ホープライトプリキュア   作:SnowWind

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第23話・Aパート

絶望の果て!2人のラスト・レクイエム!

 

 

 

 リリスと蛍を飲みこみ、巨大な女神像へと姿を変えたダークシャインを、サブナックは複雑な表情で見上げていた。

 その身から放たれる絶望の闇は、瞬く間に世界中に蔓延し、至るところから新たな絶望の闇が生まれていくのが感じ取れる。

 最早この世界は、ダークネスの手に堕ちたも同然だ。

 にもかかわらず、サブナックの表情は晴れないままだった。

 そんな彼の脳内に、アモンの声が聞こえてくる。

 

 

 リリスが絶望したそうだな。

 

 

 淡々とした状況確認。

 ただそれだけを告げるアモンに、サブナックは僅かに声を震わせながら問いかける。

 

「アモン様、あなたはこうなることを知っていたのか?」

 

 

 知っていた、とは違うな。

 だが十分に予期していたさ。

 あの子がかの地の少女と接触したことで心が芽生え始めていたのは、君たちだって気づいていただろう?

 

 

 悪びれもせず、躊躇いもせず、あっさりとアモンはこの状況を予期していたことを認める。

 

「ならばなぜ、それをリリスに直接伝えなかったのですか!?」

 

 そんなアモンの返答にサブナックは声を荒げる。

 リリスが出撃する前、アモンはリリスに、希望と絶望の因果を考えろ、と忠告していた。

 それがこの事態を予期したうえでの言葉だとしたら、なぜ回りくどい忠告などせずに、希望を抱けば絶望が生まれると、それだけを伝えようとしなかったのだ?

 

 

 伝えれば、リリスを救えたとでも思っているのかい?

 もしもあの時、直接その事を伝えていれば、リリスはあの場で希望を自覚し、そして絶望していただろう。

 そうなればただリリスを失うだけの結果に終わっていた。

 それくらい、君にだって分かっているはずだよ。

 

 

 まるでこちらの心境を読んだかのような言葉に、サブナックは歯噛みをする。

 だがアモンは本当に、リリスを守るために忠告したのだろうか?

 サブナックは脳裏によぎった新たな疑問を、隠すことなくアモンへとぶつける。

 

「ではあなたは、この地でリリスを絶望させるために、忠告を持って延命させたのですか?」

 

 ダークネスが根城としている闇の世界で絶望しても、リリスを失うだけに終わってしまう。

 だからあの場でリリスに忠告して絶望への延命を図り、あの女神像を生み出すためにこの地での絶望を望んだのだろうか?

 

 

 それも違うさ。

 そもそもダークシャインの存在自体がイレギュラーなものだ。

 私にはどうあっても、この状況を想定することなんてできなかったよ。

 私がリリスに忠告したのは、リリスに少しでも長く行動隊長として戦ってもらうためさ。

 君たちはまだ代替の効かない、貴重な戦力だからね。

 

 

 アモンの言葉が真実であることは、サブナックにもわかっている。

 かつてフェアリーキングダムを侵攻していたアンドラスは、配下であるハルファスとマルファスを使い捨ての手駒のようにしか見ていなかったが、アモンは自分たちのことを貴重な戦力として扱っている。

 行動隊長の作るには素体の選別が不可欠であり、それに適応するほどの生命力を持つ人間はそういない。

 未だ量産体制が整っていない以上、行動隊長の損失はアモンの計画に大きな支障をきたすことになるのだろう。

『まだ』と言う言葉も含めて、アモンの言葉は全て真実だ。

 

 

 何も知らぬままでは、リリスが自滅の道を辿るのは目に見えていた。

 だから、忠告だけに留めておいたのだ。

 全てが終わり、リリスの希望さえも潰えたときにでも、彼女がその意味に気付けるようにね。

 最も、彼女は私の言葉の意味を考える余裕さえなかったようだが。

 

 

 アモンの言葉に、サブナックは一切反論することができなかった。

 行動隊長であるリリスは体内に絶望の闇を内包している。

 だから希望を自覚したその瞬間に、内なる力に飲み込まれて自滅してしまう。

 そしてキュアシャインと接触して心が芽生えたリリスは、いつ希望を抱いて自滅してもおかしくないほどに不安定だった。

 だからアモンは遠回しな忠告をし、リリスのことを守ろうとした。

 そして本来であれば、リリスは守られるはずだった。

 彼女にとっての希望の象徴である、蛍が絶望の闇へと堕ちて行ったから。

 この地での戦いが全て終わったその時、リリスは希望を失い、かつての行動隊長に戻るはずだったのだ。

 だがそれも全て無意味な結果に終わってしまった。

 蛍が意識を取り戻し、再びリリスの前に現れてしまったからだ。

 その結果、ついにリリスは希望を自覚してしまった。

 そして絶望して、ダークシャインと融合した。

 こんな状況を、どうすれば想定することができるだろうか?

