◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「ふ、これで私の9連勝でございますね……」
「く……馬鹿な……!」
さて、その後オルソラとアニェーゼの勝負は、オルソラの10連勝で決着を見た。元々、この勝負はオルソラの勝利以外の道がほぼ閉ざされてしまっている。何故なら、オルソラは相手の手がじゃんけんにある三つの手の内のどれかに変化するのをスローモーションで見てから、手を出す事が出来るのだ。所謂、公正な後出し。公平な後出し。
だが、その後アニェーゼはシスタールチアとアンジェレネがいた事を思い出し、二人とも勝負させる事を提案したのだ。そしてオルソラはどこか余裕を感じさせる笑みでそれを承諾した。まぁ結果は見ての通り、二回戦目で出て来たシスタールチアは、9戦9敗していた。
「もう一度……じゃんけん」
「はい」
そして、10回戦目、結果は―――
「く………すいませんシスターアニェーゼ……敗北です」
「いえ……アンジェレネ。貴女もやって下さい」
「は、はい。頑張ります」
そして、小さな修道女、アンジェレネがオルソラと勝負を始めた。
◇
その頃、珱嗄は喫茶店の外で包囲陣を汲んでいたシスター達を全員叩きのめしていた。暇だったので、ちょっと遊ぼうぜと声を掛けた所、襲い掛かってきたので返り討ち、というのがこの状況をまとめた形になるのだろう。
また、叩きのめされたシスターは全員死んではいない。とりあえず気絶させられたのだ。珱嗄は気絶したシスターを数名積み重ねて簡易的な椅子を作りあげていた。
「……暇だ」
「なら一つ俺らと手合わせ願いたい所なのよな」
「………はぁ………暇だ」
「今眼合ったよな!? いなかったことにして再度呟くな!」
「………だってお前地獄巡り茶飲んだ奴だろ? 俺は一回倒した奴には興味ねーの。ジャンプコミックスだって一巻が二冊あっても困るだろうが。それと一緒だよ」
「ほぉ俺はジャンプコミックス一巻、それも余分に手に入れた二冊目と同じ価値しかねーのな?」
「すぐさまブックオフに売りに行くね。まぁ、100円200円にもならないだろうけどね」
やって来たのは、外れの喫茶店に向かい、その後そのまま此方へやってきた、建宮斎字率いる天草式のチーム。15名程だが、全員が殺気立っていた。服の濡れた者がいるので、そいつは恐らく地獄巡り茶を浴びたか飲んだ奴だろう。ちなみに、地獄巡り茶は最初に来るのが辛さなので、肌に触れた場合、めっちゃ痛い。刺す様な痛みが肌をピリピリと刺激するのだ。まぁ2分位すれば収まるが。
「まぁいいじゃねーの。100円あればマックでハンバーガーくれるだろ?」
「残念、俺は毎回Lセットなんで」
「まぁいいじゃねーの。100円足せばLセット分の60円賄えるじゃねーのよ?」
「残念、俺はお釣り出さない派なんで」
「もういいから戦えやコラッッ!!!」
建宮がそう言うと、天草式15名が一斉に跳び掛かってきた。
「……俺に対して『跳び』掛かってくるのは失敗だったな」
珱嗄は、『逸らす』能力を使った。跳び掛かってくる天草式のメンバーが一人残らず着地点を珱嗄の下から逸れ、珱嗄を中心として半径2m程の円の外へと着地した。
「な……どういう事だ……?」
天草式の一人が漏らすと、珱嗄はゆらりと笑って修道女を使った人間椅子から立ち上がる。その際に掛かった体重でぐえ、と修道女が声を漏らしたが、無視だ。
「人の手札を知らない内に飛び掛かってくるのは失策以上に愚策だ。さて、お前たちは俺に対して――どこまでやれるかな?」
珱嗄の言葉は、天草式のメンバーに対してかなりの重圧を与えた。ぞわっと背筋が昇る様な感覚と、ぶわっと溢れ出て来た冷や汗、そして身体の芯から振るえていた。
「んだ……これは……!」
建宮は、自分ではあまり恐怖していないつもりなのに、手元が震えているのが不思議だった。カタカタと持っているフランベルジェと呼ばれる波打った刀身の剣が音を立てている事で、自分の本能というか、無意識の部分で珱嗄に恐怖を抱いているのだと理解した。
そしてそれは、自分の仲間も同様だと分かる。見れば、仲間達は全員顔が青褪めていた。恐らく、自分の表情もそうなっているのだろうと、簡単に予想が付いた。
「どうした?」
珱嗄が両手を広げてゆっくりと近づいてくる。すると、自然と自分の身体が一歩下がった。驚く位自然に、驚く位無意識に、脚が勝手に動いた。
「く……」
「――――はぁ……だから言ったんだよ、お前らなんかに興味はねーよ」
珱嗄は建宮達の恐怖心を正確に読み、ため息を吐いて頭を掻く。それと同時、建宮達は肩の重りが無くなった様な感覚に陥った。
「あー………暇だ」
緊張感が無くなった後でも、珱嗄の一挙手一投足に反応して動けない天草式を放っておいて、また座り直した珱嗄はそう呟いた。
◇
さて、オルソラとアンジェレネの勝負だが、
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
「じゃんけんポン!」
10回。全てアンジェレネの敗北だった。だが、アンジェレネは何処かキリッとした表情を浮かべ、アニェーゼ達の下へ歩み寄る。そして、肩を抑えてあたかも怪我を負ったかのような姿勢を取った。
「く……シスタールチア、シスターアニェーゼ……」
「アンジェレネ?」
「どうかしたのですか……?」
じゃんけんの勢いが良過ぎて肩でも痛めたのかと心配する二人。だが、アンジェレネはそんな二人に対して、こう返した。
「やるだけの事はやりましたよ……!」
「貴女はただ10回瞬殺されただけですよッッ!!」
「どうしてそこまでやりきった感が出せるのか不思議ですよ……」
無駄に達成感を漂わせるアンジェレネは、ルチアに拳骨を落とされ、頭を抑えながら転がる破目になった。
そしてそれを横目にアニェーゼはオルソラに向き直る。
「それで、貴女は私達にまとめて勝ったわけですが……どうしますか? このまま逃げますか?」
「……いえ、どうせ私が逃げ出す前に攻撃してくるのでございましょう?」
「まぁそうなりますね。私達としても、逃がすわけにはいかねーんですよ」
「……私は暴力を振るう事はしません。なので、私は非暴力不服従の精神に則って此処から逃げようと思います」
「はっ……やれるもんなら、やってみてくださいよ―――なっ!?」
「遅いのでございます」
アニェーゼが銀の杖を振り上げたその瞬間、オルソラは既にアニェーゼの懐に踏み込んでいた。そして、アニェーゼの身体を中心に、回る様にして彼女を抜いた。
「私は今、どういう訳か無敵らしいのでございますよ」
オルソラはそう言うと、入口の扉を開けて、まるで女神の様な微笑みを浮かべた後、店を出て行った。
そして、アニェーゼはその微笑みに恐怖を感じた。そう、まさしく珱嗄に対して天草式が感じ取った恐怖と同じものを、感じたのだ。
珱嗄によるドーピングを受けたオルソラは、自身でも知らない内に珱嗄と同じ威圧感を与えていたのだった。