チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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誠にありがとうございます。


XV始まりましたね・・・・!
例によって遅れて視聴することになりそうですが、楽しみです。


賢者の娘

――――ファラが討たれてすぐ。

ギアを解除した装者達は、その『残骸』を探していた。

 

「翼さん!こちらです!」

 

緒川の声に駆けつけると、破壊された要石の付近に転がっているファラが。

驚いたことに、体躯の半分以上を失ってもまだ意識があるらしい。

駆け寄る翼達に気付くと、目玉をぎょろりと動かした。

 

「――――あら、まだ何かご用?」

「ええ、聞きたいことがあって」

 

からかうように、両目を互い違いに動かすファラを見下ろして。

マリアは口火を切る。

 

「あなた達、自分を破壊させて何のつもり?」

 

――――ここで、初めてファラから笑みが消えた。

代わりに、マリアが『してやったり』と笑う。

隣の翼も腕を組んで、どうだとでも言いだしそうだ。

 

「あら、バレていないとでも思ったのかしら?」

「懸念自体は、エルフナインと接触した時点で上がっていたぞ」

 

『言い出しっぺは立花だが』と翼は付け足し、未来はそれを心底驚いた顔で聞いていた。

 

「・・・・ふ、くくくくッ」

 

一方のファラは、呆けた顔から一転。

喉を細かく鳴らして震えたと思ったら。

 

「あははははははははははッ!!」

 

大口を開けて、笑い始めた。

マリアと翼は毅然と、未来は少し圧された様子で。

それでも、相手を油断なく見据える。

やがて収まってきたファラは、やっとしゃべれるようになるまで小刻みに震え続けて。

 

「ええ、その通りです」

 

にんまり、笑ったのだった。

 

「ダインスレイフによる呪いの旋律・・・・第一段階にマスターへ刻むことで楽譜を起動させ、第二段階で我々に刻ませて音階を完成させる」

「私達を利用していた・・・・!?」

 

目を見開く未来を無視して、話は続けられる。

 

「ふふふふ・・・・完成した楽譜をチフォージュ・シャトーを以って世界へ響かせる・・・・」

「ッまさか、レイラインマップのデータを奪ったのは!?」

「龍脈を伝って、呪いの旋律とやらを響かせ・・・・目的である『世界の分解』を成し遂げるということかッ!?」

 

段々濃くなっていくファラの笑みが、その事実が真実であることを雄弁に語っていた。

 

「残ったオートスコアラーはレイア一体・・・・楽譜の完成、邪魔はさせませんわ」

 

宣言した、刹那。

ファラの体が今度こそ破裂し、周囲を粉雪のような粒子が舞う。

飛び散った破片は、緒川が咄嗟に広げた風呂敷で防がれた。

 

「ッ今の情報を、急いで本部に!」

「ああ!イグナイトモジュールの使用を控えさせなくては!!」

「ダメです翼さん!」

 

ファラの話を全て信じるなら、レイアを討つのは悪手。

通信を繋げようとした翼へ、一足先に試みていた未来が叫ぶ。

 

「さっきからやってるんですけど、途中で通じなくなって・・・・!」

 

よほど焦燥しているらしい未来。

通信機を握りしめた指が、真っ白だ。

 

「この粒子はさしずめ通信妨害・・・・悪あがきとはこのことね」

 

マリアは一見美しくも見えるそれを、苦々しく握りしめていた。

 

「こちらの後始末は任せなさい」

 

判明した事実に動揺する装者達へ、八紘が思考をひと段落させるように声をかける。

一歩離れたところで見ていた彼は、歩み寄りながらそれぞれを見据えていた。

 

「脅威が去った以上、長居の意味はないはず。この妨害の届かぬ所へ・・・・いるべき戦場(いくさば)へ、戻るといい」

「・・・・はい」

 

蟠りが解消したこともあるのだろう。

最初に比べてすっかり穏やかに見える八紘へ、翼はしっかり頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『深淵の竜宮』、翼達の心配を受けているクリス達がどうしているのかと言えば。

 

「走れ走れ走れ!!!」

「デデデデース!!」

「・・・・ッ」

 

