クロス、というかパロディ元は、知ってる人ならタイトルだけで判ると思います。逆に言うと知らない人には言っても判らんでしょう。そういう作品。いや、好きなんですけどね。
「ぐっはあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「何やってんだ材木座?」
我が左腕の暴走を抑える為にのたうちまわっていると、我が戦友にして最大のライバルたるヤタガラスの化身、八幡が我の身を案じて駆け寄ってきた。
「く、来るな、八幡!今の我に近付くのは危険だ!」
「いや頼まれたって近寄らねえよ。で?何やってんだ?」
八幡はその脚を止め、それでもなお我を案じて声をかけてくる。
くっ……!このような友を危険にさらすわけにはいかぬ……!
「魔王が……我の左腕に封じられし魔王が甦ろうとしている……!逃げよ、八幡……我にかまうな……!」
「あー、そっか。周りの迷惑も考えてほどほどにな。あと設定ブレてんぞ」
「かまうなと言っている……!行け、八幡……!」
「いまさら本気にする奴もいないとは思うけど、救急車呼ばれないようにな」
八幡はそう言い残し、こちらを振り返りながらも使命を果たす為に先に進んだ。我はそれを見届け、ふらつきながらも立ち上がる。
ふ……!友に信じて任された以上、屈するわけにもいかぬか……!
『クックックッ。なかなか頑張るではないか?人間ごときが』
突如頭の中に声が響く。同時に左腕が熱を持って疼く。
我は薄れそうになる意識に喝を入れ、その声へと叫び返した。
「黙れ魔王よ!この剣豪将軍、貴様ごときに屈しはせぬ!」
『さて、その強がりがいつまで持つかな?貴様など所詮は……』
「黙れと言っている!」
左拳を壁に打ち付けると同時に声も消える。
「負けん……!やらせはせん、やらせはせんぞぉ……!」
我は立ち上がると、ふらつきながら歩き出した。
この声が聞こえるようになったのはごく最近のことだ。
奴の話では、異世界で魔王軍と勇者軍ーー魔王の率いる軍団ではなく魔王ばかりがより集まった集団らしい。勇者軍も同様だーーの戦いがあったそうだ。
その戦いに敗れた者は精神体となって別の世界に逃れたのだが、この声の主もそうした敗れた魔王の一体らしい。ただ、こやつは魔王の中でも少々特殊な存在のようだ。
『しかし我は運が良い。たまたま流れ着いた先がこの世界とはな。我は常々この世界に来てみたいと思っていたのだ』
そう。こやつは以前からこの世界のことを知っていたのだ。
なんでも魔王どもは、異界から自分の力にできそうな道具を召喚する術を持っているらしい。
そして我に憑いたこいつは、この世界から呼び寄せたアイテムをひどく気に入ったそうな。
「貴様……!この世界に何の用だ!何を企んでいる!?」
『ふっ!初めは我の手に入れた力を拡張するつもりだったのだがな、いざ来てみればより強力な装備が選り取りみどりではないか!剣豪将軍よ、それを教えてくれたのは貴様なのだぞ?』
「なん……だと……!それではやはり、貴様の狙いは……!」
『クックックッ……。まったく、どの世界でも人間どもの進歩とはすさまじいな。PS4に3DSか!我の手に入れたゲームボーイなど比較にもならぬ!あらゆるゲームに我の名をとどろかせてくれるわ!」
そう、ゲームボーイとそのソフト数点なのだった。
こいつはゲームにドハマりして世界征服をうっちゃってしまったそうだ。魔王軍敗退の要因もその辺にあるっぽい。まぁそれはともかく。
『して剣豪将軍よ、昨夜新装備が出たであろう。我はあの鎌が欲しいのだが』
「だから我は課金はしない主義だと言ったろうが!そもそもあのキャラは鎌スキルなどまったく育ててないのだぞ!?」
『ケチくさいことを言うな!魔王と言えば鎌であろうが!?』
「やかましい!何が悲しくて使いもしない装備のためにリアルマネーを使わねばならん!?」
先の会話の通り、この魔王は現在新世代のハード(ゲームボーイと比較すればなんだって新しいだろう)の虜である。そうした中でもとりわけMMORPGがお気に入りらしいのだが、どうも課金厨の気があるようでことある毎に課金を迫ってくるのだ。しかもーー
『ええい、強情な!ならば実力行使よ!』
痺れを切らしたような声とともに、左腕に違和感が走る。そして左腕が我の意思とは無関係にスマホを取り出した。我はそれを慌てて右手で押さえつける。
「ぬううう!?やめぬか貴様!?」
『ふっ!言ったはずだぞ、この左腕はすでに我の物だと!さあ、おとなしく諦めて我に貢ぐがよい!』
「ぬおおお!?静まれ!我の左腕!」
このように魔王は日ごとに力を増し、今では我の左腕を操るまでになっている。
我はどうにか魔王を押さえ込み、フラフラになりながら人の居ない場所を探す。
「やらせん……貴様の好きにはさせんぞ、魔王……!」
「あん?なんだこいつ?」
ここなら誰も居ないだろうと屋上に来ると、そこには煙草をふかす三人のDQNが居た。
この総武校は進学校でそれなりに行儀の良い学校なのだが、この手の輩はどんなところにも一定数いるものだ。ええい!こんなところでたむろしおってからに!
