強者が集まるここ石矢魔で、今最も最強の位置に近いと言われている男がいる。
名を佐々木。
東条や大型ルーキーである男鹿を差し置いて何故彼の名が上がるかというと、それは『東条が佐々木に敗北した』という噂にあった。
元々"東条>男鹿"の力関係で考えていた石矢魔の生徒はもれなく"佐々木>東条>男鹿"という構図に考えを変えたわけだ。
実はこの噂、多少の尾ひれは付いているものの概ね事実である。そのせいか今では東邦神姫の勢力に続いて佐々木の勢力ももう既にでき始めている。
これは異例のことであった。
長い石矢魔の歴史上、度々抗争や統一の為の戦いが起こってきたが、それに教師が加わったことは一度もない。当たり前といえば当たり前である。ほとんどの教師は石矢魔で幅を利かせられるほどの実力など持っていない。仮に持っていたとしても教師という役職柄なかなかその力を振るうことができない。
しかし佐々木は違った。あらゆる猛者を拳1つで下していき、今では佐々木一派なるものまででき始めていた。
しかし重ねて言うように、これはとても異例なことだ。いくら教師が圧倒的な力を持っていようと、普段の彼らなら教師の下につくなんてことはまずない。
では、何故か。
それは今年に石矢魔に入ってきた大型ルーキー、男鹿の存在が深く関係していた。
強者こそ正義であるここ石矢魔において、何故か彼らは年功序列の意識が高い。男鹿に石矢魔を統一されるのはその理念に背くのである。
簡単に言ってしまえば、年下に占められるのが我慢ならないということだ。
なんてことはない単純な理由。しかしこの単純な理由が彼らが佐々木に下る行動理念となっていた。
1年に従うくらいなら、まだ教師の方がマシだ。
そういうことである。
ちなみに、だが。このことを当人である佐々木は一切知らない。
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不良界に、未だ伝説として語り継がれている名がある。ほとんどの不良がそれを知り、恐れ、そして憧れるという名
数年前、当時最強を誇った不良グループである。
メンバー1人1人が屈強な猛者で構成されており、敗北はなく、すべての敵を圧倒的実力差で蹂躙した。
中でも"四天王"と呼ばれた男達は一線を画して強者であった。
そして、グループとしての名よりも、はるかに知られている名。
【
又の名を【ドラゴンヘッド】。
その名の通り、
その実力は一騎当千。
拳の一振りで千を圧倒し、
脚の一振りで万を蹴散らす。
その名の由来ともなった背中の3本の傷は最強の証。
当時新進気鋭だったこの男だが、成し遂げた偉業の数々は未だ塗り替えられていない。
そんな彼等だが、今はもう存在していない。不良グループの中ではかなり短命な方だったと聞く。
故に伝説。
この男を超える者は、後にも先にも存在しないと言われている。
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ある日、友人が家に何処ぞの赤ん坊を連れてきた。
「河原で赤ん坊を拾った。何を言っているかわからねーと思うが俺も何をしたかイマイチ理解していない。」
「そりゃあれだ。お前が有史以来ダントツの生粋の最強のウルトラスーパーバカだからだ。」
「いや…まあね」
「褒めてねえよ!」
古市としてはこの日は厄日そのものだった。いや、正確にはこれから始まる厄日の連続の最初の日だった。
急に友人……というよりは腐れ縁が赤ん坊を連れて家へやってきた。それならまだ、まだ良かった。古市家の古市の部屋にて男鹿とその赤ん坊について話していたところ、急にその赤ん坊の保護者らしき女が来襲。しかも窓から。交渉、話し合いの余地はなく古市の部屋は大破した。何故だ、と思う暇もなく男鹿と共に逃走。唯一いいことと言ったらその保護者らしき女ーーヒルダのパンツを見れたことくらいである。
この日以来、男鹿の異名に新たに『子連れ番長』というのが加わった。
石矢魔の生徒も当初は赤ん坊をつれた男鹿の存在にだいぶ困惑したが、1週間経ってみれば違和感を抱く者の方が少なくなってきていた。馬鹿が良い方向に働いてるのか知らないが、石矢魔の生徒達は順応性が高い。
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少しずつ、少しずつだがベル坊の扱いに慣れてきた。と思っていた矢先に盛大な電撃を浴びせられた男鹿。黒焦げのまま登校してきたせいで絶賛不機嫌中である。
