腐り目悪魔のダンタリオン   作:silver time

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今回のお話は会話のスピーディさを演出するため地の分少なめとなっております。嘘です作者の技量不足による妥協ですあっやめて!石を投げないで!

取り敢えずご笑覧下さいませ


black Bullet

居酒屋から聞こえる喧騒と24時間営業しているコンビニや民家の灯りが照らす薄暗い夜の駒王町。

 

12時という遅い時間にも関わらず活気と喧騒の失われない夜の街の中、彼らは立っていた。

東の商店街から少し離れた場所、駒王町の中でも一際大きな建物が立ち並ぶビル群。

高さはざっと15~25メートルくらいのビルのうちの一つの屋上に、二人の人影が居た。

 

片方は白と黒の二色しか彩りのないゆったりとした服と首に掛けたゴーグル。そして何よりそれ前見えてるのかと聞きたくなるほどの糸目の男。肩には大きめのゴルフバッグをかるっており、一体何しに来てんだよと言いたくなる格好をしている。

もう片方は金糸のようなブラチナブロンドの髪をセミロングにした小柄な少女。

淡い緑のワンピースというこの真夜中の街を出歩くにはあまり似つかわしくない格好をしているが、何より目を引くのはワンピースの裾から覗く素足に巻き付く黒いベルト。そのベルトに掛けられている平べったいそれは、一般的にナイフと呼称されるものだ。

 

そんなアンバランス、尚且つバイオレンスな二人組は夜のカーテンに覆われる駒王町をそこそこの高さのビルから見下ろしている。まるで人を探す探偵のように。

 

 

「何処にも居ない·········さっき神父っぽい人が居たけど、なんか例の聖剣使いの人達が追っかけてったし。コカビエルなんて化け物もまったく見つからない·········本当にいるのかな······」

 

「だからって、仕事をサボるのは良くないです。レオはその辺りしっかりしてると思っていたんですけど。」

 

「別にしっかりしてる訳じゃ、というか、やっぱり夜だと活発になるよね、ティナは。」

 

「だってそう造られた(・・・・・・)んですから。私、いえ私達は。」

 

「······なんかごめん。」

 

「謝らないでください。ハチマンさんに助けられてからは、その、普通の女の子みたいな生き方を、できるようになりましたから。」

 

「えーと······と、とにかく仕事!そうだ仕事!久々の命令(オーダー)なんだし、全力でやりきろう!うん!」

 

 

 

そんな何気無い(とは程遠いかも知れない)会話に唐突に割り込んだ、第三者の声。

 

 

 

 

『こちら『管制塔』。『覗覚星』及び『観測所』へ伝達。速やかに狙撃可能状態へ移行し待機せよ。詳細は追って連絡する。』

 

 

 

「········聞きましたか?レオ。」

 

「うん、早速『仕事』だね。」

 

レオと呼ばれた糸目の男は肩に掛けたゴルフバッグを置き、中身を取り出しティナと呼んだ少女へと渡していく。

それは棒状のパーツや言葉で形容しにくいパーツが入っているのみで、パッと見ても即座にどんな用途に使われるものかは理解できない。

 

それを少女は熟練のベテランの如く慣れた手付きで組み合わせてゆき、それは一つの形を得た。

 

狙撃銃(スナイパーライフル)。しかもそれはとても大きな、小柄な少女が扱うには無理のありすぎる巨銃だった。

 

 

デグチャレフPTRD1941。

狙撃銃(スナイパーライフル)どころか対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)の中でも色物の化け物銃に身を寄せて、狙撃手のように伏せる少女。

 

こんなアンバランス過ぎる異色な光景を演出した二人は夜闇の街を見下ろし、こう言った。

 

「さあ準備はいい?ティナ。」

 

「そっちこそ、しっかりと(ターゲット)を見据えてくださいね、レオ。」

 

 

 

普通の一般人のような雰囲気の二人は、無法者(アウトロー)が持つような銃を構えて、不敵に笑う。

 

本来の仕様(正規品)の枠を外れ改造された黒鉄(くろがね)巨銃(巨獣)は、静かに獲物を見定める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一向に進展がありませんね。」

 

「チッ······そろそろ不味いな、先に動かれるのも癪だし、何より先手は取られたくはない。」

 

「私も出た方が宜しいのでは?」

 

「······そろそろその辺も視野に入れておくか。」

 

深夜のダンタリオン邸人界拠点情報統括室にはハチマンとヴァルケンハインの二人が普段は飲まないブラックコーヒーを片手に情報を整理していた。

 

めぼしい成果は得られず、見つけた僅かな痕跡から場所を割り出してもそこはもぬけの殻。事態は困難を極めていた。

 

もういっその事魔術で探知するために特大の魔法陣でも編もうかと血迷っていると、再び携帯に着信が入った。

 

今度の相手はリアスだった。

 

「こんな時間に······まさか見つけたか?」

 

即座に通話ボタンに手を掛け、迷いもなく押した。

 

「もしもし?聞こえてるハチマン!?」

 