 自分に無理なことであれば、アモンを責める道理はない。

 そして何よりも、自分は今の状況を作りだすことに加担していた。

 リリスの行く末を見守るために、静観を決め込んでしまったのだから・・・。

 

 

 だが、これは好機だと思わないか?

 キュアシャインは最後の最後まで、私の予想を上回る結果を出してくれたよ。

 リリスの絶望さえも取り込んで、たったの1人で世界を闇に飲み込むとは。

 

 

「・・・。」

 

 アモンはリリスを守ろうとした。

 だけどそれは、彼女のことが大切だからではない。

 彼女の『力』が、大切だからだ。

 アモンにとって行動隊長は『まだ』代替の効かない戦力だ。

 だがダークシャインが変化したあれは、行動隊長の力を遥かに凌駕している。

 替えが効くなんてレベルではない。

 明らかにリリスを失った分の損失を遥かに上回っている。

 アモンがリリスを守ろうとしたことは今更疑うつもりはないが、リリスと引き換えにあの力が得られたことを、アモンは好都合だと思っているのだ。

 確かに戦力的には間違いなく大幅なプラスだ。

 行動隊長として、合理的に判断を下すならば、間違いなく今は最大の『好機』だ。

 それでもサブナックは、その言葉に顔を顰めた。

 

 

 ダークシャインが変化した存在、そうだな・・・仮に『ラスト・レクイエム』とでも名付けておこうか。

 もはやあれに敵うものなど存在しない。

 サブナック、ダンタリア。

 ラスト・レクイエムと共闘し、今度こそプリキュアたちを討て。

 そしてかの地を闇へと誘うのだ。

 

 

 色欲の鎮魂歌(ラスト・レクイエム)

 愛を抱いたリリスの成れの果て。とでも言いたいのだろうか。

 そしてこの状況ならば当たり前の指示がアモンから下された。

 彼の言う通り、今がプリキュアを倒す千載一遇のチャンスだ。

 そしてプリキュアを倒してしまえば、あとはラスト・レクイエムを放置するだけでこの世界は闇に堕ちるだろう。

 自分たちの任務が、ついに達成されるのだ。

 だがサブナックは

 

「悪いが、俺はここで傍観させてもらう。」

 

 アモンからの指令を拒否するのだった。

 

 

 なに?

 

 

 アモンの声からは疑問が感じられるが、サブナックは構わず言葉を続ける。

 

「プリキュアたちはダークシャインにすら手も足も出なかったのだ。

 ならばやつらにラスト・レクイエムを倒せる道理はない。

 我らの助力など、不要でしょう。」

 

 ラスト・レクイエムはたったの1体で世界の全てを闇に閉じこめた。

 その上、対を成す力を持つキュアシャインはもういない。

 残された3人のプリキュアだけではこの戦況をひっくり返すことは不可能なのは明らかだ。

 それならば、こちらがわざわざ戦う理由などない。

 と、ここまでは事実確認も踏まえた上での『建前』だ。

 サブナックはそれだけで終わらず、自身の『本音』を打ち明ける。

 

「見届けたいのだ。希望を抱いてしまったリリスの末路を。」

 

 この状況を引き起こしたのは、静観を決め込んだ自分にも原因がある。

 それならばせめて、最後までリリスの辿る結末を見届けたい。

 リリスの選択を、希望を抱いてしまった答えを、この目で見てみたい。

 例えそれが、哀れな自滅と言う結果に終わろうとも・・・。

 

「僕も、静観させてもらうよ。」

 

 すると隣に立つダンタリアまでもが同調してきた。

 

「お前・・・?」

 

「このような事態は非常に興味深いものだ。戦いに参加するなんて勿体ない。

 この場でじっくりと観察させてもらうよ。」

 

 やつらしい最もな理由だが、それが『建前』であることはサブナックにはわかっていた。

 恐らくアモンにも見透かされているだろう。

 だけどダンタリアはサブナックと違い、『本音』を語ろうとはしなかった。

 

 

 私からの指令を拒否すると?