賑やかに走っていた。

背後からは絶え間なく襲い来るコインや錬金術。

普段通りの彼女達なら、難なく逃げられる弾幕だが。

今は状況が違った。

その駆け足を、遅々とさせている原因は。

 

「はァッ、ヒィッ・・・・!!」

「てめーに言ってんだぞ奇天烈!!きびきび走りやがれッ!!」

 

戦えないので先頭を走らせている、ウェル博士その人だった。

 

 

 

 

 

執行者事変後、国連に連行されたウェル博士。

ネフィリムとの融合体である彼は、その身柄を『深淵の竜宮』にて『保管』されていたのだった。

そして、キャロル・レイア両者との交戦の最中、彼を閉じ込めていた独房の壁が破損。

キャロルを狙っていたミサイルを、咄嗟にネフィリムの左腕で食らったことで。

図らずともキャロルを助ける形となってしまった。

そして状況は振り出しに戻り、今に至るのだが。

 

 

 

 

 

「はゃく、ったってぇ・・・・!ゼヒッ・・・・!」

 

まだ五分と経っていないのにへばり始めたウェル。

 

「こちとら裏方担当の英雄だぞ・・・・ッ、ごてごての武闘派な君たちと一緒にするなぁッ・・・・!」

 

息も絶え絶えながら、せかすクリス達をねめつけて。

何とか文句をひりだしていた。

 

「っだぁ!くそ!!」

 

優勢から劣勢に一転した苛立ちもあるのだろう。

クリスは一際声を上げると、徐にライフルを取り出して。

 

「無駄口叩く前に足動かせやァッ!!」

「ギャッ!!?」

 

その尻へ向けて、フルスイングをかました。

 

「死にたくないなら走るのみデース!!」

「ヒギィ!?」

「後ろがつかえてる」

「あふんっ!?」

 

続けて切歌、調と追撃を叩きこまれ、前のめりに倒れそうになる。

 

「ッこの、子達はッ・・・・!!英雄になんてことするんだ!!こんなんで喜ぶのは藤尭君くらいだぞッ!!」

『よ ろ こ ぶ か ァ ッ !!!!!』

 

痛みを手で押さえながら、恨めしい言を吐くウェル。

通信の向こうで、藤尭が咆えるのが聞こえる。

 

「ッおっさん!次はどう逃げたらいい!?」

 

冷たい目を向けられたであろう藤尭が反論をまくしたて。

友里に『何その必死すぎる言い訳!』と、突っ込まれるのを聞きながら。

クリスは弦十郎へ指示を仰ぐ。

 

『現在新たなルートを検索中、だが・・・・!』

「また先回りされるってか・・・・!」

 

まともに戦えぬウェルは、良くも悪くも装者の動きを制限してしまう。

憂いなく迎え撃ちたいクリスとしても、人命を尊ぶ弦十郎としても、直ちに安全圏へ送り届けたいものだが。

追ってくるキャロルは、まるでこちらの位置を把握している足取りで。

着実に装者達を消耗させにかかっているのだった。

 

「レイア」

「派手に承知」

 

ここで、キャロルが行動に出る。

レイアは一声かけられるや否や、大きく前進。

指の間に挟めたコインをマシンガンのごとく打ち出し、クリス達をあおりだす。

 

「っ、お前ら!ウェルを!!」

「クリス先輩!!」

 

『仕掛けてきやがった』と悪態をつきながら、迫りくるレイアに応戦し始めるクリス。

一瞬躊躇い足を止めた調と切歌だったが、

 

「いーや!!待ちたまえ君達ッ!!」

 

制止を張り上げたのは、ウェルだった。

 

「よく考えるんだッ!こんなところでみんな仲良く好き勝手暴れちゃあ、どうなるかッ!」

「ッ・・・・!」

 

振り向いた調の顔が渋り、駆け出そうとした切歌の足が止まる。

 

「それに相手だっておひとり様じゃないんだぞォッ!」

 

おののきながらウェルが指さす先。

レイアとクリスの攻防をすり抜けて、キャロルが迫ってきている。

この好機に、装者を一掃してしまおうと考えたようだ。

目の前の危機に、なお苦い顔をした二人は。

踵を返して、駆け出した。

 