携帯から聞こえてくる幼馴染みの声は素人でもわかるほどの焦りを滲ませている。

それはつまり、良くない知らせ。

 

「落ち着け、何があった?」

 

「聞こえてるのね!良かったわ。えーと、今から簡潔に説明するけど、よく聞いてよ。今私達、敵に狙われてるのよ!」

 

「··················すまん、もう少し分かるように説明してくれ。何がどうなってそうなった?」

 

「だから──「すまない、通話を変わらせてもらった。」

 

落ち着きのない幼馴染みの声の様子と勢いに、ハチマンは何事かと身構える中、いつの間にか幼馴染みの声からつい数時間前に聞いた同盟相手の声へと変わり、比較的落ち着いた声音で語りかけてくる。

 

「ああ、大丈夫だが、一体何があった?」

 

「時間が惜しい。まずは要件を先に伝えさせてもらう。君の力、ひいては君の眷属の力を借りたい。」

 

「·········緊急事態、そう受け取っていいのか?」

 

「そうだ。そして先ほどグレモリーが言ったように、私達は今狙われている。」

 

早急な解決が必要だ。

その一文が脳裏に浮かんだハチマンは直ちに行動を開始する。

 

「ちょっと待ってろ·········『覗覚星』と『観測所』へ通達、狙撃可能状態に移行し待機。情報は追って連絡すると伝えろ。」

 

「かしこまりました。──『管制塔』より『覗覚星』及び『観測所』へ通達。速やかに狙撃可能状態へ移行し待機せよ。詳細は追って伝える。」

 

ハチマンの言葉をヴァルケンハインが要約し、無線機を通じて他の眷属達に情報を送る。その手際はまるで軍隊のように簡潔にされた伝達方法だ。

 

「それで状況は?」

 

「現在私達は外部の敵から攻撃を受けている。手段は遠距離からの狙撃だ。」

 

「なるほどな······それはコカビエルの手の者か?」

 

「それはまだ分からない。だが恐らくは違う。」

 

「そうか······」

 

「改めて頼む。君の持つ力を私達に貸して欲しい。」

 

ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

それは愉快なという意味もあったのだろうが、恐らくは怒りがおおよそ半分以上を占めているだろう。

 

「了解した。それではここに一時的な共同戦線の初の連携作戦を行う。目指すは最高の戦果だ、誰一人欠けさせる事無く作戦を成功させよう。」

 

「······改めて感謝する。」

 

一度目を閉じて、息を薄く吐く。

頭の中のスイッチを切り替える時に行う彼にとってルーティーンを済ませて、

 

面白そうに口を歪めて、彼は言った。

 

「さあて、始めるとするか。

 

 

 

 

 

 

狩りの時間だぞ、お前ら。」

 

 

 

八方塞がりに陥った者達をまるで全てを支配したかのように嗤い、虎視眈々と狙っている狙撃手。

 

こっちの攻撃は届きません、下手に動けば撃たれます。ではこんな時、どうすればいいでしょうか?

 

 

 

 

 

 

答え、第三者が狙撃手を狙撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまず現場に居るお前達には情報収集に当たってもらう。とりあえず今の場所を伝えてくれ、それと詳しい状況を。」

 

「分かった。私達は今山の中の廃教会に居る。今は塔城小猫が敵からの通話に応じているところだ。」

 

「了解、『覗覚星』『観測所』へ通達、救助対象は北にある山の中の廃教会だ。『覗覚星』は距離を測定しろ。」

 

「『管制塔』より『覗覚星』及び『観測所』へ、救助対象は北の山中にある廃教会。現在地からの距離を測定せよ。」

 

無線機を通じての司令に、糸目の男レオはゴーグル越しに山のある方角を見据える。

 

『どうですか?』

 

『うーんと······見つけた、山の中の廃教会。距離は···············多分3kmはあると思う。』

 

『こちら『観測所』、『覗覚星』の見立てでは3kmはあるようです。』

 

「『覗覚星』によると3000mはあるとされるそうです。」

 

「······ヴァルケンハイン、今回の襲撃者はどんなヤツだと推測する?」

 

「敵の素性が不明な以上なにも言えませんが、狙撃手ならば教会から2000m圏内を捜索すれば良いのでは?いずれにせよシモ・ヘイへを超える技量は持ち合わせてはいないはずです。」

 

「よし、その想定で行こう。では『覗覚星』は対象から周囲2000mを500mずつ捜索せよ。『観測所』は合図を出すまで撃つなよ。『溶鉱炉』『情報室』『兵装舍』『廃棄孔』『防壁堤』『補給港』『兵糧庫』は各自の巡回ルートの高所を重点的に捜せ。『生命院』は教会付近で待機、目標制圧後負傷者の治療及び介抱にあたれ。」

 

「こちら『管制塔』。『覗覚星』は対象から周囲2000mを500mずつ捜索、『観測所』はこちらから司令があるまで待機、『溶鉱炉』『情報室』『兵装舍』『廃棄孔』『防壁堤』『補給港』『兵糧庫』は巡回ルートの高所を重点的に捜索、『生命院』は目標制圧後負傷者の治療及び介抱の為教会付近にて待機せよ。」

