ARMORED CORE Phantasma Plase   作:SUNRISE

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ACT12 ~Vanishing~

 殺意の塊が壁となって迫る。棚氷が次々と爆ぜ、弾け飛んだ氷の欠片が金属の外套を叩く。

 反撃にこちらもガトリングを放つ。相手も同じように円を描くように機動し、ダイヤモンドダストを舞わせる。

 

 二発の炸裂音と共に相手が視界から消えた。後ろか。

 真横へハイブースト。奔流が右腕を掠めるが、対TE性能が高いので損傷は無い。

 

 レーザーライフルの引き金を引き絞り、ブーストを切ってドリフト、背後で爆轟が上がる。摩擦で曇りの無い煙が足元から湧き上がる。

 旋回中にレーザーライフルを放つが当然避けられる。予測した方向に相手が収まった。

 ミサイルを2発、軸を合わせるように機動しながらガトリングを放つ。一度回避されるも驚異的な誘導性能でミサイルは喰らいつく。

 ブーストを噴かせすぎたからかEN供給が間に合っておらず、再誘導したミサイルが直撃した。

 

「どうした、トラブルか?」

『言ってくれる・・・。』

 

 マギーが左腕のキャノンを構えた。増幅器らしきパーツが稼動し、粒子フィールドを取り込みながら光が膨らんでいく。

 スパークが地面を打ち、氷塊が打ち上げられては霧になっていく。

 引き金は引かれ、撃ち出された奔流が迫る。予測して撃たれたそれはそのまま行けば被弾してしまうだろう。

 グライドブーストで回避するが眼前には砲弾の膜、しかし負けじとこちらも左手のガトリングを放った。

 こちらはKE属性に耐性がある、だがこれほどの量となるとさすがにダメージは見過ごし難い。

 ミサイルを放ち、レーザーライフルで牽制する。弾幕同士がせめぎ会うが向こうのほうが5枚ほど上手だ。

 マギーは急速に接近し、ミサイルは振り切られるがレーザーは直撃する。厚くない装甲は優に撃ち抜かれるが、それでも近づいてくる。粒子フィールドが収束し出した。

 

 閃光 巨大なクレーターが生まれた。その中心は水蒸気で見ることができない。

 

「・・・っ!」

 

 音速を超えて吶喊する巨体が、ベールに大穴を空けながら目前へ迫る。ガトリングは捨てられており、代わりに巨大なレーザーブレードを携えていた。

 グライドブーストで避けようとするも、恐るべき刃渡りを持つ刃は左腕を絡め取っていった。

 コックピットに外の光が差す、コアにもその傷跡が深々と刻まれている。

 

『どうしたの?貴方はその程度ではないでしょう』

「ちょうどいいハンデだ」

『そう、それでこそ貴方だ』

 

 炸裂音と共に目の前に巨体が出現する。予測していたからこそ回避は苦ではないが、このままではジリ貧だろう。レーザーライフルをチャージしながら、相手の機動を予測する。ブレードとあの速度なら迷わず突っ込んでくるだろう。

 

 まだ・・・まだ違う・・・

 ここだ!

 

 後ろを向かずにタイミングを合わせ、ハイブースト。コクピットまで届く亀裂から白い粉塵が吹き上げた。腕のない左側をおぞましい速度で通り抜けて行くそれに、レーザーを放った。

 

 直後にターンした巨体の正面中央に、真っ直ぐに光条は飛来していく。粒子を押しのけ、装甲を打ち破り、超高出力のレーザーが衝撃波を生みながら深く突き刺さった。

 

『・・・ふふっ』

「まだやるか」

『あた・・よ、・・・あの機・・・残って・・・』

 

 ノイズに遮られうまく聞こえない音声と共に、その特徴的な複眼の光が失せる。今度は、蒼い光条が飛来した。

 

『この瞬間は、力こそがすべてよ!』

 

 先ほどとは違い、クリアな声が響く。もはや死に体の自分に向ってくる蒼い機体は見覚えがあった。

 

「あぁ・・・そうだな」

 

 自分でも驚くほどに、諦めたような声が出る。どうやら自分は、危機に陥るほど昂ぶる性分らしい。

 蒼い機体は左手にヒートマシンガンを携えている、この機体と一番相性の悪い武器だ。

 右手には、自分の機体と同じ高出力レーザーライフルが握られている。

 

 レーザーライフルに光が収束する、こちらも同じようにそれを構えた。

 もはや負けは見えている。だが、おそらく自分は負けないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っがあ!」

 

 軋む身体で瓦礫を押しのけ、ヘリの残骸から這い出る。老いを改めて実感し、自分はもう二度と空を飛ぶ事はないと誓った。地平線から仄かに照らす光が、その天上が深く蒼いことを示していた。

 併し、あちこちで上がる爆炎が、そこが戦場であることを明言している。

 

「あぁ、今日はいい天気だ。絶好の引退日和だ。」

 

 コウノトリが描かれたヘリの残骸に身を預ける、中に入っているパーツはいくらか無事なものも多いが、ローターもエンジンも完全にイカレた。

 フラスクを懐から取り出す、極地ともなれば相当に寒いため、アルコールで体温を上げるのは応急処置として有用だ。

 