「おっら!」

 

レイアとの攻防の中、どさくさに紛れてキャロルの背も狙いながら立ち回るクリス。

怪訝な顔をするレイアに向けて、どう猛な笑みを浮かべてやった。

 

「しかし、さすがに正確すぎるわね」

「ええ、まるで前以て、こちらの動きを把握しているような・・・・って、まさか!?」

 

一方の二課本部。

了子のぼやきに、はっとなった友里。

ひっぱられるように、面々は閃いていく。

 

「知らず、毒を盛られていたということか・・・・!?」

 

呆然と呟く弦十郎の声。

視線は思わず、一人の少女へ。

 

「ち、ちが・・・・!」

 

複数の視線にさらされてしまったエルフナインは、明らかに狼狽している。

それは、企みがバレたというよりは、仲間が敵になってしまう怯え。

しかし、安易に『大丈夫』を告げても、逆効果となってしまうだろう。

 

「ボクじゃない、ボクは・・・・!」

『――――いいや、お前だよエルフナイン』

 

必死に否定しようとしたエルフナインを止めたのは、キャロルの声。

するとエルフナインの体から、まるで幽体離脱でもするように彼女の幻影が現れた。

仰天した藤尭がモニターを見てみれば。

調や切歌と交戦しながら、青い陣を展開しているキャロルの姿が。

おそらくあれを使ってこの幻影を生み出しているのだろう。

 

『世界の分解には、どうしても必要なものがあった・・・・どうしても、自前で用意出来ぬものがな』

 

震えるエルフナインを嘲笑しながら、キャロルは語る。

己が講じた一計を。

 

『それが、ダインスレイフによる呪われた旋律。シャトーにとって、オレの歌ではどうも物足りなかったらしい』

「だからエルフナイン君を送り込み、イグナイトモジュールをもたらしたと?」

『そうだとも』

 

弦十郎にも臆さず、不遜な態度を崩さないキャロル。

 

『とはいえ、エルフナイン自身は己が仕込まれた毒とは知らん。だがオレは、こやつ自身の目を、耳を、感覚器官のすべてをジャックしてきたのだからな』

「ボクが・・・・ボク自身がっ・・・・!」

 

キャロルの言葉が信じられないのだろう。

震えの止まらぬエルフナインは、それでも信じたくないと小声で抵抗する。

 

『同じ素体から作られたもの同士だからこそ、出来る芸当だ』

 

そんなエルフナインを横目に、キャロルは止めを刺すように言い締めた。

 

「・・・・ぉ、お願いです!ボクを・・・・ボクを、ボクをッ!誰も接触できないように閉じ込めて!」

 

驚愕で誰もが咄嗟に動けぬ中、エルフナインの声が響く。

動揺の程を、一瞬抜けてしまった敬語が如実に表している。

 

「ぃえ、キャロルの策略を知らしめるというボクの目的は達成されました・・・・ならば、いっそ!!!」

 

もはや泣き叫ぶような懇願。

誰もかれもが目する中、キャロルは、始まる内部崩壊を幻視して笑みを浮かべて。

 

「――――何かと思えば、とんだおこちゃまのままごとね」

『何・・・・?』

 

心底呆れた了子の声に、空気が切り替わった。

 

「大方、本懐ついでにこちらの内部分裂も誘おうとしたのでしょうけど、甘いわ、甘さがASO-4並みに大爆発よ」

 

ため息交じりに立ち上がった了子は、キャロルの真ん前に立ちはだかる。

 

「『エルフナイン越しに見ていた』だと?だからどうした?それが何だというのだ?」

 

もしかしなくとも、威圧するためにまっすぐ見下ろす。

瞳は、フィーネに切り替わっていた。

 

「ああ、別に違えているわけではない。並の組織なら瞬く間に瓦解していく悍ましい策だろう・・・・だが相手が悪かったな」

 

言うなり、了子は片手を広げる。

その姿は、さながらステージ上の司会者だ。

 