 

『『覗覚星』了解。』

 

『『観測所』、わかりました。』

 

《『溶鉱炉』、司令確認、行動開始する。》

 

『『情報室』、了解しましたわ。』

 

『『兵装舍』、了解した。』

 

『うん、『廃棄孔』分かった。』

 

『『防壁堤』、了解です。』

 

『うむ、『補給港』了解なのだ!』

 

『『兵糧庫』、了解。』

 

『『生命院』了解しました。』

 

「今のお前達の居場所は把握した。それで状況は?」

 

「グレモリーの戦車(ルーク)がスナイパーに狙われている。今のところ射手の位置も技量も不明、どこの誰かも分からない。下手に動けば彼女の頭に血の花が咲くぞ。」

 

「目的は?」

 

「私の聞き間違いでなければ、ヤツは私達の持つエクスカリバーを手に入れる。そう言っていた。」

 

「なるほど、やはり目的はそれか。ってことは······いや、まだこの時点では判断出来ない。ヤツがコカビエル側なのか、それともまた違った勢力の仕業か·········今その場には誰が居る?」

 

「私とイリナ、それとグレモリーの眷属全員だ。」

 

「明確な位置情報を伝えろ。」

 

「私とグレモリーは教会の角の隅にいる。入口から見て左側のところだ。狙われている戦車(ルーク)は中心に居る、その側にはグレモリーの女王(クイーン)も一緒だ。負傷したイリナは入口から見て右側の場所に倒れている。赤龍帝はイリナから10メートルくらい離れた場所で伏せているが、状況を飲み込めてはいないらしい。······それとアーシア・アルジェントが奥側で伏せているが······イリナを治療しようとしているのか?どのみち下手に動けないのだが。」

 

「······了解した。ならお前らにはこれから目標の位置情報を探ってもらう、敵との会話ができる状態ならそこから情報を拾えるはずだ。」

 

「分かった。しかし情報が増えすぎるとそちらの負担が大きくなりそうだが、大丈夫か?」

 

「さして問題は無い。餅は餅屋にという言葉があるらしいが、まさにその通りだ。こういうのは得意な事を適切に処理する人材が動くのが手っ取り早いし確実だ。例えるなら俺達は操縦手、お前らが動力。重要なのはそっちだ。俺達の方は面倒な事を押し付ける場所程度に認識しておけばいい。細かな指揮はそちらに任せる。いいな?」

 

「·········ああ、分かった。」

 

「ハチマン様、『観測所』が周囲の状況を詳細に伝えて欲しいと強く要請しています。」

 

「そうか······ゼノヴィアと言ったな、事は急を要するからファーストネームで呼ばせてもらう。それで周囲の状況を探れはしないか?」

 

「········難しいな、ターゲットの事が殆ど分からない以上下手に動き回ればグレモリーの戦車(ルーク)を危険に晒すことになる。」

 

「······構わない、深追いはするな。·········『観測所』へ伝達、最善を期すために今は許可できない。」

 

「『観測所』へ通達、救出対象に危険の及ぶ可能性がある、現時点では許可できない。現状で対処せよ。」

 

「ところでゼノヴィア。こうして大手を振って連絡しているのに、向こうはこの事をなんの咎めもしないのか?」

 

「······そう言えばそうだな、まさか。」

 

「多分、向こうからはゼノヴィアの姿が見えてないんだろう。」

 

「ちょっと待って、それなら何で向こうは見えるところまで出ろとか、そういうのを言わないの?」

 

「·········方角がバレるからか?」

 

「やっぱりな、これで敵の方角はお前達の見えない死角、すなわち南西方向に絞られる。·········そういえば窓はいくつある?」

 

「奥側の方には大きなステンドグラスがある。左右にも対になるように窓が三つずつ、どれもひび割れている。

入口側にも扉の上に窓があるが、こちらも割れているようだ。」

 

「絞れるのはここまでか······『観測所』へ通達、狙撃手は南西方向に居ると推測される。南西方向を重点的に捜索しろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻ってとあるビルの屋上。

今か今かと獲物を待つ狩人の如く、まず対象を鎮圧するのにはまず使わない対物狙撃銃を抱き寄せるように抱えてスコープを覗き見るスナイパー少女ティナは、トリガーガードをぽんぽんと指で軽く叩き暇を持て余していた。

その横で真っ暗な空の中遠くを見据えて何かを探す相棒レオは、そもそも見えてるのそれ?と同僚からも疑問視される程の糸目を凝らして、目標の狙撃手を探していた。

 

再び、夜風が自然と体から熱を奪う中、無線機から眷属内最強と謳われる女王(クイーン)の役を与えられた執事長により新たな情報が齎された。

 

 

『『管制塔』より『観測所』へ情報の更新、狙撃手は南西方向に居ると推測される。南西方向を重点的に捜索せよ。』

 

「了解しました。レオ、南西方向を探して。」

 

「えーと、南西方向南西方向············あれ?」

 

「······レオ?」

 

