チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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伸ばすこの手は

もう三度目ともなると、感慨が薄れちゃう限定解除である。

あ、でも未来のは初めて見るから新鮮だなぁ。

何気に執行者事変の時はいなかったからねぇ・・・・。

羽や腰布が追加されて、ひらひらふわふわな一方で。

頭の装甲はちょっととげとげしい感じ。

いやいや、大変お似合いですよ(にっこり)

 

「ふん、土壇場で奇跡を手繰ったか・・・・」

 

なんてよそ事考えてたら、キャロルちゃんの声が聞こえて。

現実に戻る。

 

「みんなで掴みとったエクスドライブを、奇跡の一言で片づけるデスか!?」

「――――片づけるともッ!!」

 

むっとなった切歌ちゃんが、アームドギアを構えながら肩を怒らせれば。

キャロルちゃんはくわっと目を開いて、どっと咆えた。

おおう、プレッシャーがビリビリと・・・・。

見た目で誤魔化されがちだけど、キャロルちゃん何気に長生きなんだよね。

さすがに了子さんからすればまだまだお嬢ちゃんなんだろうけど。

 

「オレの父は、村の流行病を錬金術によって救った。だが、奇跡を妄信する村人達によって、勲刑の煤とされたッ!!!!」

 

吐き出すように、ため込んでいた怨嗟を語るキャロルちゃん。

 

「故にオレは、奇跡を殺すと誓ったのだッ!!!!!」

 

そりゃあ、人のためにって行動したのを仇で返されちゃったら、怒って当然だよね。

・・・・多分わたしも、同じことをやっただろう。

そういえば、フランスでの魔女の処刑方法は火あぶりらしい。

魔女裁判における『魔女』の基準に当てはまれば、たとえ男性であっても『男の魔女』として拷問され、処刑されたとか、なんとか・・・・。

薬草に詳しくて、ちょっと不思議な術を使う人・・・・残念ながらどんぴしゃですね。

申し訳ないけど。

 

「・・・・お前も、少なからず同じだと思っていたよ。立花響」

 

おっと、話がこっちに来た。

 

「程度は違えども、父を虐げられた者同士・・・・分かり合えると思っていた・・・・!」

 

・・・・死に体の融合症例から復活した、『奇跡の象徴』ってだけの理由で絡んでたんじゃないんだね。

でも。

 

「他でもない君に、お父さんを傷つけられちゃね。残念だけど、すぐには仲良く出来ないよ」

「減らず口を・・・・!」

「でも」

 

――――でも。

 

「なんでだろうね、散々大変な目にあわされたはずなのにさ。不思議と憎んではいないんだよ」

「・・・・何?」

 

キャロルちゃんどころか、仲間達すらもびっくらこいた目で見てくる。

・・・・いや、なんか、こう。

みんなにまで驚かれるのはちょっと落ち込む。

むぁー、味方はなんか優しい目を向けてる未来だけだよう。

とかなんとか考える一方で、不思議な気持ちに首をかしげていると。

 

『――――お姉ちゃん!』

 

・・・・んっ!?

 

「あれっ!?香子!?なんでそこに!?」

『は、入り込んだのは普通に謝るけど、それよりも!!』

 

行動力ある子だと思ってたけど、ここまでとは・・・・。

お姉ちゃんびっくり。

 

『ここに、泣いている子がいるの!!』

「・・・・ッ」

 

なんて思ってるところへ、通信の向こうの香子がそんなことを言ってて。

・・・・頭をよぎったのは、キャロルちゃんと初めて出会ったあの日。

燃え盛る炎を見ながら、声もなく泣いていた横顔が。

何度も思い出されて。

 

「・・・・ああ、そうだね」

 

思わず、苦笑い。

だけど、やりたいことは決まった。

 

「泣いてる子は、ほっとけないね!」

「・・・・はっ、ほざけッ!」

 

ちょっと得意げに、泣いてる顔へ笑ってやれば。

対するキャロルちゃんは、憎々し気に睨むなりアルカノイズの結晶をばら撒いた。

っていうか、相当な数出したねコレ。

 

「ッ放置するわけにもいくまい!」

「ええ、いくわよッ!」

 

翼さんマリアさんの年長者ズの号令で、一斉に散開。

街にあふれだしたアルカノイズを掃討に・・・・って、あっ、あいつ!

