「天倫ッ!!!」
エルザが剣を前に振るうと、後ろで佇んでいた夥しい量の剣が、ノクティスの方向へと飛んでいく。特別速い訳ではないが、全てを撃ち落とすのは困難だろう。いや、無理難題と言っていい。
だが、一方のノクティスは剣を構えるだけで何もしていない。
「…。」
その上、ノクティスは一言も発しない。その様子を、エルザが不思議そうに眺めている。
(…戦意喪失、では無さそうだな…だとしたら…魔法で撃ち落とすつもりか?)
そんなことを考えていた。その考えは見事に当たった。ノクティスは、身体に取り込まれたであろう、【光耀の指輪】でオルタナを使おうとしていた。ファントムソードが景色にくっきりと溶け込み、ノクティスの指が光り始めた。
「!!」
ただならぬ空気に、エルザが身震いする。剣の早さ…否、全てがゆっくりとなった。そして、蒼色だったノクティスの目が、淡いピンク色へと変わった。
その瞬間、世界に一瞬の夜が訪れ、空間にヒビが入った。そのヒビは段々と大きくなり、また新たな一つの空間を作り出した。エルザの剣はその空間に吸い込まれる様に引きよされ、そのまま消えた。
「────、」
エルザは言葉を失った。
(これ程までの魔力を……っ!?それに、なんだこの魔法は…、!)
だが、オルタナは魔力の消費が激しいのか、少し息を切らし始めたノクティス。剣を全て撃ち落とすのが無理だと察し、魔法で消すという戦法に出たのだろう。切らした息を整える為か、胸を抑えている。そして、ニヤリと笑った。
「は…やって、やったぜ…。」
息を切らしてはいるが、力こそ失っていないノクティス。
「…ノクティス。お前は何者だ?」
「…俺は、そう…だな…、信じねーかもだけど、王様だ。」
「…その強さ故の王の肩書きなら納得だ。」
「はは…そりゃどーも…な。アンタはどうなんだ?エルザ。」
息が整ってきたのか、ふぅと軽くため息をついて顔を上げるノクティス。その顔は先程のものと戻っており、かつての輝きを取り戻した目を真っ直ぐと掲げている。その目に、エルザは関心を覚える。
(これほどの目…それに、先程の剣の輝き。自身が王というのは虚言では無いようだな。)
「私は普通の魔導士だよ、ノクティス。さ、続けよう。」
「おう。負けねーぞ。」
ノクティスは悪さをしでかした後の子供の様な無邪気な笑みを浮かべ、再び剣を構え、地を蹴り、エルザへ突撃した。無論、エルザはそれを流し、反撃する。
「フッ!!」
振るった剣は空を掠め、手応えは微塵も無い。そして、ノクティスの姿も影も形もない。
【シフト】だ。
シフト後のノクティスは、言わば神出鬼没。どこからどう現れ、どこからどういう攻撃を仕掛け、どこに消えたのか、それはエルザは愚か、誰にも分からない。
エルザは全てを五感に注ぎ込み、有り得ないほど集中する。鳥が飛ぶ音にすら耳を傾けず、本当に呼吸をしているかどうか疑う程に微動だにしない。
近くも遠くもない距離で、タッ、という段差から降りる様な音が聞こえた。それは限りなく集中し切っているエルザにしか気付けない音であるが、ノクティスはそんな事に気づけない。
「貰ったぁ!!」
剣が縦に舞い、キィィィン、という空気が響く音を鳴り響かせ、展開したファントムソードを投げつける。
【シフト】の一種だ。
ノクティスは声を張り上げ、エルザに、10の剣を振るった。だが、それは空を掠めた訳でもなく、エルザを切った訳でもない。
「マジかよぉっ!?」
────後ろを一切向かずに、ノクティスの剣を全て受け止めた。驚愕を隠せない、隠す気のないノクティスの声の張り上げに、思わず苦笑いしながら反撃に出る。
「甘い!!」
エルザの剣は、ファントムソードをすり抜け、見事にノクティスの剣へ命中した。油断していた為か、受け止めきれずに吹き飛ばされるノクティス。
エルザは、宙を舞っているノクティスに向かって剣を投げつける。流石にそれには反応するノクティス。宙を舞ったままバックステップし、空を蹴り、飛んで来た剣を、現在進行形で展開しているファントムソードの一つ、【夜叉王の刀剣】で弾き返そうとする。
が、それは叶わず、剣の元へエルザが現れた。思ってすらいないイレギュラーな出来事に、ノクティスは思わずビクッと肩を震わせる。
エルザはノクティスへ飛ばした剣を逆手で持ち、そのままの勢いで、またファントムソードをすり抜けてノクティスを蹴り飛ばした。
だが、ノクティスは吹き飛ばされたままでは終わらず、近くの建物に剣を投げて刺し、そこへシフトする。
その後、すぐにエルザと少し距離を置いた所へとシフトし、先程まで展開していたファントムソードを解除した。
そして、エルザはフッと笑う。笑い、顔を上げた先には、剣を前に突き刺す様に構えを取っているノクティスが。そのノクティスの様子に、エルザは全てを悟った。
────この一撃で終わらせよう。
