「ウラガーン!そいつを叩きつぶせええええっ!」
偽物の号令で、ウラガーンが再び動く。そのまま無慈悲な拳を魔法使いに向けて振り下ろした。
「キミ!」
「はい、師匠!みんな、時間を稼いでくれ!」
魔法使いの言葉で、全員が一斉に動く、まるで力にブーストがかかったように、能力が強化されていた。空から降ってきたクレティアという少女がウラガーンの動きを鈍くし、止まった隙をディートリヒとアリエッタの超火力で押し返していく。リヴェータはさらに覇眼を使用し、全員の士気を上げる。
よろめいたウラガーンに向けて、魔法使いが魔力を溜めていたカードを使い、魔法を放つ。放たれた魔法は光り輝き、神々しい翼をもつ神の姿となってウラガーンを切り裂いた。
崩れていくウラガーン。偽物の顔がより苦痛に歪んでいく。
「魔法使い、ウィズ、あいつは一体だれなんだ?」
「クエス・アリエスの指名手配犯、トビトにゃ」
トビトと呼ばれた魔法使いが呻く。そして、それは笑いに変わっていく。
「指名手配犯……指名手配犯ね。確かにそうだよ。でもな。俺をこうしたのはお前だ。魔法使い!」
叫ぶトビト。魔法使いには、意味が全く分からなかった。
「俺はな、お前と同期だったんだよ。なのになんだ、お前は四聖賢のウィズに取り入って、ウィズをそんな姿にしたって言うのに、なぜお前はそこまで成り上がれた!
そこまでならいいさ。俺はクォ様に認めてもらったんだ。なのに、お前はクォ様まで手にかけた!」
激高するトビト。その手には、魔法使いと同じカードが握られている。
「異界に飛ばされて死ねばいいものを、また異界で媚びを売って生き残りやがって!」
トビトが魔法を放つ。それは異形の怪物となり、無数の触手を伸ばし魔法使いをとらえようとする。しかし、そのすべては異界の戦士たちに止められる。
「媚び?なんか勘違いしてねえか。お前」
「ええ。私たちは彼と共に戦った。彼はいつも前線に出てきた!」
魔法使いが魔法を放つ。放った魔法は、光を纏う英雄の姿となり、怪物を包み込むようにして浄化する。
「お前は勘違いをしているにゃ。トビト」
ウィズがトビトを諭すように告げる。トビトは、もう狼狽えるしかない。
「僕は確かに師匠を救えない。今でもそうだ。異界ではみんなの力を頼ってばかりさ」
再びカードに魔力を籠める。その目に、迷いはない。
「でも、僕にはみんながいる、みんなとの絆がある。だから……お前を許さない。トビト!」
放つ魔法は、トビトにはあたらない。しかし、アーシア達を包み込み、トビトの魔力から解き放つ。
「これでお前は一人にゃ。トビト。負けを認めるにゃ」
残されたトビトは呆然としている。しかし、勝ち誇るように告げた。
「絆、絆……ああそうさ。だから俺は、貴様の絆の無い魔物との相性がいいんだよおおっ!!」
燃え盛るような魔力、そこから生み出されたのは、白い大きな卵。
「もうおしまいなんだよ何もかも!お前らも全員道ずれだ!全員腐ってしまえ!ハハハハハハハ!」
卵が割れると、そこら中に瘴気があふれ出る。トビトは巻き込まれ、塵となった。
「トビトさん……っ!」
「だめにゃ!キミまで巻き込まれるにゃ!」
世界を瘴気で飲み込まんと割れ続ける卵。瘴気は広がり、白い部屋が崩れ落ちていく。
「このままじゃ、全員やられる!」
魔法を撃てる者は魔法を、銃を持つ者は銃をと遠くから攻撃するも、瘴気は全てを塵にしていく。そうしているうちに、瘴気は部屋全てを覆いつくそうとしていた。魔法使いが防御魔法を張るものの、徐々に押されている。
その光景を見て、ずっとディートリヒの後ろにいたオメガが動く。眼帯を押えながら。
「オメガ。どうした」
「思い、出した」
船から飛び降りるオメガ、剣を構え、瘴気の中へと進んでいく。
「危ないにゃ!……にゃ!?」
オメガの体は、腐らない。一歩一歩確実に、卵へと近づいていく。
「俺がこの世界に来たのは、お前がここにいたからか……全く、互いに災難だな」
眼帯を外し、その目で卵を見据える。力を剣に込めると、雷を纏い始めた。
「俺の名は……カイン。カインだ!」
そのまま突進し、一撃で卵を砕く。中から出てきた人のような何かの首を、一撃で跳ね飛ばした。
心なしか、人影が笑ったような気がする。卵が消えると、瘴気も消え去っていった。
「……今度は、間に合ったな。バシレイデ」
力を使い果たしたカインは、光に包まれていく。カインだけじゃない。異界から来た戦士全員、黒猫の魔法使いの体すらも、光を纏っていた。
「終わった、のね」
リフィルが呟く。全員、満ち足りた顔をしていた。時間もない、と思った、魔法使いは、最後の挨拶をする。
「みんな。今回は迷惑をかけてごめん。イツキなんか大けがさせちゃって……」
「気にすんなって。俺たちだって助けられてるんだ」
イツキが笑う。それだけで、少し救われた気持ちになった。もう全員体が消えかかっている。最後に、別れのあいさつを。
「みんな、またどこかで会おう!」
体が消えていく。そして、作られた偽りの異界には誰もいなくなった。残された異界は、崩壊を始めていた。