◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
この世の中、数十億という人間がいればその分だけの思想や願望が渦巻いている。
それは科学サイド、魔術サイド問わず同じこと。それぞれがそれぞれの思想に基づいて、何らかの目的を達成しようと努力を重ねている。
中でも、両サイドのトップと呼ぶべき存在達は、世界そのものを変えかねない目的の為に動いていた。この時代、この瞬間において言うのなら、アレイスター=クロウリーとローマ正教、もとい神の右席だろう。
先日、アレイスターが管理している科学の最高峰学園都市に、神の右席である前方のヴェントが侵入した。目的は科学サイドへの復讐――そしてとある人物たちの殺害である。
一人はこの世界の異能を例外なく殺す『
そしてもう一人は、おそらくこの世界において最強の存在、泉ヶ仙珱嗄。
しかしそれぞれの保有する能力は、世界規模で見れば大したことはない。至ってシンプルで、大したことのない能力。何せ『右手で触れれば異能を消せる』、『あらゆるものに触れることが出来る』、『あらゆるものを逸らせる』、この程度の能力だ。
どれも対峙した時、危険性のある能力とは言えないだろう。どちらかといえばどれも守りに特化した能力なのだから、攻撃性は一切ない。
だが、問題は能力ではない。
上条当麻はその能力の本質が、泉ヶ仙珱嗄は泉ヶ仙珱嗄であることが問題だった。
上条当麻の『
泉ヶ仙珱嗄は、元々保有していた『触れる能力』に加え、どういう訳か二つ目の超能力である『逸らす能力』を獲得した異例の存在。しかも、その戦闘力は素の状態で異常なまでに高い。しかも二つの能力を巧みに使い、前方のヴェントを圧倒してみせた。
故にこそ、この両名は互いのサイドにとって、非常に重要な人物となっている。
特に泉ヶ仙珱嗄は危険だ。
彼は既に魔術サイド、科学サイドのどちらからも排除すべき対象として命を狙われている。いつどこで襲われるかもわからない状態だ。
勿論、全暗部には見かけた場合問答無用で殺す様に指示が出されている。
ソレは勿論、アイテムの面々にもだ。
「……正直、こんな命令に従うのは癪だわ」
「それには超同意ですね……」
「でも……いうこと聞かないと、私たちも狙われちゃうって訳よ」
「……南西から信号が来てる」
彼女達は今いつものファミレスにおり、内心穏やかではなかった。
珱嗄の姿はないが、話の中心は珱嗄のこと。彼女達にも下された珱嗄殺害命令――これは彼女達にとってとても心苦しいモノだ。
今まで数々の汚い連中を始末し、その手を血で汚してきた彼女達。今更命を奪うことに対して躊躇はないし、仕事であればどんな人間でも手に掛ける覚悟はあった。
しかし、珱嗄に対してそうするには……楽しい思い出が増えすぎた。
良くも悪くも、彼の登場によってアイテムのメンバー同士の親交も深まったし、それによって全員が珱嗄に対して普通以上の信頼を寄せている。珱嗄を殺すという命令に対し、彼女達の心境は重かった。
「というか、珱嗄の奴を殺すって無理だっつの」
「どうやっても超殺せそうにありませんしね」
だからだろう。彼女達は平気ですと言わんばかりの表情のまま、珱嗄を殺さないという選択を取る言い訳を探す。口々にあーだのこーだの命令に対して文句を付け、自分達が動かなくても良いという正当性を探していた。
それはとどのつまり、彼女達が珱嗄を殺したくないということの表れだった。
そしてそれは彼女達だけに留まらない。
この学園都市には暗部の組織としてアイテムの様なチームがいくつかある。アイテム、スクール、ブロック、グループ、メンバー等々。勿論全てのチームに指示は下されていた。
だが、ここでアレイスターの誤算が生まれた。
その大半チームが珱嗄抹殺の命令に対して肯定的ではなかったのだ。
アイテムは勿論、垣根帝督率いるスクールも、情報に精通している土御門元治が所属しているグループ、この三つのチームはそれぞれの理由でこの命令を聞かなかった。
珱嗄と全く接点のないブロック、メンバーに関しては――珱嗄を殺そうとした瞬間、返り討ちにあったのだ。気付いたら全員が牢屋の中に入れられていたのだから、彼らの心境は複雑だっただろう。
まぁ、彼らの力で珱嗄が殺せるなら苦労していないのだが。
「おーす、今日は何の集まり?」
「あっ、珱嗄!」
するとそこへ珱嗄がやって来た。驚いてアイテムの面々は全員身体が硬直する。
見つけ次第殺せという命令は、いついかなる状況であろうと実行に移して構わないということだった。故に、命令に従うのなら、この場で珱嗄に攻撃を仕掛けるのが正解なのだろうが、咄嗟のことに行動に移せない。
「あ、えと……」
