「イツキ!後ろだ!来てるぞ!」
「わかってます!ヒビキさん!」
リフィルたちを襲ったような、影の魔物がアーシア達を囲んでいた。同じように倒しても倒しても次々と現れ、アーシア達を確実に消耗させていく。
「キリがないですね!しつこいなぁもう!」
「これも先ほどの敵の仕業……?しかしそれにしては……」
魔物は次々と湧いて出てくる。さらに先ほど海側から聞こえてきた轟音も気になる。
「ちっ……エマ!向こうの様子を見に行ってくれ!」
「わかりました!」
ヒビキの号令でエマが素早く離脱する。魔物は減るどころか増えていた。敵を押し返すことは出来ず、その場で止めるだけで精いっぱいだ。
――――このままじゃ、押し切られる!
ヒビキが剣を振るう。一振りで五体以上を吹き飛ばすが、そこから八体の魔物が生まれる。キリがない、とあきらめかけ――――
「修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!」
雷の雨が降る。魔物は一瞬にして消え去り、そこから新たな魔物は出現しない。
「大丈夫か!援護に来た!」
「ラギトさん!すいません。戻ってくるなんて……」
「すまんみんな。向こうの援護に行くぞ!」
全員が海側へと走り出す。そこへ、エマがやってきた。
「あれ、そっち終わったんですか?」
「エマ!向こうは!」
「えーっと……アリエッタちゃんてレナちゃんが、全部吹き飛ばしてました。あの爆音も煙も彼女たちがやったみたいで……」
呆れたように話すエマ。後ろから、アリエッタたちも来た。
「こっちが落としたのは……何隻だったかな?忘れちゃった」
「わたしもぜーんぶ吹き飛ばしちゃったから覚えてないなぁ。エリスは?」
「あのね。あなたたち少しは加減ってものを知りなさい。後処理は全部私がしたのよ」
「エリス!そっちは大丈夫か!」
どうやら向こう側は無事に終わっていたらしい。エリスが、襲ってきた敵の説明をする。
「こちら側を襲ったのは前と似たようないくつもの船です。全て撃ち落としました」
「似たような?同じ船ではなかったのですか?」
アーシアに聞かれ、考え込むエリス。
「襲われた時にあの船を見たのも一瞬だけだったので……確かに船ではありましたが、黒いもやのようなものがかかっていて断言はできません。すいません」
「いえ!ありがとうございます!」
とりあえず安心する一同。しかし、外へ出た五人の顔は未だ油断していない。
「報告することがある。外に出ようとしたが何者かに妨害された。ちょうどここを襲った魔物と同じような魔物だったわ。そして人間がいた。……そいつは、この街から出るな。と」
「……それは本当ですか?」
「ええ。奴の目的は、街と言うより私達だった。そいつがここを襲った奴らと同じかどうかはわからないけど」
「……わかりました。これまでのことをリーダーに報告してきます」
そう言って一人抜けるアーシア。その後ろ姿を見て、ラギトがこぼす。
「……なあ、リーダーとは何者だ?彼女がこまめに報告に行くのを見るが、そのリーダーとやらの姿を見たことはないぞ」
「ああ。俺も実は姿をあまり見たことがないんだ。リーダーは何人かにしか姿を見せてない。アーシアと一緒にここの防衛の任に着いたが、話をしてるのはアーシアだけだな」
「……そうか」
イツキの答えにあまり納得していないラギト。
「それより、この街から出るとあの魔物が湧いてくるかもしれないっていうことかしら?あた厄介な罠を仕掛けられたもんね」
「なにか呪いの類ならエリスが見つけられるんじゃないの?」
「……わからないわね。呪いの気配なんて感じてないし。なにかの召喚術だと思うわ」
「この街の中で手がかりを探すしかないってことですね。とりあえず街の人に話を聞きましょう」
「ああ。そうだな」
再び防衛組と探索組に分かれ、元の世界に戻る手がかりを探すことにした。
別れた後、しばらくしてラギトだけが海に来た。エリスを呼ぶ。
「エリス……と言ったか。少し構わないか?」
「はい?……ええ。大丈夫ですよ」
エリスだけを呼び出し、アリエッタたちから少し離れたところで話す。ラギトには、少し引っかかっていることがあった。
「ここを襲った敵は、全て倒したと聞いたが、残骸はないのか?それとも沈んだのか?」
「ああ、それが少し妙だったんです。確かに船だったとは思うんですが、魔法を当てると泥で作られてるみたいに崩れ去ってしまって……」
「そうか。落ちた船から人は?」
「たぶん、いなかったと思います。……どうかされましたか?」
「少し気になることがあってな」
ラギトの疑念が強まる。ここを最初に襲ってきた船は初めに高火力で押してきた。sかも船自身もリフィルが単騎で行ったとはいえ落とせなかった。彼女たちの魔法にも少しは耐えたはずなのに一撃で、泥みたいに?
――――まるで、俺たちを襲った影の獣のような……
「ラギトさん?」
名前を呼ばれすまないと返す。もう一つ聞きたいことがあった。
「君は、魔力の感知ができるのか?」
「ええ、ある程度なら。あの子……アリエッタならよりはっきりと感知できると思いますよ」
「わかった。少し力を借りたいんだが構わないか?」
「ええ、どうぞ……アリエッター?」
なにー?と近づいてくるアリエッタ。少し手伝ってほしい。とラギトが頼む。
「いいよー?なにすればいいの?」
「ああ。さっきこの街を襲った影の魔物がいた場所、そこの魔力を見てほしい。うまく言えんが……」
「何するかわかんないけどとりあえずわかった!行こうエリス!」
走り出すアリエッタと追いかけるエリス。その後ろを歩きながら、ラギトは、胸にくすぶる疑念を必死に否定した。
街の外で聞いた、あの男の声。
その声が、黒猫の魔法使いの声に似ていた。