「······ねぇティナ、僕の目(・・・)で見る限り銃を持った人(・・・・・・)なんて何処にも居ないんだけど。」

 

「···············『観測所』から『管制塔』へ、目標とされる存在は視認できません。もしかすると屋内に居る可能性も考慮する必要があると進言します。」

 

『······················································『観測所』へ伝達、新たな情報の更新まで待機、いつでも狙撃を行えるよう備えよ。』

 

「『観測所』了解。·········少し長引きそうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『観測所』から『管制塔』へ、目標とされる存在は視認できません。もしかすると屋内に居る可能性も考慮する必要があると進言します。』

 

「···············如何致しますか?」

 

「不味いな·········すまん、悪い知らせだ。スナイパーが屋内に居る可能性が浮上してきた。」

 

「·········何とかなりそうにないのか?」

 

「現状はどうにも。あとはそっちの会話からの情報が頼りだ。頼むぞ。」

 

彼女等を狙う襲撃者の位置が掴めず、残す情報獲得手段は小猫とスナイパーの会話によるものだけとなった。

見えざる死神の鎌に晒されている小猫も表情こそは無のそれであるが、額に滲む汗と強ばった表情筋が恐怖と焦りを表している。

 

小猫へと照準を定めた襲撃者はその様子を感じたのか、優越に浸った声色で言う。

 

「一体、どこの誰なんですか。」

 

「さあね、別に言う必要は無いと思うけど?」

 

「······コカビエルの協力者、ですか?」

 

「プッ······アハハハハハハハハハハ!!冗談じゃないね!あんな戦争狂の堕天使至上主義につくなんて御免だよ!いやー面白い事言ってくれるね、君!面倒な仕事を押し付けられたもんだと思ってたけど、存外悪くないや。せっかくだから仕事は後回しにして君と話している方がよっぽど有意義に思えるね!」

 

(『仕事』、か。)

 

自分達を襲った犯人、どこかの所属であることは間違いなさそうだが、その全容がまるで掴めない。

実際に目の前に居るのは確かなのだが、触れようとしてもすり抜けてしまうホログラムの虚像のような、そんな不明瞭な感想を抱いた。

 

「······目的は?」

 

「エクスカリバー、そう言った筈だよ?」

 

「それは、コカビエルが奪った物もですか?」

 

「そりゃあそうだ。俺はエクスカリバーを獲りに来たんだから。」

 

「······目的が同じなら、共同戦線を張るというのは─」

 

「いやー駄目でしょ?だって最後にはお互いに争う事が目に見えてるじゃん?だったら俺はまず確実に二つを確保させて貰う。幸いコカビエルを降す下準備も万全だし、先に集団でボコされそうな可能性があるから、先に君たちから奪おうって算段なわけ。」

 

言外にコカビエルくらい簡単に墜せると、電話の向こうの男はそう言っている。

 

「······っ、」

 

体が震える。今になって感じる絶対的な力の差、圧倒的な距離的不利、そして少しずつ炙っていくように煽られる死の恐怖。

閉塞的な教会の中という悪魔にとって最悪な場所である事が、小猫の心をすり減らす恐怖心をさらに助長させる。

 

「うん?怯えてるのかい?やっぱり恐ろしくて仕方ないみたいだね。いくら悪魔とはいえ、手のだしようのない場所から放たれる攻撃には対処のしようがない。だからこそこうやって狙わせてもらった訳だけどね。」

 

「······どうやって、私達のことを調べたんですか?」

 

「うーんとねぇ、それには答えられないかな。とある情報屋を頼ったぐらいだね。なにせ悪魔の巣窟に人間の俺が足を踏み入れなきゃ行けないからさ、事前に情報を揃えておくのは基本中の基本だよ。」

 

「······それで私達の事を。」

 

「そう言うことさ。おかげで教会の聖剣使い、君達グレモリー眷属とシトリー眷属について粗方調べさせてもらったとも。」

 

(······ハチマンさんの名前が無い?)

 

少しずつ気分が良くなってきたのか、やたらと饒舌に喋り始めた襲撃者の言葉の中に、小猫は引っ掛かりを覚えた。彼はグレモリーとシトリーの眷属達を調べたと言っていが、その中に最近になって出てきた腐り目悪魔の名前だけは出ることがなかった。それはつまり

 

「·········私達全員(・・)を調べたんですか?」

 

「そうそう、だからこそこのタイミングを狙わせてもらった。君達グレモリー眷属が勢揃いしてシトリー達は学校へ向かった、それに加えて俺を見つけることも叶わないんだ、もうチェックメイトってやつだよ。」

 

「······まだです、まだ終わってません。」

 

「······クハハッ、そうかいそうかい。よくもそう強気でいられるね。その決意に満ちた綺麗な琥珀色の目、うん素敵だ、そいつは素敵だ、汚したくなるくらいに······」

 

「気持ち悪い·········!」

 

(······待て、今ヤツはなんと言った?)

 

琥珀色の目、塔城小猫の目。

決意に満ちていると言った『目』。

彼は今そう言った。そう評した。ならば、だ。

 

 

今襲撃者は、塔城小猫の顔をしっかりと見ている?それも現在系で?

