「……ふむ」
ディートリヒは、確かめたいことがあり船を街から一直線に走らせた。そうして1時間も立たないうちに、目的のものを見つける。
「……閣下、これは」
「さあな。だが、これではっきりした」
ディートリヒがたどり着いたのは、この名もなき異界の果てだった。あの街と海以外は何もない草原が広がっていた。その端、異界の端が存在し、そこは何もない、真っ白な空間だった。
試しに砲撃するディートリヒ。発信機を付け位置を確認するものの、何処までも飛んでいき、しまいには落下し続け何かに当たることは無かった。
「この先は虚無だな。何もありはしない。終わりもない」
「……ここは、何処なのでしょうか」
「さあな。碌な場所ではないのは確かだろう」
異界に初めて来たディートリヒには、これが異界ではよくあることなのかどうかはわからない。しかし、目の前の真っ白な空間からは、まるで誰かが作り出したかのような違和感を感じられた。
「元帥閣下?」
「どうした。アーレント開発官」
レベッカが部屋に入ってくる。なんでも、リヴェータが信号弾を撃った反応があったらしい。
「ちょうどいい。奴らのところへ向かうぞ」
リヴェータの元へとついたディートリヒを待っていたのは、リヴェータたちだけなくキワムとアルドベリクたちもいた。まずリヴェータ、キワム、アルドベリク、ディートリヒの四人が集まり、ここまでの経緯をディートリヒに話す。
「……黒猫の魔法使いが、犯人か」
「なによ。あんたも知り合いだったの?」
「ああ。奴のおかげで我が国の脅威は去ったようなものだ」
「……全員が、魔法使いの知り合いか」
「詳しくはゲルデハイラが回復してから聞くわ。今はこの世界の情報を集めなければならない」
「それなら、面白いものを見つけてきた」
ディートリヒが、異界の端で見たというものを話す。それを聞いた三人は、余計混乱していた。
「この世界の端は何もない?どういうことだよ……」
「この世界は、誰かが作り出したものかもしれない。そう言いたいのか?」
「私はそう考えている。今の状態だと魔法使いが作ったのかもしれん」
「何のためにだよ。こんなところに閉じ込めて意味が分かんないぞ!」
荒ぶるキワム。しかし、ほかの三人は冷静なままだった。
「全員の話を聞くかぎり、アイツはいろんな世界で戦わされてたんでしょう?なら実際に自分で精霊たちを戦わせてみたいとでも思ったんじゃないの。そして実物召喚してみたくなった。とか」
「ありえなくはない、が、そのためだけにここまでのことをするか?」
「闘争を好む者の思考などまともなものではないよ」
「あんたが言うと冗談に聞こえないわね」
「……なんにせよ。魔法使いに直接会う必要がある。そうだろ」
キワムがまとめ、全員が頷く。あとは攻め方だ。
「魔法使いが相手なら敵が増えたのも納得がいく。駒を増やしているのだろう」
「……じゃあ、勝ち目がないのか?」
「いいや、ある。一つ策がある。……全員での一点突破だ」
ディートリヒが提案したのは、小細工なしでの全員の集中突破。戦力を散らさず、全員で塔にいると思われる魔法使いへと向かうことだ。
「敵が増えようとも、一点に集中し駆け抜ければ問題ない。仮に強力な攻撃を受けようとも、貴様らが止めてくれるだろう?」
「簡単に言ってくれるな。まあ、やれるだけのことはやろう」
「ああ。魔法使いに会うまでは絶対に止まれない」
話がまとまった。すぐにでも攻めることとなる。
「陣形は、機動力に優れたリヴェータの隊が先陣を行け。その横にアルドベリク、貴様ら天使と魔族が攻撃を防ぐ。キワム、貴様らはリヴェータが切り開いた位置を進み魔法使いのもとへと向かえ。止まる必要はない。私は上から援護する。すぐにでも出発するぞ」
「せめてゲルデハイラの回復を待つべきよ。少しでも情報が欲しい」
「そうだな。あの魔法使いと戦うなら情報が多い方がいい」
「……いいだろう。それまでに覚悟を決めておけ」
その言葉で、全員が散り散りになる。それぞれが思いを胸に秘めていた。
別れたキワムは一人、草原に大の字になって寝ていた。上から、ヤチヨとアッカが覗いてくる。
「キワム、大丈夫?」
「ん、ああ、平気だよ」
「嘘ばっかり。顔に出てるよ?」
はは、と力なく笑って顔を伏せるキワム。そして、胸中にくすぶる思いを話す。
「……どうしても信じられないんだ。魔法使いはアッカを、俺たちを助けてくれた。なのに……こんな、俺たちを弄ぶようなこと、するのかなって。俺は、あいつと戦える気がしない」
「私達も同じよ。魔法使いさんがそんな……」
固まる三人、そこへ、アルドベリク達がやってくる。
「……まだ、迷っているのか」
「当たり前だろ!俺だけじゃない、みんなを助けてもらったんだ……なのに!」
「私達だって同じですよ」
そういったのはルシエラ。ルシエラとアルドベリクだけじゃない、イザークとミカエラも魔法使いに助けてもらったという。
「俺たちだってあいつのことは何度も見たさ。俺も信じられない」
「けど、今起こっていることの中心に彼がいるのは事実だと思います。……だから、それを確かめればいい」
イザークとミカエラに諭されるキワム、しかし、まだ迷いがある。
「確かめる?……何をだよ」
「魔法使いさんに直接会ってですよ」
ルシエラが言う。アルドベリクが、付け加えるように言った。
「お前は直接魔法使いに会う役だろう。直接会って本心を確かめればいい。それだけの話だ。気に入らなかったらぶん殴れ」
「もー、アルさんってば暴力的ですね」
「魔王だからな」
そんなやり取りをみて、少し元気がでたキワム。
「そうだな。そうするよ。すまない、アルドベリクさん」
「気にするな。……気持ちはよくわかるからな」
去っていくアルドベリク。キワムは、決意を新たにする。
「魔法使いに何としても会う。そして本心を確かめる。……協力してくれ。ヤチヨ、アッカ!」
「やっぱり、キワムは元気じゃないとね」
「よーし、がんばろー!」
三人で円陣を組み、声を上げる。それを遠くから見て、アルドベリクは笑った。
「やっぱりお人好しですね。アルさんは」
「そんなことはない。士気が低い奴が仲間にいると全体にかかわるからな」
「俺たちしかいないんだ。ツンツンしなくていいんだぞ。アルさん」
「アルドベリクだ」
「そうですよ。私もいますがここにはイザークとルシエラしか魔界の人はいないんですから。素直になっていいんですよ?……アルさん」
「アルドベリクだ。ミカエラまで何を言っている」
「まあまあ。大丈夫です。私達もキワムさんたちを守りますから。アルさん」
「……アルドベリクだ」
やがて、ゲルデハイラが復活したとの報告が入る。得られた情報は、街中に複数の人間がいたこと。海と街の入り口は人がおり守りを固めていたことを知った。そして、大きな変更がないと知ったリヴェータとディートリヒは、攻め入る決断をする。
「……全隊、突撃せよ!」
ディートリヒの号令で、街へと進撃するディートリヒ達。その目は、はるか遠くの塔を見つめていた。