エルザもまた、自身の鎧を換装し、道着の様な物へと変える。その姿を表わせと言われたのならば、ノクティスは〝和〟と答えるだろう。髪は先とは違い、後ろで束ねていて、胸には包帯のサラシの様な物を、腰から足にかけて、黒をベースとした炎の様な模様のついたぶかぶかな道着…そして、日本刀の様な刀を構える、神妙な目つきをしているエルザ。
対して、剣を斜めに構え、両手で支える様に持つノクティス。使用しているのは、紛れもない、父親の剣────【父王の剣】だった。
二人の間に、
風が止むと同時に、二人は消えた。ヒュン、という空を切る音と共に、二人の姿が再び現れる。居場所がそれぞれ入れ替わっている。
勝負が、決まった。
キィン、と。
刀が空から降り、華麗かつ斜めに地面へ突き刺さった。
「────なん、だと?」
地面に突き刺さったのはエルザの剣。
【父王の剣】の刀身は震え、剣と剣がぶつかり合った様な跡が付いている。今にも消えてしまいそうに輝いている父王の剣をしまい、エルザの元へ駆け寄るノクティス。
「私の負けだな、ノクティス。」
エルザは頷きながら、微笑みながらそう言った。
対してノクティスは。
「────いや、そうでもねーよ。」
あっさりと否定した。その理由を追求しようとしたエルザだったが、次の瞬間、全てを察した。
「…ジャケット、切れてしまっているな…。」
そう、ジャケットが半分切れている。それに伴い、ノクティスの胸から腰辺りまでに切り傷が付き、シャツを貫通して血が滲んでいるのを確認できる。
「引き分けだな。」
ノクティスは高笑いしながらそう言った。
痛々しく血が滲む胸の傷を見て、エルザは咄嗟に「申し訳ない」と言おうとしたが、ノクティスの行動に、それをやめた。いや、やめてしまった。
ノクティスは、裁縫道具を(ファントムソードの様に召喚してから)使用し、ジャケットはどうにもならないらしく諦め、シャツを縫っていた。
(…何か悔しい。)
エルザはギュッと拳を握り、その様子をマジマジと見つめていた。ノクティスはそれに驚いたらしく、理由というか何というか、何かあたふたしながら言い始めた。
「あー、えっとな、俺の幼なじみ…?に、女子力がアホみてーに高い男がいてだな、そいつから教わったんだ…けど…な…。」
自分が女子力高い系男子と思われたくないのか、責任転換の様に聞こえる。エルザはノクティスから聞き出そうとしたが、段々と語尾を震わせるノクティスの様子を見て、何かを感じた。
ノクティスからは寂しさと恋しさの様な物がオーラで出ており、目は虚ろ気味に下を向き、釣り上がっていた口角は下がって歯を食いしばっているかの様に。そして、極めつけに段々と縮こまる背中。
その様子に、エルザはふと考えが過ぎった。
(…失ってしまったのか…?)
ノクティスが言う男というのは、エルザは知りはしないが、イグニス・スキエンティアの事だ。彼は使命を果たす為に命を焦がした。その際、イグニス…いや、ノクティスの警護隊は死んではいない。その為、現世にいるということになる。簡潔にまとめてしまうと、もう会えない。
「…わりーな、話、暗くなっちまった。」
愛想笑いの様に、本当の感情ではない笑いを浮かべるノクティス。下記のイグニス達の出来事は、エルザにはまだ分からず、ただただその背中を見つめる事しか出来なかった。自分に、何が出来るか。それを考えた末、エルザは行動を起こす。
「────さ、ギルドへ戻ろう。きっとどんちゃん騒ぎだぞ。」
ノクティスの背中を軽く叩き、肩を組む様にして、控えめに言えば共に歩み、悪く言えば強制連行の様に見える。が、ノクティスは、エルザの好意と受け取り、共に歩み始めた。
「────きっと、うるせーだろーな。」
微笑みながら、
今夜は満月だろうか、やけに綺麗に月が映っていた。
はい、閲覧ありがとうございます
今回も少し説明の方を。
ファントムソード
夜叉王の刀剣
神凪と共に星を護ったと伝えられる王の証。
特定の攻撃後に構えることで、能力を高められる。
chapter4で、タイタン戦の前にカーテスの大皿で手に入ります。ストーリーで必然的に手に入るので、どなたも確実に持てる武器です。
武器の形は名前通り刀剣です。
父王の剣
選ばれし王を守り育て、慈愛に満ちた父王の証。
全てにおいて優れた能力を発揮する王道の剣。
chapter13のシグナタス要塞で、進めていくと、レイヴスの亡骸と共に置いてあります。特殊演出で、父王の剣に切り替えた時、前に突き出して構えます。今回はそれを使ってます。分かりにくいけど!!
追記ですが、レイヴスの死の原因については、chapter13のグラディオラスルートを進めるとわかりますよ。
武器の形は賢王の剣と同じで、普通の剣の形をしています。
単語
静謐(せいひつ)
静かで落ち着いている事です。また、その様子としても使われますね。
今回は、「図書室での静謐な一時」のように使っています。
蒼然暮色(そうぜんびしょく)
夕暮れ時の薄暗い様子の事です。
光が弱くて、人の顔がハッキリとしないくらいの薄暗さ。