菜月・昴はゆとり世代に産まれた由緒正しきただの日本の高校三年生。ついでに言うなら引きこもりである。そんな彼はコミュニケーション能力が一般の人とは別ベクトルに伸びてしまい孤立してしまいがちであった。しかし異世界に転移してはや1年も過ぎた今はすでに馴染んだと言っても差し支えないが、流石にダーク・エルフの子供の機嫌の治し方などは知らないわけで━…
「なー、、なんでそんなに怒ってんだよ…」
屋敷の案内をアウラとユリにしようとした時に「ユリはメイドだからそういうの大事だと思うけど私はビーストテイマーだから動物達の所にいってくる!お屋敷の事は後でユリから聞くね!」と言って別行動を初めて小一時間、屋敷の案内が終わった所に不機嫌そうに帰って来たアウラに事情を聞こうとするスバルをキッっとアウラが睨み付ける。
「あの小屋の竜!体格も頭の良さも肉付きも鱗の艶もすごく良くて、もっと良くなるのに全然お手入れされてないじゃん!ダイヤの原石…いやカロリックストーンの原石だよ!」
確かにパトラッシュのポテンシャルは超一流だとは思っていたがここまで言われるとなると相当のものだったらしい、いやはや全く自分には勿体ない駿馬もとい駿竜だ。しかし、カロリックストーンとはなんだろうか?
「しかも…私よりご主人様がって全然なびかないしっ…」
「あー、そっちが本音か」
ニヤニヤしながら言うスバルに悔しそうな目を向けるアウラという状態である。守護者として個より群としての戦闘に特化しているアウラにとってその群との絆は重要であり、こと動物に対しては神獣、幻獣までも手玉にとるビーストテイマーとしての手腕をもってしてもパトラッシュの一途さには敵わなかったという結果に納得が行かない様子
「いやーうちの相棒もとい愛竜の信頼には頭があがらないっすなあ!しっかしもしアウラちゃんになつかれてたらこれはネトラになるのか?NTR?いやしかし俺にはエミリアたんが!!」
「私も居るのかしら!まず、人と竜じゃ言葉が通じないのよ!」
横から可愛い蹴りが飛んできて軽口も中断させられる。
アウラの不機嫌の原因がパトラッシュとはつくづく罪作りな地竜だ。
「でも確かにパトラッシュにあんまりしっかりと手入れしてあげれてないなー」
「地竜、特にダイアナ種は自分でほぼ出来るから忘れられがちになるかしら」
「えぇーー!もったいない!スバル様、この子をトリミングさせて!」
「…え、切り取るの?」
「ちがーう!お手入れのこと!」
確してパトラッシュ美竜化計画が主にアウラによって立案されたのである。
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「しっかし、じっくり見るとパトラッシュおっきいな!」
「本当ね。背の高いスバルが居るのとパトラッシュちゃんが大人しくしてくれるからできるわね!うんしょ!」
「ー!!背伸びで頑張るエミリアたんまじEMT」
偶然通りかかったエミリアも巻き込んでパトラッシュ美竜化計画は進行中である。まず、硬めのブラシで汚れや古い鱗などを除去、次いで細かいブラシでもう一度ブラッシング、その後アウラが持ってきたクリームを塗っているところである。
「ふぅ~クリームもあと半分くらいね!ほんっっとこの子いい子!…そこで、スバル様?歯磨き…してみる?」
子供がイタズラを思い付いたような、はたまた策士が練っていた策を披露するような表情でアウラはそう言う。
「お?いいぜ!やっぱ竜も歯磨き必要なのか??」
「んー厳密には無くても大丈夫だけどした方が良いことには変わりないね!」
「よし!まかせとけ!」
「まっ!パートナーとの信頼がないと腕パックリいかれちゃうけどね!」
アウラとパトラッシュの顔を交互に見つめる。アウラは変わらずニコニコと、パトラッシュはなんとなく貴方のやり方次第ねと、言っている気がする
「そんなことしないですよね~パトラッシュさん…?」
「ースバル様!みなさん!」
声がした方を向いて見るとペトラが裏口の方向から走ってくる。この竜舎があるのは正面からより裏口からの方が近いので当たり前といえば、当たり前だが、もう1人分人影があったそれは愛くるしい小柄な獣人で3人姉弟の長女。だが見た目に似合わずアナスタシアの私有兵団のサブリーダー格であったりするのだ。
「おひさー!なにこれすごー!地竜ぴかぴかー!すごー!」
「久しぶりだな!ミミお前は超元気だな!今日はどうしたんだ?」
「んとねー!ミミ今日お仕事で来たの! えっへん!」
「おじょーの伝言役! パーティーのお誘いー!」