◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
荷物の整理が終わり、色々と手続きも終わった時、空はもう暗くなっていた。珱嗄はイタリア旅行に来たわけでは無く、イタリアに行けと言われたから来ただけで、その場の宿は全く考えていない。どこに宿泊するかを考えつつ、上条当麻達が止まるホテルに空きが無いかなーと期待しながら彼らについて来ている。
オルソラと上条当麻、インデックスの三人が前を歩いている中、珱嗄はその後ろを歩いている。すぐ横には水路があって、珱嗄はその中を見ていた。水面を揺れる自分の虚像と眼が合う。何かを感じているのか、それともただ水を見ているのかは分からないが、ふと珱嗄はその視線を水路の向こうにあった建物の上に移した。
「はぁ……」
すると、歩くペースを速めてオルソラに並ぶ。
「珱嗄さん? どうしたんだ?」
「?」
瞬間
「よっと」
珱嗄が空気を掴む様な素振りをした。それと同時、何かを潰した様な音が珱嗄の手の中から聞こえた。
珱嗄がその手を開くと、上条当麻達はその手の中を覗き込む。そこには、小さな弾丸の様な塊があった。
それが意味するものは、誰かが狙撃してきたということ。自然と上条当麻達に警戒と緊張が走った。誰かが自分達を狙って来ているという事実に。
「珱嗄さん……これは……」
「まぁ十中八九魔術師絡みだろ。てか狙撃手あそこにいるし」
「はぁ!?」
珱嗄はそう言って、一つの建物の屋上を指差した。そこには慌てて隠れる狙撃手の姿。
「やるならもっとスマートにやれよ!!」
「隠れる姿もたどたどしいんだよ!!?」
「まぁとりあえず逃げた方が良いのかな? っと……よっ」
「ごぶぁ!?」
とてもプロとは思えない狙撃手の姿に呆れていたら、今度は直接剣で攻撃してくる者がいた。取り敢えず珱嗄はその剣を躱し、膝蹴りで襲撃者の腹を叩く。人間とは思えない様な呻き声を上げながら襲撃者は倒れた。上条当麻達は珱嗄の容赦ないカウンターに若干引き気味だ。
珱嗄は地面に倒れる前に襲撃者の襟首を掴んで持ち上げた。見れば修道服を着ている、前に一度見た修道服だ。確かこれは、ローマ正教の物。
「珱嗄、護って貰った手前言い辛いんだけどさ……もう少し手加減ていうか……な?」
「これでも随分手加減してるんだけどなぁ……まぁいいや」
珱嗄は襲撃者をその辺に投げ捨てる。ぐしゃっという音がしたが、上条当麻達はもう聞こえないふりをした。ああ、聞こえない。
上条当麻達が眼を逸らして引き攣った笑みを浮かべていた、その時
――――水路が爆発した
盛り上がる水と、水中から飛び出してきた巨大ななにか。それは水路を破壊する様に広げ、珱嗄達を巻き込んで空高くその姿を地上へと現した。
珱嗄達はその大きな何かの上に打ち上げられていた。だが、珱嗄は上条当麻達を抱えてそれの上に着地する。
それは、大きな氷の船だった。透き通るような船体で、その辺の建物より一回りも二回りも巨大。しかもその材質は氷だというのだからあり得ない。明らかに、これは魔術による代物だった。
「これは……!?」
「魔術だろうな」
「にしたってこのサイズ……ありえねぇだろ!?」
「なんなら壊しても良いけど……この船には効果はないだろうなぁ、そんな気配がする」
驚愕する当麻に、珱嗄は淡々とそう述べた。拳で破壊することは可能だろう、だがしかし珱嗄にはそれが大した効果を及ぼさないといった気配が感じられた。勘で分かる、これは物理ではどうにも出来ない代物だと。
それもその通り、この船は破壊した端から再生していく機能を持っている。破壊しようとした所で意味はないのだ。それこそ、『幻想殺し』でも使わない限りは拳で破壊することは不可能。
「探せ! 奴らはまだこの船の中にいる筈だ!!」
イタリア語で、そんな声が聞こえてくる。珱嗄はなんとなくニュアンスで敵意を感じ取る。返り討ちにするのは簡単だが、正直イタリア観光をしたいなーというのが珱嗄の感想。派手に雑魚と戦う位なら普通に夜のイタリアの街をふらふらと歩きたい気分である。
何言ってるかも分からないし、言語の壁はやはり高く聳え立っているらしい。
「どうする?」
「どうするったって……とりあえず隠れよう」
問いかけると、当麻がそういう判断をしたのでインデックスとオルソラを含む四人で船の中へと飛び込んでいく。
どうやら船は動いているようで、運河を伝って海へと出ようとしているのが分かるが、その為には街の幾つかの建造物や橋を破壊していくことになるだろう。
「なんだってんだクソ! 折角イタリアに来たと思ったらまたこれだ! あーもう不幸だ!」
「案外余裕あるな、上条ちゃん」
「だって……珱嗄さんがいたらなんというか……インパクト薄くて……」
「わはは、それもそうか」
だが、どうやら見た所上条当麻達に緊張感はないようだ。それもそうだろう、上条当麻は魔術に対して絶対の防御力を持っているし、インデックスだって『歩く教会』は万全、オルソラは元々ぽやぽやした人格者だ、それに加えて珱嗄という存在が味方にいればこれほどぬるゲーな状況はないだろう。
向こうがどうあがいても死ぬことはないだろうという確信と安心が、四人にはあった。
「で、何処に隠れるよ?」
「あー……取り敢えずあそこの部屋」
「オーケー」
珱嗄が先行して、手近にあった部屋の扉を開ける。そこに上条当麻達も出来るだけ急いで駆けこんだ。周囲に敵がいないことを確認して、珱嗄が扉を閉めた。
「それで、隠れたは良いけどこれからどうするんだ?」
「うーん……とりあえず見つかるまで隠れとこうぜ」
上条当麻の問いに対して、珱嗄がそう答えると、無かった緊張感が更に薄れるのを感じた上条当麻達だった。