〈14〉
アルセルフ王国
コンコン
目を閉じていた彼女の部屋の扉がノックされそれに反応した彼女は目を開く。
「……どうぞ」
「ユキノ、
入って来たのはスキンヘッドのゴツい漢、所謂裏の人間だった。
「……内容」
「内々から依頼されている例の『アレ』だ」
「……パスしたい」
「駄目だ」
「え〜」
「「え〜」じゃない、お前しかあの警備網を突破して暗殺出来ないだろう」
身を起こし男が持って来た依頼の内容を尋ねるとその答えに彼女は「え〜」と難色を示す。つい
「じゃあ引き込むまで、それ以上はヤダ」
「なんでだ、前までは出来ると言っていただろう」
「最近この国と同盟を結んだ国、知ってるよね?」
「ああ、確か『旭東帝国』……だったな。それがどうした?」
男は城下や国内に宣伝されている情報と彼女
「そう、私はその『旭東帝国』の皇帝をもてなす為のメイドに
「は?そりゃ当たり前だろ?他国の皇帝が来てんだからそれ位……」
「警備のレベルが上がったのは
「なに?」
「具体的に数字で表したら以前が20なら今の帝国が王城に張ってる警備レベルは100とか200くらい……、そんな中じゃ私でも流石に暗殺はムリ」
「………」
彼女の口から語られる話に男は腕を組む。しかし既に前金が実行員に渡されている上に幹部である男より更に組織の上層部から『確実に実行せよ』とお達しが来ているのだから今更辞められない、男自身初めからキナ臭い依頼だと思ってはいたが大手顧客からであり上からきたこの暗殺依頼は彼にとって最早ヤバいと理解していてもやるしか道が残されていないのだ。
「分かった、引き込むだけでいい。どうせ使うのは“駒”の予定だしな」
「“駒”……ね、それはどっちの駒?手下?それとも……」
「両方だ、じゃなきゃ潜入させにくいだろう?」
“駒”という単語に彼女は反応する。彼女の知る限り駒には2種類存在した。目の前の男のような幹部級の人間が切り捨て可能な手下の事を言う場合、そして特殊な薬物や魔法を使って仕立て上げられたまるで生きる屍の人形のような自由意志の無い裏の人間や元貧民等である。
そしてどうやら今回の暗殺ではその両方を使うらしかった。
「ともかく、こればかりは確実に受けて貰うぞ。流石に適任者が居ないからな」
「りょーかい、仕方ないね」
「頼んだぞ」
男は彼女にそう伝え、彼自身も駒の準備をせねばならない為に部屋を後にする。残された彼女は扉がぱたんと閉まる音を聞きながら手元の刀の鍔を弄る、すると柄からぽろりと鍔が外れソレを彼女はその口元に添えそして、息を吹いた。
───────………
音は鳴らない、しかししばらくすると代わりに何処からか何かが羽ばたく様な音が聞こえて、いつの間にか窓の傍にあるこのソファーの背もたれには一羽の烏が止まっていた。
「おいで、フウガ」
クルクルと鳴きながら寄って来たその烏の脚に小さな筒を取り付けると彼女は餌を遣り再び空に放つ。
「頼んだよ」
フウガと呼ばれた烏を見送った彼女は立ち上がる。そして彼女もまた遣るべき事を為すためにその部屋を後にした。
♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎
「……ヤ…ま、…ーヤ……、トーヤ様!」
「うぇ⁉︎あ、はい」
「もう、先程からお呼びしていたんですよ?」
少し考え事をしていた刀夜はずっと話しかけてきていたユミィの話を聞いいていなかったらしく、それ気付いたユミィが若干頬を膨らませながら注意してきた事によって漸く刀夜の意識は
「済みません、ユミィさん。折角魔法を教えて貰っているのに」
「もう、ですがトーヤ様もお忙しく考える事も多い事は知っていますが大切な事なので今だけは私の話をしっかりと聞いていて下さい」
「分かりました、ユミィ先生」
ユミィの言葉に刀夜は真面目な態度に戻り今日も彼女から魔法についての手解きを受け始める。何故刀夜が彼女に魔法について習っているのかというと、つい先日婚約したのだからと開かれた正式な顔合わせを兼ねたお茶会の最中に彼女が刀夜が魔力を持つ事に気付き、それを知った刀夜自身が教えて欲しいとユミィに頼み込んだからだ。因みにこの