『ふむ?剣豪将軍よ、こやつらはなんだ?確か今は授業中とかいう時間ではなかったか?』
「ただのサボりであろう。くそ……他をあたるか……」
仕方なく背を向ける我に、DQNの一人が声をかけてくる。
「おい、待てよ」
「ぬ?」
何用だ?我とこやつらに接点など無いはずだが。
「おい、やめとけよ」
それを見た他の一人が嗜める。そうだ、もっと言ってやれ!
「なんでだよ。ヤニ吸うとこ見られてんだぞ?」
「いや、俺コイツと同じクラスなんだけどヤバい奴なんだよ」
「何?強えの?」
「いやそうじゃなくて、なんつうか単純に関わりたくない」
「……よくわからんけどこのまま帰すわけにもいかねえだろ。軽くシメてついでに小遣いでももらおうぜ」
我を置いてこそこそと話し始めるDQNども。ぬう、いくつか不穏な単語が漏れ聞こえたような……
『おい、剣豪将軍。こやつらは結局何の用なのだ?』
「……人に見られてはまずいところを見られたから口を封じようというのだろう」
『ほう!それはつまりこの我に戦いを挑むつもりだと!』
「違うわ!奴らめは貴様のことなど知らぬであろうが!というかこんなカスどもであっても一般人は一般人、貴様に手は出させん!」
「……なぁ、あいつ一人で何ボソボソ言ってんだ?」
「だから言ったろうが、関わりたくないって。ああいう奴なんだよ」
『ふふん。貴様ごときが我を止めると?やれるものならやってみるがいい!』
「大口を叩くな!貴様こそ我の左腕一本で何が出来る!」
『フッ……いつから我が使えるのが左腕だけだと錯覚していた?』
「な、何!?」
『言ったはずだ!貴様ら人間から力を吸収し、我の力は回復し続けていると!』
「いや今初めて聞きましたけど!?」
『そしてすでに、このくらいは出来るまでに力を取り戻している!さあ刮目せよ!我が力の一端を!』
「ぐっ、やめ!貴様ら、逃げろォ!!」
「……なぁ、やっぱやめね?殴んのもやだよオレ」
「い、いや、気持ちはわかるけど見逃したらヤバいだろ?」
「ダイジョブなんじゃね?こんな奴の話聞くやついねーよタブン」
DQNどもは我の尋常ならざる様子に度肝を抜かれたのかまったくの無反応。くそ、馬鹿者共め!我が必死で魔王を抑えているのを無駄にするつもりか!
