1話もの 俺ガイルクロス   作:まーぼう

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はがないとのクロス。
両作品から1人ずつ出演してもらい、中学時代を捏造しました。
性格やら過去の設定やらで原作と食い違う部分も多いですが、そこらへんを原作でやる前に書いた話なんで勘弁してください。


北極星(ポラリス)

「困ったなぁ…。どうしたらいいと思う?」

 

 放課後の人気のない教室で、私は親友に悩みを相談していた。

 

「いきなり好きだとか言われてもどう答えればいいかわからない。角が立たないように断るにはどうすればいいんだ?」

 

 そう。私は今日、男子から告白された。それも女子から人気の高い福山君からだ。だが私は男と付き合うつもりなどさらさらないのだ。

 

「贅沢な悩み?そうかも知れないけど本当に困っているんだぞ?他人事だからって気楽に言わないでくれ」

 

 自慢ではないがこういうことは初めてではない。中学に上がったくらいからちょくちょくある。そして同じことがある度に、同じことに悩まされる。

 

 

「あー、ったるい。沼田のヤロー、準備室の片付けくれー自分でやれっつーの」

「ホントだよねー。何かっつーとすぐ生徒に押し付けてさー」

「つーかあいつ女子のこと見る目エロくね?」

 

 

 ガヤガヤと、騒音を撒き散らしながら女子の三人組が入ってきた。

 目が合って、同時に声を上げる。

 

「「「あ」」」

 

 私は咄嗟に目を伏せ教室を出ようとした。

 

「待ちなよ」

 

 三人組の真ん中、クラスでもリーダー格の女子に呼び止められて、つい脚を止めてしまった。

 

「何逃げようとしてるわけ?」

「べ、別に逃げたわけじゃ……」

「ハァ?聞こえないんだけど?」

 

 威圧的な声に、私は俯いて黙ってしまう。

 三人はそんな私を取り囲み、次々に言葉を浴びせてくる。

 

「あんたさぁ、ハッキリ喋るとかできないわけ?」

「いっつも下ばっか向いててさぁ」

「話聞いてんのかよ、オイ」

 

 聞いてるわけないだろう。どうせ同じことしか言わないくせに。売女共が。

 

「あんたさぁ、福山君に告られたからって調子のってない?」

 

 やはりそれか。

 見ればリーダー格ともう一人にはからかいの気配があるが、残りの一人からは本気の憎悪が見て取れる。

 こいつはきっと、福山君のことが好きだったのだろう。それで他の二人が手伝っているわけだ。嗚呼、麗しき友情。反吐が出る。

 大体私が責められる筋合いなどどこにもない。言い寄ってきたのは向こうだし、まだ返事してないとは言え私は断るつもりだ。何より以前から好意を抱いていたというのなら、さっさと行動しないそいつが悪い。

 しかし彼女たちには、そんな当たり前の道理も理解できないらしい。

 

「聞いてんのかっつってんだろ!」

「ぁぐ!?」

 

 いきなり髪を掴まれ引き倒された。弾みで捲れたスカートからのぞく太ももに、上履きの底が叩きつけられる。

 

「っつ!」

「ちっと男にモテっからって図に乗ってんじゃねーよ」

 

 図に乗ってなどいない。お前らが勝手に僻んでるだけだろうが!

 

「何ガンつけてんだよ」

「!……」

 

 思わず目を逸らしてしまう。

 

「言いたいことあんだったらハッキリ言えよ。そういう態度がムカツクつってんだろが」

 

 何を言っても言わなくてもムカツクんだろ。だったらお前らみたいなのと話したくない。

 

「……ちっ」

 

 リーダー格は一つ舌打ちすると、爪先を私の鳩尾に突き入れた。

 

「ぐっ!」

 

 私は腹を抑えてうずくまる。

 

「そんなんだからダチの一人もいねーんだよ」

「!」

 

 ふざけるな。群れなければ何もできないくせに。何がダチだ。貴様らの言う友情など便所紙よりも薄っぺらい代物なんだぞ。そんなことも分からないような連中が私を語るな。

 怒りにそんな呪詛が沸き起こる。だが彼女たちには届かない。

 売女共は目線を交わし合うと、三人で次々蹴りつけてきた。

 私はただ身体を丸め、耐えることしかできない。

 どのくらいの時間が経ったのか、やがて蹴撃が止む。反応が無いことに飽きたのか、欠伸などしていやがる。

 リーダー格は全身に靴跡をつけた私を見下ろしながら、わざとらしくこう言った。

 

