ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第13話・Aパート

フェアリーキングダム大決戦!世界に響け!希望の鐘!

 

 

 

巨大化し、怪物へと変貌したアンドラスを前に、要は驚愕を隠せないでいた。

さっきまで人の姿をしていた者が、肉体を膨張させ変移していく様は、まるで生物の成長を早送りで見せられたかのように生々しく悍ましいものだ。

思わず口元を抑えかけるほどのショッキングな光景だったが、アンドラスが巨大な腕を振り上げるのを見て我に返る。

 

「このアンドラスの名の下に果てるがいい!プリキュア!!」

 

壊れた機械のようにくぐもった声で叫びながら、アンドラス腕を振り降ろしてきた。

要たちはそれを跳躍で回避し、一旦距離を開ける。

いつまでもアンドラスの姿に気を取られている暇はない。

 

「キュアブレイズ!キュアシャイン!作戦に変更はないよ!

こいつはウチらが引き受ける!2人は早く大広間を目指して!」

 

そう2人に呼びかけながら、要はアンドラスの元へと飛んでいく。

そして雷を纏った拳を突き出すが、アンドラスは巨大な手のひらでそれを受け止めた。

 

「小娘が、この程度の力で勝てると思うな!」

 

巨体に似合わぬ速度で拳を振るいつける。

要は体を捻り、回転を加えた拳をアンドラスの拳へぶつけた。

両者の力がぶつかり合うも、要は徐々に苦悶の表情を浮かべ始める。

 

「キュアスパーク!」

 

「キュアシャイン!急いで!」

 

心配そうな表情を浮かべてキュアシャインがこちらを見るが、キュアプリズムが背を押す。

そしてキュアブレイズに目で促され、2人は大広間へと向かって行った。

 

「させるか。」

 

2人の動向に気づいたアンドラスが目を反らし、もう片方の手で要を叩き落とそうとする。

 

「ウチの力を甘く見るなあああ!」

 

だが要は全身から雷を放電し、アンドラスの拳を跳ね除ける。

 

「小癪な。」

 

アンドラスは翼を大きく広げ、無数の羽を矢のように要へと放った。

だが要の周囲にバリアが展開され、放たれた羽は全て跳ね返され地へと落ちていく。

 

「ウチらって、聞こえなかったの?

キュアブレイズたちの邪魔はさせないから。」

 

一旦地上に降りた要は、背後からかかる頼もしい言葉に少しだけ安堵した。

 

「いいだろう、望み通りまずは貴様らから相手にしてやる。

だがな。」

 

だがアンドラスの言葉とともに、要たちの周囲をソルダークの群れが囲い始めた。

 

「こちらも1人で相手をするつもりは無い。

これだけの数のソルダークと我を相手にどれだけ持つかな?」

 

強大な力を持つダークネスの敵将とソルダークの群れ。

絶望的な戦力差を目の当たりにしながらも、要はキュアブレイズが鐘を鳴らすまでは持ちこたえて見せると腹をくくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍は隣に並ぶキュアブレイズとともに、迎え来るソルダークの群れをいなしながらひたすら前へ前へと進んでいく。

 

「ガアアアアアアアツ!!!」

 

右方向からソルダークの雄叫びが聞こえるが、蛍は怯まずにソルダークに体当たりした。

そして一瞬、ソルダークがよろけた隙を突きキュアブレイズが正拳で殴り飛ばす。

続いて正面、左方向からソルダークがそれぞれ飛んできた。

蛍は跳躍し、前方に立つソルダークの頭部を思い切り踏みつけ、その反動で宙を飛ぶ。

キュアブレイズは左方向から迫るソルダークの腹部に強烈な肘鉄をお見舞いした。

そして蹲るソルダークを蛍が上から踏みつけ、キュアブレイズは先ほど蛍が頭を踏み台にしたソルダークを蹴り飛ばす。

それでも尚ソルダークたちは起き上がり、再び迫ってくるが、蛍たちも距離を開けるように大広間へと疾走する。

あの程度の打撃では傷一つ付けることも出来ないが、それでも着実に大広間へと近づいている。

続いて2体のソルダークが縦に並び突撃してきたが、先頭に立つソルダークの足元に蛍がしがみついてバランスを崩させ、キュアブレイズが後方のソルダークへと膝蹴りをお見舞いした。

