◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
イタリアで起こったことは、魔術サイドに大きな衝撃を与えた。魔術国でも列強に並ぶ大国ヴェネツィアを一撃で葬り去る事の出来る大規模魔術霊装、『アドリア海の女王』が起動して30分で壊滅させられたというのだから、それもそうだろう。
故に、ローマ正教の上層部では二つの危険因子が話に挙がっていた。
上条当麻と泉ヶ仙珱嗄だ。
上条当麻は禁書目録の傍にいることに加え、『幻想殺し』なる魔術師殺しの右手を持っており、尚且つこれまで多くの魔術的事件を解決している。最も大きな物で言えば、大覇星祭の時に学園都市を襲った魔術師、オリアナ=トムソンやリドヴィア=ロレンツェッティによる、突き立てた土地をローマ正教の物に出来る霊装、『
良くも悪くも、上条当麻の回りには禁書目録を含む大きな力を持つ者が多く存在するのだ。聖人の神裂火織や、魔導書解読のエキスパートのオルソラ、
そして泉ヶ仙珱嗄、彼は異常だ。たった一人で一勢力として成り立つ戦力として最も危険な存在だ。『アドリア海の女王』を始め、『法の書事件』でもイギリス清教やローマ正教、天草式といった全勢力を相手に状況をしっちゃかめっちゃかに掻き回した男。対峙した魔術師は全員漏れなく叩きのめされており、そもそも彼に一撃入れた魔術師はただの一人も存在しない。
故に、彼を倒せそうとするならばローマ正教側も本腰を入れて切り札を切らねばならないだろうと考えている程、彼はとんでもない危険因子として捉えられていた。
さらに、上条当麻と泉ヶ仙珱嗄は繋がっている。それぞれが単体の勢力なのではなく、下手を打てば両陣が組むこともあり得るのだ。実際、上条当麻と泉ヶ仙珱嗄は親しい仲であり、敵対しているわけではない。それに、両者ともローマ正教の目論見を打ち破って来たのだ、どっちにせよローマ正教の敵である事には変わりない。
「ビアージオの奴、失敗したんだって? あーあ、刻限のロザリオを組んでやったのは誰だと思ってんだか、まぁ中枢部分は残ってて再構成は可能なようだけど、あいつイギリス清教に捕まってんでしょ? 全く、ふざけんじゃないわよ! このストレスは何処へぶつければ良いの!?」
「まぁビアージオ=ブゾーニもお前も早急過ぎた、どちらにせよ奴は失敗していたよ。その責任を負わせるにも値する価値も無い」
「アイツ、なんだっけ? DTSを誇るのだとかなんだか言ってんでしょ? 何よDTSって」
「さぁ…………私にも全く分からない。DTSとは何なのか……」
そんなローマ正教のサンピエトロ大聖堂の中、一人の女と老けた男が向かい合っていた。話の内容はビアージオ=ブゾーニのこと。刻限のロザリオを組んだのは、言葉の内容からしてこの女のようだ。黄色い修道服を着て、べロっと出した舌にはピアスが付いている。そのピアスにはジャラっとチェーンが付いており、先には唾液に濡れた十字架があった。
「まぁいいわ、とりあえず……アンタにはこの書類にサインしてくれればいいから」
「私が誰だか分かっているのか?」
「ローマ教皇でしょ? それが何? いろいろ理由を述べて言いくるめてやってもいいけど、そんな細かいこと考えている余裕はないんじゃない? あの危険因子をアンタ風情がどうにか出来るっていうんなら別だけど」
「………神の右席……なるほど、ローマ教皇程度では揺るがぬ、か」
「その名前を知ってるだけでアンタの立場ってのはそこそこ上なんだろうけどね。私達にとっては関係ないわ。それに、私には否定形は存在しない。やれっつったらヤンのよ」
黄色い女がそう言うと、重々しく俯いた老人は溜め息を吐き、その書類を受け取る。内容は見ずとも分かった。だがその内容故に、サインするのは気が引かれる。
しかしそうしない限り、あの二つの危険因子は排除出来ないだろう。
それも理解していた。
「……分かった」
「よろしい♪」
ローマ教皇と呼ばれた男は、その書類にサインした。瞬間、黄色い女は笑った。じゃらじゃらと十字架の付いたチェーンが揺れる。
老人はその書類にサインし、再度重々しい溜め息を吐いた。そして、書類を受け取った黄色い女は用は済んだとばかりに踵を返し、その場を去っていく。
彼女の名前は、前方のヴェント
ローマ正教の秘匿している、禁断の切り札『神の右席』の一人にして、刻限のロザリオを組んだ張本人。あの珱嗄が、自分にも届き得る力かもしれないと感じた力を持った、強力な魔術師である。
そして、その彼女が手にする書類にはこう書いてあった。
―――上条当麻、泉ヶ仙珱嗄
上記二名を観察し、主の敵となり得ると認められし場合は、確実に殺害せよ。
二つの危険因子と認められた二人を殺すべく、神の右席が動き出した。