また泣かれでもしたらたまったものではないので右ポッケにはベル坊専用ガラガラが入れてある。
男鹿としてはもうこれ以上厄介ごとに巻き込まれたくはないのだが、大型ルーキー男鹿がそんな情けない姿を見せていると知って黙っている石矢魔ではない。
「へっへへー男鹿のガキ、捕らえたぜ」
「案外余裕だったな」
早速事案発生である。
ベル坊が蝶々に夢中になり男鹿から離れた隙をついて、不良3人組がベル坊を人質にとった。名も知られていない完全なモブ達。
「おい男鹿、少しでも動いてみろ。このガキ、殺すぜ?」
そう言った不良の顔は喜色満面だった。このまま男鹿を倒せると信じ込んでいる様子。
だが、
「おいおい、男鹿をやるのは俺らだぜ?」
「どのみち貴様らじゃ手も足もでねーだろ」
「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るゼ」
そうはいかないのがここ石矢魔。
不幸なことに2年幹部連合と恐れられる竜一、竜二、阿部、下川が男鹿の首を巡ってこの場に集結した。
こうなってしまってはもはや小者の彼等にはどうしようもない。はては男鹿にベル坊を奪還され、そのまま逃げる形となってしまった。
無理もない。ここにいるのは2年生の顔である面々。普通ならば恐れをなして尻尾巻いて逃げるべきなのだが
「なんだお前ら。俺になんか用か?」
鼻をほじりながら、間の抜けた顔で男鹿はそう言った。
その一言で怒り沸点を超えた阿部と下川が殴りかかるが。
「ぐっは」
「ぱぅ!!」
男鹿の腹への一撃によりノックダウンさせられる。
「へー、やるじゃねーかよ。」
「だが、俺らまで簡単にいくかな?」
「つーか、お前ら誰だよ…」
本当にめんどくさそうに男鹿がいう。
男鹿としては今日は喧嘩をする気分ではないらしい。だから阿部も下川も瞬殺したのだが。まだ真田兄弟が残っていた。
ナイフ使いの竜二はナイフを取り出し、敵刺すチェーンソーの異名を持つ竜一はチェーンソーをふかしはじめる。
「ひひ、こいつは弟の竜二。んで俺は竜一ってんだ。ドラゴンヘッドと同じ名前にやられるんだ。あの世で土産話にでも、しやがれ!」
男鹿の前後から挟み撃ちの要領で竜一と竜二が飛びかかる。
見ている誰もが流石の男鹿もやられたと思ったが、
「ドラゴンヘッドと同じ名?てめえじゃ役者不足だよ」
男鹿が竜一を、ベル坊が竜二を。圧倒的なコンビネーションで下した。
「さーて、帰るか。」
男鹿は何事もなかったかのように去っていく。
少しして、同じ場所にて
「うぅ、ぐっ、男鹿の野郎、次会った時こそ」
「やられっぱなしは性に合わないしね」
やっと回復した阿部と下川が体を起こす。
「おいてめーら、やっと見つけたぞ。」
そんな彼等に背後から声がかかった。
2人はその声にら聞き覚えがあった。顔を見たわけでもないのに2人の顔はみるみるうちに青くなっていく。
そう、彼等はその人物を知っている。
「さ、佐々木…」
ゆっくりと振り返り、そういう阿部
「先生をつけろよデコ助野郎」
に一瞬でチョップが叩き込まれる。
「おめえら、別に俺ぁ喧嘩するなとは言わねーよ。だがよ、もう授業始まってんだよ。おめーらのせいで俺は授業の時間を削られてるわけだ」
汗が噴き出す。2人は腕を組んで佇む佐々木の目を直視できないでいた。
「おら、わかったらさっさといくぞ。って、そこで気を失ってるのは真田兄弟か。ついでだ、奴らも奴らの教室に届けてやるか。」
真田兄弟の首根っこを掴み、下川と阿部を連れて去っていく佐々木。
「そういや、阿部と下川」
再度名前を呼ばれ2人の肩が跳ねる。
「てめーら、なに私服で学校来てんだよ。制服はどうした」
「……いや、その……カレーうどんが跳ねてよ…」
「お、俺も、クリーニングに出してて…」
嘘である。この2人、制服など邪魔と言ってとうに捨てていた。しかし佐々木の前で「制服捨てた」などと言えばどうなるかわからない2人ではない。
「………そうかよ。これからそういうのは予め報告しろ。捨てたとか抜かすようなら半殺しだったが、まあそれならいいだろう。来週までに制服整えとけよ」
「おう……はいっす」
「はい…」
この次の日、制服カツアゲ事件という事件が起こったとかなんとか。
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「決めた。俺よりクソ野郎で強い奴を見つける。そしてベル坊を押し付ける。」
「できるわけねーだろ…」
先ほど急に現れたおっさん。アランドロン曰く、ベル坊はより凶悪かつ強靭な人物に惹かれるらしい。