そして蛍はしがみ付いた足から離れ、膝蹴りを受けて仰け反るソルダークを跳び箱のように飛び越える。

その反動で前方へと傾くソルダークの背中を、キュアブレイズが勢いよく蹴り飛ばした。

最初に蛍に足をしがみ付かれバランスを崩したソルダークへと直撃し、2つの巨体ははるか後方へと飛んでいく。

そして後方から追いかけて来たソルダークたちに直撃し、複数の巨体がまるでボーリングのピンのように一斉に散開した。

2人は呼吸を合わせて連携しながら、迫りくるソルダークの群れを蹴散らしていく。

 

「この通りを抜ければ大広間へと着くわ!」

 

キュアブレイズの言葉に、ようやくこの鬼ごっこの終わりが見え始めたその時、

 

「え・・・?」

 

全身に広がる寒気とともに、覚えのある気配が蛍に警告を促す。

気配のある方へ目を向けると、時計塔の上に翼と尾を生やした少女の姿が映った。

 

「キュアシャイン!!」

 

その少女は自分の名前を怒りを込めながら叫び、こちらへと飛んできた。

 

「リリス!」

 

自分たちの世界を侵略していたはずのリリスがこの世界にいることに蛍は驚愕する。

余り考えたくはないが、まさか自分を追ってきたのだろうか?

 

「どうしてこんなところに!?」

 

「あなたがどこへ行こうとも、あたしはあなたを逃さない!

あなたを堕とすためなら、どこへでも追いかけてやる!!」

 

そんな嫌な予感が早くも的中する。

そしてリリスは鋭利な爪をこちらに向けながらこちらへと突撃する。

蛍はその一撃を寸でのところでかわした。

 

「キュアシャイン!」

 

隣に並ぶキュアブレイズが心配そうに声をかける。

世界を飛び越えてまで追いかけてくるなんて、よっぽどリリスは自分のことを憎いみたいだが、状況が最悪だ。

キュアスパークたちがアンドラスの足止めをしている間に何としても希望の鐘を鳴らさなければならないと言うのに、目前まで迫っての妨害だ。

それもフェアリーキングダムを救いにきたことを妨害するためであれば、行動隊長として真っ当な行動とも言えるのだが、彼女の狙いは変わらず自分だけだ。

どこまでもしつこく、そして容赦のないリリスに対して、蛍も怒りを燻らせていく。

こうなったら徹底的に無視するだけだ。

 

「だいじょうぶ!いそごうキュアブレイズ!」

 

「キュアシャイン!またあたしを無視するつもり!?」

 

「も~!しつこいな!

いまはあなたのあいてなんかしてるひまはないの!!」

 

「っ!?」

 

リリスが驚愕の表情を浮かべる。

蛍自身、自分がこんな暴言が言えるなんて思わなかったが、この世界を救いたいと強く願うキュアブレイズの思いには目もくれず、ただの私怨で邪魔をしに来たリリスのことが許せなかった。

蛍はこれまで以上に強くリリスのことを拒絶する。彼女の相手なんかをしている暇はないのだ。

 

「だったらいいわよ!

力ずくでもあたしのことしか見えないようにしてやるわ!!」

 

だがこんなことで諦めるくらいなら、わざわざ世界を飛び越えてまで追いかけては来ないだろう。

蛍は内心、分かり切っていたリリスの応対を完全に無視し、大広間へと向かおうとする。

だが次の瞬間、いつの間にかリリスが目の前に回り込んでいた。

 

「えっ!?」

 

キュアブレイズも反応できずにいたのか、彼女の表情には驚きが見られる。

その虚を突かれ、リリスが爪を蛍に突き立てる。

蛍はそれを反射的にガードするが、次の瞬間強い衝撃が蛍を襲い、足もとがめり込み粉塵を巻き起こした。

 

「キュアシャイン!」

 

「ガアアアアアアアアッ!!」

 

キュアブレイズがリリスに攻撃を仕掛けようとするが、直後複数のソルダークが雄叫びと共に彼女に襲い掛かる。

キュアブレイズはそれを跳躍で回避するも、そのために自分と距離が離れてしまう。

 

「いつもより、つよい・・・。」

 

リリスは行動隊長の中でもスピードに優れているが、パワーはそこまででもなかったはずだ。

だが今リリスから受けている攻撃は、そのサブナックに匹敵するか、あるいはそれ以上の力を伴っている。

そして一瞬で正面に回り込んできたスピードも不自然だ。

あんな速度で動いたところは今まで見たことがない。

 

「絶望の闇が満ちているこの世界では、あたしたちの力は何倍にも高められるわ。」

 

そんな蛍の疑問にリリスが答える。

この世界に満ちる絶望の闇は、ソルダークを強化していた。

同じダークネスである行動隊長もその影響を受けているのだろう。

だがソルダークですらキュアスパークの打撃が通用しないレベルにまで強化されるのに、行動隊長となれば、その度合いはソルダークの比ではないだろう。

リリスは強引に爪を振り切り、足もとの石垣を抉り壊した。

 