『フォフォフォフォフォ!』な宇宙人似の奴がいる!!

わあー、こんな状況だけど感動ー!

倒すけどな!!!!

全力で拳をぶつけると、どかーんと大穴が開く。

そのまま手甲をさらっと『槍』に変形、突っ切って飛行している小型を片づけつつ。

小型を吐き出し続けている、ポケモンっぽい大型を撃破する。

 

「・・・・ッ」

 

ちらっと見えたルンバをなかったことにしながら、次ッ!

 

「響ッ!」

 

また飛行型の群れに飛び込むと、未来の声。

すると、わたしの周囲に無数の鏡が展開された。

とくに考える間もなく、鏡を足場にしてバウンド。

突撃しようと、あるいは逃げようとするアルカノイズを、次々ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

最後に飛びついた鏡を、未来が砲撃でわたしごと押し出して吹っ飛ばす。

哀れ、飛行型の群れは、拳で思いっきり爆ぜた後。

破魔の光で消し炭にされた。

他のみんなも、今更ノイズに加減なんてしない。

斬って、撃って、貫いて、刈って/伐って(かって)

あちこちでマゼンダの爆発が上がる。

 

(たーまやー!!)

 

なんて、胸中でおどけていると。

 

「あ、アレッ!!」

 

調ちゃんが指さす方を見てみると、陣を展開してるキャロルちゃん。

 

「アルカノイズは時間稼ぎだったか・・・・!!」

「いや、どっちみち『お片付け』はしなきゃですし」

 

判断を誤ったと思ったのか、苦い顔で悔しそうにする翼さん。

何とかフォローを入れていると、キャロルちゃんから無数の弦が、目に見える糸束になってうごめく。

編み込まれて、固まりになって。

翡翠の輝きから聞こえてくる、獣の唸り声。

 

『碧の獅子・・・・太陽を喰らう、または吐き出すバケモノとはね』

 

あっ、了子さん無事だった。

そういえば太陽を食べる獅子って、赤くてちっちゃな錬金術師にも出てきてたね。

確か食べる方が賢者の石を表してるんだっけか。

で、吐き出す方がエリクシールだとか、何とか・・・・。

 

「だったら!やられる前に!」

「やるだけデス!」

「あ、おい!」

 

顕現したライオンさんへ、調ちゃんと切歌ちゃんが果敢に一番槍。

だけど、堅牢な装甲と重たい一撃の前に。

たやすく吹っ飛ばされてしまう。

・・・・君達、ネフィリムの時も似たようなことになってたね?

未来と一緒に、調ちゃんと切歌ちゃんを受け止めていると。

ライオンさんの口にチャージされてた燐光が、解き放たれるのが見えて。

 

「ひゃ・・・・!」

「わわわッ・・・・!」

 

咄嗟に未来の手を引いて、抱えてた調ちゃんごと引っ張ると。

そこそこすれすれのところを、放たれた砲撃が通り過ぎて行った。

一拍おいて、爆発。

暴風にあおられて、たまらずもう少し後退してしまう。

 

「あの威力・・・・どこまで・・・・!?」

「あの鉄壁は金城!散発を繰り返すだけでは突破できない!」

「ならばッ、アームドギアを形成するエネルギーをぶつけて、鎧通すのみッ!!」

 

クリスちゃんと同じく、とんでもないパワーアップに戦慄していると。

翼さんとマリアさんのそんな声が聞こえる。

 

「身を捨てて拾う、突貫攻撃・・・・!」

「ついでにその攻撃も同時収束デース!!」

 

空にいると狙い打たれるので、着地。

降ろした調ちゃんと切歌ちゃんは、やる気たっぷりに身構えた。

ふむふむ。

つまりみんなで力を合わせてドカーンってなわけか。

 

「御託はあとだッ!マシマシが来るぞ!!」

 

なんて理解をしてる合間に、第二射。

牽制だろうけど、当たったらただじゃ済まなさそうな乱れ打ちが迫ってきた。

これは、前に出ざるを得ないッ!!