「あーごめん。うちらさっきトイレ行ったの忘れてたわ」

「…………っ!」

 

 ビクリ、と身体が震える。それに満足したのか、最後に一発蹴りを入れて、彼女たちは耳障りな笑い声と共に去っていった。

 

 

 

 私は、ずっと固まっていた。

 

「……ふっ!……ふっ!……」

 

 乱れる呼吸を無理矢理抑え込む。歯を食いしばって涙をこらえる。

 泣いてたまるか。あんな低俗な奴らのために、涙など流してたまるか。

 どのくらいそうしていたか。

 完全下校時刻を告げるチャイムを聞いて、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「……うん。大丈夫。ありがとう」

 

 私を心配してくれる、心優しい親友にそう答える。

 惨めだった。

 でも、私には、彼女くらいしかすがれるものがないのだ。

 

 

 

 翌日、私は学校を休んだ。

 親にばれないように制服を洗濯するのに苦労した。お陰で制服はまだ湿っている。それを自分への言い訳にして、逃げた。自覚くらいは有る。

 ベッドで寝返りをうってため息を吐く。

 普段私を気にかけてくれる親友も、さすがにここには居ない。この部屋に初めて通す相手は、もうずっと前から決めているからだ。

 

 目を閉じて思い出す。

 私の15年という、さして長くはなくても決して短くはない人生の中で、ただ一人友人と呼んだ少年のことを。

 彼と過ごす時間は楽しかった。誰かと一緒に居ることを楽しいと思ったのはあの頃だけだ。

 だけどそんな時間は長くは続かなかった。急に引っ越してしまってそれっきり。別れを告げることさえできなかった。

 彼を責める気は無い。というか責められるべきは私だ。

 彼と会えた筈の最後の機会を、私は臆病さから不意にしてしまったのだから。

 

 彼は今どうしているだろう。

 私を恨んでいるだろうか。

 私のことなど忘れてしまっただろうか。

 それとも……私に会いたいと、思ってくれてるだろうか。

 彼が居なくなったあの日から、私はいつも彼のことばかり考えて生きてきた。

 なんの救いも無い、星明かりすら射さないような暗闇の人生の中で見つけた灯火。それが彼だった。

 その金色の光を、煌めくような黄金ではなく、出来損ないのプリンのような金色を目指して歩き続ければ、また何時か再び出会えると、ただそれだけを信じて生きてきた。

 けれどその光は、歩いても歩いても近付くことはなく、むしろ遠ざかるばかりで。

 真っ直ぐに目指していた筈のその光を、いつの間にか見失って。

 どっちへ進めばいいのか分からないまま、それでも歩き続けた。一度止まってしえば、もう歩けなくなると分かっていたから。

 だけど、その歩みはとても遅く、進んでいるのかどうか、自分でも分からない。

 

 私はもう、疲れてしまったのだ。

 

 

 

 通学路を歩きながらため息を吐く。

 学校に行きたくない。でも、そう何度も仮病を使うわけにもいかない。

 憂鬱だった。

 優しい親友が気遣ってくれるが、それに応える気力すら湧かない。

 ただひたすら下を見続け、授業で指された時以外は喋らず、体育で余り者として先生と体操し、一日中俯いて過ごす。

 それが学校という空間で私に与えられた役割だ。そして、役割を全うできない者には制裁が待っている。

 小学生の頃はやり過ごすのは難しくなかった。だが、中学に上がってからは、この制裁を受けることがしばしばあった。

 ようするに、色気付いた男子が血迷って告白してくるようになったのだ。こちらとしては迷惑でしかない。

 そしてその後は、この前のようなことがしばらく続くわけだ。

 それほど長い期間ではない。私の経験上、精々一月か、早ければ二週間程で飽きる。ああいう連中の言う「命懸けの恋愛」などその程度ということだ。無論、有り難くも何ともないが。

 そういえば、と思い出す。

 3年になって三度目だが、前の二回は特に短かったな。

 