「きゃあっ!」

 

その衝撃で蛍は大きく飛ばされる。

敵うはずがない。

ただでさえこれまでの戦いでリリスの足元にも及ばなかったのに、今のリリスの力は何倍にも高まっているのだ。

だが彼女の強さに恐れをなしている暇もない。

だが敵わぬと分かれば打つべき手は1つだ。

 

「キュアシャイン?」

 

やはりリリスのことは無視する。一刻も早く大広間へと向かうのだ。

キュアブレイズの話によれば、ここの通りを抜ければいいはずだ。

蛍はリリスのことはわき目も振らず、ただ真っ直ぐに大広間へと目指す。

 

「っ!?あたしをみなさい!キュアシャイン!!」

 

そんな蛍の前に、リリスが再び回り込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

リリスの乱入を受けてキュアシャインと分断されてしまったキュアブレイズは、一刻も早く彼女の元へ合流しようとする。

だが自分を囲むソルダークがそれを許さなかった。

1体、また1体と次々とソルダークが襲いくる。

 

「邪魔よ!」

 

右から迫るものを殴り飛ばし、左から迫るものに回し蹴り炸裂させる。

続いて2体が同時に同じ方向から襲いくるが、キュアブレイズは両手に火球を作りだし、それを投げつけた。

火球は2体のソルダークの頭部に着弾し爆発、そのまま地上へ墜落するソルダークには目をくれず、キュアブレイズはキュアシャインの方を見る。

すると彼女は、リリスと交戦しながらも少しずつ大広間への道を進んでいた。

リリスのことは最低限の相手しかせず、ひたすら進み続けている。

彼女は自分の思いを叶えようと必死に戦ってくれている。

そしてそのための選択肢も誤らず、目前に迫る驚異よりも、今成すべきことにのみ目を向けてくれている。

 

「キュアシャイン!」

 

そんなキュアシャインの思いに応えたい。

だがそう思った矢先、ソルダークが起き上がり再びキュアブレイズに飛び掛かってきた。

キュアブレイズは迫りくるソルダークの1体の攻撃を回避し、次なる1体の攻撃を素手で受け止める。

そして上空から続く1体の攻撃を火の盾で防ぐが、さらに左右から2体のソルダークがひっきりなしに襲いかかってきた。

キュアブレイズはやむを得ず、全身から炎を噴出して火の壁を作りソルダークをけん制する。

そして素手で受け止めたソルダークをいなして、火の壁から脱出した。

何とか脱出に成功したものの、強化されたソルダークを複数怯ませられるほどの力を使ったのだ。

その分の消耗も大きく、キュアブレイズは息を切らす。

わずかな時間、キュアシャインの方へ目を向けただけでも、ソルダークの猛攻を受ける隙を与えてしまい、希望の光を大きく使ってしてしまった。

まだこの先戦いは続くと言うのに、体力と気力が持つかと不安に駆られる。

ほんの少し前、キュアシャインと共に戦っていたときはそんな不安も抱かなかったのに、とここでキュアブレイズは、ホープライトプリキュアが結成されたときのことを思い出した。

あの時キュアシャインは、弱い自分は無茶をしなければキュアスパークとキュアプリズムの隣に並ぶことができないと叫び、ソルダークの隙を作るために果敢に挑み、行動隊長を1人で足止めした。

彼女自身、自分の力について誰よりも理解し、自覚していたからこそ、身を挺して囮役を引き受けてきたのだ。

そんな彼女とともに戦えたことで、キュアブレイズはキュアシャインの有難みを実感した。

彼女が率先してソルダークを引き付け隙を作ってくれていたので、キュアブレイズも必要最低限の力のみで敵をいなすことができていたのだ。

リリスの乱入がなかったら、大広間へ辿りついても今のように息を切らすことはなかっただろう。

確かにキュアシャインにはソルダークと正面から戦えるだけの力も、自分の意思で浄化することもできない。

だがこれまでの戦いも、キュアシャインが囮となって敵の注意を引き付けてくれたから、キュアスパークは存分に力を振るうことができ、キュアプリズムはサポートに専念できるのだ。

