暇つぶし程度にさらっと読み流すのを推奨します。
ひびみく道中
『転生小説』。
もはや今となっては説明不要の、二次創作のジャンルである。
大体のパターンとして、神様がお仕事でミスをやらかし、予定外の死を遂げた主人公が。
お詫びの印としてアニメや漫画の世界に転生させてもらう、というものだ。
奇をてらって、普通に寿命で死んだ後に、頼み込まれてなんてのもある。
転生の際『特典』をもらうというのもお約束だろう。
別のアニメの能力をもらったり、転生先におけるチートを身につけ無双を夢見たり。
転生した後の行動も様々だ。
原作知識をフルに活用して、不憫な結末を覆したり、逆に原作介入を回避したり。
どんな理由で転生して、どんな能力をもらって、どんな行動を取るのか。
作者さんの数だけパターンがあるので、見ていて飽きない。
それが『転生小説』の魅力ではないだろうか?
さて、何故ここまで熱弁をふるったのかといえば。
今生名『立花響』であるわたしが、その転生者だからである。
いや、神様に会ったわけでもないし、そもそも死んだ自覚も無かったんだけどね?
気がついたら幼稚園生に戻ってたとか、SAN値チェックものですよ・・・・。
しかも『戦姫絶唱シンフォギア』の主人公への転生である。
やる気のある物好きなファンなら、『よっしゃー!』と喜ぶところであるけど。
自覚したわたしが真っ先に抱いた感情は、絶望だった。
だって、そうでしょう?
まず無数の死亡フラグがついて回るし、それ以前に歌って戦うとか無理だし。
『思い付きを数字で語れるものかよッ!』みたいな感情論を実現させるほどの能力なんて持ち合わせていないし。
何より『わたし』はあんなにポジティブじゃないし、なれない。
思考の傾向としては、むしろネガティブよりだ。
そんな
結論、無理。
どこかで詰んでゲームオーバーになる末路しか見えなかった。
そんな風に先行きに不安を覚えてビビっていたから、あの『ツヴァイウィングのライブ』を口実に家出。
わたしを知っている人が誰もいないところへ、とにかく遠いところへ逃げたくて。
お隣の半島へ渡る船に忍び込んで、密航したまではよかったんだけど・・・・。
◆ ◆ ◆
そこは、日本のような手入れの行き届いた国からすれば、『汚い』以外に言いようの無い場所だった。
部屋全体が埃っぽく、窓枠を指でなぞれば白く汚れる。
天上も隅だけに飽き足らず、満遍なく黒いシミがついていた。
床なんて、寝そべるなどもってのほか。
少なくとも、そんな場所に物を保管するべきではないだろう。
貴重な食い扶持である『商品』を置くなど、ありえない。
ありえないのだが、
「ははっ、いい『モノ』手に入ったぜ」
「――――!――――!」
ここは日本ではないため、そんな理屈はまかり通らなかった。
南米系の男が、下卑た笑みで見下ろす先。
猿轡をされた日系の少女が、目に涙を浮かべて見上げていた。
完全に怯えきっており、体が小刻みに震えている。
周囲には同じように拘束された少年少女たち。
日系の子と違うのは、目から生気が消え去り、人形のようにぐったりして微動だにしないことだろう。
「おら、もっと良く見せろ!」
「――――ッ」
大事な『商品』なので、手は出さない。
出さないが、触りはさせてもらう。
顎を引っつかんで、こちらに顔を向けさせる。
「ここらにしちゃあ状態がいいな、こりゃあ高く売れるぜ!」
「――――そんなにいいの?」
「もちろんだとも!」
違和感に気づかず、男は続ける。
「身奇麗にしてあるから垢汚れも無い、十分食ってたみたいだから肉付きもいいし!何よりこの髪だ!」
「・・・・ッ」
顎の手を頭に移動させて、髪を引っつかむ。
「色も艶も申し分なし!こんだけ見てくれが上等なら、百万はくだらねぇぞ!!」
「へぇ、それはいい拾い物したね」
「だろう!?あいつ、餓鬼のくせしてこんな上玉隠し持ってたなんて・・・・かっさらってくるボスも、人が・・・・ぁ?」
語りに語って、やっと気がつく。
自分は今、誰と話していた?