 

「ッわたしが受け止めている間に!!」

 

手甲を『槍』に変えて、受け止める。

見えない後ろから、六つの波動。

続けて飛翔音がしたと思うと、まるで虹みたいな彩の光が突貫していく。

いけるかな?と期待しちゃいそうな、きれいで頼もしい攻撃なんだけど。

光がライオンの額に直撃する。

殻は砕けたようだけど、それだけだった。

 

「・・・・アームドギアが一振り足りなかったな」

 

剥き出しになったキャロルちゃんが、にやっと嗤ってくる。

そうだね、足りないね。

――――足りないから、

 

「・・・・ッ!!」

 

束ねようね。

まるでそうすることが当然のように集まってくれた、みんなのアームドギア達。

なんだか、未来やみんなだけじゃなくて、それぞれのシンフォギアも信じてくれているような。

そんなくすぐったさを感じてしまいながら、掲げた右手に力を収束させる。

 

「奇跡は殺す・・・・皆殺す・・・・!」

 

再び充填される砲撃。

都市部を一気に吹っ飛ばすエネルギーが、目の前で溢れかえっているんだけど。

右手の、そして後ろのみんなのおかげか。

特に恐怖は感じない。

何より。

 

「オレは、奇跡の殺戮者に!!!!!!」

 

よりどころが無くて、泣いている子へ。

この手を届けたいっていう想いの方が、強い!!

臆せず飛び込む、極光の中。

伸ばした右手が、完成した。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「響ッ!」

 

届かなかった一撃をさらに束ねて、放たれた極光へ飛び込んでいく響。

あわややられたかと一瞬身構える一同だったが、

 

「――――伸ばす、この手が」

 

次の瞬間には無用だと悟った。

 

「わたしのアームドギアだッ!!!」

 

『巨大な手』とも言うべき変化を遂げた手甲が、驚愕するキャロルの目の前で極光を振り払った。

 

(当たれば壊す、この拳)

 

――――響にとっての拳とは、邪魔するものを暴力的に砕いて、奪い去るものだった。

 

(だけど未来は、この手が護ってくれたって言ってくれた!)

 

だが、仲間達に恵まれ、望まない殺生をせずともよくなったこの頃は。

『壊す』以外の道を探す余裕も生まれていた。

そんな中立ちはだかった、『世界の分解』(ふくしゅう)を掲げるキャロルの存在。

程度は違えども、同じ壊す者として。

放っておけなかった。

 

「ッ枕をつぶ・・・・!?」

 

響の心情など露知らず。

歯ぎしりしたキャロルは迎え撃とうとして、しかし。

突如、体に違和感。

 

「っぐ、こんな時に拒絶反応・・・・!」

 

初めはそう思った。

ところが脳裏に過ったのは、優しい笑顔。

パパと過ごした、温かくて、大好きだった時間。

 

「違う・・・・これは、オレを止めようとする、パパの想い出・・・・!?」

 

まるで、他でもないパパに引き留められているようで。

だからこそ、

 

「認めるかッ・・・・認めるものかッ・・・・!」

 

駄々をこねるようにかぶりを振り払う。

 

「オレを邪魔する想い出など、いらぬッ!!全て燃やして!!力と変えるッ!!!!!」

 

走り出してしまった、走り続けてしまった復讐心は。

最後の大切な宝物さえも、薪にくべてしまった。

価値あるものを贄とした為か、火力が数段飛ばしで跳ね上がる。

 

「うおおおおおおおおおおッ!!」

 