そんな彼女の力も覚悟も知らず、彼女の表面的な能力しかとらえず、足手まといだ、邪魔だと酷いことを言ってしまった。

かつてキュアスパークとキュアプリズムが自分に返してきた言葉、キュアシャインは重要な戦力と言うのは、紛れもない事実だったのだ。

その言葉の意味がようやくわかり、同時にキュアブレイズは深い罪悪感を抱くが、それを無理にでも心の内に閉じ込める。

彼女への謝罪は、この戦いが終わってからいくらだってすればいい。

今はキュアシャインを助けることを最優先としよう。

絶望の闇が満ちたこの空間は、行動隊長の力さえも大きく高めてしまう。

かつてこの世界から脱出するとき少しだけ彼女と相対したが、あのまま戦っても勝てる見込みはなかっただろう。

重要な戦力たるキュアシャインを、今ここで失うわけにはいかないのだ。

 

「逃がさないわよ!キュアシャイン!!」

 

リリスの爪がキュアシャインを捉え、目前まで迫っていたところに、キュアブレイズは後方から追ってくるソルダークの群れに目もくれず、リリスの爪をめがけて火球を飛ばした。

火球は狙い通りに着弾し爆発する。

あの程度でダメージを与えられるとは思えないが、爆炎が目くらましとなりリリスは目を瞑った。

その隙にこちらに気づいたキュアシャインが、安堵の笑みを浮かべてこちらに向かい手を差し出す。

キュアブレイズは差し出された手をしっかりと握り、彼女をこちらへと引き寄せた。

 

「大丈夫?キュアシャイン?」

 

「うん、へーきだよ。

ありがとう、キュアブレイズ。」

 

こちらの言葉に、キュアシャインは無垢な笑顔で答えた。

一切の邪気を感じない、彼女の心の底からの感謝の気持ちがキュアブレイズに伝わってくる。

少し気恥ずかしくなり、キュアブレイズは僅かにキュアシャインから顔を背けるが、そんな自分を見てもキュアシャインは笑みを絶やさなかった。

 

「っ!?キュアシャインに近づくな!!」

 

そんな自分たちが癪に障ったのか、リリスが怒声をあげながら飛んでくる。

前方にはリリス、後方にはソルダークの群れ。

だがもうキュアシャインの側を離れるつもりはない。

彼女と協力して、大広間へと向かうのだと、キュアブレイズは決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

雛子は迫り来るソルダークの攻撃を捌きながら、アンドラスに立ち向かうキュアスパークをサポートしていた。

それでいて周囲に蔓延るソルダークたちへの警戒も怠らない。

最初はソルダークたちの一斉攻撃を警戒していたが、周囲のソルダークは迂闊な攻撃には出ず、アンドラスと対峙するキュアスパークが隙を見せたところを見計らって攻撃を仕掛けて来た。

それも複数で仕掛ける際も同時攻撃ではなく、間隔を開けての波状攻撃だ。

どれだけの数の敵がいようと、全ての攻撃が同一のタイミングで飛んでくるのなら、プリキュアの能力を持ってすれば、それに合わせて防御ないし回避行動に移ることで、全ての攻撃を捌くことができる。

全方位から針の糸を通す隙間もないほどの密度の高い攻撃が飛んでこない限りは、多方向からの同時攻撃を凌ぐことはそこまで難しくないのだ。

だが波状攻撃は初撃を捌けても次なる一手が絶え間なく飛んでくる。

それもこちらの行動を確認してから次の一手を取ることができるし、最悪の場合、こちらの次の行動を読まれた上での攻撃まで飛んでくるのだ。

スピードに長けたキュアスパークとは言え、アンドラスと戦いながらそれを全て捌ききるのは困難を極めるし、こちらもソルダークの攻撃を防ぎかわしながらなので、キュアスパークのサポートにばかり気を回すことも出来ない。

 

「はあああっ!」

 

