ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第6話・Bパート

 午後の授業を終えた蛍は放課後、要と雛子と一緒に下校していた。

 

「このまえね、ちょっとはなれたデパートにあるおみせにね。

すっごいおいしいケーキ屋さんがあったの!」

 

 下校中、蛍は自分が好きなスイーツの話を2人にしていた。

 料理以上にお菓子作りが好きな蛍は、当然食べるのも好きだ。

 興味のあるスイーツを見つければそれを食べ、自分なりに味を再現するのが、彼女の一番の趣味である。

 

「そこのケーキはね。クリームがとってもおいしいって有名っだったんだ!

 たべてみたらホントにおいしくて!がんばってクリームの味をさいげんしてみようとおもったんだけど、なかなかうまくいかなくて。

 でもね、おかげでおいしい生クリームのつくりかた、いっぱいべんきょうできたんだ!」

 

「へ~、生クリームって手作り出来るんだ。蛍、今度そのケーキ、作ってきてよ。」

 

「うん!」

 

「それから蛍、今度プリキュア作戦会議をするときは、是非お菓子を差し入れに・・・。」

 

「こら、蛍ちゃんに注文ばかりしないの。」

 

「いいの、ひなこちゃん。

 わたし、うれしいの!こんなふうにわたしがつくったおかしを、ほかのひとによろこんでもらえるの、はじめてだから!」

 

「蛍ちゃん・・・。」

 

 蛍が料理とお菓子作りを趣味としているのは、調理の過程で食材が徐々に『料理』として認識できる形に変わっていく様子を見るのが楽しいから。

 同じ料理でも材料と分量を少し変えるだけで異なる味を作れることがパズル遊びのようで楽しいから。

 そして相手に美味しいと喜んでもらえると自分も嬉しいからである。

 不安はあったが、皆に喜んでくれていたので、お弁当とデザートを作って持ってきたのは正解であった。

 最も、昨日チェリーに喜んでもらえなかったらどうしようと相談した時は、

 

 

「本当にあなたって子は!どうしてそこまで自分に自信が持てないのよ!!

 蛍の作った料理とお菓子を不味いって言う人がいるわけないでしょ!!

 明日必ず両方とも作って持っていきなさい!

 そして要と雛子に食べてもらいなさい!!

 いいわね!!」

 

 

 と、すごい剣幕で怒られたが・・・。結果として取り組んで良かったと思う。

 

「蛍ちゃん、帰り道は確かこっちだっけ?」

 

 話している内に、蛍の家への分かれ道まで辿りついたようだ。

 

「あっホントだ・・・。

 まだおはなししたいこと、たくさんあったのに・・・。」

 

「友達と話してると、時間なんてあっという間やからな。

 大丈夫、明日は部活だけど、明後日だったらまた一緒に帰れるよ。」

 

 落ちこむ蛍を要は励ます。

 

「かなめちゃん・・・。ありがとう!」

 

「それじゃあ蛍ちゃん、また明日ね。」

 

「うん!またあし・・・あっ。」

 

 雛子にお礼を言おうとした蛍は、帰り道とは別方向を見て立ち止まった。

 

「蛍?」

 

「そっち、商店街の方よね。何か用事でもあるの?」

 

「え?えと・・・。」

 

 商店街に用事があるわけではないが、あちらは噴水広場にも繋がっている。

 今日のお昼以降、リリンに会いたいという気持ちが強くなっている蛍は、噴水広場へ訪れてみようと思ったのだ。

 

「ちょっと、よりみちしたいところがあって。」

 

「じゃあ、ウチらもついてこっか?」

 

「え?」

 

 ウチら、と付けている当たりちゃっかり雛子も巻き込んでいるが、当人は特に気にしていないようだ。

 

「目的地につくまでの間、もう少しお喋りできるやろ?」

 

「・・・うん、ありがとう!」

 

 自分に気を使ってくれた要。

 雛子も言葉こそ発しなかったが微笑みを返してくれたので、一緒に来てくれるのだろう。

 2人の優しさに感謝しながら、蛍はリリンに会えることを願い、噴水広場へ向かうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 地上へと降りたリリンは、まず噴水広場へ訪れた。

 作戦を実行する為には蛍を探す必要がある。

 となればまずは、人が多く集まる場所から当たっていこう。

 確かこの噴水広場は、街に住む人達の交流の場であったはずだ。

 この地と、交易の場にあたる商店街とデパート、あとはこの世界の子供は確か、学校という教育機関へ通うことを義務付けられていた。

 その4点を中心に探し当たるのだ。最も、さほど時間がかかる作業ではないだろう。

 人間の活動というものには一定のサイクルが存在している。

 教育機関へ通う日程は厳格にスケジューリングされているし、交易の場も一日の活動時間が定められている。

 この世界のルールを紐解き、蛍程度の年代の少女が主にどのようなサイクルで活動しているかを導き出せれば、すぐ足取りを掴むことが出来るはずだ。

 と、ここまで考えてから辺りを見渡すと、リリンは身に覚えのある後ろ姿を発見した。

 自分より僅かに低い背丈、ピンクの髪、そして体型も全て記憶にあるものと一致している。

 まさかこうも早く見つけられるとは、リリンはかつて蛍の前で演じた時の記憶を探りながら、目の前にいる少女へと近づいていった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「いつ見ても、綺麗な噴水よね。」

 

 噴水広場へと訪れると、雛子が感嘆とした声をあげる。

 

「子供の頃は、ここでよく遊んでたなあ。」

 

 要が噴水広場の隣にある原っぱの方を見ると、小学校低学年くらいの子供たちが鬼ごっこをしており、保護者と思われる女性たちがベンチに座り、子供たちへ視線を向けながら談笑していた。

 老若男女問わず多くの人たちの交流の場となっているこの噴水広場で、蛍はリリンとひと時を過ごした日を思い出しながら、周囲を見渡した。

 

(リリンちゃん・・・。)

 