 

 

 これまで任務に失敗しようとも、特に非難することのなかったアモンが、珍しく高圧的な言葉を取っていた。

 だがサブナックもダンタリアも態度を崩さない。

 

「必要な指令ならば受け取っていた。だが、それは不要だ。

 我らが手を借さずとも、やつ1人で世界は終わる。」

 

「それならば、この事態を観測した方がよほど有意義だ。

 僕たちは、行動隊長としてその判断を下したまでです。」

 

 これまでのアモンからの指令は、いずれも必要だと判断したから従っていたまでだ。

 だけど今回は、必要ない。それならば『拒否』しても良いはずだ。

 行動隊長はソルダークと違い、与えられた任務にただ従うだけの兵士ではない。

 知恵を持った行動隊長だから、そしてそのように造ったのは、他ならぬアモンだ。

 

 

 ・・・クククッ、いいだろう。

 ならばリリスの行きつく末路を、その目で確と見届ければいいさ。

 

 

 そこでアモンとの交信は途絶えた。

 仮にも命令拒否と言う、行動隊長あるまじき態度を取ったのにも関わらず、アモンはいつも通り興味深そうに笑いながら、こちらの提案を受け入れたのだ。

 やつにとっては、知恵を持った行動隊長がこのような判断を下すことさえも、観察の対象なのかもしれない。

 それはそれで釈然としないが、それ以上に現状が覆ることはないとアモンが確信しているのが最たる理由だろう。

 アモンは何よりも結果を重視する。

 結果さえ伴えば過程を問うことはないタイプだ。

 この世界が闇に堕ちると言う結果が確定した今、命令違反など些細な顛末でしかないのだ。

 

「一先ず、許しは出たようだね。」

 

「・・・まあな。」

 

 ダンタリアの言葉にサブナックは一言で返す。

 自分もダンタリアも、戦わずにリリスの行く末を見届ける選択をした。

 だけどそれが、行動隊長として同じ過ちを繰り返さないためか、ただ単に前代未聞の事態を観測したいためか、それとも、別の理由があるのか。

 サブナックもダンタリアもその理由については言及しなかった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 暗く深い闇の中、リリスは自分の身を抱き、小さく身体を震わせていた。

 

 

 あたしは蛍を傷つけた。

 あたしは蛍を裏切った。

 蛍はあたしのことを恨んでいる。

 絶対に許してなんかくれない。

 

「いや・・・もう止めて・・・。」

 

 

 周囲を見渡しても何も見えない。音の1つも聞こえない。

 そのはずなのに、頭の中にずっと自分の声が絶え間なく聞こえてくる。

 自分がどこにいるのかもわからない闇の中、頭の中では自分の声が怨嗟の言葉を響かせる。

 それが『怖くて』仕方なかった。

 身体が凍てつくような冷たい恐怖が、リリスをゆっくりと包み込んでいく。

 

 

 どうしてリリンちゃんはわたしを騙したの?

 なんでわたしにヒドイことをするの?

 

 

 やがて自分の声だけでなく、蛍の声も聞こえて来た。

 

「ほたる・・・。」

 

 蛍の声を聞いた時、朧気ながらも思い出して来た。

 自分は確か、ダークシャインに取り込まれたはずだ

 もしもここがダークシャインの内部だとすれば、彼女の絶望の声が聞こえてくるのも頷ける話だ。

 ダークシャインは、蛍の絶望そのものだから・・・。

 そしてそんな彼女を作りだしたのは、他ならぬ自分自身だから。

 

 

 リリンちゃんはわたしの友達じゃなかった。

 わたしはリリンちゃんのことを信じてたのに、裏切った。

 

 

 だから、蛍に恨まれて当たり前なのだ。

 彼女を裏切り、傷つけ、こんな暗い闇を生み出してしまったのだから。

 それでも・・・

 

「もう・・・いや・・・。」

 

 例え自分が招いた結果だと分かっていても、蛍の絶望の声を聞きたくはなかった。

 あの子の痛みが、あの子の苦しみが、嫌と言うほどに突き付けられてしまうから。

 その度にこの身を裂きたい衝動に駆られた。

 だが、この闇の中では己の身を傷つけることさえできなかった。

 身体の痛みと引き換えに心を惑わそうとしても、それさえも許されることはなかった。

 安易な罰も逃げ道も許されず、心が壊れて沈んでいくまで、声を聞き続けるしかなかった。

 

(・・・これが・・・絶望の闇・・・。)

 

 やがて抗うことを諦めたリリスは、かつて蛍からソルダークを生み出したことを思い出す。

 

(・・・あたし・・・ほたるにこんなヒドイことをしてたんだ・・・。)

 

 この暗闇そのものが闇の牢獄だとすれば、自分はこれまでに2度も、蛍をこんなに怖い空間に閉じこめたことになる。

 それを自覚した途端、リリスは罪悪感でいっぱいになった。

 

(・・・ほたるだけじゃない・・・あたしは・・・たくさんの人たちを・・・。)

 