それを聞いてからの男鹿のテンションは妙にハイだった。
「古市馬鹿め。そんなんだからお前の母ちゃんはでべそなんだ」
「でべそじゃねえけどな」
「ここは天下(の不良校)の石矢魔。俺以上に凶悪な奴を探すことなんてわけねーよ」
「………ま、頑張れよ」
これ以上関わると面倒なことになると判断した古市。即座に撤退を試みる。
「つーことで、いくぞ古市」
「は!?いやちょ、まっ!」
それも無駄に終わるのだが。
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「おい、あれ3年の神崎だよな?なんで1年校舎に?」
「決まってんだろ、男鹿を締めに来たんだよ」
「なーる。流石の神崎も男鹿が怖いわけだ」
1・2年校舎にて、やけに目立つ集団が闊歩していた。その姿を見た1年は即座に黙り、存在感を極力消す。
それもそのはず、この集団を仕切っているのは『東邦神姫』の1人である『神崎 一』。
目をつけられたらたまったものではない。
故にこそこそ話も極限まで声を抑えて話してるのだが、神崎の横を歩く城山にはしっかりと聞こえていた。
「神崎さん。いいんすか?このまま放っておいて」
「あん?なにがだ」
「いや、1年の男鹿とかいう奴っすよ。最近やけに勢いがあるって話で、このまま野放しにするのも……」
「あ、俺も聞きました男鹿って奴。なんでも超つええとかで。」
「一発ここらで締めといたほうがいいんじゃ…」
「城山ぁ…」
瞬間、2メートルを超える巨体を持つ城山の顔面に踵落としが直撃する。たまらず城山はその場に倒れる。
「俺が1年坊に負けるとでも言いてえのか、あぁ?てめーらもだ。気合い入れてやる」
次いで先ほど城山に同調した人物を外に放り投げた。
同時刻。
「おーい、せんせー。佐々木せんせー。」
「どうしたよ、急に固まって。因数定理がどうしたんだよ」
「もしかして先生自身が授業内容忘れたとかか?」
「それ笑うわー」
「………わりい皆。この時間は自習時間とする」
「ファッ!?まだ問題の途中だぜ?」
「なんか用事でも思い出したのか先生」
「いや、そういうわけじゃねえんだが。
………ちょっと馬鹿どもに教育しなきゃらならなくなった」
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「神崎くんいるぅーー?」
「…………俺がそうだが?」
やけに快活な声がここ3-Aに響いた。見ると入り口には先ほど話題に上がった男鹿が満面の笑みで立っていた。
「君が神崎くんかー」
「神崎
高圧的に言う神崎。並みのものならその一挙手一投足に恐怖するが、逆に今のその態度は男鹿を満面の笑みに変えた。
その笑みをマイナスのイメージで取ったのか、何人かの不良が戦闘体制に入ろうとする。
が、すかさずフォローを入れる男。
「いやーすみませんねこいつ口下手で!俺ら実は神崎先輩に憧れてまして。この度手下になれたらなーと…」
瞬間男鹿が反発しようとするが、「まずは近づくことが第1優先」と古市が小声で言うと驚くほど簡単に納得した。
「手下……ねて。ククッ、いいぜ。つえーやつは大歓迎だ。ようこそ3-Aへ。」
古市としてはもうちょっと何か押し問答でもあるかと思っていたが、神崎の返答は意外にもあっさりとしたものだった。
あまりの無用心さに、逆にこちらが疑ってしまうほど。
しかし仲間に入れてもらえるのなら御の字だ。その後ゆっくり様子をみればいい。
ーー神崎の警戒心がゆるゆるで助かったぜ…
ほう、と息を吐き、とりあえず安堵しようとした古市だったが、
「待ってください神崎さん。俺は反対です」
その行動にストップがかかる。古市は緩みかけた思考を一気に締め直した。
「何を企んでるかわからないような奴らを下に置くなんて危険です」
まともな意見だ。仲間になってくれるのならばこれ以上に心強い奴はいないが、同時にそれは巨大な爆弾を背負いこむことになる。もしこの爆弾が爆発すれば神崎陣営は壊滅的な傷を負うだろう。
「………ならよ、城山。てめーがその男鹿とバトって、勝ったら聞いてやるよ。お前の意見を。」
城山は暫くしてから黙って頷いた。
そして拳を鳴らしながら男鹿の前に立つ。
神崎にこのような危険な男を近づけるわけにはいかない。城山の思考はそれ一色だった。
誰が言ったわけでもなく、戦いはスタートする。
先に手を出したのは城山だった。2メートルの巨漢から繰り出される突きが男鹿の顔面に迫る。
が、
スパァンッ!