『ふははははっ!出でよ!我が卷族よ!』
「う、おおぉぉぉぉっ!やめろぉぉっ!」
「「「は?」」」
我が遂に力尽きたのと、DQNどもがマヌケな表情を浮かべるのは同時だった。
束縛から解き放たれた魔王の力は無数の魔方陣となって我の周りに浮かび上がり、
そこから大量の触手が吐き出された。
「「「んほおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!しゅごいのオォォォォォォォォォォォォ!!!!????」」」
「貴様……なんということを…………!」
無力感に打ちのめされる我の足元には、恍惚の表情で痙攣するDQNども。犠牲者が女子ではなかったことが救いなような無念なような……。一体誰得だこの光景は。
『ふん、貴様が傷つけるなとうるさいからマッサージで済ませてやったのだぞ?文句を言われる筋合いなどないわ』
まったく悪びれることなくそう言ってのける魔王。
そう、こやつはDQNどもを傷つけることはなかった。ただ触手で絡め取ってグニュグニュウニョウニョと弄んだだけだ。無論、穴に潜りこませたりもしていない。
「というかマッサージだったのか、あれは?」
『うむ。我の開発した熱湯地獄爆雷触手式マッサージだ。ペットのデスジャイアントシャドウデスクラッシャーヘルサイズインフィニティデスエクスデスくんに仕込むのは苦労したが、効果は見ての通りだ』
「貴様のそのネーミングセンスはなんとかならんのか……?」
熱湯も爆雷もまったく見当たらなかったのだが。あとデスを三回も入れるな。
『それはそうと剣豪将軍よ。今の三人から代金代わりにいくらか魔力を頂いたのだがな?』
「何!?」
『量としては微々たるものだが……それでも、これまで地道に溜め込んだ分と併せればそれなりにはなる。これで我は次のステージに進めるぞ!」
その言葉と同時に目の前にまた魔方陣が生まれる。
正直な話、この声は自分の妄想が産んだ幻覚という可能性を疑っていたのだが、さっきの触手で現実のものだと確定してしまった。実際に凶悪な力を持っていることも。
こんな奴を好きにさせれば本当に大惨事になりかねない!
「貴様!何をするつもりだ!?」
『ふははははっ!そう急かすな!焦らずとも見せてやるわ!』
「うおおお!やめろぉぉぉぉ!」
俺は叫んだ。
それしかできない。抵抗しようにも何をすれば良いのか分からない。
体を操られるのなら力で押さえ込めば済むが、宙に浮かんだ魔方陣を消す方法なんて俺は知らない。
俺は剣豪将軍などではなく、ただの中二病なのだから。
魔方陣から光が溢れ、目を開けていられないほどにまばゆく輝く。
光が収まるのを目蓋越しに感じとり恐る恐る目を開くとーー
『ふむ、こんなものか』
自分の身体を見下ろして満足気に頷く魔王がいた。
『どうだ剣豪将軍、我の姿は?』
俺は呆気にとられていた。自慢気に胸を反らす魔王の姿が、あまりにも予想と異なっていたからだ。
魔王は人間に近い姿をしていた。
髪色こそリアルでは有り得ないような鮮やか過ぎる紅だったが、肌も青や紫ではないし、羽も尻尾も生えてない。
ただ、頭には捻れた大きな角が二本生えていた。ありがちだった。
……何故これが予想出来なかったかって?当たり前だろ!最近のラノベやアニメじゃありがちな魔王像だが、それがそのまま現実に現れるとか誰が考えるか!普通魔王とか言われたらもっと化け物じみたのを想像するわ!
しかも、しかもだ……!
「き、きき、貴様!女だったのか!?」
『む?最初にそう言ったろうが』
だから聞いてねえよ!お前の脳内だけで言ったことになってるだけだ!
魔王は俺よりは年上だろうがまだ十代の少女にしか見えない。いや実際はいくつだか知れたものではないが。
顔はぶっちゃけ美少女。
十人に聞けば六人は可愛いと答える。そして残りの四人は美人と答えるだろう。そういう少女だ。
で、身体がダイナマイツ。身も蓋も無い表現だが、見て初めに浮かんだ言葉がそれだった。取り敢えず平塚教諭以上とだけ言っておこう。
え?て言うか何コレ?
デブでオタのメガネボッチのところに美少女魔王降臨とかそれなんてエロゲ?(凌辱系)
フラフラと魔王に向かって手を伸ばす。完全に無意識の行動だった。魔王はこちらを見ておらず無反応。
俺の手がその細い二の腕に触れーーられなかった。スカスカとすり抜けてしまう。
ーーえーと、コレはあれか?あのお約束のああいうことでいいのか?
俺の疑問に答えるかのように魔王がこちらを見ぬまま独り言を洩らす。
『ーーうむ。ただの幻とは言え、やはり自分の身体があるというのは良いものだな』
やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
期待させてんじゃねえよクソボケ!!!!
がっかりした!すげえがっかりした!この恨みは一生忘れねえ-!