 ソルダークを創るためだけに絶望させてきた。

 中には自分のことを慕ってくれた、ミカと言う幼子もいた。

 それはこの世界だけではない。

 フェアリーキングダムでも多くの人々を絶望させて、ソルダークを創ってきた。

 行動隊長としての任務だからと、一切の迷いもなくそれを実行してきた。

 それがこんなに怖くて冷たい空間だと知らずに、身を以ってリリスは、初めて自分がしてきた行いが、どれだけ酷く、惨たらしいことなのかを実感した。

 絶望の闇が、こんなにも辛くて、苦しくて、そして怖いものだと知っていれば・・・。

 

(・・・なんて、都合の良い話よね・・・。)

 

 知らなかったからと言って、これまで自分のしてきたことが許されるわけではない。

 こんなにも辛い思いを、大勢の人に、蛍に与えたことが許されるわけではない。

 そう、既に取り返しのつかないところまで来ているのだ。

 沢山の人を絶望させ、蛍を傷つけて、そして、2人の思い出の場所を・・・。

 

 

 もう、元になんて戻らないよ。

 あたしは全てを壊した。あの子との全てを。

 だからもうあたしは、二度とあの子には会えない。

 

 

 もう二度と、蛍と会うことができない。

 それが何よりも辛くて、悲しかった。

 

(ほたる・・・ごめんなさい・・・。)

 

 出来ることなら、蛍の前で謝罪したかった。だけどそれは叶わない。

 己の身を以って絶望の意味を知ったリリスは、罪悪感に苛まれながらより深い闇へと堕ちていった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 暗い闇の中、蛍はひたすらリリンの名前を叫び続けていた。

 音も光もないこの空間では、リリンは勿論、自分が、今どこにいるのかわからない。

 耳を澄ましても音が聞こえないから、どれだけ叫んでも自分の声さえ聞こえない。

 

 リリンちゃん!!リリンちゃん!!

 

 それでも蛍は叫び続けていた。

 だけどそれは、リリンに声を届けたいからだけじゃない。

 

(リリンちゃん・・・どこにいるの・・・?)

 

 ただ、『怖い』のだ。

 自分の姿が見えず、声さえ聞こえないこの空間が。

 闇の牢獄の中では全ての五感が閉ざされてしまう。

 何も感じることができないのだから、自分が『生きているのか』さえもわからない。

 それは今の蛍の弱りきった心を容易く蝕み始めた。

 リリンに会いたい。

 その願いを心の支えにしなければ、とっくに精神が崩壊していたところだ。

 

(リリン・・・ちゃん・・・。)

 

 それでも心を蝕む恐怖は、身体さえも凍てつかせるように蛍の全身へと駆け回る。

 それに堪えるように蛍は両肩を抱くが、自分の身体のはずなのに『触れた』実感が沸いてこなかった。

 もしかしたらもう・・・。そんな嫌な予感にすら囚われ始める。

 いっそ大声で泣き叫んだ方がどれだけ楽だったろうか。

 だがこのまま恐怖に耐え切れず、発狂して泣き叫んでしまったら、もう正気に戻ることが出来ないだろう。

 だから蛍は、リリンのことを想いながら耐え続けるしかなかった。

 それ以外に正気を保つ手段がないから・・・。

 そして永遠に続く闇の回廊を、蛍が彷徨い続けていたその時、

 

(・・・声・・・?)

 

 微かに声が聞こえてきた。その声は、徐々にはっきりと聞こえてくる。

 女の子の声。それも自分の知っている声だった。

 

「リリンちゃん?」

 

 自分の知っている女の子の声。その条件から蛍はリリンの声を連想する。

 だけど聞こえてきた声は、リリンのものではなかった。

 

「どうしてわたしのジャマをするの?」

 

「え・・・?」

 

 自分の声だった。

 聞き覚えがあるのは当たり前だが、蛍にはなぜその声が突然聞こえてきたのかがわからなかった。

 

「わたしのために、わたしはずっとリリンちゃんと一緒にいる道を選んだのに。

 どうしてわたしが、わたしのジャマをするの?」

 

 そしてその声が言っていることは、支離滅裂だった。

 蛍が望んだことを蛍が成し遂げて、でもそれを今、蛍が邪魔しようとしている?