 教室に入ると騒がしかった。

 一昨日の三人組と目が合い、何を言われるかと身を固くしたが、ただ一瞥されただけであっさりと視線を外された。

 どういうことかと訝しんでいると、周囲の注目が教室の前方に集中していることに気付く。

 目をやれば、黒板にでかでかと落書きがあった。皆それを見てぷークスクスと笑っている。

 

 

『俺たち付き合ってみる?』

 

 

 男子の似顔絵らしきものが黒板に描かれ、その隣の吹き出しにそんなセリフが入っていた。

 

「ナルヶ谷マジキモいよねー」

「鏡見たことあんのかっての」

「ゆり子大丈夫ー?」

「……いや、マジしゃれになんないから。ジョーダンでもやめてよ」

 

 あのビッチ共の声が聞こえた。どうやらリーダー格がナルヶ谷とかいう男子に告られたらしい。黒板の前で立ち尽くしているあいつのことだろうか。

 

「あいつ少し前にかおりにも告ったんでしょ?身の程知らねーのかっていやマジで」

 

 ……そういえば前にもこんな騒ぎがあったな。というか割としょっちゅう色んなことをしでかしている気がする。そのくせろくに印象に残ってないというのはどういうことか。

 教室中がそいつの噂で夢中になっている。ある意味凄まじい影響力だ。売女共も新しい話題に夢中で、私のことなどどうでもいいらしい。

 一人だけは敵意に満ちた視線を投げかけてきていたが、リーダー格にその気がない為か、突っかかってくることはなかった。

 よく分からんが助かったらしい。おそらくは最短記録だ。

 あの男子にも感謝くらいはしてやってもいいかもしれない。

 

 

 

 放課後、私は一人、教室を掃除していた。

 他の当番はとっくに帰った。昨日休んだからその分働け、だそうだ。

 このくらいは構わない。一人になれるのはむしろ有り難いくらいだ。

 どのみち早く帰ったところですることもないのだ。私は親友と他愛ない話をしながらのんびり掃除することにした。

 さすがに一人では手間がかかり、掃除が終わる頃には既に陽も沈みかけていた。

 帰り支度を済ませ、教室を出たところで女子と鉢合わせた。あのビッチ共の中で、最後まで私に敵意を向けていた女だ。

 ここで会ったのはただの偶然で、私を待ち構えていたわけではないらしい。驚いた表情で、キョロキョロと周りを見回している。仲間でも探しているのだろう。

 ……捻り潰す好機ではあるが、それをやると、後々仲間を連れて復讐にくるのは目に見えている。

 折角他所に目が向いているのだ。関わらない方が無難だろう。

 そう考えてさっさと離れようとすると、「ちょっと」と、わざわざ声をかけてきやがった。人が折角見逃してやってるのに……!

 私は脚を止めて振り返る。

 目が合って、すぐに逸らす。下を向く。

 何をやってるんだ私は……!

 情けなさに涙が滲む。相手の顔は見えないが、きっと嘲笑っているだろう。

 口を開く気配。罵倒が飛んでくるだろうというタイミングで、

 

「あの、」

 

 男子から声をかけられた。

 私の背後から発せられたその声は、私を飛び越え目の前の女へと投げかけられる。

 

「あの、俺、前から木下さんと話してみたくて」

 

 いきなり過ぎて振り向くこともできなかった。

 木下と呼ばれた女も、虚を突かれたような顔で呆けていたが、次第に嫌悪、というか気持ち悪い物を見るようなものに表情を変化させていく。

 

「……え?ちょ、何?やめてよ。ていうかあんた昨日ゆり子に告ってたじゃん」

「それは、ホラ、話しかけるきっかけが欲しかったというか……」

「いや、ムリだから。ていうかおかしいでしょそれ。……いや、マジムリ。ホントやめて。ゴメン、あり得ないから」

 

 木下(?)はそう言い残して逃げていった。

 私は唐突すぎる流れの変化に付いて行けず、ようやく動けるようになった時には、既に誰も残っていなかった。

 

 翌日、噂の男子の呼び名はキモヶ谷に変化していた。

 

 

 

「キモヶ谷マジ最悪」

「つーかきっかけ欲しくてとか何様だって」

「身の程知れよ」

「木下さん可哀想……」

 