そんな中でもキュアスパークは雄叫びと共に果敢にアンドラスに攻め込んでいく。

アンドラスはその巨大な手のひらでキュアスパークの攻撃を受け止め、そのタイミングを目掛けてソルダークが1体キュアスパークへと飛び掛かる。

さらにキュアスパークがソルダークに気を取られている隙に、アンドラスが手のひらを閉じ始めるが、キュアスパークは手のひらを足蹴にしてその場を飛び退いた。

そして向かう先は彼女目掛けて飛んでくるソルダークのいる方向。

飛び退いた勢いのまま全身に雷を纏い、ソルダークへと突撃した。

キュアスパークの体当たりを受けたソルダークははるか後方へと飛ばされるも、そこで足を止めた彼女へ突撃しようと、他のソルダークが身構える。

だが雛子はその瞬間を逃さず、飛び行こうとするソルダークの前方に盾を展開する。

勢いよく頭を打ち付けたソルダークはその場で俯けに倒れる。

今度は雛子の元へ複数のソルダークが襲い掛かる。

雛子は正面からの突撃を盾で遮り、続いて左右から来るソルダークの攻撃に対してバリアを展開する。

すると後方にいるソルダークが一斉に雛子に飛び掛かった。

バリアを展開してしまったために雛子はこの場から動くことができない。

同時攻撃で威力を集中させてバリアを砕き、一気に包囲殲滅するつもりなのだろう。

雛子は展開したバリアを意図的に爆発させ、周囲のソルダークの目を眩ましその隙をついて脱出する。

そして比較的安全の位置まで距離を置き、再びキュアスパークの方へと向く。

自分が目を離した一瞬で戦況が変わっていないかと不安になったが、幸運にもキュアスパークはまだアンドラスと対峙しており、その足元には複数のソルダークが地に倒れ伏していた。

単独でアンドラスと戦いながら複数のソルダークをあしらえる当たりさすがキュアスパークと言いたいところだが、一方で先ほどのソルダークの猛攻が全てアンドラスの指示によるものだとしたら、彼はキュアスパークと戦いながらもソルダークに指示を出せるだけの『余裕』があることになる。

それに先ほどから洗練されたソルダークの軍勢による波状攻撃も妙なものだ。

行動隊長が名を呼ぶだけでソルダークの行動を制御できるように、アンドラスは何らかの手段でソルダークに対して指示を送っているのかもしれない。

それに今は地に倒れているソルダークもいずれすぐに起き上がってくる。

戦況は一向に良くなる気配はなく、このまま戦い続ければこちらの体力と気力は消耗する一方なのでむしろ悪くなる。

それでも雛子は弱音を決して吐かず、意識を戦いにのみ集中させる。

言葉通り絶望的な戦力差だ。

浄化技でソルダークを1体倒したところで状況は何も変わらない。

むしろこちらの体力を大きく消耗してしまうので現状はデメリットにしかならない。

もしもこの作戦が、この一帯のソルダークの掃討なのであれば、とっくに敵わぬと見て絶望の闇に飲まれていただろう。

だが目的は掃討ではない。

キュアブレイズが大広間まで辿りつき、希望の鐘を鳴らすまでの間の時間を稼ぐだけだ。

それならば言葉通り、希望がある。

アンドラスからキュアブレイズを逃すことに成功した今、キュアスパークと協力して時間を稼ぐことができれば勝ちなのだ。

だが雛子は2人の様子が気になり、気配を探ってみると、覚えのある闇の力も一緒に探知した。

 

(まさか、リリスがこの世界に来ているの?)

 

あのタチの悪いストーカーはがキュアシャインを追ってわざわざこの世界まで来たと言うのか?

悍ましいほどの執念だが、キュアシャインの気配の近くにはキュアブレイズの気配もあり、2人が引き離されていると言うことはなさそうだ。

それに2人とも大広間へと反応を近づいている。

このまま進めば作戦通りに希望の鐘まで辿りつくことができると思ったその時、

 

「ちっ、リリスのやつめ。足止めに失敗したか。

まあいい、貴様らとのお遊びはここまでだ。」

 

アンドラスがまるでこの戦いを児戯だとでも言わんばかりに切り捨て、その大翼を羽ばたかせて突風を引き起こした。

突風はキュアスパークを飲み込み、地に倒れるソルダーク諸共彼方へと吹き飛ばす。

 

「うわあああっ!」

 

「キュアスパーク!」

 

強大な絶望の闇を纏った突風を前にキュアスパークは成す術もなく飛ばされてしまう。

雛子は彼女の元へと飛び立ちその体を受け止めるが、アンドラスが狼の口を向けてきた。

そして狼の口に凝縮された絶望の闇が解放され、巨大な光線へと変わり雛子の元へと放たれる。

感じられる闇の力は、これまでのどのソルダークよりも、行動隊長のものよりも強力で、雛子はキュアスパークを抱えたまま、ありったけの力を込めて盾を展開し光線を遮断する。

だがアンドラスは攻撃を止めなかった。

狼の口から放たれ続ける光線は絶えることなく雛子の盾を蝕んでいき、やがて少しずつ盾にヒビが入り始める。

だが雛子も希望を鈍らせず、盾に入ったヒビを修復していった。

 

「キュアスパークにキュアプリズム、中々の力と褒めてやろう。

それを評して貴様らに1つチャンスを与えてやる。」

 

攻撃を続けながらアンドラスが称賛の言葉を口にする。

だがその口調はおよそ人を褒めているようには思えなかった。

むしろこちらを小バカにしているかのような、そんな口調だ。

 