 そこにはまるで、自分が『2人』かのような物言いだ。

 だがここで、蛍は今の状況に陥った時のことを思い出す。

 確か自分と同じ姿をしていた『あの子』に取り込まれたはずだ。

 

「あなたは・・・だれなの・・・?」

 

 五感を閉ざされている今、蛍には周囲の景色が分からない。

 それでも、なぜだかすぐ側に『あの子』がいることだけはわかった。

 

「わたしは、ほたるだよ。」

 

 自分の声で語りかける『あの子』は『ほたる』を名乗った。

 

 そして蛍は、『ほたる』の正体が何であるかも感じ取れた。

 黒いキュアシャインの姿をした『ほたる』は、きっと自分の絶望から生まれたものだ。

 ソルダークと同質の存在。

 それでいて明確な自我を持ち、言葉を喋る異質な存在。

 なぜそんなイレギュラーな存在が誕生したのかはわからない。

 だが少なくとも言えることは、『ほたる』は、自分の感情から独立した存在だと言うことだ。

 だから異なる自我を持ち、彼女自身の思いで動く。

『同じ』であって『異なる』存在。

 有体な言葉を借りれば、もう1人の『自分』だ。

 だが蛍が彼女のことを『あの子』と認識しているのとは異なり、彼女は蛍のことを同一の存在と捉えている。

 だから1人称と2人称が同じなのだ。

 

「リリンちゃんはダークネスだった。

 リリンちゃんはずっとわたしのことを騙していた。

 だからわたしにだってわかっているでしょ?

 わたしはリリンちゃんと一緒にはいられないって。」

 

 1人称と2人称が同一なのにも関わらず、蛍はその言葉を自然と受け止められた。

 そしてその言葉に対して無意識に同調する、否、『同じこと』を考えていたのだから、同意も同調もあったものじゃない。

 改めてほたるは、彼女が『同じ存在』なのだと実感する。

 だから・・・。

 

「だからわたしは、リリンちゃんと1つになったの。

 こうすればずっと一緒にいられるから。」

 

「っ・・・。」

 

 彼女の考えが、目的が『分かってしまった』。

 それは蛍自身、心のどこかで望んでしまったことだから・・・。

 

「でも、わたしはそれをジャマするんだよね?

 わたし、ここからリリンちゃんのことを連れ出そうって思ってるんでしょ?」

 

 今度は本当の意味でこちらの心境を見透かされてしまう。

 きっと彼女にも、自分の心がわかってしまうのだ。

 

「わたしは、これを望んでたんじゃないの?」

 

「ちがう・・・わたしはこんなこと望んでない・・・。」

 

 リリンのことが好きだから、リリンとずっと一緒にいたい。ずっと側にいたい。

 それは蛍が心の中で思い描いていた願いだった。

 その思いが、リリンに裏切られて叶わぬものになったことで、もう1人の蛍である『ほたる』が無理やり実現させたのが今の状況だ。

 

「どうして?リリンちゃんとずっと一緒にいられるのに?」

 

「リリンちゃんのことを傷つけてまで、叶えたいなんて思わないもん!!」

 

 この子は同じ思いを抱えている。

 でも彼女の想いは、酷く歪んでいる。

 自分の想いを叶えたいことばかりが先走り、リリンのことを全く考えていない。

 だからこんなこと、蛍は望んでいない。

 蛍の望みはリリンと2人で・・・。

 

「それが叶わないから、こうするしかなかったのよ。」

 

 だけどほたるは、蛍の言葉を遮る。

 

「リリンちゃんはわたしを傷つけた。わたしを裏切った。

 リリンちゃんはわたしのことなんて、何とも思っていなかった。」

 

「ちがう!そんなことないよ!!」

 

 ここで蛍は、自分と彼女の間に感じていた『ズレ』を思い出す。

 彼女はリリンのことを信じていない。

 リリンのことを傷つけてまで、自分の歪んだ想いを実現させようとしている。

 それは確かに、蛍も一度思ったことだ。

 リリンに正体を打ち明けられ全てに絶望した『あの時』に。

 でも今は違う。

 雛子に励まされ、勇気を取り戻した今の蛍は、リリンのことを信じることができる。

 それなのに、自分と同じ存在であるはずの『ほたる』は、同じ想いを抱えていない。

 まるで『時が止まっている』かのように、彼女の心は『あの時』に取り残されたままなのだ。

 

「だったらわたしだって、わたしの好きにしてもいいよね?

 どんな手をつかったって、わたしはわたしの望みをかなえるの。」

 

「ちがう。リリンちゃんは、わたしのことを・・・。」

 

 蛍が言葉を綴ろうとしたその時、突然唇に掌が振れたような感触があった。

 五感を失っているはずなのに、背後から口元を塞がれたような感覚が走る。

 

「ついてきて・・・。」

 

 耳元から聞こえる『ほたる』の声に誘われるまま、蛍はより深い闇へと堕ちていった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ダンタリアはプリキュアとラスト・レクイエムの戦いを少し離れた位置から眺めていた。

