◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「やぁ、初めまして小娘―――アイテムの珱嗄さんだよ」
「なっ……あ……!?」
珱嗄は壁を背に座り込んでいる少女の顔の、ギリギリ横を通る様に壁を蹴って追い詰めていた。
少女の名前は、
何故珱嗄が彼女をこうして追い詰めているのかというと、御坂美琴を襲撃し、一方通行の救援によって撃退された液体金属の操縦者が、彼女だからである。珱嗄が頼んで協力してくれた滝壺の能力によって、AIM拡散力場を追った結果、彼女に行きついたのだ。
そして、ここで敢えてアイテムの名前を出したのは、自分自身が暗部に関わっていることを証明するため。アイテムに所属しているのが嘘であったとしても、秘匿組織であるアイテムの名前を知っている時点で、暗部になにかしらの関わりがあるのは理解出来るだろう。
「滝壺ちゃん、もういいよ。協力ありがとう」
「うん……じゃあ私は帰るね。何を追っているのかは分からないけど、気を付けて」
「あいよ」
少女を追う為に一緒に連れて来た滝壺を、珱嗄はそう言って返した。
ちなみに、現在一方通行と食蜂操祈は共に『エクステリア』の下へと向かっている。情報操作や渋滞で邪魔されそうな電車や車などの交通機関は使用しない。それより一方通行の『ベクトル変換』を使った跳躍移動の方が速いのだ。だから、一方通行には食蜂をおんぶさせて移動してもらっている。
まぁ、運動音痴の食蜂が跳躍中に悲鳴を上げているだろうことは、簡単に予想出来るが。
「さて」
珱嗄は振り返って、再度少女を見た。珱嗄の視線を浴びた少女は、びくっと肩を震わせる。
「お前の能力、どういうものかは知らないけど……液体金属を使った分身作成能力、と見ておくとしよう。まぁ俺には通用しないからよろしく」
「な、何が目的……?」
「お前らの目的を知りたい。もっと言えば、お前の
警策看取はその言葉にぐ、と言葉を呑んだ。暗部にとって、依頼者の情報を漏らす事は、自分自身の未来を潰すことになる。情報を漏らし、殺されればそれまで。情報を漏らし、生かされたとしても、信用を失い、後々他組織から潰されることになる。たった一回のミスが死を招く、それが暗部にいるリスクなのだ。
「……それは……言えない」
「ま、そうだろうね……それじゃあこうしよう」
「?」
「市街地を一人、全裸で歩くか……首輪を付け、尚且つ全裸眼隠しで四つん這いに市街地を徘徊するか……それとも情報を吐いて生き残れるように足掻くか……どれがいい?」
「吐きます」
珱嗄の瞳の中に本気の文字が垣間見えた彼女は、即座に土下座して情報を吐くことにした。社会的、精神的、肉体的にも殺されるより、僅かな可能性で足掻いた方がまだマシだと判断したのだ。
「で、お前は何処と繋がってるのかな?」
「木原幻生ですっ」
「お前の素性は?」
「依頼者の依頼を仲介する人ですっ」
「今回は何してた?」
「木原さんの依頼を『スクール』って組織を仲介人って立ち場を利用して使役してましたっ」
「なんでクローンを襲った?」
「御坂美琴を動けなくしようとしたらクローンでしたっ」
「じゃあ目的は?」
「多分ミサカネットワークですっ!」
珱嗄の質問に即答していく少女。よっぽど切羽詰まった状況に置かれているようだ。まぁその状況を作ったのは珱嗄だが。レベル5に人脈を持っている珱嗄からすれば、この程度のことなど容易に出来る。人探しも、情報操作も、戦闘も、簡単だ。珱嗄を相手にするのなら、世界規模での事件を起こすしかない。
なにせ、この男は世界そのものを敵に回しても単騎で戦える人外なのだから。
珱嗄は情報を纏める。
『スクール』というのは『アイテム』と同じ様な暗部の組織だろう。つまり、学園都市の上層部からの依頼を、彼女の様な仲介人を通して受理する組織。
だが、この場合木原幻生という外部の依頼者が警策看取という仲介人を通して、スクールに依頼した。故に、学園都市上層部は関係ないのだろう。そして依頼内容は『御坂美琴の排除と
つまり、あの競技の中で御坂美琴と入れ替わっていた御坂妹は、『御坂美琴として襲撃された』のだ。何故御坂美琴を襲撃したのか? それは恐らく、ミサカネットワークを目的としている故に、レベル5である彼女の邪魔が入ることを阻止するためだろう。
一方通行が救援に入ったことで無事に終わったあの襲撃は、失敗した御坂美琴の排除のリベンジと言ったところか。また、御坂美琴からある種の情報を得ようとしたのだろうが、それも珱嗄の指示によって潰えてしまった。
要約すれば、木原幻生達の策は全て珱嗄によって潰されているのだ。最初に御坂美琴と勘違いして襲撃し、折角無力化したクローンのミサカは、珱嗄達によって保護され、レベル5の人脈から黒幕が木原幻生と露見し、ミサカネットワークが目的と露見し、
これらすべては珱嗄の指示だ。完封にも程がある。
しかも、何故木原幻生を捉えずにエクステリアに二人を向かわせたのかというと、それも珱嗄の指示。木原幻生自体は何の力も持たない唯の腹黒爺だ。ならば、その爺を捉えるよりもその爺の武器を全て剥ぐのがより決定的だ。
その武器というのが、つまりエクステリア。ミサカネットワークを目的とするなら、こちらはミサカネットワークを全力で防御すればいい。簡単なことだ。
「……ま、いいか……唯一懸念すべきことがあるとすれば……みこっちゃん二世を確保されることかな……ぶっちゃけ、昨日の内に脳波を調律してエクステリアを木原が使えるようになっているとしたら、みこっちゃん二世かミニミサカを確保されただけで一気にひっくり返る……」
珱嗄は顎に手を当てながら考える。そして、次にどういう手を打つべきなのかを思考する。今やるべきなのは、木原幻生の動きを止めることと、エクステリアの確保、そして
エクステリアは一方通行達が向かっているから大丈夫として、クローンの防御は心許無い上に、木原幻生は何処にいるかも分からない。状況的には敵の逆転もまだありえるのだ。
「じゃあ、もう少し人員を増やすとしよう」
だが、そんな状況下でも、珱嗄はそう言い、ゆらりと笑った。