リヴェータが話す内容は、ディートリヒとはまた違う内容だった。
リヴェータの話だと、異界に巻き込まれたのは理解していたようだ。帰る手がかりを探すためあたりを散策していると、あの街を見つけたという。
「けど、妙だったのよね。最初に斥候が見に行った時あの街には人が一人、中央の大きな塔にしかいなかった。そしてそいつが怪しいとみて攻め入ったところになぜか敵が増えてたってワケ。しかも相当強いのがね」
リヴェータは舌打ちする。確かにディートリヒが相手した魔法使いたちも手ごわかった。どうやらあの街にいる者が次々と何処からか人を呼び出しているらしい。
「ま、こんなところね。あんたの知ってる情報をよこしなさい」
「いいだろう。気が付けばこの異界にいた。記憶喪失の男を拾ってな。あとは貴君らと同じようなものだ」
「なんだ。たいした情報を持っていないのね」
呆れるリヴェータ。確かにリヴェータが言うようにディートリヒは情報を持っていなかった。話は終わりだとばかりに、リヴェータが下がろうとする。
「何処へ行くのかね?」
「決まってる。もう一度あの街を攻めるのよ」
「もう一度行って勝てるのかね?」
リヴェータの動きが止まった。振り返ったその目が紅く輝いている。
「……私たちが負けるって言いたいの?」
「現にそうであろう。貴君らがまた同じように攻めても敵がさらに増えているかもしれん」
「じゃあどうしろってのよ!あいつらに負けて永遠にこの世界にいろっての!?」
リヴェータの目が燃えた。それに呼応するかのように、ハーツ・オブ・クイーンの士気が高まる。
「私にはこの眼がある。あんたも邪魔するなら蹴散らして――――」
「私は貴君らと手を組みたいと思っている」
リヴェータが固まる。ディートリヒは、気にせず話を続ける。
「私も我が軍だけでは戦力が足りんと思っていたところだ。それに我らと同じように別の異界から召喚された人間が他にいるかもしれんだろう?まずは仲間を集めた後であの街を叩いた方が賢明ではないかね?」
「……確かに、そうね。けどあんたたちを信用するだけの材料がまだないわ」
「我々は、既に貴君ら以外の異界の住人を仲間に加えている」
あっさりと言うディートリヒに、ローヴィも困惑した。オメガの件ならもう話しているが、ほかに異界の人間を船で見たことが……と考えたところで、一つの可能性に至る。
「ニコラ・モーガンを含む他の我が魔導部隊の人間。彼らはみな異界の人間だ。信じるかどうかは貴君らの自由だがな」
考えるリヴェータ。しかしすぐに答えは出た。
「いいわ。けど勘違いしないで。あくまで元の世界に戻るまで手を組むだけだから」
「それでいい。我々はさらに異界の人間を集める。貴君らはどうするかね?」
「そうね、私たちも戦力を増やしに行こうかしら。あとあの街に何人か忍び込ませる」
「わかった。何か進展があればまた落ち合おう。貴君なにかあればこの信号談で知らせるがいい。して、貴君らの名を聞いていなかったな。私はディートリヒ・ベルクだ。名乗るがいい」
「……リヴェータ。リヴェータ・イレよ」
ディートリヒが手を挙げると、船の中から白衣を着た女性が銃の入った袋を持ってきてリヴェータに渡した。受け取ったリヴェータはわかった。とだけ言い残し去っていく。その背中が十分に遠くなり船に乗った後、ローヴィがディートリヒに問う。
「……あの者たちは信用できるのですか。もし、敵だったら」
「構わん。保険はかけておいた」
船の奥から誰かが近づいてくる。先ほどの女性だ。
「元帥閣下。無事動いてますよ。はいモニター」
ディートリヒが白衣の女性、レベッカ・アーレントから受け取ったのは小型のモニターだった。そこには一つにまとまり動く点がある。
「彼らに持たせた信号弾に仕掛けた発信機は無事動いてます。あと念のため爆弾も」
どうやらレベッカに信号弾に細工をするよう指示しておいたらしい。保険とはこのことだろう。ローヴィはもう一つの疑問を口にする。
「では、なぜ二コラ達が異界の者だと気づいたのですか。私はここが異界であることにすら先ほどの会話を聞くまで気が付きませんでした」
「私もあの街を攻めるまで気づかんかったよ。きっかけはオメガの言葉だ」
「……では、彼がここに異界の者を召喚している原因の可能性が?」
「さあな。アーレント開発官、レーダーを改良し魔力反応を感知するよう改造は出来るかね?」
「無理じゃないですかねぇ。ドルキマスじゃそんなものなかったですし。ただ、イグノビリウムを感知するとき使ったレーダーならなんとか使えそうですが」
「用意しろ。それを使い他の異界の人間を探す」
はいはい、と船の奥に消えるレベッカ。ローヴィも各員に情報伝達へと向かった。残されたディートリヒは、一人部屋へと戻る。
あの街の魔法使いたちと戦うには、もっと手駒が必要だ。……リヴェータという女の軍は確かに使えそうではあるが、それではまだ足りない。
勝ち目の薄い戦いではあるだろう。だが、ディートリヒは今まで経験がしたことのない戦に、震え、笑っていた。
「――――戦争を」