「ではまず今日は復習からです。先日解説した魔法とは何を意味するのか、答えてみて下さい」
「魔法とは魔力と呼ばれる体内で生成される謎エネルギーを対価に等価交換の法則に則って式を世界に書き込む事によって世界の理を一時的に歪めて術者の望んだ現象を現実に反映させる術の事。体内で生成される魔力量、純度や色には個人差があり更に個々それぞれが違う『起源』をその身に宿しているからこそ、人が使う魔法には適正が存在して人によっては全く使えない魔法系統だってある……って感じだったかな?」
「はい、テストならほぼ満点の回答です。更にそれに付け加えるとすれば魔法とは世界をカタチ創る人や動物、植物等の生命や世界そのものの無意識に働きかけ本来ならば『あり得ない』事をそこに『あり得る』と誤認させそれを意識上に
「まるで詐欺ですね………にしては話の規模とレベルが
ユミィの解説する魔法の原理、いや神秘や世界の真理とも言えるものの例え話に思わず刀夜はそう思い浮かべてしまっていた。確かに聞いていてとても興味深い話ではあるのだが彼女の教え方や例え方の上手さも相まって色々な事と話を結び付けてしまいよく話が脇道に逸れてしまうのだ。
「そう言えば話の中で起源と適正についてがありましたが確か俺は……」
「以前調べたトーヤ様の起源は『
「空間系ですか……という事は、異空間に物を出し入れしたりとか転移とかができたりするんですか?」
「はい、異空間に物を収納する『
「へぇ、凄いですね」
「そんな事ありませんよ。頑張ればトーヤ様も直ぐに上達します、私は昔から魔法書ばかり読んでただけですから」
ユミィはそう言って微笑む。大陸大魔法士第3位の位を与えられている彼女は正しく天才であり誇るべき存在なのであるが彼女からすれば自分はそんな特別な存在ではないとの事だとか。自分より上位の者達のレベルが高過ぎるのもあるが彼女自身王国の王女の為他人より魔法書に触れる機会が多かったからだと彼女は言う。
「では初歩から少しずつ試していきましょう。まずは簡単な結界からです」
まずは初歩からと彼女は刀夜に簡易的な結界の張り方を教える。侵入者探知用や対転移阻止結界等、知っていて損の無い物を教わり適正の高い刀夜はすぐにとは言わないが着実に物にしていき3時間程で遂に中級、『
「凄いですね、トーヤ様のマジックボックスにはどれだけ容量があるか私でも想像がつきません……」
「うーん……、今まで数十個と魔宝石放り込んでみたけどまだまだ入るみたいだ、何処ぞの王様の宝物庫みたいになってるな……波紋とか出てこないけど」
が刀夜は適正が高過ぎたのかユミィですら分からない位馬鹿みたいに広いマジックボックスを持つ事が判明し当に刀夜がぼやいた通りその領域はそんな宝物庫と同等レベルの広さを持っているらしい。
「なんと言うか……無駄な広さ?」
「あー、コメントに困りますね……」
「そうでしょうね……ってこれは⁉︎」
「っ‼︎誰ですか!」
刀夜とユミィがそんな話をしてると唐突に部屋に魔法陣が現れる、その数7。そして次の瞬間そこには7つの影が立っていた。そしてその姿からして……
「暗殺者……か、しかしどうやって」
「……おそらく空間系魔法最高峰『空間転移』です。使える魔法使いは私を含めて数少なく彼らの大半は国が直接雇っていますが私達が作っている『空間転移』の使えない人も使える一回切りの魔宝石に転移の魔法を封じ込めた『転移石』は少し値が張りますが一般の方でも購入でき使用もできます。ですがそれ対策に特に王城全体には私が張った不可結界があってその中に転移する事なんてできない筈なんです……まさか結界の起点を壊した?いえでも結界はしっかり存在して……嘘、結界を書き換えたって言うの⁉︎」
「当に絶体絶命ってところか……」
ユミィの驚愕はさておき刀夜は本棚を背に彼女を庇うようにして前に立つ。しかし魔法が使えるとはいえ丸腰の
「くっ……助けを求めようにもこれでは……、せめて小銃でなくとも拳銃さえあれば……ん?待てよ、そういえばさっき……」
銃が欲しい、そう思った刀夜だがふと、とある閃きが浮かぶ。さっき自分は何を思い浮かべた?