 会いたいと思う気持ちが強まれば強まるほど、もう会えないのではないかと不安が募っていく。

 蛍が沈んだ表情で、肩を落としたその時、

 

「ほたる。」

 

「えっ・・・?」

 

 後ろから、自分を呼ぶ声が聞こえた。

 忘れられるはずもない声で。

 そして蛍が振り向くと、そこには1人の少女の姿が立っていた。

 

「ひさしぶり。」

 

 白い素肌。黒い髪。前髪の合間から見える綺麗な赤い瞳。

 その笑顔も、声も、仕草も、蛍の忘れられない記憶のものと全て一致した。

 

「リリン・・・ちゃん・・・。」

 

 本当に嬉しいことが起こると、人は本当に現実であるかと疑いたくなるものだ。

 蛍もこれは、夢なのではないだろうか、あるいは幻が見えているのだろうかと思った。

 だけどもこれは、夢でも幻でもない。蛍がずっと会いたいと願っていた人が今、目の前にいる。

 

「リリンちゃん・・・リリンちゃん・・・。」

 

「ほたる?」

 

 擦れた声でリリンの名を呼び続ける蛍を見て、リリンは首を傾げる。

 そして、

 

「っ!リリンちゃん!」

 

 感極まった蛍は、リリンへ向けて駆け寄り、彼女へ抱きついた。

 

「きゃっ、ほたる!?」

 

 突然の蛍の抱擁に戸惑うリリン。

 だが蛍は、リリンをさらに強く抱き締めた。

 この2週間、ずっと探し続けた。もう二度と、会えないかもしれないとさえ思った。

 抱き締めた彼女の体から、蛍はリリンの存在を確かに感じ取る。

 夢でも、幻でもない。確かにリリンは、ここにいるのだ。

 

「リリンちゃん!リリンちゃん!リリンちゃん!」

 

 蛍は何度も、リリンの名を呼び続けた。

 リリンは確かにここにいると自分に言い聞かせるように、リリンの存在をこの場に繋ぎ止めるように、何度も名前を呼び続けた。

 

「リリンちゃん!」

 

「ほたる、一体どうしたのよ?」

 

「あいたかった!」

 

「え?」

 

「ずっと・・・ずっとあいたかったよ!リリンちゃん!!」

 

「ほたる・・・。」

 

 友達と一緒にお昼を食べて、お喋りをしながら下校して、それだけでも十分だったのに、リリンと再会することができるなんて。

 今日は、何てステキな一日なのだろう。

 蛍は今日に訪れた数々の奇跡に喜びながら、泣きながら、笑いながら、

 リリンを強く抱き締めるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 リリンは蛍に強く抱きしめられながら、今置かれている状況に困惑していた。

 目の前にいるのは確かに蛍だ。

 だが記憶にある蛍は気弱で今にも消えてしまいそうな儚い存在だったはず。

 ここまで自分の存在を大きくさらけ出せるような子ではない。

 だが目の前にいる少女が、蛍でないはずもない。

 姿も声も記憶にある通りだし、何よりも自分のことを覚えているのだ。

 

「蛍ちゃん、そろそろ離してあげよ?その子、困ってるよ?」

 

 すると初めて見る少女が、蛍に話しかけてきた。

 

「あ・・・ごっごめんねリリンちゃん!」

 

 少女に注意された蛍は、飛び退くようにリリンから離れる。

 

「別に大丈夫よ。ちょっとびっくりしちゃったけど、どうしたの?

 急に飛びついてきて。」

 

「・・・リリンちゃんとまたあえたのが、すごくうれしくて・・・。」

 

 頬を赤く染め、恥じらいながら蛍はそう答えた。

 

(嬉しい?あたしと再会できたことが?なぜ?)

 

 だがその疑問を蛍に口にする前に、蛍が話しかけてくる。

 

「あっそだ。リリンちゃん、しょうかいするね。

 わたしのともだちの、かなめちゃんとひなこちゃん。」

 

「トモダチ?」

 

「ども、森久保要で~す。」

 

「藤田雛子よ。そっか、あなたがリリンちゃんだったのね。」

 

 紹介しろと言った覚えもないし、覚えるつもりもなかったが、今後も蛍には情報源として役に立ってもらうつもりだ。

 それを考えれば、蛍と接触するための駒は多く持っておいて損はない。

 リリンは2人の名前と顔を記憶する。

 

「ねえねえリリンちゃん!またこないだみたいにおはなしできない?

 わたし、リリンちゃんとおはなししたいこと、たっくさんあるの!」

 

「ええ、いいわよ。」

 

 まさか向こうからその話題を持ちかけてくれるとは、こちらから誘う手間が省けた。

 だがリリンがどうやってプリキュアに関する話題を引き出そうかを考える前に、満面の喜びを表情に出した蛍が、リリンの手を引く。

 

「え?」

 

「じゃあ、いこっ!ほら、このまえみたいに、噴水前のベンチにすわろ!」

 

「あっちょっと、ほたる。」

 

 考えがまとまらない内に、半ば無理やり蛍に手を引かれ噴水前のベンチに座ることになる。

 

(この子、ほんとうになにがあったの?こんなに積極的な子じゃなかったはず・・・。)

 

 自分の手を無理やり引いて連れていくなんてこと、記憶にある蛍が出来ただろうか?

 依然とは別人となった蛍のペースに振り回され続けるリリンだったが、

 蛍は手を自身の手に添え、正面から見据えてきた。

 

「リリンちゃん、あのときはほんとうにありがとう。このおまじないをおしえてくれて。」

 

 蛍はかつて自分が教えたおまじないを行う。

 

「それ・・・。」

 

「このおまじないのおかげでね、わたし、ステキなともだちができたの!