『む?どうした剣豪将軍。拾い食いは良くないぞ』
「誰が拾い食いなんぞするか!?幻じゃ触れねえだろ!」
『何を怒っている?触れないことは最初に言ってあっただろう?』
「だから聞いてませんよ!?その勝手に話したつもりになってるの地味にムカつくんですけど!?」
『ま、この調子で力を取り戻していけば本物の身体を取り戻すのもそう遠くなかろう』
「聞けよ話を!ってちょっと待て。本物の身体?」
『うむ。やはり幻だけではやりたいこともできんからな』
てことはなんですか?これまたお約束ですか?
え、我の青春ラブコメまだ終わってなかった?
と、一瞬浮かれかけたがちょっとばかり聞き捨てならないことを口走っていたような。
「魔王よ。貴様身体を取り戻して何をするつもりだ?」
こやつは魔王だ。
見た目に騙されかけたが危険な力を振るう化け物なのだ。
そんな奴が何かをしようとしている。無視していいことではない。
魔王を我の問いにニヤリと邪悪な笑みを浮かべて口を開いた。
『ふっ、決まっておろうが。我の望みはただ一つ。剣豪将軍、貴様との決着よ!』
「は、はい!?」
え、何ソレ?我こいつになんか恨まれるようなことしたっけ?
『あれは我がこの世界に来て間もない頃のことだ……』
戸惑う我を置いて、魔王は勝手に語り出す。いや、今だって大して時間経ってないよね?
『我はゲームの進化に感激していた。なんとしてでも自分で遊びたい。その一心で貴様に取り憑き身体の自由を奪おうとした』
「そんな理由で取り憑いたのか貴様」
『そしてどうにか左腕のコントロールを奪い、マウス一つで遊べるPCネトゲにこぎ着けた』
「我が寝てる間に勝手にキャラ削除してくれたアレか」
『そうして気分良くゲームを満喫していた我に、貴様はこう言ったのだ!「うわ、ヘタクソ」と……!』
「あー、あったな-」
『その恨みと屈辱は決して忘れん……!かくなる上は直接対決で叩きのめすのみ!』
「というとつまり、貴様が身体を欲しがる理由は……」
『このままでは対戦などできんからな。やはり両者とも両手が揃ってなければ話にならん』
魔王(ムチムチ美少女)の目的=我とゲームで遊ぶこと
ちょっ、マジで?これマジで我に春来たんじゃね?
「あー、その、なんだ。世界制服とか世界を滅ぼすとかはせぬのか?」
『は?なんでそんな無意味かつ面倒くさいことせねばならんのだ?』
うわ-。魔王にあるまじき発言。
『それはそうと剣豪将軍よ、いつの間にか口調が治っておるな?』
「ぬ?」
言われてみれば確かに。いや、マジもんのピンチかと思って素が出てただけなのだが。
『うむ、やはり貴様はそうでなければな。少し心配したぞ?』
……やっべ。今ちょっとマジ惚れしそうになった。
『これに懲りたらもう拾い食いはするなよ?』
「しねーよ。つか違うっつったろが」
そんなわけで我は、美少女魔王と共同生活するようになった。
まぁそうは言っても触ることもできんし、魔王は魔王でそういう方面は知識も経験もからっきしみたいなので、色気のある展開にはなりようがないのだが。
魔王は肉体獲得を目指して色々しでかすものの、基本的に人を殺したり傷つけたりはしないので、最近ではもう止めることも少なくなってきた。
勿論人に迷惑かけた時はちゃんと叱る。最初は反抗するんだけど我が本気で怒っているとシュンとする。つうか普通に可愛いんですけどこの娘。是非とも早く身体を取り戻してくれ。
ともあれ魔王のいる生活にも慣れ、ごく自然に過ごせるようになった。問題があるとすれば……
「ぐあああああああっ!?」
「材木座!授業中に騒ぐな!」
「魔王、貴様、こんどはなんだ!?」
『見よ剣豪将軍!格好良いぞこの剣!』
「だから我は課金はしないと……!」
『良いではないか!貴様のメイン武器と同系統で攻撃力が17も高いのだぞ!?』
「だからってゲームで七千円も使えるか!?」
「材木座!いい加減にしろ!」
我の貯金と進級だろうか……?