◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄の居場所を突き止めるゲーム。
このゲームにおいて、珱嗄の居場所を最初に突き止めたのはフレンダだった。
「無理じゃんコレ……」
但し、居場所が分かっただけで辿り着くことは出来てはいないのである。
アイテムのメンバー達は、各々の手に入れたヒントだけでは勝てないと思った。故に、タイムリミット残り約30分というところで、ヒントの共有に踏み切ったのだ。
彼女達が得たヒントは以下の通り。
1、どこかの屋上
2、屋外
3、セブンスミスト周辺の高い場所
4、広く、目に見える場所
5、店の中には居ない
こうなると、捜索範囲はかなり狭くなってくるのだが――如何せん、フレンダの見つけたその場所は明らかに辿り着けない場所だった。
その場所こそ、通称"窓のないビル"である。
窓もなく、取っ掛かりのない見事な四角柱型の建物。破壊することはおろか、傷付けることさえ至難な素材で作られた建物だ。珱嗄はこの建物の屋上にいた。
瞬間移動か浮遊能力でもない以上、辿り着くことは不可能な場所である。珱嗄のことだ。おそらく身体能力にものを言わせたか、空気を足場にして登ったのだろう。
「どーしよ……ん?」
「チッ……珱嗄の奴、一体何の用で呼ンだンだっつゥの……」
すると、そこへ学園都市の第一位が現れた。
このタイミングの良さにフレンダはまさかと顔を青ざめた。珱嗄はこう言ってるのだ。
――その白髪使って登ってこい、と。
フレンダはもう無理だと思った。こんなゲーム早々に降りるに限る。
だが、現実はそうもいかないらしい。
「オイ、そこの金髪」
「ひゃい!? な、なに!?」
一方通行がフレンダに話しかけてきたのだ。ナンパ的なのだったらいいなと思いながら、そんな希望的観測を呑み込んで振り返る。
すると、目付きの悪い紅い瞳がフレンダを睨んでいた。これが素であるから恐ろしい。蛇に睨まれた蛙の様に、フレンダは涙目で縮こまり、ぷるぷると震えている。
見た目幼げなフレンダに怯えられて、一方通行はちょっとだけ言葉に詰まったものの、ため息交じりに告げた。
「オマエ、珱嗄の関係者だよなァ? この上に連れてきゃいいンだろ?」
「え、あ……はい」
「とりあえず乗れ、連れてってやる。乗りかかった船だしな」
「???」
フレンダは何が何だか分からないといった顔で、言われるがままに一方通行の背におぶさる。すると彼女自慢の脚線美とやらを知ってか知らずか、一方通行はフレンダの黒タイツに包まれた太ももをしっかり抱えた。
不意に地面の感覚がなくなって、持ち上げられた衝撃に身体を揺らすフレンダだったが、なんとか一方通行の肩につかまってバランスを取る。
感触としては、最強の能力者とは思えない程華奢であった。
だがそう思ったのも一瞬。フレンダを抱えた一方通行は地面を蹴って空を舞う。背中に接続された竜巻状の風が彼らの身体を上へ上へと押し上げ、一方通行の能力がその方向を淀みなく操作する。
「わわわわわわ……!!?」
「黙ってろ、舌噛むぞ」
不思議な浮遊感にフレンダは鳥肌が立つほど動揺し、一方通行の声も聞こえてない。
だがそれも一瞬のこと。フレンダを乗せた一方通行は、ふわりと羽の様に窓のないビルの屋上へと辿り着いた。
フレンダを下ろすと、ぺたんと座り込んでフレンダは目を回している。
「うへぇ~……」
「オイ珱嗄、なンなンだよコイツは。面倒くせェ仕事させンじゃねェよ」
「わはは、案外早かったね。お疲れアセロラ」
「ッたく……俺は帰る。ガキの面倒も見なきゃなンねェしな」
「ロリコンめ」
「言ってろ」
そう言うと、一方通行は面倒くさそうな表情で飛び下りていった。光景としては最悪の自殺シーンだが、彼の能力を持ってすれば無事に着地したことだろう。
「さて、と……フレンダちゃん?」
「あうあう……ハッ、お、珱嗄!?」
「おめでとうフレンダちゃん、君が一番乗りだ」
「えっ? あっ、や、やった!!」
なんとか我に返ったフレンダに、珱嗄がそっと勝利したことを告げる。
するとフレンダは一瞬呆けたものの、その意味を理解するとぱっと表情に花を咲かせた。純粋に勝ったのがうれしいのか、それとも珱嗄の出す賞品が目当てなのかは定かではないが。
とはいえ勝利したことは事実。珱嗄はゲームセットの連絡を参加していたプレイヤー全員に送信すると、座り込んでいるフレンダの目の前にしゃがんだ。
「さてフレンダちゃん、君は勝利した賞品に何を求めるのかな?」
剣道で言う蹲踞の足を閉じたバージョンとでもいうべきだろうか。そんなしゃがみ方のまま、珱嗄はそう問いかける。
すると、フレンダはそうだったとばかりに佇まいを直し、珱嗄に向き合った。
どうやらフレンダの求める賞品――というより、珱嗄へのお願いごとは中々真剣な話の様だ。珱嗄もこんなゲームの賞品にフレンダがここまで執着するとは思っていなかったので、ちょっと予想外である。
何故なら麦野や絹旗は勿論、人探しにはうってつけの能力を持った滝壺をも相手にしなければならない状況なのだ。
フレンダの性格なら、そもそもこの勝負に乗り気ではないだろうし、早々に勝負を投げて居た筈だ。
それでも彼女が勝利に手を伸ばした理由は、この珱嗄への依頼権にあった。そして、彼女は告げる。信頼に足る実力者である珱嗄だからこそ、その願いをする相手に相応しい。
「あのね、珱嗄……私―――」
◇ ◇ ◇
結局、フレンダの勝利で収まったこのゲーム。終わってみればヒントをより多く獲得出来たフレンダが一歩先んじていたと言っていいだろう。
情報収集能力というよりは、今回必要だったのはコミュニケーション能力。如何に普段の珱嗄を見ているか、そして珱嗄と関わりのありそうな人物を見つけるか、更にその人物からどのように情報を引き出すか。そういう勝負だ。
故に此処に能力の有無は関係ないし、レベルもまったく意味をなさない。
単純にフレンダの運が良かったという結果である。
「ぐぬぬ、フレンダに負けるとは……超不愉快です」
「ふふーん♪ 私だってやるときはやるわけよ!」
珱嗄に映画巡りを付き合ってもらおうと考えていた絹旗としては、中々面白くない。
「ま、いいじゃない。暇つぶしにはなったんだし」
「……はぁ、それは超そうですけど……はぁ、幾ら潰しても超暇は暇ですねー」
いつものファミレスの席で駄弁るアイテムの面々。
暇潰しとはいったものの、湧いて出てくる暇の量に辟易する絹旗たちである。案外、暗部というのも仕事が無ければ暇な仕事なのかもしれない。
今回フレンダが頼んだ願いは、珱嗄以外知らない。何を願ったのか、何を要求したのかは分からないが、下手に踏み込むこともしないということなのだろう。
だが、彼女の願いはこの先の未来をほんのわずかに変える。
そのわずかな違いが最終的に大きくなっていき、大きな変化が訪れるのである。