 ぜんぶ、リリンちゃんのおかげだよ!」

 

 そう言えば以前会った時の蛍は、ずっと友達が欲しかったと語っていたか。

 

「そっか、トモダチ、ちゃんと作ることできたんだ。」

 

「うん!」

 

 自分が蛍に教えた勇気のおまじないと、蛍がずっと願っていた、友達を作るという夢。

 なるほど、リリンは全てを悟った。

 蛍はあの時自分が教えた『デタラメ』なおまじないのおかげで、一歩踏み出す勇気を得ることが出来た、と『勘違い』しているわけか。

 そして友達を作ることが出来た蛍は、おまじないを教えた自分に恩義を感じ、再会を心待ちにしていたと。

 それならば先ほどの行動にも納得がいく。

 

(そうゆうこと・・・。ふふっ、バカみたい。)

 

 リリンは蛍を侮蔑する。

 あんなデタラメなおまじないに縋って勇気を得られた『つもり』になり、変わることが出来たと『思い込んでいる』のだ。

 つくづく単純で愚かな小娘だ。

 目の前にいる友達とやらも、そんな『まやかし』な勇気で作られた産物。紛い物に決まっている。

 

「おまじないのおかげなんかじゃないよ。

 ほたるががんばって勇気を出したから、トモダチを作ることが出来たんだよ。」

 

 だがこれはまたとないチャンスだ。

 蛍がここまで自分に気を許しているとは思いもしなかったが、これならば、自然と会話をすることが出来るし、多少危ういラインを踏むことになっても、彼女から得た信用を隠れ蓑と出来るだろう。

 何より、蛍と言う生き物は単純で扱いやすい。

 堕とす手段ならいくらでもある。

 

「リリンちゃん・・・。ありがとう!」

 

 ほら、あんなどこにでもある定型文を口にしただけでこれだ。

 つくづくバカな子だ。

 

「ねえねえリリンちゃん!ほかにもおはなししたいこと、たくさんあるの!」

 

「ええ、会えなかった分、たくさんお話しましょ?あたしも、蛍とお話したいこと、あるから。」

 

「うん!じゃあねじゃあね!わたしからおはなしするね!」

 

 今は、彼女の機嫌を取るために付き合うとしよう。

 プリキュアの、キュアシャインに関する情報を聞き出すのはその後でいい。

 仮にこの子が情報を持っていなくても、この子を中心にコミュニティを拡げることはできれば、こちらの情報網も拡大できる。

 

(役に立つにせよ、立たないにせよ、利用させてもらうわよ。

 ほたる。)

 

 リリスとしての本心を隠す為に、彼女の良き恩人、リリンという仮面を被りながら、蛍の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 要と雛子は、やや離れた位置から蛍たちを見守っていた。

 リリンと再会出来た蛍は、それはそれは幸せに満ちた笑顔を浮かべながら彼女とお喋りをしている。

 傍から見ても、リリンと再会できた蛍の喜びが十二分に伝わってきた。

 

「要、少し広場を見て回ろっか?」

 

 雛子がそんな気を利かせたことを言ってくる。

 要としても、どこはかとなく漂う甘い雰囲気からちょっと離れたくなったので、雛子についていくことにした。

 

 

 噴水広場の隣にある芝生公園は、遊具こそないものの、その広さから子供たちの遊び場となっている。

 かくいう要も、小学校の頃はよく男子と混じって鬼ごっこやプロレスごっこをしたものだ。

 そして子供の遊び場となっている、一番広い面積の原っぱを少し離れると、スイーツを筆頭に多くの出店が並んでおり、パラソルの開かれたテーブル席は下校中の学生たちで賑わっていた。

 要と雛子はひとしきり、出店を見て回ることにした。

 ここにある出店は日替わりで入れ替わるので、毎日のラインナップが異なってくる。

 花より団子を地で行く要にとっては、見て回るだけでも飽きないものだ。

 

「うひゃ~、相変わらずここのドーナッツ屋台は繁盛してるな~。」

 

 要は行列の出来るドーナッツ屋台を見て感嘆する。

 並ぶことは嫌いなのでこの出店を利用したことは数少ないが、評判に違わぬ味であったことはしっかり覚えている。

 

「確か、他の街で人気のあるドーナッツ店に弟子入りして、そこで修行を積んでからお店を開いたみたいって話よね。

 噂によれば、その弟子入りしたってお店、あのクローバーが常連さんのところみたいよ。」

 

「クローバーって、あの4人組のダンスユニットの?」

 

「そっ。」

 

「なるほど、有名人のお墨付きってことね。」

 

「あっ、見て要。ここ、新しくクレープ屋が開店されるみたいよ。」

 

 雛子が指さす先には、『スイーツのお姫様クレープ!五月上旬に解禁!』と看板が立てられていた。

 

「マジで?とうとうクレープ屋まで参入するんだ。」

 

 スイーツからファーストフードまで一通りの出店が並ぶこの一帯で、クレープ屋だけがありそうでなかったが、ようやく当店するようだ。

 これまではクレープを食べようと思ったら、少し離れたショッピングモールまで足を運ばなければならなかったので、有難い話である。

 

「あとで蛍ちゃんにも教えてあげましょ?」

 

「せやね。あの子お菓子好きだし。」

 

 と、蛍のことが話題に出たことで、先ほどの様子を思い出した2人の間に沈黙が訪れる。

 思えば蛍とリリンの距離は妙に近かったし、蛍は右手でリリンの左手をずっと握っていた。

 まるでリリンをこの場から離さないように。

 からかいのつもりで言ったが、あれでは本当に恋する乙女である。

 

「蛍ちゃん、とても嬉しそうだったね。」

 

「え?まあ。」

 

「蛍ちゃんにとって、それだけリリンちゃんは大切な人ってことかしら?」

 

「大切な人・・・か。」

 

 一歩踏み出す為の勇気が出るおまじない。

 転校してから蛍は、勇気を出すときは必ずそのおまじないを唱えて来た。

 そして勇気を得た蛍は今こうして、要と雛子と友達になり、クラスメートとも少しずつ打ち解けて来ている。

 転校初日、挨拶1つ満足に出来なかった頃と比べれば、見違えるほど変わったと言っていい。

 その蛍を変えたおまじないを教えたのがリリンなのだから、蛍にとってのリリンは、自分が変わるきっかけを与えてくれた人、ということになるのだろう。

 