男鹿が振り抜いた拳が城山の顎に当たる。
たったそれだけ。その一発で、城山は敗北した。
「すげえな。晴れて俺らの仲間だ。よろしく男鹿く…」
男鹿に近寄り肩を叩いた状態で神崎が止まる。自らの足元を見ると城山がすがりついていた。
「待って…ください。神崎…さん。俺はまだ……負けてない!」
それを神崎は冷めた目で見た後、「立てるか?」と質問した。
「当然です」
そう言って立ち上がった城山に次の瞬間叩きつけられたのは無情な言葉だった。
「んじゃあお前、その窓から飛び降りろ」
これには流石に城山を含めた全員が固まった。
あまりにも酷なその言葉に男鹿の表情が変わる。
「おいおいどうした?やっぱり立つのが精一杯で移動はできねーか。しょうがねーな。男鹿、最初の仕事だ。このデカブツを外に叩き落とせ」
ニヤニヤしながら神崎が男鹿の肩に手を置く。
数瞬の沈黙の末、男鹿がとった行動は。
「お前が飛んでけ」
神崎の顔面に男鹿の右ストレートが入る。そのストレートは神崎を
外から聞こえる戸惑いやら驚嘆やらの声。
そしてそれは、この教室でも発生していた。
最初に気づいたのは誰だったか…。
コツン、コツン
ーーー硬いものと硬いものがぶつかり合って反響しているような……。
「お……い…。窓…」
神崎の手下の1人がそう言った。その顔に恐怖を滲ませて。
ーーーその音は少しずつ大きくなっていく。
ガン、ガン
「窓?窓がどうした」
「じゃなくて、窓……割れて…」
「………あ…」
ーーー最初些細だったその音は、次第に近づいてきて、大きくなる。
廊下の奥から、だんだんの迫ってきたその音は、突然に止まった。
そう、ここ3-Aの前で。
「一度しか聞かねえぞ。そこの窓ガラスを割ったのは誰だ」
悪魔が、降臨した。
『さ、佐々木!?』
突然背後からかかった声に3-A全員が入り口から距離をとった。中には身構える者さえいる。
しかし同時に彼らは考える。鬼のような形相の彼は今1番誰に怒っているのかと。それは先ほどの質問にもあった、『窓を割った人物』である。
佐々木は基本的に喧嘩には寛容だ。「学生のうちはそんぐらいしとけ」とは佐々木の談。しかし、これにひとたび学校の備品などが絡むと豹変する。これまで備品を壊して無傷だったやつを見たことがない。
ならば、自分たちは安全だ。ここで一言「男鹿がやりました」と口を揃えて言えばいいのである。
しかし、またこれにも問題がある。それを言うということは完全に男鹿を敵に回すとこと同意義だ。ましてや、彼らは先程の神崎のやられっぷりを見ている。その事実が判断を鈍らせていた。
沈黙する3-A。佐々木はその様子を一通りみると、「そうか」と言って口を開く。
「それじゃあお前らみんな同罪だ。安心しろ。殺しはしない」
『こいつです!!』
佐々木がそう言って拳を鳴らし始めた瞬間3-A全員が男鹿を指差した。彼らは既に後のことなど考えている余裕はなかった。
中心の男鹿は汗だくである。
佐々木の鬼、というかもう般若になりかけている顔がゆっくりと男鹿を向く。
「てめえか…男鹿。」
男鹿は汗びっしょりで沈黙である。それは肯定を意味していた。
「喧嘩結構抗争結構。傷つくのはてめーらだ。その責任を負うのもてめーらだ。俺はそんなこと知ったこっちゃねえ。しかしな、校舎を壊して困るのはてめーらじゃなくて全く関係ないやつらなんだよ。」
と、そこで一区切りつけて佐々木は言う
「話は後だ。まずは反省させる。職員室についてこい男鹿。」