『・・・っ・・・・ぁああ・・・・!・・なんだこ・・・紅い・・・』

 

 僅かに生き残った無線から、断末魔が聞こえる。直後に、甲高い音を発しながら紅い・・・紅い機体が蒼白い尾を引き、光の線となって空を駆けて行く。

 

「・・・ははっ、最後の仕事にゃうってつけだ」

 

 そう嘯いて、カーゴを開いてACをアセンブルし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳を劈く警告音が只管に鳴り響く。一度大破した機体を、強引に再起動させた。もはや限界を超えた機体は、自壊しながら凶悪な破壊力を振りまいている。

 

『・・・っ!正気じゃない!』

「俺は元から正気じゃないさ」

 

 額から流血しながら、破片が腹を貫きながら、それでも戦うことを止めない。否、止めることが出来ない。

 すでに事切れておかしくない状況ながら、未だにその視界は鮮明だ。

 口角はつねに釣りあがり、不気味な笑みを止めることが出来ない。

 

「俺は勝つんだ、例え誰だろうと」

『・・・っ』

 

 対するマギーも、すでに大破寸前となっている。反応も悪くなり、戸惑いが見て取れた。

 しかしそれでも、一級クラスの戦闘能力を持つあたり、本物だと言える。

 

 

 

『もう終わらせよう、こんなことは』

「あぁ・・・終わらせてやるさ・・・」

 

 

 

 右手のレーザーライフルはつい先ほどの砲撃で自壊し、マギーもミサイルとヒートマシンガンを失っていた。

 レーザーライフルがこちらを向く、自分は限界を超えた出力でブースターを噴かした。

 

 

 

 

『・・・っぁぁぁぁぁああああああああ!!』

 

 

 

 

 雄たけびを上げ、光条が機体を撃ち抜く。次々に破壊されたパーツが転がる。

 

 

 

 

「・・・だから言っただろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残った左足に全重量を乗せ、蒼い機体に激突させた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままの勢いで錐揉みしながら自機が転がる。もはや爆発に巻き込まれるのを待つだけだ。

 不意に気付いたのは、ハッチが吹き飛んでいることだった。

 

 破片で幾分か千切られたシートのベルトがはち切れ、投げ出される。身体を地面に強打し、血反吐が白銀に染みを作る。自機が吹き飛び、その爆圧で弾丸となった破片が顔の真横に突き刺さった。

 撃破した蒼い機体は原型を留め、静かに鎮座していた。朦朧とする意識を奮い立たせ、身体を引き摺りながら近づく。

 

 近づいてみればよく分かったが、同じように頭部パーツは吹き飛んでいる。コアは見事にひしゃげ、コクピットが無事かどうかは怪しいものだった。

 歪んだフレームはコクピットハッチの開閉を拒み、爆砕ボルトを用いて強引に空ける。

 コクピットは無事だった。ハッチは吹き飛び、シートには、よく見知った女が同じように流血しながら瞼を閉じている。普通のパイロットスーツとは違うものを着ているが、今はどうでも良い。

 

 

 

「さ、帰るぞ。マギー」

 

 

 

 

 

 白銀の世界に血の足跡を残しながら、前も見えない状態で進み続ける。陽はいまだ薄く上るが、周囲は妙に静まり返っている。

 不意に、機械音が耳に届いた。

 

『おい!おめぇさん、また勝ったのか』

「因果なことにな、その機体は?」

『・・・その状態のおまえさんに任せるのは気が引けるが、頼めるか?』

 

 カーゴ内で無事だったパーツの寄せ集め・・・だが巨大な柱を携えたそれは一矢報いて撃破することが可能だろう。拡声器を用いて聞こえた音声はよく聴いた声だった。

 

『面倒な奴さんがいやがる。見境なく勢力を潰して行ってる上にそのスピードが尋常じゃない』

「つまり放っておくと救助も呼べないどころかやられちまうってか」

『その通りだ。できるか?』

「報酬は弾むんだろうな」

『・・・はっはっは!!やっぱりそうきやがったか!!良いだろうよ!幾らでも出してやらぁ!』

 

 ファットマンの威勢の良い良く通る声が響く。これでは否が応にも昂ぶってしまうではないか。

 

「マギーを頼んだ。後は何とかしてやる」

「あぁ、気兼ねなく行ってこい」

 

 ファットマンと入れ替わり際に、そう呟く。

 コックピットハッチを閉める直前に、ファットマンに声を掛けられた。

 

「こいつを持ってきな!」

 

 そう言って投げ込まれたのは、僅かに湾曲した金属製の水筒・・・所謂フラスコだ。

 蓋を開ければ強い酒精の匂いが鼻を突く。中身を仰げば、喉が焼ける感覚と共に、体温が上がっていった。

 HMDのモニタには、紅い機体が目の前で変形し、人型となった瞬間が映し出されていた。

 

「まるで狙ったようにきやがったな」

 

 敵の腕部パーツが稼働し、長砲身の砲が狙いを定めた。

 少なからず酔いの廻った視界は、妙に鮮明だった。やはり自分はどこか狂った人間らしい。

 

 

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