(自分が変わるきっかけ・・・か。)

 

 要はふと、自分のことを振り返った。

 大好きだったはずのバスケが憎くなり、クラブ活動をズル休みしていた時、そんな自分をずっと見守り支えてくれた人がいた。

 勝負は勝ったら楽しい、負けても楽しい。そう思えるようになったきっかけをあの人はくれた。

 要にとって、その人はどのくらい大切な人だろう。

 ・・・考えても答えは出なかった。

 言葉に表現することが出来なかったからだ。

 それほどまでに大切な人。もしもその人と急に離れ離れになり思わぬ再会を果たしたら、自分がどんな反応をするのだろうか。

 もしかしたら要も、蛍と同じような反応をしていたのかもしれない。

 だとすれば、自分は蛍のことを笑えないだろう。

 

「友達でも家族でも、自分が変わるきっかけを与えてくれた人は、言葉では表せられんほど、大切な人なんやろな・・・。」

 

 要はそう呟いた。

 蛍にとってリリンは、自分を変えてくれた、心の底から大切に思える人。

 今はそれで納得しておこう。

 

「・・・そうね。」

 

 雛子は、やや間を空けてからそう答えた。

 どうやら雛子にも自分が変わるきっかけをくれた、心の底から大切に思える人がいるようだ。

 果たして誰のことなのか、要は敢えて考えないようにするのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍との会話をかわしながら、リリンはこちらの話題を振るタイミングを見計らっていた。

 蛍が話題を振っている最中に、むやみに割り込むのはよろしくない。

 もしも彼女の機嫌を損ねてしまえば、こちらの話を聞いてもらえない可能性があるからだ。

 かと言って、興味のない話を延々と聞いてやるつもりもない。

 話題の途切れるタイミングを見定める為に、虎視眈々と機会を伺う。

 すると、ひとしきり話し終えた蛍が息継ぎをした。

 彼女が呼吸を整え終えたタイミングで、リリンはようやく、自らの話題を切り出した。

 

「ところでほたる。ひとつ聞きたいことがあるのだけどいい?」

 

「なに?」

 

 まずは小手調べだ。この質問に対して、彼女はどんな反応を見せるだろうか。

 

「ちょっと小耳に挟んだ噂話なんだけど、『光のお姫様』の噂、聞いたことある?」

 

「・・・えっ・・・?」

 

 少し考えた後、蛍の顔に動揺の色が浮かぶ。予想通り、この子はわかりやすい。

 感情がすぐに顔に出るようだ。

『光』と『お姫様』というキーワードに、随分と大袈裟な反応を示してくれた。

 

「・・・えと・・・しらないけど・・・どんなうわさばなし?」

 

 嘘だ。声が微かだが震えている。平静を装うと抗っている証拠だ。

 

「たしか、真夜中の街に迷う人の前に女の子が現れて、その人を光のある場所へと導いてくれるって、うわさだったかしら。

 その女の子がね、お姫様みたいに可愛いドレスを着て体中から光を放ってるんですって。」

 

 蛍の表情がいっそう強張る。

 落ち着きのない視線が空を彷徨い、表情から不安が見て取れる。

 

「そっそうなんだ・・・。リッ、リリンちゃんはどうして、そのおひめさまのことがしりたいの?」

 

 声色にも困惑が見て取れ、震えも徐々に大きくなっていく。

 

「だってその子、お姫様みたいな恰好をしているのでしょ?

 お姫様っておんなの子にとってのあこがれだし、光の、なんてつくほどのキレイなお姫様だったら、見てみたいっておもわない?」

 

 無論、こんなものは話題を隠すための建前だ。

 そもそもリリンには、可愛い、綺麗、まして憧れなんて概念は持ち合わせていない。

 だがそんな建前でも、単純な蛍には十分に有効だ。

 

「そっ、そっか。そうだよね。」

 

 すると蛍の声の震えが突如として途絶えた。

 原因がわからないが、これまでの反応を見ただけでも十分だ。

 

「だからほたる、もしなにか、光のお姫様についてのうわさを聞いたら、

 あたしに教えてくれないかしら?」

 

「わかった。」

 

「それから、このことは誰にも話さないでね。

 かなめとひなこってトモダチにも、ナイショだよ?」

 

「どうして?」

 

「だって、お姫様に憧れてるなんて知られたら、恥ずかしいじゃない。だから、あたしとほたるだけのヒミツ。ね?」

 

「うん!わかった!」

 

 秘密を共有するということは、信頼のおける間柄であることの証。

 彼女は自分と秘密を共有できたことを喜んでいる。

 建前もここまで効果があると清々しいものだ。

 これほど扱いやすい子から信頼を得られたというのは、今後の作戦遂行に大きく働くだろう。

 欲張る必要はない。

 まだ『やるべき』ことも残っている。

 今日のところはこのあたりで引き上げよう。

 

「それじゃ、あたし、そろそろ帰るね。」

 

「え・・・もうかえっちゃうの?」

 

 すると蛍は途端に表情を暗くした。

 もう、とは言うが、だいぶ話し込んだはずだ。

 この後に及んでまだ話し足りないと言うのか。

 

「また、ここに来るから。そしたら、今日みたいに、いっぱいお話ししよ?」

 

 今度は一転して表情を明るくする。

 

「っ!うん!わたし、まいにちここでまってるからね!」

 

「ありがと、それじゃあ、またね。ほたる。」

 

「うん!きょうはありがとね!リリンちゃん!」

 

 そして蛍と別れの挨拶を交わし、リリンは噴水広場を後にするのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 一之瀬 蛍。彼女はプリキュアについて何かを知っている。

 希望の『光』であり、『光』の戦士と呼ばれているプリキュア。

 その外見は『お姫様』とも取れる服装をしている。

 彼女はその2つのワードに反応を見せた。実際にプリキュアと遭遇したことがあるのか、それともトモダチからプリキュアの話を聞いたか、あるいは、彼女自身が・・・。

 いや、そんなはずはないか。

 あの蛍と言う少女に戦う勇気があるとは思えないし、自分が一度、闇の牢獄に堕としたこともあるのだ。

 それほどまでの弱い心の持ち主に、光の使者たるプリキュアの資質などあるはずがない。

 