「……できるか?いや、やるしかない。即興だけどついさっきまで習ってた事を応用すればできる」
───
─────
───────
─────────
狙うは先ず飛び道具を持った目の前の3人から。相手より先に撃たねば確実に自分達は詰む、ならばこそ外せない外す事など出来はしない。
「1撃で決める……
開かれた3つの門から撃ち出されたのは先程練習していた『
「ぐあぁあっ⁉︎なんだこの魔法は⁉︎」
「……構造的に
そんな事をぼやきながら刀夜は次に標準を合わせるが実際には言葉程今の彼には余裕は無い。そもそも刀夜が現在解放可能な門は4つ、更に銃身や起爆等の細かい操作をするとなれば今の3つが限界である。しかも思い付きの即興での実行の為魔力の
「吹っ飛べ!」
2射目、未だ立っている4人の内3人に向け放つが相手も学習したのか回避行動に移る、しかし銃口が見えない為に何処を狙っているのか分からない為にその内の1人が刀夜の思わぬ行動に出た。
「なっ!味方を盾にしたのか‼︎」
2人には命中したがその内の1人が先に倒れた1人を盾に身を守ったのだ。
「くっ、間に合わないっ!」
3射目の前に肉薄して来た男の短刀を銃剣で受け目の前に門を展開、発砲しそれと同時に蹴り飛ばす。あと2人、いや1人はユミィが背後から放った雷に撃たれ黒焦げになり倒れる。
「最後、ユミィさん!」
「は、はい!」
そして最後の1人にユミィが速さを重視した足止めの魔法を放ったところで刀夜が魔宝石をその土手っ腹にブチ込んで沈める。だが倒したその中の3人は1度沈められたにも関わらずまるでそんな事を気にも留めていないかのように再び手に短刀を握り立ち上がる。それには流石の刀夜でも驚いた。
「んな馬鹿な……あのダメージでまだ立ち上がれるって、本当に真面な人間か?」
「あり得ません……魔法防御もない人間があれだけの攻撃を受けて立てる筈が……」
どう見ても骨が何本か逝っているようだが彼らは呻き声1つ上げない、不味い、室内ではユミィも殆ど攻撃魔法は撃てない為これでは刀夜達の打てる手立てはもう殆ど残っていない。
「せめてユミィさんだけでも……」
最後の足掻きとユミィを逃がす為彼女を抱えて近くの窓から飛び降りようと考えたその時、間一髪で扉が斬り飛ばされ刀夜が最も信頼する2人が部下を引き連れて突入して来た。
「ご無事ですか刀夜様!」
「曲者だ。近衛兵、撃て!」
扉を破壊して突入して来た深雪と千冬の号令で部下達が銃剣を付けた小銃を発砲し未だ立っていた3人の頭を1撃で撃ち抜く。流石に脳を破壊されればもう動けないのか今度こそ誰ひとりとして立ち上がってくる者はいなかった。
「陛下、お怪我は」
「大丈夫です、深雪補佐官。それよりユミエル王女を頼みます」
「分かりました。この場は千冬補佐官に任せ陛下も一時部屋までお戻り下さい。すぐに王国側の衛兵も来るでしょう」
倒れている暗殺者達を細心の注意の元拘束する帝国兵達の中から深雪補佐官が刀夜の前まで走ってき、指揮を取る千冬の代わりに刀夜達の状態を確認する。なんとか無傷で切り抜ける事ができたがこれは奇跡、どう考えても無傷な済んだ事が信じられない事である。
「……さて、これで終われば良いのだが……」
去り際に部屋を眺めた刀夜はそう呟く。こうしてアルセイフ王国を揺るがした『皇帝及び第1王女暗殺未遂事件』は一応幕を下ろした。
♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎
夜、満月ではあるがが雲が多く星の光さえも遮られた薄暗いその王城の一角、それも皇帝刀夜達にあてがわれている塔のバルコニーには1つの“影”が存在した。同盟国のしかもその皇帝が使う塔でありその分
それもその筈、これはこの塔を護衛する旭東帝国の方が意図的に開けたとある目的の為の穴なのだから
チンッ──
と、その時そのバルコニーの手摺に何か金属のような物が引っ掛かる様な微かな音が鳴りいつの間にかそこにはもう1つの影が立っていた。手摺から飛び降りた影がそしてそのもう1つの影と丁度向かい合った時、今まで雲に隠れていた月がその影達を照らし出す。
1人は黒い軍服を纏う黒髪の女性
1人は腰に刀を差した黒髪の少女
どこか顔立ちの似た2人が互いに顔を合わせる形でそこに立っていた。
そして黒い軍服を纏う黒髪の女性、皇帝補佐官である桐咲深雪が口を開く。
「ご苦労様、
「ふう……そちらこそ、深雪
2人は互いに微笑み合い言葉を交わす。
帝国暗部『桐咲』当主、桐咲家長女、
帝国暗部『桐咲』副当主、桐咲家次女、
帝国の
「貴女が集めてくれた情報のおかげで今回の第一王女暗殺未遂事件は想定通りの結末を迎えられたわ。ありがとう」
「陛下が王女様を無事守り切るのも計算済みっていうのは、姉さんも策士が板に付いてきたね」
「……もう私は、刀夜陛下の前で負ける訳にはいかないから……」
「姉さんらしい、まあ私も負けられないんだけど」
「それに……前の報告に載ってた例の『組織』についてだけど」
「それについては余り詳しくは分からなかった。分かったのは組織名とその目的くらい」
「組織名は『
「『───』」
一瞬、2人の間に強い風が吹く。風が途切れた時、それを聞いた深雪はいつも以上に緊張した顔だった。
「……それは、事実なの?」
「うん、確定情報……かな」
「そう……なら厄介ね、軍事力ではどうともできないもの……」
少し沈黙に包まれた2人であったが何時までもそうしている暇はない為次の話題へと移る。
「取り敢えず、今回の暗殺を実行した闇組織のアジト及び本部には明朝近衛師団が踏み込むわ。貴女は部下を纏めて討ち漏らしがない様に裏から援護を」
「了解、短い間だけどお世話になったからね。“立つ鳥跡を濁さず”、綺麗さっぱり『掃除』しておこうか」
「ええ、『刀夜陛下に手を出そうとした』という丁度良い建前も得ましたし王国に貸しを作っておくのに丁度良いですから」
2人は笑う。
翌日、王国各所につい先日駐屯を果たした筈の帝国陸軍近衛師団精鋭各部隊が強襲、高機動車だけでなく航空機までもを動員した電撃的軍事行動により王国の闇組織の98%が検挙もしくは殲滅され、それにより帝国に『借り』を作った事になった王国の高官達はより胃を痛める結果になったのだがそれはまた別の話である。そしてその裏で黒衣に身を包んだ集団が暗躍、影で殲滅を行っていたというのは王国では知る人ぞ知る『噂』となった事もまた、別の話である。
下手に知れば消される深雪補佐官の実家が判明、ある意味最強(凶?」の姉妹爆誕。
雪乃のモデルは一応アカメとクロメを足して2で割ってみた容姿を想像していただければ……、泣き黒子はなんか付けたくなった。反省はしている、でも後悔はしていない。