「ここは人類最後の砦。数千年に渡り暗躍してきた怨霊を受け入れる男が率いる、異端技術への対抗組織だぞ」

 

ここまで語ったところで、エルフナインはやっと気付く。

自分を見る大人達の目が、敵意ではなく優しさに満ちていることに。

ふと、立ち上がった弦十郎がエルフナインに歩み寄って。

大きな掌で、やや乱暴に頭をなで始めた。

 

「小娘程度の策略なんぞ、道理を超えた義理人情で吹き飛ばしてしまうのが我々だ」

『・・・・ッ』

 

小娘と侮られてむっとしたのか、目に見えて顔を渋らせるキャロル。

 

「のっかるようでなんだが、そういうことだ」

 

了子と一緒に見据えていた弦十郎が、口を開く。

 

「何より、子供の一生懸命を信じられん大人なんざ、かっこ悪くてしょうがねぇ」

「わわわっ・・・・!」

 

再度乱暴に頭を撫でまわし、改めてキャロルに強い目を向けた弦十郎。

彼だけではない。

もはやこの場の誰もが、エルフナインを疑っていないのは明白だった。

 

「それより、こんな道草食ってていいのかしら?お嬢ちゃん?」

『何?・・・・ッ!!』

 

ぐ、っと、引っ張られるように。

キャロルは文字通り我に返った。

眼前には、迫りくる丸鋸と大鎌。

必死に体をそらし、床を転がって後退するキャロル。

立ち上がろうとやや不安定な姿勢のところへ、飛び込んでくる人影。

 

「もらったとはこのことさァッ!!!」

 

キャロルが握ったヤントラサルヴァスパへ、ウェルの左腕が伸びて。

咄嗟に体を捻り、強襲を回避。

直ちに暴風でウェルを吹き飛ばす。

 

「おわあああああああ!?」

「おっと!デース!」

 

危うく叩きつけられるところを、切歌がうまく受け止めた。

 

「ふははははははッ!これぞ英雄的行動だッ!失敗したけどッ!!」

「インドアもやしにしてはよくやった方」

「相変わらず辛辣な物言いですね調・・・・」

 

降ろされたウェルが高笑い。

攻防のどさくさに紛れてヤントラサルヴァスパを破壊するという作戦は失敗に終わったが、キャロルのメンタルを揺さぶるのには成功した。

現に、調と切歌の後ろで腕を組むウェルを、殺さんばかりに睨んでいる。

なお、そんな視線を向けられているウェルは、内心震えが止まらない。

と、調と切歌の足元に弾幕。

クリスの攻撃をかいくぐったレイアによるものだった。

 

「マスター、ここは派手にお任せを」

「・・・・そうだな、ヤントラサルヴァスパは手に入った。深追いは不要、か」

 

進言によって冷静になったらしいキャロルは、かぶりをふって切り替え。

テレポートジェムを取り出して、レイアを見上げる。

 

「オートスコアラーの務め、果たせ」

「派手に承知・・・・」

 

短く会話した後、撤退していったキャロル。

レイアはにやりと笑って答えると、再びコインを指の間に出現させて構えた。

 

「・・・・お前ら、ここはあたしが。ウェルの野郎を、とっとと本部へ持ってけ」

「でも、それじゃあクリスさんが・・・・!」

「三人そろって大暴れしちゃ、仲良く魚の餌になるだけだ」

 

一人で相手をすると言うクリスへ、不安げに、そして心配げに躊躇を口にする切歌。

対するクリスはレイアから視線をそらさぬまま、不敵に笑うだけだった。

――――これが『本来(げんさく)』であったのなら。

雪音クリスは、『先輩』の責務を重く見るあまり、味方を巻き込みかねない突撃をかましていただろう。

だが、ここにいる彼女は少なくとも違う。

『ソロモンの杖』を目覚めさせたという罪は、確かに覚えていて、背負っている。

そして、その重荷に潰されぬよう、支えてくれる仲間や、大人達がいる。

それだけではない。

――――櫻井了子。

一時は虐待じみた扱いを受けていたとはいえ、抗う力と知識を与えてくれた恩人を。

一度失いかけた、新しい『家族』を。

二度と失ってなるものかという、決意が根幹にある。

もちろん、『本来(げんさく)』には『本来(げんさく)』の。

仲間を慮り、受け取った優しさへ報いようとする。

何度躓こうとも立ち上がり、叶えたい夢へと邁進する強さがある。

しかし、『今』、『ここ』にいる雪音クリスと同一かと言われるならば。

大まかな部分は『是』と言えても、細部に関しては『否』と言えた。

 