「まあ、何でもいいわ。

 何か情報を掴んでいるのは確実。

 次の機会があればまた、その時に情報を引き出していけばいい。」

 

 次に会う約束も出来た。予想以上の戦果と言っていいだろう。

 リリンとしての『作戦』は、一先ず終わりとし、次は『リリス』の作戦に移るとしよう。

 リリンは左手を伸ばし指を鳴らすと同時に、その姿をリリスへと変える。

 次なる手は実力行使だ。プリキュアの正体を探り、変身前に叩くというのは、あくまで作戦の1つでしかない。

 やつらを討つ為ならば打てる手は全て打っておく。

 それにアモンは、あの2人にもプリキュア討伐の指令を与えているのだ。

 やつらに後れを取るわけにはいかない。そしてそんな細かな理屈を抜きにしても、リリスは今日、プリキュアの前に立つ予定だった。

 

「ターンオーバー、希望から絶望へ。」

 

 リリスを中心とし、闇の牢獄が展開されていった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 リリスと別れたから程なくして、要と雛子が戻って来た。

 

「あれ?リリンは帰ったの?」

 

「うん、ついさっきかえっちゃった。でも、また会うってやくそくしてくれたの!」

 

 蛍は上機嫌に答える。

 この2週間、会えなくて不安だったが、こうして再会出来たことで、そんな不安も吹き飛んでしまった。

 ここを訪ればまたいつでも会えることが出来る。

 そんな確信が、蛍の中で生まれたのだ。

 

(リリンちゃん・・・。)

 

 光のお姫様の噂。

 その聞いた時は、プリキュアの活動が噂話として広まってしまったのではないかと驚いたが、恐らくは都市伝説の類だろう。

 それにリリンはお姫様に憧れているということも知った。

 正直なところ、それは意外だった。

 リリンはどちらかと言えばクールな印象を与える少女だ。

 決して無表情なわけではなく、むしろ笑顔が素敵な少女で、優しくて、

 女の子である蛍の目から見ても、とても可愛い容姿の持ち主なのだが、彼女の雰囲気はどこか幻想的で、浮世離れしている感じがある。

 そんなリリンが、女の子の憧れの的と言えるお姫様に興味を持っているということで、急に彼女を身近に感じることができた。

 

(そういえばきょうは、わたしのことばかり、はなしちゃったな・・・。)

 

 リリンからその話を聞いた後、すぐに別れることになった。

 それまではずっとこちらの話しを聞かせてばかりだった。 学校にいた時もそうだが、今日は自分の事を優先し過ぎて、周りに気を遣わせてしまうことが多かった。

 友達に迷惑をかけない為にも、今後の反省点としていこう。

 それならば、次に会った時はリリンの話をいっぱい聞こう。

 こちらばかり話をしていては不公平だし、何よりもっとリリンのことが知りたいのだ。

 もっとリリンと距離を縮めたいから。

 そう蛍が思いを馳せていると。

 

「っ!?」

 

 不意に、全身に悪寒が走った。

 

「蛍ちゃん!」

 

 雛子が駆け寄り、蛍の肩に手を置く。

 

「え・・・?」

 

 すると雛子が、不思議そうな表情でこちらを見た。

 

「蛍、雛子、これって。」

 

「うん、やみのろうごくだよ。」

 

 要の質問に蛍は答える。

 この全身が震えるような嫌な冷たさ。間違いなく闇の牢獄だ。

 だが蛍は自分に現れた変化に気づく。

 

(こえが・・・きこえない・・・?)

 

 今までずっと、聞こえ続けて来た自分の声が聞こえないのだ。

 

(かなめちゃん、ひなこちゃん、まことちゃん、あいこちゃん、そして・・・リリンちゃん。

 みんなから・・・勇気をもらえたおかげだ。)

 

 勇気のおまじないを胸に、心の中で皆にお礼を言う蛍。

 

「蛍ちゃん、大丈夫?」

 

 雛子が心配そうに声をかけてくれた。

 そんな雛子の優しさが、蛍にさらなる勇気をくれる。

 

「だいじょうぶ、かなめちゃん、ひなこちゃん。

 いこっ、ダークネスをやっつけなきゃ!」

 

「蛍・・・、ああっ!」

 

「うん!」

 

 3人同時に、光の中からパクトを手に取る。

 

「「「プリキュア!!!ホープ・イン・マイハート!!!」」」

 

 初めて3揃っての変身。

 3人の体が一斉に光に包み込まれ、そして光が弾けると同時に、ピンク、青、黄色のプリキュアが姿を現す。

 

「世界を照らす、希望の光!キュアシャイン!」

 

「世界を駆ける、蒼き雷光!キュアスパーク!」

 

「世界を包む、水晶の輝き!キュアプリズム!」

 

「「「3つの光が伝説を紡ぐ!!!ホープライトプリキュア!!!」」」

 

 3人が変身を終えると、キュアブレイズの捜索に当たっていたであろう、チェリー、ベリィ、レモンが姿を見せた。

 

「いたっ!プリキュア!」

 

「ダークネスの気配はこっちだ!」

 

「みんな、ついてきて!」

 

 妖精たちと合流し、3人は闇の波動がする方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 蛍たちが闇の波動を辿ると、目の前に悪魔の姿が見えた。

 エメラルド色の髪を持つ、悪魔の少女だ。

 その姿に蛍は身に覚えがある。

 

「リリス!」

 

「あの子がリリス?」

 

 初対面のキュアプリズムとキュアスパークが驚く様子を見せる。

 

「まさか、あんな小さい子が行動隊長・・・。」

 

 するとなぜかキュアスパークの目線がリリスから蛍の方へと向いた。

 続けてキュアプリズムもなぜか蛍へと目を向ける。

 

「え?え?なっなに?」

 

「いや、それを言ったら今更かなと思って。」

 

「え?」

 

 それを、とはどのことを言っているのだろうか?