「追えるものなら、追ってくると良い。その時は面白い余興を見せてやろう。」

 

その言葉とともに、アンドラスは盾に干渉している光線の先端を爆発させた。

爆発を前に雛子もキュアスパークも思わず目を瞑るが、その隙にアンドラスは大翼を羽ばたかせ、その巨体で空を飛び去っていく。

 

「しまった!」

 

キュアスパークが叫び、雛子もアンドラスの飛び去る進路を見て驚愕する。

あの方向は大広間へと向かう道、つまりやつはキュアブレイズとキュアシャインの元へと向かったのだ。

そして追うことができたら面白い余興を見せてやると言う言葉。

やつはキュアブレイズかキュアシャインを使って余興をするつもりだ。

その余興が何を意味するのかは、ダークネスの性質を鑑みれば容易に想像がつく。

 

「急いで向かわないと!」

 

焦る雛子だが、キュアスパークが自分の肩に手を添える。

 

「キュアスパーク?」

 

「周り見てみ。」

 

そして彼女に促されるように周囲を見渡すと、これまで以上の数のソルダークが自分たちを囲んでいた。

アンドラスの言う、追えるものなら追って見ろとは、この数のソルダークを撒けるものなら撒いてみろと言う意味なのだろう。

 

「キュアスパーク、あなたソルダークに追いつかれない自信はある?」

 

だが、そもそもこちらはソルダークの相手なんてするつもりはない。

 

「誰に向かってものを言ってるん?」

 

そしてキュアスパークも頼もしい言葉と笑みを見せてくれた。

どれだけ数がいようと関係ない。

それこそアンドラスの言う通り、追いつかれなければいいだけだ。

 

「決まりね。

進路を邪魔するソルダークは私が叩き落すから、キュアスパークは全速力でお願い!」

 

「おっしゃ!」

 

その掛け声とともにキュアスパークは雛子の手を強く握り、可能な限りの速度でアンドラスの後を追う。

ソルダークが前に出れば一旦減速し、雛子が前方に盾を展開して叩き落し、キュアスパークはそれを足蹴に再び加速する。

その後も、四方八方から飛び交うソルダークたちを雛子が盾で落としてキュアスパークが盾を足蹴に減速した分を取り戻す、を繰り返していき、2人はアンドラスに少し遅れて大広間へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

チェリーたちは転送術を使い、大広間に続く路地裏の細道へと辿りつく。

あの場にいたところで足手まといにしかならないが、だからと言って、プリキュアの周囲をソルダークたちが囲っているあの状況では、彼女たちをこちらに呼ぶ暇もなかった。

だからせめて一足先にここに着き、彼女たちの到着を待つことにした。

周囲にソルダークの気配を感じるが、この狭い路地なら身を隠すには十分だし、見つかったとしてもやつらも無理に追って来れないだろう。

チェリーたちは大広間へと通じる道の出口まで歩いて進む。

途中路地の隙間から街の様子が見え隠れしたが、絶望の闇に満ちた人と妖精が道端に倒れ伏す、あるいはアテもなく徘徊しているばかりの心苦しい状況ばかりが目に映る。

そして出口まで辿りつき僅かに顔を覗かせると、目の前にはモノクロに変わり果てた大広間の景色が拡がっていた。

その中央には、円形のアーチに吊るされた大きな鐘があった。

年に一度、その年の国の繁栄を願って鳴らす希望の鐘だ。

自分たちフェアリーキングダムに住む人々にとって、その鐘の音そのものが希望の象徴だ。

その鐘を、キュアブレイズが希望の光を込めて響かせることができれば、この街にいる人たちが希望を取り戻すきっかけとなる。

キュアシャインとキュアブレイズが力を合わせて考案したその作戦を、チェリーたちもまた信じていた。

そしてキュアブレイズの思いを叶えるためにも、自分たちも希望を捨てるわけにはいかない。

 

「震えているけど、大丈夫チェリー?」

 

するとアップルが心配そうな表情でこちらを伺ってきた。

 

「無理もないさ。俺だって不安だよ。

本当に上手くいくかどうかの確証もない。

それでも、あの子たちを信じるって決めたのは俺たちだ。」

 

ベリィが、まるで自分自身に言い聞かせるようにそう語りかける。

 

「大丈夫、きっと上手くいくよ~

だってキュアブレイズが、みんなに力を貸してくれてるんだもん。」

 

そしてレモンは変わらぬマイペースな口調がチェリーの緊張をほぐしてくれた。

 