「それに、たまには頑張ってる後輩甘やかさねーと、バチがあたらぁ!」

『Dainsleif !!』

 

睨みつけるレイアに怯むことなく、イグナイトモジュールを起動。

対峙する敵とクリスを、不安げに何度も見比べていた後輩達だったが。

やがて葛藤を振り払うように首を振るうと、ウェルを伴い駆け出した。

 

「・・・・派手に見くびられたものだ」

「お人形遊びって年頃でもないしな、とっとと終わらせるに限るだろ?」

 

隙に攻撃させないと、油断なく狙いを定めているクリスの銃口。

たとえハンドガンであっても、彼女ほどの担い手とあれば十分に脅威だ。

 

「っは!」

 

動き出したのはクリス。

弾丸をばら撒きながら猛進した彼女は、あっという間にレイアの懐へ飛び込む。

レイアはブレイクダンスの動きで距離を取ると、自身もコインでトンファーを生成。

殴り掛かってくる銃身を殴り返す。

金属音と発砲音が、絶え間なく、激しく。

海中施設の中で細かく反響する様は、まるで花火のようだ。

蹴りを蹴りで返す、打撃は腕を交差して防ぐ、射撃はかすめても気にしない。

テンポアップする攻防、辺りは立ち込めた硝煙で曇り、足元にはコインが散乱する。

 

「・・・・ッ!」

 

だが、人形と人間の差が表れた。

あまりの猛攻に、疲労を覚えてしまったクリスの腕が鈍る。

それを見逃さないレイアは、一際強い一撃。

クリスの体が、比較的大きく飛んだ。

 

(派手な好機ッ!)

 

無防備になった脳天へ、蹴りを叩きこもうとして。

 

「っだぁ!!!」

 

直撃する前にライフルを展開したクリスは、振りかぶって足を破壊した。

 

「派手に、驚愕ッ・・・・!?」

 

目を見開く間にも、次々四肢を破壊されていく。

重い破砕音が三つ鳴り終わった頃、レイアはすっかりダルマになってしまった。

 

「何故・・・・」

 

床に転がったレイアは、体を見下ろしながら驚愕を隠せない。

 

「何故破壊しない!?私は敵だぞ!貴様らを攻撃しただけではない!数多の命も奪った!もちろん人間でもない!破壊する、殺す理由は十分だッ!!」

 

そして何よりも、自らに課せられた使命を果たせない。

レイアの叫びに、クリスはにやっと笑って。

 

「ああ、確かにお前さんの言う通りだ」

 

だけどな、と。

手にしたライフルをくるりと回して、肩に担ぐ。

 

「お前のご主人様と、うちの保護者の会話を聞いちまったんでな。この方が嫌がらせ出来るだろって思ったんだが・・・・当たってたみたいだな」

 

再び驚愕を禁じ得ないレイア。

キャロルとS.O.N.G.が会話していた時と言えば、激しく相対していた頃だ。

先ほどに比べれば温かったとはいえ、レイアは決して手を抜いていた訳ではない。

だというのに、クリスはあの猛攻の片手間に又聞きしていたのだ。

 

「っつーことで、世界の分解とやらはナシだ」

 

『噛みつかれても困る』と、クリスは再度ライフルを振りかぶり、顎を強打する。

大きく皹の入った顎は、もう動かなかった。

忌々しく見上げてくるレイアを見下ろしながら、相手の無力化を確信したクリス。

完全に気を抜かない程度に、ほっと息を吐いた。

のも、束の間。

 

「うおっ!?」

 

突然揺れだす施設内。

 

『クリスッ!今すぐそこから――――』

 