これはもはや死刑宣告だ。確実に無傷じゃ済まない。しかしついていくしかない。3-Aのメンバー達は切実に思う。『よかった勢いに乗じて窓壊さなくて…』と。彼らがもし同じ状況で佐々木に「ついてこい」と言われたら血の涙を流しながら頷くしかない。
しかし
「い、いやだ…」
「……あ?」
その答えに3-A全員が驚嘆する。男鹿はたった今、この死刑宣告を拒否したのだ。
「嫌だって言ったんだよ」
男鹿は大玉の汗をかきながらも拒否の意を示す。
「…ならしょうがねえ。力ずくで連れてくしかねえな」
佐々木が袖をまくる。
「んなあからさまな地獄に、誰がついていくかよ」
男鹿が構えを取る。といっても型などない適当なものだが。
いつの間にか3-Aの外に人だかりができていた。大型ルーキー男鹿vs.最強の呼び声高い佐々木の戦いは石矢魔生徒ならば誰でも見たがるものである。
どちらが勝つのか。
やはり佐々木だろうか。
いや、男鹿もなかなか。
ところどころからそんな会話が出始める。
誰も彼もがこの戦いの始まりを待ちわびた。
しかし、勝敗は一瞬で決まった。
「ッッラァッ!!!!」
男鹿の渾身の突きが佐々木の鳩尾に綺麗にクリーンヒットする。周りのギャラリーは一瞬遅れて男鹿が佐々木に一撃を入れたことに気づいた。あまりにも速すぎて目で追えなかったのである。
男鹿は内心驚嘆する。
(吹っ飛ばす気で殴ったのに……微動だにしねえ)
数々の猛者を沈めてきた一撃。今放ったのはそれのさらに上位互換である。
「確かに俺はやんちゃはしょうがねえといったが、教師をぶん殴る奴があるか」
「!?!!?」
しかし。倒れない。
男鹿の渾身の一撃が、全く効いてない。男鹿は瞬時に距離を取ろうとするが
「!!」
手首をがっしりと掴まれてしまっているせいで離れられない。
佐々木が拳を振り上げる。
「反省しろ馬鹿野郎」
「ガハッ!!」
そしてそのまま男鹿の顔面を殴り抜いた。
壁際まで吹っ飛ぶ男鹿。しかし、その体が激突寸前でピタリと止まった。
「あぶねー、校舎の壁粉々にするところだった」
見ると、男鹿の足を佐々木が掴んでいた。
周りが唖然とする中、白目を剥いた男鹿を佐々木は背負い教室の出口に向かう。が、教室を出る前に佐々木は足を止め、近くにいた古市をみる。
「おい古市。お前はこいつの親友なんだろう」
「というよりかは腐れ縁ですけど」
さまざまな思考が渦巻いている中で佐々木に返答できた古市は流石というべきだろう。
長年男鹿とつるんできたが、その男鹿がこうもあっさりやられるところなど初めて見た。
「なら古市。最低限でいい。こいつが校舎を壊さないように見張っててくれ」
「はあ……。ま、まあいいっすけど、そいつの手綱を握るのは俺には無理だと思いますよ。」
「なに、完全にやめさせろとは言ってない。ただ、気づいた時に注意してくれるだけでいいんだ。」
「まあ、それなら」
「頼んだぞ」
簡単な言葉を交わし、今度こそ佐々木は退室した。
職員室に向かうまでの道のりで、たくさんの生徒が佐々木が白目を剥いた男鹿を背負っている姿を見た。
この日より、石矢魔の大部分で"佐々木>男鹿"の勢力図が出来上がった。
しかし、それでも生徒たちは安心できない。
石矢魔の統一に教師である佐々木は無関係。
佐々木の下についている奴等もいるが当の佐々木に統一する気がないのではどうしようもない。
ならば、生徒の中で男鹿よりも強い奴がいなければ…………。
生徒達の懸念は続く。
_____________
そして、先ほどまでの光景をどこからか眺めていた女が1人。
「あの男。あの強さ。……調べてみる必要があるかもしれんな」
激突は間も無く。