再び放たれた砲撃へ、響は臆することなく突っ込んでいった。

 

「立花に力をッ!天ノ羽々斬ッ!!」

 

もちろん、指をくわえてみている仲間達ではない。

 

「イチイバルッ!」

「神獣鏡ッ!」

「イガリマッ!」

「シュルシャガナッ!」

「アガートラームッ!」

 

翼を筆頭に、こちらも再びエネルギーを収束して放ち。

響へ与えて、援護する。

キャロルも、装者も、両者一歩も譲らず。

暴風と衝撃と閃光を以って、激しく競り合う。

もはや、地図の書き直しを心配するレベルで崩壊していく都庁周辺。

激突を制したのは、限りある焼却を行うキャロルではなく。

共鳴にて増幅する、シンフォギア。

 

「ガングニイイイイイイイイイイイイイイルッ!!!!」

 

一度は『足りない』と嗤われた一振りを叫びながら、ダメ押しと言わんばかりに『拳』を押し込む響。

哀れ、はち切れんばかりに頬張った『獅子』は。

まっさらな燐光をほとばしらせながら、力尽きてしまった。

 

「ッキャロルちゃん!!」

 

獅子の中。

呆然と自嘲の笑みを浮かべながら涙するキャロルの下へ、駆けつけようとする響。

だが、無数の弦に絡めとられ、動きが鈍ってしまう。

 

「お前にもいずれわかるさ・・・・奇跡では救えぬ世界の真理を・・・・」

「ッそんなことない!!奇跡だって、手繰って見せるッ!!」

 

反論が、口を突いて出た。

だって、今響が見下ろせる場所にいるキャロルが、あまりにも独りぼっちだったから。

 

「奇跡は呪いだ、縋る者を取り殺すッ・・・・!!」

 

そんな必死をなおあざ笑えば、ひときわ大きな爆発。

体を変化させるだけのエネルギーすら消費したのか、元の子供の姿で放り出されてしまう。

激しく消耗した今、地面に激突すれば一たまりもないだろう。

拘束を振り払いながら飛び出した響は、必死になって手を伸ばした。

 

「キャロルちゃん、手を取って!!」

「お前の手で救えるものか・・・・救えるものかよォッ!!!!」

 

半ば自棄のような叫び。

声に穿たれて、響の心にためらいが生じてしまう。

 

「・・・・ッそれでも救う!!!」

 

しかし、それはほんの一瞬のこと。

今まで相対してきた者達が、今まで手にかけてきた者達が。

脳裏をよぎれば、迷いは消えた。

 

「抜剣ッ!!!」

『ダインスレーイフッ!!!』

 

エクスドライブに、更にイグナイトの黒が重なる。

 

「わあああああああああああッ!!」

『キャロルッ!!』

 

雄叫びの中。

キャロルはまず、こちらに手を伸ばすエルフナインの幻影を見た。

それだけだったなら、彼女の心は動かなかっただろう。

 

「・・・・ッ!?」

 

だが、次。

現れた、伸ばされた。

もう一つの手には、思わず息を吞んでいた。

 

「パパ・・・・?」

――――キャロル、世界を知るんだ

 

娘のしでかしたことを知ってか知らずか、あの頃と変わらない優しい笑みで寄り添ってくる父イザーク。

 

――――世界の真理を読み解き、人類の相互理解を実現すること

 

――――それこそが、錬金術師が目指すべき場所なんだ

 

あの時、今わの際に託してくれた『命題』。

そのヒントを与えてくれながら、そっと手を差し出してくれる。

 

――――賢いキャロルなら、分かるね?

 

――――その為にはどうすればいいのか

 

響とエルフナインが見せた現実なのか、それとも自分の都合のいい妄想なのか。

どちらとも判断がつかなかったキャロルは、涙を一筋こぼしながら。

 

「ッパパァー!!!!」

 

――――散々拒否した手を掴んだ。




せ、拙作では次くらいが肝だから・・・・(震え声)

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