◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
アニェーゼ=サンクティスが眼を覚ますまで、珱嗄達も大人しく待つわけにはいかなかった。此処は敵地のど真ん中、いつ見つかってもおかしくはないのだ。
ということで、上条当麻はアニェーゼの頬をぺちぺちと叩いて起こすことにした。ちなみに服だが、インデックスやオルソラが怒ったので、オルソラの鞄の中に入っていたソーイングセットで珱嗄が直した。霊装の効果までしっかり直した上でアニェーゼに着せたので、当麻は右手にちゃんと黒い手袋を嵌めているのだが。
「起きろ、アニェーゼ、おい」
「ん……んぅ……はっ……ここは……!? なんでお前が!?」
「それはこっちの台詞だ」
「えっ………―――いやこっちの台詞でしょ!?」
「此処は俺の部屋だ、不法侵入者が」
「魔術の船を宿泊所にしないでくれませんか!?」
起きたアニェーゼに珱嗄は容赦ないボケをかますが、アニェーゼは困惑しながらツッコんだ。
「っぅ……なんか頭が痛いんですが、なにかしたんですか?」
「この船の一部でかき氷作って食わせた」
「何してんですか!!」
「悪戯」
「馬鹿ですか!?」
「わはは、お、お前が言うなよ……くく……はははははっ!」
「何処に笑う要素があったんですか!!?」
最早珱嗄のペースに流されているアニェーゼ。笑う珱嗄に地団駄を踏むが、上条当麻が溜め息をつきながら前に出た。このままでは話が進まないと思ったからだ。
インデックスとオルソラなんて後ろでトランプを始めている。ここはもう上条当麻が率先して動かねばならないだろう。
「えーと……アニェーゼ、お前なんで此処にいるんだ?」
「は? それは本当にこっちの台詞なんですか?」
「俺達も良く分からねぇんだよ。いきなりこんな船が現れて困惑してんだ」
「そうだよ、もうめんどくさいから一個一個ぶっ壊して行こうかと思い始めてんだぞ!」
「ああうんもうやっちまえよ」
「よーし、乗客員は皆殺しだ」
「やっぱ待て!!」
肩を慣らすようにぐるぐると腕を回す珱嗄、皆殺しと聞いて焦った上条当麻は引きとめようとしたが、遅かった。珱嗄は既に窓から出ていってしまった。慌てて窓から外を覗けば、そこには一つの艦船が轟音を立てて破壊される光景があった。まだ百近い数があるが、その内の一つが数秒で撃沈されたのだ。
上条当麻はあーあ、と思いながらガクッと肩を落とした。
「なんですかあれは!? どんだけですか!?」
「珱嗄さんはスゴイカラネー」
「遠い眼してねーで説明しやがってください! 女王艦隊は破壊されないよう構成されているのに、何故あんなに簡単に破壊してくれてんですか!!」
「分からないよ、俺はもう何も分からない」
「現実逃避!?」
上条当麻はもう疲れたようだ。珱嗄の無茶苦茶な行動には最早付いていけないらしい。とはいえ、現在その無茶苦茶の最中にいるということで無関係でいることは不可能。とりあえずはもうやけくそになってやろうかなーと考え始めていた。
「よし、インデックス、オルソラ」
「なに?」
「なんでございましょう?」
「とりあえずアニェーゼから話を聞いて、それから立て直そう。此処から逃げ出した所で、珱嗄が何とかしてくれるよ、うん」
「「そうだね/そうでございますね」」
上条当麻含め、三人が遠いまなざしでアニェーゼを見た。うっと、一歩下がるアニェーゼ、逃げ出すことは敵わないようだ。
◇ ◇ ◇
一方その頃、珱嗄は暴れ回っていた。
手当たり次第に飛びまわり、破壊の限りを尽くしている。その拳で海を割り、蹴りで船を砕き、浸水した水によって船を沈めているのだ。これならば再生しようが戻っては来れない。水の重さの分だけ、沈んでいく。浸水量が足りなければ更に壊す、壊して浸水させて、壊して浸水させて、三度やれば直ぐに船は沈んでいった。
―――船なんて、少し壊せば沈んでいく。不安定な乗り物だぜ!
楽しそうに笑いながら、もぐら叩きのように船を壊す。壊して壊して、壊す。
そんな事を繰り返していると、ふと何か違う一隻を見つけた。母艦だろうか? それとも、あれがアドリア海の女王? そう思った珱嗄は、破壊することなくその船に着地した。
「……なるほど、中々面白いものがあるみたいじゃないか」
珱嗄は、その船の中に一際大きな気配を発する物を見つけた。それがなんなのか、魔術の知識に疎い珱嗄には全く分からないが、そこには一人―――そのへんのシスター達よりも少しだけ大きな気配を持った存在もいる。
戦って勝てないような化け物では無いし、寧ろ凡百の有象無象の一つでしかないような存在だが、この大きな船の中心には、珱嗄にすら届き得る力が感じ取れた。もしもこの力の大元が珱嗄に牙を剥いたとしたら、その時は珱嗄もどうなるか分からない。それほどの危険な力だ。
「普通じゃない、それだけで面白い」
珱嗄はそう呟きながら、船の中へと足を踏み入れた。外に浮かぶ女王艦隊は、最初の約半分にまで数を減らしていた。復活までは、まだ時間が掛かるだろう。