 

 

ゼノヴィアは全員の位置を改めて見渡し、方角を確認する。入口から見て一番奥、すなわち山に面している側が北であり、自分達は南西側の角の隅に居る。小猫は教会の中心に居てその隣には朱乃がついていて、教会の東側には倒れ伏したイリナと動けずにいる一誠とアーシア居る。

 

そして小猫がむいている方角は───

 

 

 

 

(───西か!!)

 

ようやくもって、正確な方角を割り出せた。

 

「あとは正確な距離ね。運良く犯人が口走ってくれたらいいんだけど。」

 

思い掛けない場所から落ちてきた手掛かりにより、遠くから覗き見ている襲撃者の方角は分かった。だがまだ足りない。欲を言えば敵の正確な位置を知りたい。

 

 

 

 

「強気だねぇ、それでも口答えは良くないな。なにせこっちは君達の明日(いのち)をどうこうできる立場にいる事を忘れてないかな?いわばもう君は俺の管理する所有物と言っても過言じゃ──」

 

「·····気に入りません。」

 

「······はい?」

 

「小猫······?」

 

「そうやって自分は安全だと思い込んで見下ろして、悠々と死を突きつけて優越に浸っている。恐らく人間な貴方ならそうするのが確実だというのは分かっています。それに、誰が貴方の所有物ですか?」

 

自分達に死を突きつけるスナイパーの居るだろう方向を琥珀色の双眸で睨みつけて、手元の携帯電話へと吼えた。

 

「私達は貴方の所有物なんかじゃありません!!例え貴方の掌で踊らされているとしても、必要なら引っ掻いて噛み付いて足掻いて足掻いて、壇上をひっくり返します!!エクスカリバーが欲しいのならこっちへ来たらどうですか!!その時は真正面からぶっ飛ばします!!!」

 

 

 

 

 

「············アハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

狙撃手が嗤う。

 

「面白い!手も足も出ないのにそうやって啖呵を切れるなんて、自分の頭が吹き飛ぶって事分かってるのかな?それにさ、わざわざ自分の有利性を手放すなんて阿呆な真似する訳がないだろ?」

 

死神が嗤う。

 

「本当にさ、馬鹿みたいだよ。やっぱりお前ら聖書の連中はさ。戦争狂のコカビエルもそうだけど、お前ら人外は先見の明の欠片も無いのか?

 

 

 

 

こうして3000メートルも先から狙っているって言うのに、手も足も出ないはずなのにさ!よくもまあそんな啖呵をきれるもんだよねぇ!?」

 

 

 

 

 

白猫が笑った。

 

 

 

 

 

 

「······!ゼノヴィア!」

 

「ダンタリオン!敵の位置が分かった!西の方角、距離はおよそ3000mだ!」

 

小猫の放った挑発に等しい言葉に、向こうはうまく乗ってくれた。主の内心としてはあまり危ない橋を渡って欲しくはなかったのだが、これは後に回す事にした。

兎も角、これで敵の正確な位置をようやく掴むことが出来た。この短くも長く感じられた数分の攻防にようやく終止符が打たれようとしている。あとは全て彼の眷属が上手くやってくれる。無力化してくれるとゼノヴィアは確信した。

 

その電話の向こう側にいる頼みの綱、知識の悪魔の納得いかないような声が聞こえた。

 

「·········ゼノヴィア、そいつは本当にスナイパーなのか?」

 

「どういう事だ?」

 

「お前は『突きつけられた銃口』を見たのかと聞いている。」

 

「············まさか、いやだが、 そんなはずは。」

 

「考えてみろ、弾丸を飛ばすには射出機(じゅう)が必要だが、それは必ずしも銃じゃなくてもいい。それにスナイパーの中でもそんな距離まで弾丸(たま)を届かせることが出来るのは本の一握りの奴しかいない。それこそ片手で数えれるくらいだ。そして俺達が知る技術なら使い手によってはそれが可能だ。なら詰まりは──」

 

現代の暗殺者(スナイパー)ではなく、魔術師だというのか!?」

 

今までスナイパーと仮定していた襲撃者は人類の科学文明から生まれた銃火器ではなく、自分達がよく知る太古の術を行使していた事に、ゼノヴィアは動揺を露わにした。

 

「だが、魔術を使ったとして、一体どうやって······」

 

「不可能じゃない。ただ余りにも面倒な方法ではあるが、超人クラスのスナイパーでなければ当てられないような距離でも術式によっては狙撃は可能だし、何より銃を忍ばせて持ち歩くよりも遥かに動きやすい。······見事に深読みしすぎた。」

 

だが、これでどの道チェックメイトだ。そう言い最後の締めに取り掛かる。

 

「ヴァルケンハイン。」

 

「『管制塔』より観測所へ情報の更新。目標の所在地は西方面の対象から3000m離れた場所と判明。目標はスナイパーでは無く魔術師だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオ、西方面の3000m先、確認してください。」

 

「3000m···············見つけた!」

 