了子からの通信が届くのと、天井が崩れるのは同時。

雪崩れ込む海水を前にして、クリスは腰からミサイルを放って――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスッ!?クリスッ!!」

「答えてくれッ!クリス君ッ!!」

 

S.O.N.G.指令室。

了子や弦十郎を始めとした面々が何度も呼び掛けるも、通信は依然途絶したまま。

返ってこない応答に、了子の顔が目に見えて焦る。

 

「クリスちゃんのいた区画で、シェルターの起動を確認・・・・しかし・・・・!」

「直前のイチイバルの位置は、崩壊した側です・・・・!」

 

友里と藤尭の報告を聞き、とうとうがっくり項垂れてしまった。

しかし、いくら嘆こうとも状況は待ってくれない。

 

「深淵の竜宮にとりついていた巨大人型が、今度は本部に接近中!」

「ッ、急速浮上!それと職員の避難を!」

「そんなッ!」

「クリス先輩を置いてくデスか!?」

 

一瞬葛藤した弦十郎の指示に、調と切歌から反論が出る。

大人達としても、クリスの回収を優先させたいのはやまやまだったが。

本部を破壊されては、それどころでは無くなってしまう。

 

「ッ急いで!追い付かれるわよ!」

 

何とか復帰した了子もまた、せわしなくコンソールを叩きながら叫ぶ。

さすがに水中では迎撃など不可能であり、かといって『フィーネ』としての全力も出せない状態。

知らず、噛み締めた口元が出血した。

海上に出るS.O.N.G.本部。

タッチの差で、追ってきていた巨大な物体が追い付いてくる。

飛沫を上げながら現れたのは、やはりいつかの巨大ミイラ。

振り下ろされたごん太のチョップを、指定室を切り離すことでなんとか回避。

直撃した残りの部分の爆風をもろに受け、船内が大きく揺れる。

司令部の天井、揺れと衝撃で外れた瓦礫が、友里の頭に襲い掛かって。

 

「危ない!!」

 

間一髪のところで、エルフナインが突き飛ばした。

床に倒れた友里の身代わりに、直撃を受けるエルフナイン。

 

「ッエルフナインちゃん!」

「エルフナイン!」

「しっかりするデス!」

 

慌てて駆けつけた調と切歌が、力を合わせて瓦礫を退かすも。

幸い息があるらしいエルフナインの横腹が、痛々しく出血していた。

 

「エルフナイン?エルフナイン!聞こえる!?」

 

調が大声で何度も呼びかけると、うっすら目を開けたエルフナイン。

一緒にのぞき込む友里が、無事だったのを静かに喜ぶのも束の間。

どこか、泣きそうに顔をゆがめて。

 

「ボク、は・・・・キャロルの、誰かに、あやつられたんじゃない・・・・」

「しゃべってはダメ、傷が開くわ!」

「ボクは、じぶんの、意思、で・・・・!」

 

友里の忠告に構わず。

ここに合流したのは、キャロルの下を抜けようと決めたのは。

自分の意志であると、そうであってほしいと口にして。

意識を失ってしまった。

当然のことながら、簡単に見逃されるわけがない。

ぎろりと、逃れた指令室を見下ろしたミイラは。

再度、腕を叩きつけようとして。

 

『――――全員、衝撃に備えなァっ!!』

 

横合いから飛んできたミサイルに、爆発四散した。

藤尭が慌ててカメラを操作すれば。

ミサイルに乗って飛んできているクリスの姿が、はっきり見えた。

その足元には、無力化したレイアもいる。

 

「クリス先輩!」

「クリスさん、よかった!」

「クリス君ッ!無事だったか!!」

『そう簡単にやられるわけねーだろ』

 

無事を報告するクリスだが、その声はどこか暗い。

無理もないだろう。

応答する暇がなかっただけで、エルフナインが負傷したことは伝わっていたのだから。

オートスコアラーは、これで全て撃破したはず。

そんなクリスの胸中は、これで終わる気がしない予感で溢れかえっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チフォージュ=シャトー。

レイアの位置の垂れ幕に、音階が刻まれて。

 

「――――万が一を備えるのは、当然のことだろう?」


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