 疑問が全く晴れないまま、キュアスパークとキュアプリズムは再び視線をリリスへと戻した。

 

「キュアシャイン・・・。」

 

 するとリリスの口から自分の名が呼ばれ、蛍は反射的に身構える。

 

「キュアシャイン・・・キュアシャイン・・・キュアシャイン・・・。」

 

 だがリリスの様子がおかしい。

 仕切りに自分の名前を呟き続けるだけで一切動こうとしなかった。

 

「キュアシャイン!!」

 

 だが次の瞬間、リリスが目にも止まらぬ速さで蛍へと飛びついた。

 あまりの一瞬の出来事に蛍も、そしてキュアスパークもキュアプリズムも反応が遅れる。

 

「きゃあっ!」

 

「キュアシャイン!」

 

 キュアスパークが叫びをあげる。

 辛うじてリリスの一撃をガードした蛍は、そのままリリスと組み合う。

 

「どれだけ、この時を待ち望んだか!キュアシャイン!!」

 

 リリスが片腕を高く掲げて爪を振るう。

 避けられないと思ったが、蛍とリリスの間を、蒼い稲妻が駆け抜けた。

 

「おっと、これ以上キュアシャインに手を・・・」

 

「あたしのジャマをするなああ!!」

 

「え?」

 

 だがキュアスパークがカッコよくセリフを言い終わる前に、リリスの叫びがそれを中断し、尾でキュアスパークを薙ぎ払う。

 

「うわっと!」

 

 叩き付けられた勢いのまま、キュアスパークは宙がえりをして姿勢を整える。

 

「ダークネスが行動隊長、リリスの名に置いて命ずる!ソルダークよ!世界を闇に染め上げろ!!」

 

 するとリリスがソルダークを召喚した。

 ソルダークは産声をあげると同時に、キュアスパークへ拳を振り下ろす。

 

「キュアスパーク!」

 

 粉塵が巻き起こり、キュアスパークの姿を見失った蛍だが、

 

「キュアシャイン!!」

 

 そんな蛍の元に、リリスが執拗に迫り来る。

 だが今度はキュアプリズムの盾が展開され、彼女の進行方向を塞いだ。盾がリリスの足を止めている間に、キュアプリズムがこちらへ合流する。

 

「そらっ!」

 

 そしてソルダークを殴り飛ばしたキュアスパークも、2人の元へ合流した。

 

「キュアシャイン、あんたあの子に何やらかしたん?」

 

 やや呆れた様子で尋ねてくるキュアスパーク。

 

「ええっ!?」

 

 蛍は私が悪いの?と言わんばかりに驚く。

 

「あの様子、普通じゃないわよ。キュアシャインのことしか眼中にないって感じだけど。」

 

 キュアプリズムも冷静に状況を分析した。

 

「そっそんなこといわれても、おぼえてないよ!」

 

 前にリリスと戦った時、蛍はがむしゃらに浄化技を使ってリリスを破ったらしいが、当時のことを全く覚えていないのだ。

 だがその一言がまずかった。

 

「おぼえていない・・・あたしに、あれだけのことをしておいて・・・?」

 

 愕然とした表情の後に、リリスの体が小刻みに震え始める。

 

「あれ?地雷踏んだんやない?」

 

「どこまで・・・どこまであたしを侮辱したら気が済むのよ!

 キュアシャイン!!」

 

 感情を爆発させたリリスが、怒りのままに蛍へと向かう。

 それを見たキュアスパークが蛍の援護へ向かおうとするが、行く先をソルダークに防がれてしまう。

 

「このっ!」

 

「キュアスパーク!だいじょうぶだから!」

 

「キュアシャイン?」

 

「わたしは!だいじょうぶだから!いつもどおりにいくよ!」

 

「あたしを無視するなあ!!」

 

 リリスは自分と戦うことにしか目が行き届いていない。

 それならば逆にチャンスだ。

 戦闘力に長けたキュアスパークが、ソルダークと戦うことに専念出来る。

 

「堕ちろ!キュアシャイン!!」

 

 だがリリスの攻撃は想像以上に苛烈なものだった。

 リリスの爪が再び蛍の眼前へと迫る。

 

「はっ!」

 

 すると、ドーム状のバリアが蛍の周囲に展開された。

 バリアはリリスの爪を弾き、すかさずキュアプリズムがリリスへ追い討ちをかける。

 

「ジャマをするなと言ったでしょ!!」

 

「邪魔をするに決まってるじゃない!!」

 

 リリスの気迫にも動じないキュアプリズムは、そのままリリスとの応戦に入った。

 爪を薙ぐリリスの攻撃を時にはかわし時にはバリアで流し、丁寧に捌き続ける。

 

「ちっ!」

 

「たあああっ!」

 

 そして隙を見て、蛍はリリスへと体当たりした。

 直撃を受けたリリスは僅かに怯むも、直後に距離を開けて態勢を立て直す。

 

「どうしたのキュアシャイン!?あなたの力はこんなものではないはずよ!?」

 

「えっ?」

 

「あの時の力はどうしたの!?なぜ使わない!?」

 

「あなた、さっきから何を言って・・・。」

 

「あたしには必要ないとでも言うの!?キュアシャイン!!」

 

 蛍の困惑にもキュアプリズムの疑問にも答えず、一方的に言葉を投げかけるリリス。

 最早会話が成り立つような状況ではなかった。それほどまでに今のリリスは蛍に対する憎しみに満ちていた。

 そのことを認識した蛍は、僅かに不安な表情を見せる。

 だが隣にいるキュアプリズムは違った。

 目の前で憎しみを膨らませるリリスではなく、その先の光景を捉えていた。

 蛍もその先へ視線を移し、キュアプリズムの真意を読む。

 そうだ。目の前のリリスに怯んでいる場合ではない。

 ここに来た目的、自分がプリキュアとして戦う理由を、見失ってはいけない。

 キュアプリズムと視線を合わせ、蛍はその『チャンス』を伺うのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 わたしは!だいじょうぶだから!いつもどおりにいくよ!