 だが目の前で繰り広げられていたのは、戦いと呼ぶには余りにも『一方的』な攻撃だった。

 プリキュアたちがどのような攻撃を仕掛けても、ラスト・レクイエムは雄叫び1つでかき消していく。

 反対にラスト・レクイエムの攻撃はプリキュアたちの如何なる守りも打ち砕いていく。

 それだけじゃない。

 ラスト・レクイエムの力は今も尚、留まることなく膨れ上がっているのだ。

 

「サブナック、気づいているかい?」

 

 ダンタリアは隣に立つサブナックに静かに話しかける。

 

「ラスト・レクイエムの力が際限なく高まっていることか?」

 

 流石、筋肉バカだけのことはあって、力の変化には敏感のようだ。

 

「その通りさ。

 しかも力を振るえば振るうほど、やつの力は高まっている。

 消耗される力の量よりも、生み出される力の量が遥かに勝っているようだね。」

 

「その力の源が、リリスと蛍の絶望ってわけか・・・。」

 

 サブナックが『当たるとも遠からず』な答えを口にする。

 

「それだけじゃないさ。」

 

「どうゆうことだ?」

 

 サブナックが疑問に思う。

 ダークネスが根城としている闇の世界が無尽蔵に絶望の闇を生み出しているように、やつらが希望と言う思いから際限なく希望の光を生み出しているように、希望の光も絶望の闇も限りのない力なのだ。

 それでも、使えばその分の力が消費され、体内に蓄積された力が尽きれば当然、補充されるまでは力を行使することができなくなる。

 人間であるプリキュアたちの場合は、これに体力の限界、と言うのも加わるが、いずれにしても自分たちの力には、一時的に力が使えなくなる状態があると言うことだ。

 だがラスト・レクイエムには、その制限がまるで見られなかった。

 そう、それはまるでフェアリーキングダムで『感じた』ときの力を同じだった。

 

「君は、フェアリーキングダムでキュアブレイズに起きた出来事を覚えているかい?」

 

「ある一帯の力がキュアブレイズに集約されたことか?」

 

「その通りさ、そして直後キュアブレイズは常軌を逸した力を発現した。」

 

 あの時の出来事は、モノクロの世界にいたダンタリアたちは直接見たわけではない。

 それでも力の変化が十分に感じられた。

 そして当事者であったリリスの言葉から、何が起きたのかも推測できた。

 城下街にいた人間と妖精たちの希望の光が全て、キュアブレイズの元に集まったのだ。

 そして人々の希望を一身に受けたキュアブレイズは、急激なパワーアップを遂げた。

 それもあの時感じられた力は、あの場にいた人々の総量さえも上回っていた。

 ただの足し算だけで終わらない。

 何かしら副次的な効力が発揮され、キュアブレイズはアンドラスを破るほどの力を得たのだ。

 それだけじゃない。

 あの時のキュアブレイズには、力の限界が感じられなかった。

 持てる力を一度に解放し、力尽きたキュアシャインとは違う。

 どれだけ力を使い続けても、街の人々から希望の光を受け取り続けることで、際限なく力を行使していた。

 

「あの時のフェアリーキングダムの状況を考えれば、人々は同じ『希望』を抱いていたんだろう。

 世界を救いたい、キュアブレイズの力になりたいと、こんなところかね。

 それは世界の解放を願うキュアブレイズと、本質的には同じ思いだ。

 同じ思いを持つ者同士が希望の光を抱けば、より大きな力となって人々にもたらされる。

 そうだね・・・例えばこれを、力の『共鳴』とでも呼ぼうか?

 ここまでは、バカな君でもわかるだろう?」

 

「・・・まさか。」

 

 何か思うことがあるのか、サブナックが眉を潜める。

 

「そうさ。

 あの時と同じ現象が今のラスト・レクイエムに起きていると思わないかい?

 希望の光も、絶望の闇も、根源となるのは人の『思い』だ。

 そして蛍とリリスの絶望は、限りなく近いものだ。

 近しい希望の光を持つ者同士が引き合うように、近しい絶望の闇もまた引き合う。

 彼女たちは、自分の絶望を『共鳴』させた。

 だからラスト・レクイエムは際限なく力を発揮し続けている。

 2人の思いが『共鳴』し続ける限りね。」

 

「・・・。」

 

 サブナックは黙ってダンタリアの意見を聞いている。

 やつが反論しないと言うのは、肯定の裏返しだ。

 最も自分自身、絶望の共鳴なんて仮説でしかないことは理解している。

 この話はアモンからも聞かされたことがない。

 つまりこれは、フェアリーキングダムで初めて観測されたものか、あるいはアモンですらまだ解明できていない希少なケースかのどちらかなのだろう。

 だけどダンタリアは、自分の仮説が間違っているとは思わなかった。

 希望と絶望、光と闇の違いこそあれど、キュアブレイズとキュアシャインに起きた現象はあまりにも類似している。

 それでも人は、同じ環境に身を置いたとしても全員が同じ思いを抱くわけではない。

 これまでにも多くの世界を絶望に落として来たが、絶望の共鳴と思える現象は見たことがない。

 最も、共鳴を起こしていたとしても大した力ではなかったと言う可能性もある。

 1人で世界の闇を祓ったキュアシャインの希望が反転した力と、心が芽生えて間もないリリスの生な想いが共鳴したからこそ、あのような化け物を生み出すことができたのだろう。