 昨日に輪をかけてメタクソに蔑まれているキモヶ谷。

 木下の意識も彼に移り、私は今度こそ解放されたようだ。

 結果的にとは言え、助けられた立場でこんなことを考えるのはどうかと思うのだが、昨日のアレは私もキモいと思った。セリフはともかく、声音というか口調とかそういうのが。

 木下の反応を見る限り、表情とかも相当だったのではないだろうか。

 身の程を知れという言葉にも、つい納得してしまう。

 本当にキモいかどうかを抜きにしても、クラスのこの状態から目が無いことくらい分かりそうなものだが。

 黒板には昨日と同じように落書きがあり、やはり昨日と同じようにキモヶ谷が立ち尽くしている。

 どんな顔をしているのか見てみようと思った。

 自分より下の相手を見下して安心したい。そんな浅ましい心理が働いたのかもしれない。

 だからだろうか。

 予想したどれとも違う表情に、私は立ち竦んでしまった。

 

 

 授業中、教師の声を聞き流しながら、私はずっとキモヶ谷のことを考えていた。

 普通、あんな扱いを受ければショックを受ける。当たり前だ。

 そうなれば怒るとか、悲しむとか、恨むとか、そんな感情を抱くものだろう。いや、それが喜悦の類いだったとしても、ここまで戸惑いはしなかったかもしれない。

 だがあの時、あいつの表情は、いかなる感情も映してはいなかった。

 それも、衝撃のあまり感情が凍り付いたとか、そういうのでもない。なんというか、分かり切った何かを確認してるだけのような、そんな感じだった。

 

 あいつは何だ?まるで理解できない。

 結構頻繁に話題になる割に、ろくすっぽ印象に残らない、特異な性質を持つ男。

 これまでに何度も似たような騒ぎを起こして、その度に同じような目に会ってきている。普通なら一度で学習しそうなものだが。

 そこではたと気付く。

 そう。学習するのだ、普通は。ならば彼には学習能力が無いのか?

 そう決め付けて、愚かと蔑むのは簡単だ。だがそんな人間、そうそう居るとは思えない。だとすると、彼は学習した上で同じ過ちを繰り返していることになる。

 

 過去のことを思い出す。

 3年になってから、二度告白された。その時にも嫌がらせを受けたが、ほんの筈かな期間で収まった。何故だ?

 何かの騒ぎが起きて、皆の興味がそちらに移ったからだ。その騒ぎとは……。

 衝撃が走る。

 そうだ。あの時もあいつが騒ぎを起こしたんだ。私はそれで偶然助かった。

 ……そんな偶然有り得るか?ではあいつが私を助ける為に騒ぎを起こしていたと?

 そんな筈はない。私とあいつは口をきいたことすらないんだ。大体、それ以外にもしょっちゅう……

 

 そこまで考えて、ある恐ろしい可能性に思い至る。

 まさか、『私』を助けたわけではないのか?

 『私のような思いをしている者を、片っ端から』助けているのか?

 そんな筈はない。そんな生き方耐えられる筈がない。

 だけど、もしそうなのだとすれば、一体どれ程の強さがあればそんなことが可能なのだ?

 

 私は、恐怖した。

 

 

 

 全ての授業が終わって、あの男に話を聞くべく首を廻らせると、既に教室を出ていくところだった。

 早すぎるだろ。

 心の中で毒づきながら慌てて追いかける。

 校門を出たところでようやく追い付いた。出るのが早すぎた為か、周囲には誰もいない。

 

「待て!」

 

 制止の声を上げると、彼は立ち止まって、どんよりと腐った視線を向けてくる。

 

「あぁ?」

 

 う゛っ……!?

 これは……確かにキツい。不覚にもあのビッチ共に同情してしまった。

 だが怯むわけにはいかない。私は意を決して言葉を吐き出す。

 

「お前、何故あいつらに告白したのだ!?」

「うがあぁぁあぁっ!?」

 

 いきなり頭を掻きむしってのたうちまわるキモヶ谷。え?何コレ?