 

 

 蛍のその言葉を思い出し、要は後ろを振り返らず、ソルダークと睨みあった。

 あのリリスという行動隊長は、執拗に蛍を狙い続けている。

 要はそのことが気がかりだったが、雛子がサポートについてくれるのであれば安心出来る。

 だから目の前の戦いに集中しなければ。

 いつも通りで行くと宣言した、蛍の覚悟を無駄にしないためにも。

 

「はあっ!」

 

 要は雷を纏った拳を、ソルダークめがけて振るう。

 だがソルダークはそれを跳躍でかわし、

 すかさず爪を立てて急降下してきた。高速移動でそれを回避した要はすぐに反撃に出るが、ソルダークも即座に反応し、応戦する。

 このソルダークは強い。

 スピードと反応速度に優れているためロクに攻撃が通らない。

 何とかして浄化技を叩き込む隙を作りたいが、ここまで手強いと要一人では厳しいものがある。

 そう思考を働かせている隙に、ソルダークの爪が振り下ろされる。

 

「くっ。」

 

 両手でそれを抑え、ソルダークの腕力に対抗する要。

 迂闊な隙をさらすことはできない。

 せめて雛子のサポートがあれば、まだ思考を挟む余力もあるだろうが、今はそれも望めない・・・と思ったが、ふと視界の端にこちらを見据えるキュアプリズムの姿があった。

 それを見て要は、雛子の真意を悟る。

 

(全く、ウチが一番良く知っとることやん。雛子のことを甘くみたらアカンって。)

 

 雛子にサポートを望める状況ではない、なんてことを思った先ほどの自分を恥じる要。

 こちらを見据えるキュアプリズムとキュアシャイン、そしてその前にはキュアシャインのことしか見ていないリリスの後ろ姿。

 要は雛子の策を悟り、仕掛ける『タイミング』を見計らうのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「キュアシャイン!!」

 

 再びキュアシャインを狙い、飛び出すリリス。

 そしてその背後には、手のひらに雷を纏い、こちらを見るキュアスパークの姿。2人の姿が直線状に重なるタイミングを雛子は逃さなかった。

 

(今よ!要!)

 

「はあああっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 突如としてキュアスパークがリリスへ高速移動で接近し、雷を纏った拳で突く。

 リリスはそれをガードするも、勢いまでは殺しきれずに飛び退いた。

 

「くっ!ソルダーク!!」

 

 リリスの呼びかけに答えたソルダークが、こちらへ高速で向かってくる。

 

「はあっ!」

 

 だが雛子はソルダークの目の前に巨大な盾を展開した。勢いに任せてこちらへ向かう

 ソルダークは、突如現れた巨大な盾に頭部をぶつけ自滅する。

 その隙にキュアスパークは再びソルダークへと方向転換し、雷を纏った拳を突き付けた。

 キュアシャインのことしか眼中にないリリスに奇襲をかけ、焦りで呼びかけたソルダークの自滅を誘う。

 雛子の作戦は成功し、ソルダークは蓄積されたダメージから動きが鈍くなり、自慢のスピードを発揮できなくなっていった。

 そして追い討ちをかけるべく、雛子もキュアスパークへと続く。

 

「まあいいわ。あたしが堕としたいのはキュアシャイン!あなただけよ!!」

 

 ソルダークがこれだけのダメージを受けていながら、自分とキュアスパークがリリスから視線を外せば、こちらには見向きもせずキュアシャインの元へと向かう。

 これも雛子の目論見通りだ。

 そしてキュアシャインは、リリスが迫っていながら今いる場を一歩も動こうとしなかった。

 雛子は自分の狙いを悟ってくれたことを確信し、感謝と、そして謝罪を心中でする。

 

(ありがとう、蛍ちゃん、それからごめんなさい。あなたを囮に使って。)

 

「キュアシャイン!!」

 

 リリスが身動き一つ取らないキュアシャインへ、容赦のない一撃を振り下ろした。

 だが、次の瞬間、キュアシャインの周囲にバリアが展開された。

 

「なっ!?」

 

 驚くリリス。なぜなら雛子はこちらを見向きもしてないからだ。

 だが守る対象と迫る攻撃の位置を正確に見なければ機能しない盾とは違い、ドーム状に展開されるバリアは、守る対象の位置さえ把握できれば四方からの攻撃も防ぐことが出来る。

 目を見ずとも対象の力の探知するだけで何とかなるものだ。

 さらにキュアシャインが一歩も動かなかったので、より正確な位置にバリアを展開することができたのだ。

 

「きゃあっ!」

 

 勢いを止められなかったリリスの爪は、音を立ててバリアに弾かれる。直後バリアが砕け散り、中にいたキュアシャインが攻撃態勢に入った。リリスは反射的に防御の姿勢を取る。

 だがキュアシャインは、そんなリリスを無視し、後方にいるソルダークへと飛んでいった。

 

「なっ・・・。」

 

「たあああっ!!」

 

 キュアシャインの体当たりを受けたソルダークは、その場に崩れ落ちる。

 

「キュアシャイン!!」

 

「わたしたちのもくてきは、ソルダークをたおして、ぜつぼうのやみがひろがるのをふせぐこと!