ゴーグルをフィルターのように挿んで指定された場所を映すレオの視界に、ローブを纏い杖の先端を教会の方へと向ける人影が映る。

ティナも続いて相棒の見据える先へと視線を映すものの、ティナの反応は微妙なものだった。

 

「·········アレ、ですか。靄がかっていて見え辛いです。」

 

ティナの視界には人の形を象った黒い靄のようなものが映るだけだった。

輪郭がブレていて、正確に狙い撃つには条件が難しい。なにせ一発で無力化しなければ意味がない。無力化しきれず意識が残っている状態で、もしもう一度目標の魔術師が弾丸を放ってしまえば、その時点で作戦は失敗する。

 

 

 

だから、もっと良く見える『眼』が必要だ。

 

 

「ってことは認識阻害?」

 

「だと思います。という訳で、レオの出番です。」

 

「あー······了解、それじゃあ、視覚同調(コンタクト)、ティナ・スプラウト。」

 

何かを設定するように相棒の名前を呼び、瞼の下りた糸目を、開眼させた。

 

それは確かに眼だった。

ただ普通の目と違いを挙げるとすれば、それはまず天然ではありえない色をしていた。青く、蒼く光を発する双眸。

理解し難い幾何学模様の(えが)かれたソレは、人によっては魔法陣や術の構成陣を連想させ、まるでこの偽りと欺瞞が溢れ、幻想の存在が跋扈する歪な世界を覗き見るための空洞であるかのように。

 

神々の義眼。

 

例え世界を欺くほどの隠蔽能力を持っていようとも、その眼は一切合切の虚偽を見破り、真実だけを写し取る。

認識阻害と隠蔽の同時併用により他社の認識から完全に外れた魔術師であっても、神々の義眼を押し付けられた男、レオナルド・ウォッチの()る世界からは逃れる事など不可能だ。

 

そして、いつの間にか紅い色を灯したティナの双眸に、レオの義眼と全く同じ色と模様を模した魔法陣が表れ、二人の見る景色はいる一つのものへと集約される。

 

「······捉えました。」

 

ようやく、ティナの脳にもレオが見たモノと全く同じ、魔術師然としたローブを羽織り魔法使いが持っているような木の杖の先端を協会の方向へと向けている人物をようやく認識し、相棒はと追加注文する。

 

「レオ、こっちに来てください。そのまま後ろから覆いかぶさるように。」

 

「·········やっぱそうしなきゃダメかな?」

 

「ダメです。じゃないと狙えません。」

 

うん、相手は子供、子供だから······と渋々ながらティナの言う通りに動き、後ろから覆いかぶさる。最初の呟きが聞こえていたらしく軽く髪を引っ張られつつも、本来その巨銃の主が覗き見るスコープを外して、レオは目の位置を丁度スコープを覗き見るような場所に固定する。

 

早い話が対物狙撃銃をうつ伏せの状態で構える幼女に上から覆いかぶさりスコープを覗き見る男という非常に密着した体制でいる訳だが、傍から人が見ればカオス以前に男がいたいけな少女を襲ってるとも取れなくもなくア●ネス通報待ったなし案件な事は間違い無い。

心なしかティナの頬が少し朱くなっているが、それをレオが知るはずもなく、あっという間に狙撃可能体制へと移行した。

 

「苦しくないかな?」

 

「これくらい大丈夫です。」

 

思考を切り替え、送られてくる視界情報を頼りに目標を狙う。携帯電話を片手に持っているようで、目標であることはまず間違いない。

 

ティナは魔術師の頭へと銃口をを定めて───

 

 

通信がはいる。

 

 

『『管制塔』より『観測所』へ伝達。目標の魔術媒体を破壊し無力化せよ。最悪腕ごと吹き飛ばしても構わない。魔力路(M)暴走(S)誘発(D)弾の使用を許可、及び魔弾の射手(ポゼッション・ザミエル)の使用を許可する。』

 

「『観測所』了解。それじゃあ、始めます。」

 

通信からの命令(オーダー)通りに頭から手に持っている杖へと照準を改める。

 

そして、こう呟いた。

 

 

 

 

形態移行(モードチェンジ)必中呪印・魔弾の射手(ポゼッション・ザミエル)

 

 

 

その一言で、少女の手の中にある巨銃(巨獣)は姿を変えた。

 

長い砲身(バレル)の表面がパカっと拓き、握るグリップを含めた銃の至る所のフレームがガシャガシャと蠢くように動き出し、もう既に既存の銃とは似ても似つかないモノへと変貌を遂げた。

 

銃が変形をし終わると、すぐさま弾丸を装填する横空きの銃身の中へと直接押し込み、準備を終える。

 

後は、もう大丈夫だ。

撃つべき場所に目星を付けて、手元の引き金を引く。その簡易な動作のみで作戦は遂行される。

 

「すぅ·········はぁ·········」

 

一度、深く息を吸いんで、ゆっくりと吐き出す。一発で仕留める。失敗など引き起こしてたまるものか。そうして己の心を鼓舞する。外して救助対象を危険に晒すなど以ての外であるし、主に面目が立たない。