 

「いきなり人の黒歴史の新たなる1ページ刺激してんじゃねえよ!なんだお前は!?」

「く、黒?」

「あんな性悪女に惚れてたとか黒以外の何色歴史だ!夢色か!パティシエールか!」

 

 な、何を言ってるんだこいつは?いや、確かに色でイメージするなら黒以外あり得ないだろうが。

 

「んで?あんた何?何の用?」

 

 そう、チンピラのように睨めつけてくる。なんか私のイメージと大分違うような……。

 ともあれ質問は変わらない。

 

「今回お前が起こした騒動。あれは私を助ける為か?」

「はぁ?何言ってんだお前」

「私があいつらに絡まれているのを見てあんな騒ぎを起こしたのではないのか?」

「だから何言ってんだお前は。自意識過剰なんじゃナイデスカー?」

 

 こ、こいつムカつく……!

 

「ったく、機嫌悪りい時にわけ分かんねえ言いがかりつけてくんじゃねえよ。これからリア充共にどうやって嫌がらせするか考えなきゃならんのに」

「とぼけるな!お前の行動はどう考えても……リア充とは何だ?」

 

 聞き慣れない単語につい気勢を削がれてしまう。

 

「んなことも知んねえのか?リア充ってのはリアルが充実してる人間、ようするに俺を振ったような奴等のことだ。ああムカつく。死ねよリア充」

「な、なるほど……」

 

 そんな言葉があるのか。しかし……

 

「よく堂々とそんな最低発言ができるな。まさか本当に偶然なのか?」

「だからさっきからそう言ってんだろ。木下も福山も関係ねえよ」

「……ふざけるな」

「あ?」

「ふざけるな!」

 

 思わず怒鳴っていた。

 こいつはただ、学習能力のない愚か者で。空気を読まずに告白して。場を出鱈目に引っ掻き回しただけだと?

 ならば私は?

 そんなものに救われてしまった私は、このクズ以下だと?

 

「認めない……」

「何言って」

「認めない!お前は!全てを知って!私を救う為に行動した筈だ!」

 

 そうでなければならない。私は、クズに助けられる程落ちぶれてはいない!

 

「お前は!他人の評価などモノともしない鋼の心と!崩れ逝く者に手を差し伸べずにいられない、孤高の魂を併せ持つ!誰よりも気高い男だ!」

「……勝手に言ってろ。付き合ってられっか」

 

 そう吐き捨てて去っていく。

 勝手にしろだと?ああ、そうするさ。

 私は疑り深いことにかけては一家言あるつもりだ。だからお前の言うことなど信じない。

 こんな態度を取るのは私に気を遣わせない為だ。

 一度も話題に出してない福山くんの名前が出てきたのはお前が事情を知っていたからだし、去り際に見えた口元が笑みの形に歪んでいたのは私の理解を得て嬉しかったからだ。

 勝手にそう信じさせてもらう。

 

 

「あんな性格悪い奴は初めて見た」

 

 私の呟きに親友が同意してくれる。

 私も相当捻くれてる自覚があるが、あの男に比べれば可愛いものだろう。

 名前を呟こうとして、あだ名(というか悪口)しか知らないことに気付く。結局お互い自己紹介もしなかったな。

 まったく、常識が無いのか。二人揃って。

 知らず、笑みが漏れる。憂鬱な気持ちが嘘のように消えていた。

 またあの女共に絡まれるかもしれない。別件でトラブルが起きるかもしれない。だけどもう怖くない。あの男に比べれば、誰だろうが雑魚に過ぎない。

 私にも掴めるだろうか。彼の強さの、ほんの一欠片でも。そうすればもう、惨めさに泣くことも無くなるだろうか。

 彼の強さは、きっと紛い物の強さ。

 他に光があれば、霞んであっさり消えてしまう、そんなか細い輝き。

 けれど多分、必要なのだ。私のような人間には。

 善も悪も暴きたてて、全て焼き尽くしてしまう太陽ではなく。闇夜に迷った旅人に路を示す、北極星(ポラリス)のような光が。

 気付けば、見失った筈の灯火が遠くに見える。

 遥か彼方の金の光と、頭上に輝く星の光。この二つがあれば、私はまだ歩ける。

 いつか自分でも輝けるようにと、大きく息を吸い込み、

 

 

「リア充は、死ねッ!!」

 

 

 天に吠える。

 通りすがりの一年がビクリと身を竦め、怯えたようにそそくさと去っていった。

 ……照れが入る内はまだまだだな。あの男の領域は遠い。

 

「どうだ?似てたかトモちゃん?」

 

 存在しない、声も表情も持たない筈の親友が、笑って背中を押してくれた気がした。

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