◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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木原幻生の終わり

「君が……私の思惑を悉く打ち砕いてくれた人物……かな?」

「そうだよ。初めまして耄碌爺、年貢の納め時って知ってるよね?」

「言葉の意味なら知ってるよ」

 

 とある研究施設の大広間で、マッドサイエンティストと人外が初めて顔を合わせていた。

 此処に辿り着いたのは珱嗄がタクシーで向かってから二時間後。既にこの研究所の出入り口は五人のレベル5達によって封鎖されている。見つかりにくい場所であるほど、順位の高いレベル5が配置されている故に、最早逃げ場は何処にもない。

 木原幻生という名の『兎』は、化け物達『狼』によって包囲されたのだ。そして、向かい合ったのは珱嗄と木原幻生の二人だけ。打ち止めは既に一方通行の下へと戻っているし、垣根帝督はぶつくさ言いながらも包囲陣形に加わってくれた。故に、大きな広間に立った二人の存在だけが残ったのだ。

 

「で、これからお前がどうなるのか……分からない訳ではないだろう?」

「私としては……見逃して欲しいというのが本音だけどねぇ……」

「嫌だね」

 

 珱嗄の言葉に、木原は眉を潜め、少しだけ苛立ったような雰囲気を醸し出した。

 見逃してもらわなければ困るんだよ。とでも言わんばかりにどのようにして目の前の珱嗄を言いくるめるかを考えだす。目の前にいるのは自分の半分も生きていない子供だ、とでも思ったのだろう。それならば一日の長が自分にはある、とも思ったのだろう。学園都市の闇に浸って生きて来た経験は、珱嗄よりもずっと多いのだから、騙し合い化かし合いならば勝てるのだ。

 

 

 思い違いにも、程がある。

 

 

 珱嗄は幻生よりもうん千億倍は生きているし、学園都市の闇なんて(笑)を付けて鼻で笑い飛ばせる位には、命の重さが紙より軽い世界で生きていた事もある。しかも、相手の情報は一切ない状態で戦ってきたのだ。甘く見られたものだ。

 

「まぁそう言わずに……私の話を聞いて貰いたい」

「なんだよ」

「私のやって来た事は、君達から見れば確かに極悪非道だったのかもしれない……許せないと思うのも仕方が無いだろう……しかし、これは全ては完璧な人間……それこそ、神の意思をも手中に収める人間を創るための実験……そんな人間が大量に生産出来たらどうかね……素晴らしいとは思わないかい?」

 

 見逃して貰う。つまり、退いて貰うというからには、目の前のこの男を言いくるめて納得してもらう必要がある。となれば、相手の思惑を理解し、そこから突き崩さねばならない。

 

 

 目を逸らさず

 

 

 言葉でこの男の心を揺さぶり

 

 

 最終的には有耶無耶にして

 

 

 結果的には生き延びる。これは、その最初の一手……悪足掻きの第一歩。だがしかし、その足掻きは一番最初に間違えていた。

 実験が極悪非道、許せないと思って止めに来た。バカじゃないかこの爺は。全く分かっていない―――まぁ分かられていても困るのだが。

 

 珱嗄は最初から言っている。暇潰しだと。故に、

 

 

 

「何言ってんだお前? そんな面倒な話なら興味ないから、お疲れー」

 

 

 

 爺の耳には、絶望と敗北の音が響いたのだった。そして、背筋に走った寒気と闇の世界で培われた本能が、それを取りださせた。キャパシティダウンの強化版、その起動スイッチ。

 しかし、珱嗄はそれをいつのまにか近づいて、蹴り飛ばし、腕を捻って間接を極めながら取り押さえた。

 

「いづっ……!? は、速すぎないかな……?」

「悪いね、こちとら神様の意思に触れた其方さんの言う……完璧な人間らしいので」

「!?!?」

「ただ、どこぞの生徒会長の言葉を借りるとするならば、『完璧な人間などいない、不完全さが欠けている以上、完璧とは言い難いのだから』――――それじゃ、どう処分されるかは知らないけれど……順当に行けば豚箱行きかな? どうやらその老いた身体に似合わぬ聡明な頭脳を持っているようだし、下手に行けば脳味噌位は再利用されるんじゃないかな? 昔そんな姿になってまで生き延びていた奴を見たことがある。もう死んじゃったけどね」

 

 珱嗄はそう言うと、幻生の首筋をトンッと叩き、意識を奪い去る。終わってみれば簡単なことだった。結果から見れば、エクステリアは無事であり、御坂妹及びクローン達も無事、負傷者は誰一人存在せず、ただ黒幕のみがこうして静かに敗北した。

 完全な勝利ほど、静かで盛り上がらない。完璧な勝利程、つまらないものはない。

 

 やはり、人は不完全さを兼ね備えてこそ、面白い。

 

「とはいえ、思ったよりも簡単に終わったね……っと、そうそう終わったなら終わったで報告しないとね」

 

 珱嗄は適当に事の顛末を文章にして、協力者多数に同じメールを一斉送信した。これを受け取ったメンバーは珱嗄に会いに来る、もしくはそのまま解散の二つの選択肢を各々選んで行動するだろう。

 

「ふー……案外、あっけないものだな。ちょろいね、学園都市の闇」

 

 珱嗄はそう言って、何も無い空間にゆらりと笑い掛ける。その先、窓の無いビルからその様子を覗いていたアレイスター=クロウリーが、僅かに身じろぎしたのだった。

 

 





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