 リリス!!あなたとたたかうことじゃない!!」

 

「なんですって・・・。」

 

「光よ、降りろ!プリズムフルート!」

 

 雛子は崩れ落ちたソルダークを、水晶の中へと閉じ込める。

 

「あたしは・・・ソルダークよりも劣ると言うの・・・?」

 

「プリキュア!プリズミック・リフレクション!!」

 

 愕然とするリリスを余所に、雛子はソルダークを浄化する。

 

「・・・っ!キュアシャイン!!」

 

 我に返り、立ち上がったリリス。

 だがキュアスパークが前に立った。

 雛子も彼女に並び、キュアシャインを守るように前に立つ。

 

「どきなさい!!」

 

「どくわけあるか。これ以上は好きにさせんよ。」

 

「リリス、これでもまだ戦うつもりなの?」

 

 雛子もキュアスパークも、リリスに対して静かに怒りを燃やしていた。当然だ。

 キュアシャイン個人に対して、執拗なまでの攻撃を繰り返してきたのだ。

 そんな横暴、許せるはずがない。

 だがリリスはしばし2人を睨み付けた後、自嘲気味な笑みを浮かべ始める。

 

「・・・ふふっ、あははは・・・そう、どうしてもあたしのことを見てくれないと言うのね。」

 

 リリスの視線は既に、雛子にもキュアスパークにも向けられていない。

 その後方にいる。キュアシャインだけを見ていた。

 

「だったらいいわ・・・。あたしのことしか見えないようにしてあげる・・・。」

 

「え・・・?」

 

「あたしのことしか考えられないようにしてあげる・・・。

 あなたを、あたしだけのものにしてあげるわ・・・キュアシャイン・・・・。」

 

 息を飲むキュアシャインの反応を見て、薄ら笑いを浮かべながらリリスは姿を消していった。

 

「大丈夫?キュアシャイン?」

 

「うん・・・だいじょうぶ・・・。

 まだ・・・やることがあるから・・・。」

 

 まだやること、今回被害にあった人を助けることだろう。

 キュアシャインが闇の波動を探知しながら、辺りを見渡す。

 雛子はそんなキュアシャインの肩を取った。

 手のひらに掴んだキュアシャインの肩が、微かに震えていた。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「・・・ありがとう。また、次に頑張ってみるよ。」

 

「はい、がんばってください!」

 

 闇の牢獄に囚われていた青年を見つけた蛍たちは、各々が励ましの言葉をかけたことで、何とか青年の闇を祓うことが出来た。

 これで終わった。そう思った瞬間、蛍の変身が解け、膝から崩れ落ちた。

 

「蛍ちゃん!」

 

「蛍!」

 

 雛子と要が、蛍の両肩に優しく手を添える。

 

「ごっごめんなさい・・・おわったとおもったら、きゅうに気が抜けちゃって・・・。」

 

 声を震わせる蛍は、今にも泣きそうだった。

 今日ほど戦いが怖いと思ったことはなかった。

 思い出すだけで体が震える。

 喉が渇き、呼吸も荒くなっていく。

 リリスから感じられた、自分に対する明確な憎しみと怒り。

 あれほど激しい負の感情を、正面からぶつけられたのは初めてだ。

 何度も、あの場から逃げ出したいと思った。

 

「蛍。」

 

 するとチェリーがサクラへと変身し、蛍を優しく抱き締めた。

 

「もう、大丈夫。怖くないから、ね?」

 

 サクラの温もりが、蛍のことを励ますのように、心の底にまで伝わっていく。

 

「うん・・・ありがと・・・。」

 

 そして蛍の手を、雛子が両手で優しく取ってくれた。

 震える手を温めてくれるように。

 要は、蛍の頭を優しく撫でた。

 今日の戦いを、頑張ったね。と褒めてくれるように。

 

「みんな・・・。」

 

 不思議なことに、先ほどまで感じていたはずの恐怖が、自然と晴れていった。

 皆の優しさが、蛍から恐怖を振り払ってくれる。

 そして、これからも戦っていける勇気をくれる。

 

「・・・ありがとう。わたし、もうだいじょうぶだよ。

 どんなにこわくても、プリキュアとして、ダークネスとたたかうってきめたのは、わたしだから・・・。」

 

「蛍、本当に怖くない?」

 

 要が心配そうに声をかけてくれた。

 それだけでも、蛍にとっては勇気へと変わるのだ。

 

「・・・こわいよ。

 こわいけど、みんながいてくれるから、だいじょうぶ。

 みんながいてくれるから、わたし、こわくても、こわくないよ。」

 

「蛍ちゃん・・・。」

 

 要、雛子、チェリー、ベリィ、レモン。皆が側にいてくれたら、どんな恐怖だって乗り越えていける。

 蛍はそう思い、これからの戦いに向けて、決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

「キュアシャイン!キュアシャイン!キュアシャイン!!」

 

 モノクロの世界。リリスは一心不乱に爪を払っていた。

 まさかここまで相手にされないとは。

 あの子はどこまでこちらを見下せば気が済むのだ。

 

「はあっ、はあっ・・・。

 ふふっ、今のうちに目を背けておくといいわ。次はこうはいかない

 ・・・あなたも、」

 

 ずっとキュアシャインのことばかりを考えてきた。

 やつをこの手で堕とすことだけを考えていた。

 脳裏に浮かぶのは常にキュアシャインの姿しかない。

 キュアシャインのことしか見ることが出来ない。

 キュアシャインのこと以外考えられない。

 リリスの心に渦巻く『憎悪』は、リリスの全てを支配し始めていた。

 

「あなたも、あたしと同じにしてあげるわ・・・。キュアシャイン。」

 

 邪悪な笑みを浮かべながら、リリスはキュアシャインの名を叫び続けるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 次回予告

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

「わっ、かなめちゃんげんきいっぱいだね!」

 

「次の部活で練習試合のレギュラー選抜が決まるからな!

 今のうちに気合入れてかんと、勝てる勝負も勝てないってもんよ!」

 

「空回りして坂から転げ落ちないでよ?」

 

「そんなヘマせんよ。それに、勝てば嬉しくて楽しい、負けたら悔しくて楽しい。

 それを忘れるつもりはないからね。」

 

「前から気になってたんだけど、それってやっぱりあの人の影響よね?」

 

「あのひと?」

 

「要にとって、とっても大切な人。」

 

「そんな言うほどじゃないよ。あのバカ兄は。」

 

 次回、ホープライトプリキュア 第7話!

 

「兄妹の絆!要と瞬、約束の思い出!」

 

 希望を胸に、がんばれ、わたし

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