「その……」
言いづらそうにしているのは、絹旗とフレンダ。二人は認めないだろうが、どちらも珱嗄に懐いていた。四人の中でこの二人が最も複雑な心境なのだろう。
「ん? 何? もしかして俺を殺せとでも命令された?」
「「!?」」
「アンタ……知ってたの?」
だが珱嗄のその言葉で、四人の表情はまた驚愕に染まる。
「知ってる知ってる、だってもう何百人ほど返り討ちにしたし」
「そんなゲームのモンスターいっぱい狩ってきましたみたいな言い方」
「まぁ正直、レベル5級が何百人来たところで問題ない」
「アタシらの悩みを返せ」
「そのパフェ貰っていい?」
「超自由ですか」
相も変わらず珱嗄は平常運転。
シリアスな席を一瞬で霧散させてしまうマイペースさに、アイテムの面々はアホらしくなって脱力してしまう。珱嗄に関して悩むことは無駄な労力だと悟った。
「でも結局、珱嗄を狙う奴はいっぱいいるわけよ。どうするの?」
「あーそうだなぁ、確かにこの状況が続くのは面倒くさいかもなぁ」
「ちょっと、それ私のパフェなんですけど」
「面倒だし、学園都市滅ぼすか?」
「やりかねないから怖い!? 止めて欲しい訳よ!」
「やります」
「駄目!!!」
珱嗄の暴走が始まらない内に、滝壺以外の全員が必死に引き留める。
学園都市を滅ぼすと決めたら、本当にやりかねないのがこの珱嗄という男だ。彼女達の基準で言うのならレベル5を全員振り回す破天荒さと、ソレが出来るだけの圧倒的実力を兼ね備えている人物。どこから現れたのか、何者なのか、それすら分からない存在。
にしても、こんなに軽々と学園都市滅ぼすと言えるのも珱嗄クオリティか。
「というか、こんな命令出るなんてなにしたのよアンタ」
「え? 特に何もしてないけど」
「超嘘でしょ!」
「なんだお前、人間卒業させてやろうか」
「どういう脅し!? 一体何になる訳よ!」
「雌豚か、神」
「差!」
わはは、と笑う珱嗄に四人はまたもぐぬぬと何も言えなくなる。
どうも珱嗄が笑っている姿を見ると、自分の中の何かが心地よさを感じてしまって何も言えなくなってしまうらしい。彼女達もどうやら大分珱嗄の世界観に絆されてしまった様だ。
まぁ、珱嗄が寝ているところに潜り込んでくるくらいには、懐いてしまっているくらいだ。おそらく珱嗄になら命を預けても良いくらいには、信頼してしまっている。
それはなんだか、悪くない気分だった。
「まぁさておき、心当たりがない訳じゃない」
「そうなの?」
「どうせアレイスターが原因でしょ。俺が好き勝手するから、なんかの邪魔になったんじゃない?」
「超ありそう」
「てことで、手っ取り早いのはまぁアレイスターの坊ちゃんをコロコロしちゃう」
「わぁ可愛い! で、結局コロコロってなにする訳?」
「ぶっ殺す」
「私はなんてことを可愛いだなんて!」
「というか統括理事に簡単に会えるのがまずおかしいんだけどな」
フレンダを除く三人は理解していた様で、フレンダのアホな子加減にしらーっとした目を向けていた。ダブルでショックを受けるフレンダである。
わはは、と珱嗄がまた笑う。どこまでが本気でどこまでが冗談なのかが分からないから余計に性質が悪い。
珱嗄は絹旗のパフェをサラッと食べ終えると、その器にカラン、と音を立ててスプーンを放る。絹旗があ、と声をあげると同時に珱嗄はゆらりと笑みを浮かべた。
瞬間、全員の視線が珱嗄に集まる。
この笑い方をした時、珱嗄が何かしでかすことを経験で理解しているからだ。また今度はどんな無茶苦茶をするつもりなのかと、ハラハラしつつ、でも内心で期待している自分がいた。
結局、あーだこーだと言い訳を考えておきながら、心の底では結論は出ていたのだ。
珱嗄が何かしでかすなら、命懸けでそれに付き合ってやろうと。
「じゃ、軽く戦争でも終わらせよっか」
でも、そのスケールは予想してない。
新年あけましておめでとうございます!
お久しぶり過ぎて頭が上がらないのですが、覚えてらっしゃる方は本当にありがとうございます!
活動報告かどこかでお知らせしたのですが、小説家になろうの方で執筆していたオリジナル小説が完結致しましたので、戻ってまいりました!
そしてありがたいことにそのオリジナル小説が書籍化することになりました!!
なのでこちらの更新は、その原稿作業の合間を縫っての更新になると思います。
詳細はTwitterやなろうの活動報告の方で随時お知らせしていくつもりですので、よろしければ是非フォロー、そして応援よろしくお願いします!
こいし @koishi016_kata
散々お待たせしている身ではあるのですが、二次創作、書籍化作品共々、是非応援していただければと思います!汗
それでは、新年もどうぞよろしくお願いいたします!