 

なにより、相棒の前でそんな無様な真似が出来るものか。

 

 

 

「·········」

 

息を止める。無呼吸の状態に晒すことで極限までブレを抑える。すぐ隣で『目』の役割を担う相棒も、ティナに合わせるように呼吸を止める。

 

「────発射(シュート)。」

 

鋼鉄の引き金をまだ小さな少女の指が引き絞る。

ボンッ!!と。大きな炸裂音を響かせて、勝負を決するたった一発の弾丸が巨銃の無機質な銃口から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽な仕事だ。

そう魔術師の男は内心ほくそ笑んでいた。

 

自らが所属するある組織において、複数ある派閥の一つの『魔術の派』に身を置いていた彼は、一つの命令を下される。

エクスカリバーの強奪、それもコカビエルが奪取したものと、教会から派遣された二人の戦士が持つ二振りを手に入れることがこの男に与えられた任務だ。

 

男としてはハッキリと言って面倒な仕事を押し付けてくれたと内心愚痴っていた。

 

男は自分の魔術の腕を相当なものだと自負しており、実際彼の力は『魔術の派』の中でも特に優れていると言えた。

 

持ちうる魔力はそう多くはないものの、今まで培ったきた魔の知識と技術を使いこなし、限定的な状況下であれば強大な力を持つ最上級悪魔やコカビエル等の聖書に名を刻まれた堕天使すらも降すことが出来る。

 

しかしそれも理論上の話で、実際に行った事など無ければ、そもそも試す機会がなかった。さらには同じ派閥の魔術師達は彼のことを下に見ており、つまりは、彼は非常にストレスの溜まる現状に鬱屈とした日々を送っていた。

 

そんな彼だったが、今はとても気分が良く、高揚としていた。何故なら、今彼の紡ぐ言葉一つで、教会の中で立ち往生している悪魔達の命をどうにでもできる立場にいるのだから。

最初は面倒でとても意義の見いだせない最悪な任務と考えていたが、自分の手のひらで踊り狂う愚者達を嘲笑い、強大な力を持つ悪魔や堕天使すら屠れる魔術を行使し、己の理論を証明できる。そして命令を遂行すれば、向こうの目の色も変わるというものだ。

 

先ほど歯向かうように叫んでいた悪魔の啖呵も水に流そう。そう余裕綽々でいられるくらいには。

 

そんな考えすらも、無意味になる。

 

 

 

 

教会を映す彼の視界の端、正確には手元の杖へと何かが刺さるのが見え、軽く杖を持つ手が横へとブレた。

 

刹那────

 

 

杖を持つ己の右手を中心に、魔術師の視界は白い光で塗り潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「············やりました。」

 

スナイパー少女はそう呟き、大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········対象の沈黙を確認 。無力化に成功したようです。」

 

「ふぅ························状況終了。」

 

主の腐り目悪魔もまたため息を吐いて、作戦の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······終わったようだ。」

 

携帯電話に耳を押し当てて、情報のやりとりをしていたゼノヴィアから発せられた一言で、ようやくその場の全員が脱力し、死神の鎌から解放された。

狙われていた小猫に至ってはすっかり腰が抜けており、その場でへたり込んでしまう。

 

その中で、ゼノヴィアの言葉を聞くや否や、アーシアはすぐさま負傷したイリナへと駆け寄り傷を癒そうと手を翳す。その素早さにはゼノヴィアも思わず目を丸くしてしまった。つい先日彼女を異端であるとして魔女と呼んだにも関わらず、なんの迷いもなく助けに向かった事に唖然とする。

例え身体が悪魔になろうとも、他者へ向ける慈しみが変わることは無い。そんな本当の意味での聖女というものを、ゼノヴィアは目の当たりにした気がした。

 

「な·····何で?」

 

そんな彼女が持つ癒しの力も、意味を成さなかった。

 

「傷が治りません······!どうして······」

 

「これは······」

 

近くに居た朱乃もアーシアの傍へと駆け寄り、イリナの傷の具合を覗き見る。

 

脇腹に受けた銃創にアーシアが手を翳し淡い光が優しく傷口を包み込むが、一向に傷が塞がる様子はなかった。

 

「これは、魔術?」

 

朱乃の目には傷口を蝕むように暗い紫の何かが一瞬見えた気がした。それは恐らく魔術の何かである事は確かだが、これをどうこうできる術を彼女達は持ち合わせていなかった。

 

「しっかりしろイリナ!」

 

イリナの傍へと駆け寄り叱咤激励するように相棒へと強く呼びかけるゼノヴィア。

アーシアの神器が効かず手の施しようがない状況に一同は歯噛みする。

 

その時だった。

 

「患者は何処ですか!?」

 

教会の入口から唐突に聞こえてきた男の声に全員が振り返る。そこに居たのは──

 

 

 

 

 

 

 

3mに届くだろう長身に白衣を纏った、紙袋をかぶった謎の男が居た。というか不審者が居た。

 

「なっ、何者だ貴様は!」

 