急に襲う悪寒。
恐怖に駆られた男は勢い良く振り向く。
「だ、誰だ!?」
部屋の入り口には誰もいない。
気のせいだったかと、気を緩めた一瞬。
「――――ごめんね、おじさん」
上から、声。
「それ、非売品なんだ」
骨が砕ける、鈍い音。
男の視界は暗転する。
「・・・・」
転がった体を踏みつけ、じぃっと睨みつける。
やがて完全に事切れたと判断し、息を吐き出した。
「――――響」
「待たせたね未来、怖かったでしょ」
遺体を蹴り付けて退かしながら、日系の少女―――未来の拘束を外す。
響と呼ばれた癖のある淡い茶髪の少女は、安心させるように微笑んだ。
「未来、早速で悪いけど逃げるよ。ちょっと暴れすぎちゃったから、敵認識されちゃった」
「ごめん、わたしが捕まったから・・・・」
「大丈夫、いつものこと」
落ち込む未来を労わるように、自分の上着を着せる。
長居する理由は無い。
ふと『商品』達の方に目をやれば、何人かがぎらついた視線を向けていた。
大方、『お前だけ逃げて卑怯だ』くらいに思っているんだろう。
とばっちりだと思いながらも、かといって彼らが将来的に襲ってこないとも限らない。
だから響は徐に遺体を漁る。
「はい」
ベルトから鍵の束を取り外して、彼らに投げつける。
「出て行くも行かないも自由・・・・好きにすればいい」
そう言い捨てて、今度こそ立ち去る。
道中は案外楽だった。
強いて言うなら、所々に転がっている亡骸が邪魔だったくらいだろうか。
「テメェ、この裏切りモンが!!」
「契約を破ったのはそっち」
立ちふさがる敵は、響が容赦なく排除していく。
右腕に仕込んだ刺突刃で、あるいは磨き上げた体術で。
時にスマートに、時に派手に立ち回り。
新たな屍を作り上げる。
「大丈夫、未来は悪くない」
「手出ししたこいつらが悪いんだ、自業自得だよ」
響は安心させるために、しっかり手を握り締めて。
撒き散らされた臓物と肉片に怯える未来に、何度も言い聞かせていた。
そうして二人は、貨物列車が並ぶ車庫に侵入。
ちょうど発車する車両があったので、遠慮なく飛び乗る。
◆ ◆ ◆
(何とか逃げられたか)
離れていく街並みを眺めながら、ぼんやり思う。
乗員に見つかったら賄賂を渡して黙らせればいい。
こういうところは、日本と違って融通が利いて助かる。
「響、疲れてない?」
「へーきへーき、未来こそ怪我はないよね?」
「わたしだって大丈夫だよ、響が助けてくれたから」
嬉しいこと言ってくれる幼馴染の頭を撫でてやれば、嬉しそうにはにかんだ。
――――もう一年と・・・・七ヶ月、いや八ヶ月くらい?になるのか。
お隣の半島に無事にたどり着いた矢先。
ひょっこり現れたのが、置いていったとばかり思っていた未来だった。
まさに『えへへ、来ちゃった』と言わんばかりのこの子を置いていくわけにも行かず、一緒に行動をしている。
本当なら半島にいた頃に送り返せたらよかったんだけど、反日感情が強い中に置いてけぼりにするのは心配だったし。
かといってまたこっそり密航させてなかったことにしたくても、『かくれんぼ』が苦手だった当時のわたしのせいで警備が厳重になってしまって。
結局、ユーラシアを横断する大回りルートを行くことになってしまった。
・・・・楽しかったかどうかを聞かれたら、そりゃあ楽しかったよ。
わたしが大怪我をしたり、未来が熱を出したり。
むしろ大変なことが多かったように思えるけど。
かといって、ただ辛いだけじゃない旅だったから。
まあ、それも終わりが見え始めたわけでして。
「あ、上着・・・・」
「いーからそのまま着てな、連中に身包み剥がされた所為で薄着でしょ」
――――あの時。
未来の熱意に負けて、ライブ会場に向かったこの体には。
原作どおり『ガングニール』が宿っている。
この一年半と少しの間、生きるために力を引き出す方法をどうにか模索して。
今では『歌』で増幅させること無く、丈夫な体と、人間以上の身体能力を手に入れることが出来た。
代償に、大分侵食されていたけど。
「そうだけど・・・・」
「ほら、わたしは『風の子』だから。それに一応室内にいるわけだし、ちょっとくらい平気」
まず変化が起こったのは味覚。
何を食べても味を感じなくなった。
次に暑さ寒さの感覚が薄れてきて、今じゃ極寒の中でも薄着でいられる。
さらにここのところ、痛覚も鈍り始めた。
このままだと、ほどなく触覚も異常を示しだすだろう。
未来に心配されないよう、今までなんとか誤魔化して来たけど。
これ以上はちょっときついかも。
「・・・・未来?」
さーてどうしたもんかなと考えていたら、未来が寄り添ってきた。
甘えるように身を摺り寄せて、肩に頭を乗っけてくる。
「響が悪いんだもん、寒そうな見た目してるんだから」
「そんなに?」
「そんなに」
上目遣いで、ほっぺたを膨らませて抗議してきた未来は、さらに体を押し付けて。
わたしの肩に、幸せそうに顔を埋めてきた。
「響、あったかい」
「未来もあったかいよ」
頭を傾けて、身を摺り寄せ返して。
未来の好意に応える。
段々人間らしさを失くしていく体を自覚する度、『日常』の中にいられないんだと実感する。
だからこそ、わたしを想って付いて来てくれる優しい未来を、絶対日本に返さなきゃいけないとも。
列車の行き先は乗る直前にちゃんと確認したので、あっているはず。
陸路で行くなら、北米大陸をさらに北上すればいいけど。
アラスカの凍てつく寒さに、わたしはともかく未来が耐えられないだろう。
だから陸路は最終手段にして、当面は海路を目標にする。
気がかりなのは、ここらよりも厳重であろう警備のことだけど・・・・。
「次はどんなところかな」
「雨風凌げて、ご飯がおいしかったら文句はないよ」
「もう、響ったら」
未来のためなら、何とか出来そうな気がする。
――――お別れが近い。
未来を日本に返したら、わたしは独りになるだろう。
けれど、不思議と怖くないと感じる根拠は、きっと。
一緒に過ごした日々が、わたしの宝物になっているから。
だから。
「・・・・このまま一緒に旅が出来たらいいな、ずっと、ずーっと」
この手を離す、温もりを手放す、その日までは。
「・・・・そうだね」
この子の隣にいることを、どうか許してください。
夢の中でビッキーになっている自分。
↓
「こんなハードな役こなしきれるわけないやん(白目」
「よし、逃げよう」
と、トンズラこく。
↓
だけどどこに逃げても、どこまで行っても。
393がどこまでも追っかけてくる。
↓
撒いたと思って一息ついた矢先に、「みーつけた」とひょっこり現れる393。
↓
「どーなってんだあんた!ホーミングってレベルじゃねえぞ!?」
と戦慄する。
という夢を、ちょっと前に見まして。
書いてみたら存外いい出来になったので、ここに上げた次第です。
お目汚し失礼しました。