「そうよね、キュアブレイズが、ようやくプリキュアが4人揃ったのだもの。

大いなる奇跡は、必ず起こる。」

 

伝説の戦士である4人のプリキュアが、黒き闇が空を覆うこの地に降りたのだ。

そしてこの地に来て初めて、4つの光が1つの元に集った。

強い力と思いを備えたあの子たちが、心と力を1つに合わせて戦ってくれている。

そんなあの子たちを信じて、自分たちの出来る限りのことをしよう。

 

「あっ、見て。キュアブレイズが・・・

えっ・・・?」

 

するとキュアブレイズの姿を確認したレモンが言葉を失う。

チェリーたちもレモンと同じ方に目を向けて絶句する。

視界の先にはキュアブレイズと、リリスともつれ合うキュアシャイン、そしてその背後から巨大な怪物が空を覆うかのように飛翔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キュアブレイズはキュアシャインと協力して、迫るリリスとソルダークの群れを撒きながらついに大広間へと辿りついた。

大広間には何人もの人が俯き、倒れ、徘徊しているが、その光景に心を乱すことなく、キュアブレイズはより強く決心する。

 

(みんな、もうすぐ、もうすぐで必ず助けて見せるわ!)

 

視線の先には円形のアーチ、そこには希望の鐘があった。

この世界から逃げて、いや、世界の大半を闇に失ったときからずっと思い描き続けて来た願い。

フェアリーキングダムから絶望の闇を祓い、人と妖精が手を取り、共に生きていく素敵な世界、かけがえのないこの世界をあるべき姿に戻したい。

この世界の人たちのため、ともに逃げ延びたチェリー、ベリィ、レモン、アップルのため。

そして、この世界が大好きな自分のために。

あの希望の鐘を鳴らしても、何も変わらないかもしれないと言う不安は今でもある。

だが今は自分の力を、プリキュアの希望の光を信じてみたい。

希望の光は思いの力。

自分を信じて願いを強く持てば、それはきっと形になる。

それに半年前とは違い、今は共に戦ってくれる仲間がいるのだ。

あちらの世界で誕生した3人のプリキュアが、自分と同じ思いを抱いて一緒に戦ってくれている。

それは、キュアブレイズに自分を信じる強さを与えてくれたのだ。

彼女たちの言葉がなければ、昨日の自分のように、この世界を救えるのだと心から信じることはできなかったかもしれない。

だけど今、4人のプリキュアが思いを1つにして、この世界から絶望の闇を祓うと言う大いなる奇跡をもたらそうとしている。

そう、自分を信じることができれば、伝説の通りの奇跡を起こせるかもしれない。

キュアブレイズは思いを強く拳に込めて、真っ直ぐ希望の鐘へと向かって行く。

その時、

 

「やはり狙いはその鐘か。」

 

「えっ?」

 

上空よりくぐもった声が聞こえる。

見上げるとそこには20mを超える巨体が大きな翼を羽ばたかせて空を隠していた。

 

「アンドラス!」

 

名を叫ぶと、アンドラスは指の爪を立て手を振り降ろしてきた。

キュアブレイズはそれをかわしながら一度距離を開けて足を止める。

同時にキュアシャインがリリスに追いつかれ、もつれ合いながら地面を転がる。

 

「キュアシャイン!」

 

キュアシャインの援護にまわろうとしたが、自分の頭上からアンドラスが降下し、四つの足で踏みつけに来た。

寸でのところでかわしたキュアブレイズは、かつてアンドラスがいた方向の気配を探る。

キュアスパークとキュアプリズムと戦っていたはずのアンドラスがこちらに来たことから、一瞬最悪の事態を想定したが、2人の希望の光を探知することができ、それも多数のソルダークに囲まれ流れはあるが、少しずつこちらへと向かっていた。

状況こそあまり良いとは言えないものの、一先ずは無事であることに安堵するも束の間、アンドラスがこちらを向きフクロウの目で睨み付けて来た。

一刻も早く鐘の音を鳴らしたいし、リリスと戦うキュアシャインにも、ソルダークに囲まれているキュアスパークとキュアプリズムの援護にも回りたいが、目の前にいる怪物がそれを許してくれないだろう。

キュアブレイズはアンドラスと対峙する覚悟を決め、火球を目の前に投げつけた。

火球はアンドラスの胴体に直撃し爆発するも、アンドラスは微動だにしない。

この程度の火力では一切のダメージが通らない。ならばと、キュアブレイズは両足から炎を噴射し、推進力に変えてアンドラスへ突撃する。

だがアンドラスは巨体に似合わぬ機敏な動きで飛翔し、キュアブレイズの突撃を回避した。

そして右手を振り上げ、キュアブレイズの元へ振り降ろす。

キュアブレイズは片足を横に向けて炎を噴射し、空中で軌道を変えてその場を離脱、さらに空を蹴り宙を舞い、アンドラスの頭上を取る。

そして全身に炎を纏い、アンドラスの頭上へと突撃した。

 