「待って待って!その如何にも物騒な物を納めて!私は医者です!!というか何故リアスさんと朱乃さんのお二人はお気付きにならないのですか!?」

 

「医者だと······?」

 

突然の不審者にしか見えない男の乱入に一同が訝しむ。何故か憤慨というか忘れられていることへの正当な(?)怒りを抱いているようではある。しかし、ここに来たということで何人かが彼が何処のものかを察した。というか約二名がようやく気付いた。

 

「······まさか、ファウストさんですか?」

 

「あ······」

 

「やっぱり忘れていましたか·········いえいえ今はそれよりも、皆さん退いてください。」

 

倒れ伏したイリナへと駆け寄り、傷の具合を見る紙袋を被った男、ファウスト。

何度か傷口に灯った紫の光を認めると、何処からか取り出した紙と傷を見比べて、

 

「これは·········回復阻害の術式······?いや、違うな······どちらかと言うと状態保存の術式に似ている······」

 

「治るのか?」

 

「この術式を解除しなければどうにも·········少々お待ちください。こちら『生命院』、患者の傷口に状態保存の術式を確認しました。術式を解除しなければ治療にあたれません。応援を要請します。」

 

『············『統括局』より『生命院』へ返答、要請を受理する。今すぐ『管制塔』を向かわせる、それまで暫定的な処置でも構わない、その少女の命を繋げ。』

 

「了解です·········」

 

聞くが早いか、『生命院』の呼称を賜った紙袋医師ファウストは手持ちの救急キットを広げて、処置の準備に取り掛かる。

 

「皆さんはコカビエルを追ってください。私は彼女の傷の手当てをします。」

 

「いや、というかアンタ誰なんだよ!?」

 

「説明している時間が惜しいです。私はしがない医者、ということでご納得ください。もちろんワケありの、ですが。」

 

でも······と吃る一誠の言葉に被せるようにファウストは「それに、」と強調して、

 

「躊躇している時間はもう余りないようです。」

 

その言葉と同時に、リアスの携帯に再び着信が入った。

 

「もしもしハチマン?今度はどうしたの?」

 

「すまん、最悪な知らせだ。コカビエルが駒王学園に姿を現した。しかもでっかい術式を携えてな。」

 

「·····その術式って?」

 

「詳しく調べてはいないが、あれは恐らく循環系の術式だ。それも加速式をいくつもつぎ込んでる。あのままだの暴走して自壊するのは間違いないが······」

 

「······っ!?」

 

循環系の術式、プラスの加速式の連続投入。そして自壊の可能性。そんな失敗前提の術式を組んだ意味。リアスはようやく事態の深刻さに気付いた。

 

「分かったわ。今すぐにコカビエルの所に向かうから、ハチマンも準備して。」

 

「といってもな······分かった、なるべく急がせる。ただこっちはこっちで先にやる事がある。悪いが先に行っていてくれ。」

 

通話はそこで切れた。

状況をしっかりと認識したリアス達は次の行動に移るべく走り出す。

 

「みんな、行くわよ!」

 

「面倒事を持ってきてくれましたわね······!」

 

「······みんな、待っていて。後、もう少しだから。」

 

「あーもう!さっきから何が何だか!」

 

「ともかく、これで最後ですから。ぶっ飛ばせば勝ちです。」

 

廃教会を後にするグレモリー一行。

 

──の中から、ゼノヴィアとアーシアは足を止めて、ファウストへと振り返る。

 

「······大丈夫なのだな。」

 

「もちろんです。私は医者ですから。」

 

「えっと······イリナさんをお願いします!」

 

「任せてください。それよりも皆さんは、今回の傍迷惑な事件を起こした犯人をシバキ倒してに行ってください。」

 

私は、彼女の命を絶対に救いあげます。

 

 

「········イリナを頼んだ。」

 

ゼノヴィアとアーシアも駆け出した。向かう先は堕天使コカビエルが現れた駒王学園。目的は奪われた聖剣を奪取、もしくは破壊する事。

この事件もいよいよ終盤を迎え、最後の正念場へと舞台を変える。

人外が蔓延る町、駒王町。

悪意ある者が企てたこの事件の舞台となった、ある意味で世界の在り方を決める戦いが、この町に住まう人間達の知らぬ所で今その幕を上げようとしていた。

 

 

 

「さあ、私も始めましょう。

 

 

 

必ず、貴方をこの世界へと引っ張りあげます。」

 

 

 

いつかの日、救えたものを救えずに狂い果てた心優しき医者(せんせい)は、もう取りこぼさないと決めた己の建てた誓いを胸に、明確な死へと近付きつつある少女を救うべく、彼は道具を手に取った。




お楽しみいただけたでしょうか?
今回はハチマンの眷属たちの一部、及びコールサイン的なもののお披露目回でした。
一話と前話の描写からハチマンの眷属はだいたいわかると思います。勿論まだ出ていない人もいるけどね☆
ただあっと驚く人選であることは間違いないのでご期待ください。

それではまた次の話までバイにー!



多分次は番外編を挿むと思います。

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