「……誰も、いないな」
ディートリヒ達が侵攻を始めたのと同じ時刻、塔の中へ入ったヒビキたちは、真っ白い大きな部屋にいた。壁が白いせいか、部屋が何処までも続いているような錯覚に陥る。
「……こんな部屋、最初に来た時なかったわ」
「ああ。階段しかなかったはずだが」
奥へ進むヒビキ達、奥に、人影が一つ。
「誰だ!そこを動くな!」
叫び、剣を構えるヒビキ、合わせて全員が武器を構える。
「……ひどいな。そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」
そこにいたのは、ローブの男。顔は見えないが、手を上げ、肩をすくめていた。しかし、ヒビキ達は警戒を緩めない。
「……フードを取れ。その位置からだ」
「みんな薄情だね。声で分からないのかい?」
フードを取る男。その顔は、全員が見たことがあった。そして……見たくはなかった、顔だった。
「やあ、みんな。久しぶり」
そこにいたのは、全員を助けたことがある男。
黒猫の魔法使いが、そこにいた。
顔を見るや否や動いたのはルリアゲハとリフィル。一息で近づき、糸を投げるリフィルと銃を構えるルリアゲハ。
しかし、ルリアゲハは何かに吹き飛ばされる。何が起こったのかと振り向いたリフィルの目に飛び込んできたのは、大きな武器を構える女の子だ。とっさに人形を操り、巨大な杭から身を守る。
「こんなところで何してるのよ。《戦小鳥》!」
「ごめんなさい。でも、仕方ないんです!」
襲ってきたのは、リフィルたちの知り合いであるミリィという少女だった。互いの手を知り尽くしている二人は、糸を躱し、杭を打ち込み、術を躱しと攻撃を当てられない。そこへ、ラギトが加勢に来る。
「少し眠っててもらうぞ、《戦小鳥》」
「しまっ……」
しかし、ラギトの伸ばした手は見えない壁に遮られる。そのまま動けなくなったラギトに、杭が命中した。
「ぐあああっ!」
ルリアゲハと同じように壁まで吹き飛ばされるラギト。その元凶をなった人物を見て、今度はアリエッタたちが驚く。
「さて授業だお前たち。この窮地どうやって突破するか……考えてみろ。私を倒せ」
「イ……イーニア先生!?」
次に現れた人物はアリエッタたちの師、イーニア・ストラマー。イーニアは驚くアリエッタたちへ向け、多数の魔法を放つ。
「危ない!」
レナとエリスが魔法陣を展開。魔法を防いだかに思われたが、曲がって放たれた魔法が防御を躱しエリスを直撃する。
「この……っ!?」
ついに動いたヒビキに対し、もう一人陰から切り込んできた。若い女性だ。炎を操るその剣技は、何処かで見たことがある。
「邪魔だ!どけええええっ!」
水を操り炎を飲み込み、女を切る。倒れたところにさらに追撃を仕掛けるヒビキ。
「いいのか?彼女は君たちの子孫だぞ」
魔法使いの声にヒビキの剣が止まる。その隙を狙い、女はヒビキを切り伏せる。
「ぐっ……」
倒れるヒビキ。切った女性の目には、涙が浮かんでいた。
「……リンカァっ!」
扉の方から声がする。そこにいたのは、アーシアとイツキだ。
「どうして、お前まで……っ!」
「ごめんなさい。イツキ。けど今は……こうするしかないの」
剣を構えるリンカ、それに合わせてイツキも構え、突撃するタイミングを見極める――――
ところで、アーシアの魔法がイツキの腹を貫いた。
「ごめんなさい。イツキ君。……ごめんなさい」
アーシアも泣いていた。イツキはとっさに魔法で直撃は防いでいたものの、流石に動けなくなる。
「悪趣味ね。あなた」
リフィルがミリィと戦いながら魔法使いに向けて告げる。魔法使いは、笑っていた。
「どうして?こんなに楽しいじゃないか……さあ。もっと踊ってよ!みんな!」
アリエッタたちの放つ魔法はイーニアに守られ、復帰したラギトとルリアゲハの三人がかりでもミリィを倒せない。どうやら魔法使いが何かしらの強化をしているらしい。
「みんなそんなに弱かったっけ?ほらほら、もっと頑張ってよ!あはははははは!」
魔法使いの高笑いが響く。全員が諦めかけた……その時。
「貴様が黒猫の魔法使いだと?笑わせるな」
「ああ。こうして会ってみてはっきりした……お前は偽物だ!」
ディートリヒ達が合流する。アルドベリク達がイーニアの魔法を打ち破り、ミリィをアウデアムスが吹き飛ばした。ディートリヒ達を味方だと判断したアリエッタたちは、すぐさま援護する。
「なんで君たちがいるのさ……早いよ。まだ呼ぶつもりなかったのにさぁ……!」
魔法使いがカードに力を籠める。現れるのは、影の魔物……ではなかった。影が集合し、巨大な黒い殻に覆われた炎の巨人となる。
「飽きた。やり直そう。そいつらを殺してくれ。……ウラガーン!」
黒い巨人が動く。ディートリヒが砲弾を撃ち込み、アリエッタが魔法をぶつけていくが、巨人はひるまない。巨人が軽く腕を振るうと、辺りが炎に包まれた。
「おいおい……まじかよ……」
「けどやるしかないわ。全員でアイツの足を止める」
構えるリヴェータたち、しかし、圧倒的な力を前に、恐怖する。
「無駄無駄無駄!君達じゃどうあがいても勝てないよ!」
黒猫の魔法使いは叫ぶ。傍にいる四人の呼ばれた少女たちは微動だにしない。
「この災厄に勝ちたかったら神話の英雄でも連れてきなよ!無理だと思うけどね!」
「じゃあ。連れてきてあげる!」
声は、上から聞こえた。天井に空いた穴。そこから何人もの人が降ってくる。
「セイクリッド聖女ぱああああんち!」
上から、少女が隕石のように振ってきてパンチを見まう。その一撃で、ウラガーンが少しだけよろめいた。
「また援軍だと!?……だが、そんな少人数でどうにかなると思っているのか!」
「もちろんにゃ」
魔法使いの動きが止まる。次にその顔に浮かんだのは、怒り。
「なんで、……なんでなんでなんでなんで。お前が来るんだよ」
魔法陣を用いて、静かに着地する少女たち。
「ありがとう。フラクタルさん」
そう答えたのは、中心にいるローブの男。ディートリヒが、笑う。
「随分遅かったではないか?」
「すいません。ディートリヒさん」
埃を払い、魔法使いを見つめるローブの男。魔法使いは、たまらず叫んだ。
「なんでお前は、いつも俺の邪魔をするんだ……黒猫の魔法使いいいいッ!」