 今の状況を言葉にするならば、『奇跡』と言う言葉に他ならない。

 

「とても、興味深いことだと思わないかい?」

 

「・・・そうだな。」

 

 肉体派のサブナックにとっては絶望の闇、ひいては人の心の性質などどうでも良いことだろう。

 その反応は想定内のものだ。

 だがサブナックの視線には、どこか自分に対して同情めいたものが感じられた。

 ダンタリアは途端に顔を顰めて、ラスト・レクイエムを見上げながら呟く。

 

「・・・結局、心なんて手に入れるものじゃないって、ことなんだろうね。」

 

「そうだな。」

 

 続くサブナックの返事は、同じ言葉なのにやけにはっきりと聞こえるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ラスト・レクイエムの攻撃を避けながら、雛子は希望の光を絶やさないよう心を強く持つ。

 だけどそれは戦うためではない。自分の力は元々攻めることに適していないこともあるが、ラスト・レクイエムはダークシャインの特性も継いでいるようだ。

 攻撃するだけ力の無駄となれば、自分の役目は前線で戦う2人をサポートすること。

 雛子の視界の先には、今も果敢に戦い続ける要と千歳の姿があった。

 普段のように前線より少し離れた位置から2人を援護することも考えたが、今回ばかりはダメだ。

 ラスト・レクイエムの攻撃は凄まじく、一撃でも受けたらその時点で終わりだろう。

 2人を守るためにもバリアの展開を遅らせるわけにはいかない。

 だから咄嗟に展開できるように、2人の姿が目に見える範囲にまで距離を詰める必要があるのだ。

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

 ラスト・レクイエムが叫び声と共に、翼から無数の黒い槍を雨のように解き放つ。

 要と千歳はそれを掻い潜りながら、ラスト・レクイエムに距離を詰める。

 雛子もまた、周囲に飛び交う黒い槍をかわしながら一歩離れた地点まで2人を追従する。

 そして要と千歳のスピードを以ってしても、かわし切れなかった攻撃に対して盾を展開した。

 盾は一瞬だけ槍の動きを止めた後、すぐに撃ち抜かれたが、その僅かな遅延を利用して要と千歳は攻撃を回避する。

 これまでどんな攻撃からも守ることが出来た雛子の盾が、1秒足らずの時間稼ぎ程度にしか使い道がなくなってしまった。

 それでもまだ2人の身を守ることが出来る以上、こんなことで自信を喪失していられない。

 自分を信じられなくなることは、希望の光を絶やすことに繋がってしまう。

 2人を守るためにも、挫けるわけにはいかないのだ。

 やがてラスト・レクイエムを射程に捉えた2人は、雷と火球を飛ばしていく。

 だが要の雷も千歳の炎も、ラスト・レクイエムに触れた途端、跡形もなく消し飛んだ。

 

「ちっ。」

 

「やっぱり、攻撃が通じない。」

 

 舌打ちする要と困惑する千歳だが、ラスト・レクイエムからの攻撃が再び迫ってきたので一度距離を開けて態勢を整える。

 その攻撃は2人だけでなく、雛子の方にまで迫ってきた。

 だがラスト・レクイエムの攻撃を跳躍してかわすも、雛子は着地に失敗して足元を掬われてしまった。

 

「あっ・・・。」

 

 バランスを取ろうと何とか踏みとどまるが、そんな雛子に容赦なく黒い槍が降り注ぐ。

 

「雛子!!」

 

 すると要が慌ててこちらに駆けつけ、雛子を抱きかかえた。

 そのまま降り注ぐ槍を抜き去ろうとするが、最後の1本だけ潜ることが出来ない。

 

「プリキュア!ブレイズフレアー・コンチェルト!!」

 

 だが次の瞬間、炎の浄化技を纏った千歳が、槍に突撃して軌道を反らしてくれた。

 2人の助けもあって無事に攻撃を掻い潜るも束の間、次なる攻撃が絶え間なく降り注いでくる。

 

「3人とも!そこを動かないで!!」

 

 だが槍が降り注ぐよりも先に、4人の妖精が全員を囲み、陣を展開した。

 

「みんな!」

 

