◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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全世界VS珱嗄(+巻き込まれた上条当麻)

 さて、此処までの物語を読んだなら、あとは簡単だろう。

 

 珱嗄の仕業でありとあらゆる物語が破綻してしまった。

 暗部の抗争は起こらないし、アレイスターのプランは最早珱嗄をどうにかしなければ実現不可能だし、ローマ正教も珱嗄をどうにか出来ない以上下手な行動は取れない。両サイド共に全く動くことの出来ない状態に陥ってしまったのだ。

 

 ソレに厄介なのは、珱嗄という最強の存在だけでも邪魔なのに、そこに『幻想殺し』という切り札があるということ。これではどんな強力な霊装を使おうと、珱嗄による強行突破によって上条当麻がなんら支障なく運ばれてきて、『幻想殺し』で破壊されるのは目に見えている。

 頼みの神の右席も、前方のヴェントによる珱嗄の報告によって無暗に特攻するのは無意味と判断している。左方のテッラの優先順位を変更する魔術でも、アックアの聖人と原罪の消去による超戦闘能力でも、珱嗄を前にすれば大したことはない。一撃の下に沈む可能性の方が高い。

 

 それほどまでに強いのだ、珱嗄という怪物は。

 

 そしてそれは最早魔術サイドにおいては共通認識。ありとあらゆる魔術サイドのトップは珱嗄の脅威性を理解している。ローマ正教が沈黙させられているというだけで、珱嗄の実力は理解出来るというものだからだ。

 だがそれは、原作において右方のフィアンマが引き起こした第三次世界大戦が起こらないということに他ならない。

 ロシアの大統領に宣戦布告させようにも、敗色の濃い戦いを始めようとする馬鹿はいないからだ。

 

 忘れてはいけないのだ。

 

 仮に第三次世界大戦を引き起こした場合、敵は珱嗄だけでないということを。

 ローマ正教とロシア成教が協力したとしても、学園都市の戦力は勿論、『幻想殺し』や科学サイドの超能力者を敵にするわけで、更にはそこにイギリス清教の魔術師たちも味方してくるのだ。『禁書目録』や聖人も脅威には違いない。

 珱嗄一人を相手にしても負ける可能性があるのに、追加戦力があるなど戦争してる場合ではない。

 つまり、原作において引き起こされた第三次世界大戦が起こらないということは、右方のフィアンマはその右腕の力を高めることが出来ないということ。

 それは『幻想殺し』や『禁書目録』、天使を一度身に宿したサーシャ=クロイツェフを回収した所で同じこと。彼の右腕は、敵とした相手の力に応じた出力しか出せないのだ。戦争で巻き起こる悪意を対象にした膨大な出力は、これでは得ることが出来ない。

 

 これで原作で起こった世界大戦中の何もかもが発生しないことになった。

 

 残す原作イベントは『C文書』による魔術的精神支配事件だが、これは本来上条当麻だけでも解決してしまう事件だったし、なにより珱嗄がいる段階でローマ正教全体を結束させようと決定打にならない以上やる意味が無い。この事件も消えてしまう。

 

 

 さて、こうなると各位に残された選択肢はなんだろうか。

 

 

 学園都市は珱嗄をどうにか出来ない以上、膠着するしかない。

 

 魔術サイドも同様だ。

 

 ならば神の右席は? 右方のフィアンマはどう動く?

 

 答えは簡単だ。

 右方のフィアンマだけは、別の手段を持って動けばいい。

 敵と設定した相手に応じた出力を出す右腕があるのなら、珱嗄を敵に設定すれば世界大戦を起こさずとも相応の出力を手に入れることが出来る。

 あとはどうにかして右腕を固定化させる素材を集めればいいだけのことだ。

 

 彼は動いていた。

 珱嗄が『御使堕し』の時に天使を撃退したと聞いた時から、密かに動いていたのだ。珱嗄が手に負えない存在だと確信して、取り返しがつかない状況になる前に。

 

「―――これで、あとは『幻想殺し』だけだ」

 

 彼は不敵に笑う。

 その手には、一つの『霊装』が握られていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 珱嗄がオティヌスを遊んでいる内に、事態は着々と進んでいた。

 それもそうだろう。神の右席は未だ前方のヴェントが退けられただけで、右方のフィアンマを筆頭に後方のアックア、左方のテッラと三人の実力者が残っている。

 その中で右方のフィアンマが先陣切って動き出しているのだ、後方のアックアと左方のテッラも同様に動いていない筈がない。

 

 アックアは元々、戦争などの騒動で起こる被害を最小限にするために動いている。ならばこれから起こるであろう世界規模の戦いにおいて、原因たる珱嗄を放置することは出来ないだろう。

 テッラは元々人々の平等な救済を目的に動いており、ローマ正教徒をその救うべき人々とみなしている節があることから、ローマ正教が関わる戦いが起こればそこに参加するに違いない。

 

 フィアンマが対珱嗄を想定して世界を救済する力を得ようとしている以上、彼は珱嗄の前に対峙することになるだろう。その際は『幻想殺し』を手に入れるために学園都市に攻め入る可能性もある。

 そうなった時、二人の戦いに巻き込まれて死ぬ人間がどれほどの人数になるのかは、想像出来ない。これだけでもアックアとテッラが出張ってくる理由になりえる。

 

 つまりそう、

 

「随分と敵が増えたもんだな」

「珱嗄さん、自業自得って言葉知ってます?」

「言葉の意味は知ってるよ、それがどうかしたのか?」

「いえ、なんでもないです」

 

 珱嗄が上条当麻を抱えて、大勢の魔術師から逃げているのは、当然の状況といえた。

 

「なんでこうなってるんですか!」

「多分アレじゃね、幻想殺しブッコロス的な結論がどっかで出たんじゃね?」

「不幸だ!!」

「まぁまぁ、狙いは俺でもあるみたいだし……守ってやるから、ちょっと口閉じてな。舌噛むぞ」

 

 こうなった発端は、学園都市統括理事であるアレイスターから下された一つの指示が原因である―――

 

 

 

 


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