「はああっ!!」

 

まるで隕石のように突撃するキュアブレイズに対して、アンドラスは距離を開けようとするが間に合わず、その攻撃を顔面に受ける。

さらにキュアブレイズは纏っていた炎の力を全面に解放し、アンドラスの顔を中心として大爆発を引き起こした。

大広間全体に巻き起こった爆風を前に、リリスとキュアシャインも驚き振り向く。

そして爆炎の中、離脱したキュアブレイズは距離を開けて地面に着いた。

荒い呼吸を整えて爆心地の方へ目を向ける。

 

「ククク、それで終いか?キュアブレイズ。」

 

だがそんな自分の疲れをあざ笑うような声とともに、爆炎の中からアンドラスが姿を現す。

浄化技ほどでないにせよ、希望の光を大きく消耗した一撃を受けたはずなのに、まるで応えた様子を見せていなかった。

行動隊長の上に立つものとはいえ、あまりにも大きな力の差を前に、キュアブレイズは歯噛みをするも、アンドラスが跳躍してこちらに向かってきた。

悔しがる間もなく、振り降ろされる拳を避けるも、続けざまにアンドラスは両翼を羽ばたかせて突風を引き起こした。

矢継ぎ早に繰り出された突風の範囲外へと逃げることが出来ず、キュアブレイズは吹き飛ばされ、煉瓦の家に激突する。

さらにアンドラスは狼の口を開き、絶望の闇を光線上に変えて解き放った。

キュアブレイズはすぐさま炎の盾を生み出すも、放たれた膨大な絶望の闇を受け、炎の盾は脆くも砕け散った。

そして無防備となったキュアブレイズは光線の直撃を受け、背後の家と共に爆発に飲み込まれた。

 

「「キュアブレイズ!」」

 

こちらに駆けつけたキュアシャインとキュアスパークから叫び声が上がるも、片やリリスに邪魔をされ、片やソルダークに囲まれた状態のため、救出に向かうことも出来ない。

そしてキュアプリズムもキュアスパークの援護と自身の身を守るのに手いっぱいだった。

爆発が収まり、瓦礫の下敷きとなるキュアブレイズ。

だがその闘志はまだ尽きず、瓦礫から這い出てアンドラスを睨み付ける。

 

「まだ・・・終わってないわ。私は・・・この世界を・・・。」

 

救いたい、そう言おうとしたその時、

 

「お前がここに来ることはわかっていた。」

 

「え・・・?」

 

アンドラスから信じられない言葉が飛んできた。

 

「だが、わかっていたとはいえ驚いたよ。

まさか貴様が本当に、こんなつまらぬ希望に縋るとはな。」

 

話ながらアンドラスは希望の鐘へと近づいていく。

自分がこの地を訪れて、希望の鐘を鳴らすことを彼は想定していた。

だから妨害のために、キュアスパークとキュアプリズムを撒いてこの地へと飛んできたのだろう。

それならば、今鐘の元へと近づくアンドラスが何を目論んでいるのか、キュアブレイズは最悪の事態を想定する。

 

「させ・・・ない。」

 

あの鐘を鳴らしに来たことがバレているのなら、やつの目的は鐘の破壊だ。

そうはさせまいと心を強く持つが、傷ついた体は思うように言うことを聞かず、立ち上がることさえ困難な状態だった。

そしてアンドラスが鐘の元へと辿りつき、その拳を振りかざす。

 

「やめて!」

 

キュアブレイズの叫びも虚しく、振りかざしたアンドラスの拳は真っ直ぐ鐘へと打ち付けられる。

 

 

ゴーン

 

 

だが直後、鐘の音が広間に響き渡った。

あまりにも想定外の状況が訪れ、キュアブレイズは混乱する。

なぜ彼がこちらの目的を果たすような真似をしたのか理解できなかった。

希望の鐘を鳴らすことを、ダークネスが行うメリットは何もないはずだ。

 

「・・・えっ?」

 

だがここでようやくキュアブレイズは、今の事態を認識する。

アンドラスによって鐘の音が鳴らされたのにも関わらず、街行く人々は変わらぬ姿のままだった。

希望の鐘は、ただ虚しく大広間に響き渡るだけだったのだ。

 

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