 雛子たちはそのまま、妖精たちの転送術でこの場を離れるのだった。

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 転送術のおかげで難を逃れた千歳たちは、路地裏に身を潜める。

 少し離れたところからラスト・レクイエムの力が感じ取れたので、それほど距離は離れていないようだが、あちらから攻撃が飛んでくる気配もない。

 見つかるのは時間の問題だろうが、多少の休息を入れる猶予はあるようだ。

 すると、隣に立つ雛子が突然バランスを崩して倒れ込んだ。

 

「雛子!」

 

 要が慌てて身体を支えてくれたおかげで何とか転倒せずに済んだものの、雛子の目は焦点が合っておらず、息も上がっている。

 

「ごめんなさい、迷惑かけちゃって・・・。」

 

「雛子・・・あなた。」

 

 どうしてこうなるまで気が付いてあげられなかったのかと、千歳は後悔する。

 雛子はずっと蛍の絶望の闇に触れ続け、蛍の意識を助けるために彼女の心の闇と接触したのだ。

 そのために大量の希望の光を使っていたはず。

 そして希望の光が消費されれば、体力も消耗する。

 そう、雛子の体力はもう限界なのだ。

 

「だい・・・じょうぶ。」

 

 それでも雛子は、気丈に振る舞う。

 

「体力の限界で倒れるのなら、とっくに倒れているわよ・・・。

 私はまだ、倒れるわけにはいかない・・・。

 蛍ちゃんを助けるまでは、倒れるわけにはいかないの!」

 

 そう力強く宣言しながら、雛子は要の手を離れ、1人で立ち上がる。

 心身ともに疲弊し、本来ならばとっくに倒れているはずなのに、彼女は今、気力だけでこの場に立っているのだ。

 

「雛子・・・。」

 

 そんな雛子にレモンは、心配そうに見つめながらも笑ってみせた。

 まるで彼女の意思を尊重するかのように。

 

「ベリィ、みんな、助けてくれてありがとう。

 でもここから先は、ウチらだけで行くから、みんなは安全な場所まで避難しといて。」

 

「要・・・。だが。」

 

「ウチらにもしものことがあったら、誰がウチらのことを助けてくれるん?」

 

 食い下がろうとするベリィに対して、要が縁起でもない言葉で説得する。

 だけど千歳にはわかる。それは本心からの言葉ではない。

 要は負けるつもりも、まして倒れるつもりもない。

 ただ、ベリィを説得するために心にもないことを言っているだけだ。

 それでも多少、保険の意味は込められているのだろう。

 自分たちが今戦っている敵は、どう頑張っても勝てない相手なのだから、先ほどのように妖精たちの力を借りて転送してもらう必要が出てくる可能性はある。

 そうなれば、せめてみんなだけでも安全なところにいてもらわないと、最悪な事態で共倒れになってしまう。

 ベリィにもきっと、その意味は伝わっているはずだ。

 

「・・・わかった。

 俺は万が一に備えて避難させてもらうよ。」

 

 少しやりきれない表情を見せながらも、ベリィは要の意見を受け入れる。

 

「ありがとう、ベリィ。」

 

 そんなベリィに要ははにかんだ笑顔を見せる。

 

「雛子、また倒れそうになったらいつでも助けに行くからね。」

 

「ふふっ、ありがとうレモンちゃん。」

 

 一方雛子は、先ほどまでフラついていた様子を見せずにいつもの調子に戻っていた。

 

「千歳、くれぐれも気を付けて。」

 

 いつもなら軽口の1つでも挟むアップルが珍しく、千歳の身を素直に案じる。

 

「ありがとう、アップル。」

 

 だから千歳も、珍しく素直に感謝の気持ちを述べる。

 最後に千歳は、不安そうな様子を見せるチェリーに視線を向けた。

 

「大丈夫、蛍は必ず帰ってくるわ。・・・あの子と一緒に。」

 

「姫様・・・。」

 

 チェリーを励ますつもりだったけど、ちゃんと最後の言葉を言えただろうか?

 表情が険しくなっていないだろうか?

 少し余計なことを気にしてしまったが、チェリーはその言葉に僅かに微笑んでくれたので、杞憂に終わったようだ。

 やがてラスト・レクイエムの力の反応が真っ直ぐこちらを捉えたように感じられた。

 どうやら見つかってしまったようだ。

 このままこの場に留まればアップルたちにも危険が迫る。

 

「みんな、行くわよ。」

 

「おう。」

 

「ええっ。」

 

 少しの休息を終え、千歳たちは再びラスト・レクイエムに立ち向かう。

 希望の光も、気力も、体力も全てを賭して、蛍が戻ってくるまでの時間を稼ぐために。

 

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