◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、ここで両陣営の戦いの主導権を握ったのは、意外なことにも全体的に有効な攻撃を持つ初瀬遊里ではなく、この場において恐らく全くと言って良いほど役に立たない食蜂操祈であった。能力は封じられ、頼れるものと言えば珱嗄印の超感覚位のモノだが、彼女にとってその超感覚こそが重要なパワーアップ要素だった。
食蜂操祈の能力は、精神干渉系最強の能力にして、唯一演算力以外に『己の精神』を使う能力の類だ。何故なら、相手の精神を演算だけで掌握する事は出来ないからだ。そこには確実に、相手をどう操るのかを能力に付け加える『自意識』が無ければならない。例えるのなら、能力は相手の意識に介入し、改竄する為に『自意識』が渡る橋の役割なのだ。
故に、食蜂操祈の能力がレベル5という称号を得ているのは、相手へ繋ぐ能力という橋が巨大で、長く、強固なものであることとは他に、自分の介入意識の強さが評価された結果だと言える。
だがそれでも限界はある。例えば、御坂美琴のやるような電磁力によるバリアーなどは突破出来ないという例がある。元々、精神干渉系の能力は発電系能力と元を同じとする能力。電子を収束し電撃を生み出すか、電子を細かく操って電磁波として扱い、相手の脳信号に干渉するかの違いなのだ。故に、電子を乱される電磁バリアーは、精神干渉能力に対して無類の強さを発揮する。
だが、その電子を撹乱するバリアーの中でも正確に電子を操り、『自意識』を運ぶ為の橋を作りあげられたとしたら、どうだろうか? 無論、そう簡単なことではない。レベル5である食蜂でさえ出来ないのだから、実質不可能だろう。しかし、ソレが出来れば精神系能力者は――――人心支配において、何者をも寄せ付けない強制力を手に入れたも同然である。
そして、それを可能にしたのが―――食蜂操祈の培ってきた演算能力と、その演算能力を支える珱嗄の超感覚である。
食蜂操祈は、リモコンをカバンの中へと仕舞い、その両の腕を広げる。そして、御坂美琴の様にこめかみからバチッと火花を散らす。それと同時、彼女の能力は電子を掌握し、速攻で『橋』を組み立てる。
「――――ッ!」
無論、その橋の先にいた少女―――美谷志保はその能力を察知し、周囲に電磁バリアーを敷く。しかし、食蜂操祈は今………無敵の領域に片足を踏みこんでいる。
「ガッ……ァ………ぁ………!?」
作りあげられた橋は、電磁バリアーの邪魔を容易に突き破る。そして、強引に美谷志保の精神へとその橋の先を繋げて見せた。これならば精神干渉は可能、食蜂操祈はそのまま美谷志保の意識を強制的に遮断した。どさっと倒れる美谷志保を、野崎太郎は慌てて抱えた。
そして、食蜂は深い息を吐いて少しだけふらつきながらもキラキラとした瞳で敵を見据えて笑う。精神干渉能力に対して無類の効果を発揮するバリアー? だからどうした、私はそれを越えていく。レベル5の第五位、精神干渉系最強の能力、
『
これが
「珱嗄さん……彼女は無力化したわぁ……でも、ちょっと本気力出し過ぎたかもぉ……」
「ああ……なるほど、地獄巡り茶の効果か……確かに俺の感覚があれば撹乱なんて察知して対処出来るか」
「てゆーか、私ちょっと走ったから疲れた……! 休ませて貰うわぁ……!」
未だに息が荒い食蜂は、とりあえず一人倒したのでその場にへたり込んでそう言った。
珱嗄はそんな彼女の頭をぽんと撫でて、手首をぷらぷらと揺らす。調子を確かめる様に首をコキッと鳴らし、トントンと爪先で地面を叩いた。残るは瞬間移動と温度操作の能力を持つ
「美紀ちゃん、とりあえず瞬間移動の方よろしく。光の速さより速く移動は出来ないだろ」
「はい!」
「俺は……あの方言娘をやる」
見据えた先そこでは余裕そうに佇む少女が珱嗄を見ていた。そして、その両手を前に突き出し温度を操作する。
温度操作は、分子の振動によって生み出される温度の上昇と分子の停止によって生み出される温度の低下を操作する能力。つまりは分子を操作する能力な訳だ。この世界を形作る、最も小さい極小の粒を操作する能力。脅威的かつ、最強とも言える能力だ。
故に、彼女は分子振動によって高熱を生み出し、炎を生み出す。その炎は彼女と彼女の付き組である野崎と気絶中の美谷を避けて、珱嗄達の下へと迫った。珱嗄はそれを逸らす。
「! やるやん、おにぃはん」
「小娘が何言ってんだ、子供が大人に勝てると思うなよ?」
「子供舐めたら痛い目みるえ?」
初瀬遊里はそう言いながら気温を上昇させる。陽炎が出来るほど、高温の空間が出来上がる。初瀬遊里の周囲だけは涼しいままに保たれている故に、若干の蜃気楼が疑似再現されて現象化する。最早視覚では彼女との距離感が図れなかった。
「だが、そんなのは関係無い」
食蜂操祈がそうだったように、珱嗄にはそのオリジナルである超感覚がある。その視覚は遠方にいる敵を正確に捉え、その聴覚は数㎞離れた場所であっても音を拾い、その触角は空気の流れ、音の振動によって気配や周囲にいる存在の全てを察知する。そして戦場で培われたその第六感は、気配だけでなく、自分に迫る危険や攻撃、災害を事前に察知する。
つまり、幾ら距離感が掴め無かろうが―――その位置は手に取る様に分かるのだ。
「さ、お遊戯はお終いだ」
「え!?」
珱嗄はその場から姿を消し、初瀬遊里が気が付いた時には背後に珱嗄がいた。やったことは単純。ジャンプして、背後に着地しただけ。それだけの動きなのに、少女の動体視力は何も捉えられなかった。
「残念、でも中々脅威的な能力だった」
「ぶふっ!?」
珱嗄はそう言って、初瀬遊里の顔面に、こっそりと回収していたペイントボールを叩き付けた。