイルの総長らしい。もちろん俺も知っている。聞いた話だと関東最強のレディースだそうだ。
まあ石矢魔でも1部(特に男子)から恐れられてる雰囲気はあったし、特に驚きはしない。
そういえば常に木刀を帯刀していた気もする。
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担当科目が増えた。今まで国語と生物と物理以外の全てを教えていた俺にとっては、新しく物理が増えることにさして抵抗はない。
しかしだ、だんだんと受け持つクラスが多くなり始めているのはいただけない。まだそういう段階じゃないと思うからだ。
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東条英虎。これで "とうじょう ひでとら"と読むらしい。もろ男だった。
というのも彼が学校に来たという噂を聞き、久しぶりに1時間目を急遽生徒捕獲にして東条を捕まえに行った。
学校の生徒達に聞いて回り、やっとそれっぽいところにたどり着いたとき、その場所にいたのはマッチョな男。
そいつ以外は何故かみんな気を失っているので、そいつに『東条はどこだ?』と聞いてみたところ『俺がその東条だ』と言って殴りかかって来た。ずっと女だと思ってたのでかなりの衝撃だったが、とりあえず東条には落ち着いてもらった。
あとで話を聞いてやっとそこで名前が"えいこ"ではなく"ひでとら"と知った。考えてみれば"えいこ"はなかったかもしれないな。
東条はバイトに忙しいが故になかなか学校に来れないんだそう。まあ教師としては勉学を優先しろと言いたいが、家庭の事情とかもあると思うので学校に来たらちゃんと授業を受けるということにした。
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そろそろ俺が着任して1年が経つ。思えば色々なことがあったが、過ごしてみるとあっという間だった。最初は授業を妨害してた奴らも、今はおとなしくしている。校舎の破壊も減った方だ。環境としてはだいぶ教えやすくなったが、これから入ってくるのは何の常識もない無法者の1年生。また1から教えなければならないが、それが教師だ。頑張って行くとしよう。
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教師という立場が極端に低いここ石矢魔。授業など存在しない。今まで我こそはと意気込んで来た教師はことごとく辞めていった。そしていつか石矢魔はすべての教師に恐れられる高校と化していた。
そんな高校に突如彗星の如く現れた新人教師、佐々木。彼が着任してから1年経たずして、石矢魔では"校舎を壊すと死ぬ"や、"東条が負けた"などという奇妙というか、信じられない噂が飛び交うようになった。