チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ありがとうございます。

多分(?)誰もが(?)夢見た(?)
翼vs響です。


剣と拳

「な、何故・・・・!?」

 

柄にもなくわなわな震えながら。

まるで通せんぼするように立つ響へ、問う。

 

「何故『そちら』にいる!?」

「雇われました」

 

悲痛な叫びにも、あっけらかんと答える響。

気だるげにうなじをかく余裕すら見せている。

妨害があることは予想できていたが、まさか気にかけていた彼女が現れるとは・・・・。

翼は苦い思いを抱くと同時に、納得もしていた。

響にとって自分は、仇のような存在だ。

謂れのない暴力と悪意にさらされ、家族と離れ離れになり。

手にかけた者達の血で汚れた道を歩む、大本の原因なのだから。

 

(いずれ刃を交えるのも、必然と言うことか・・・・!)

 

密かに奥歯を噛んで、構える。

刃を向けられても、響は平然としている。

気楽な様でいて、隙のない佇まい。

元より諜報部の報告で、只者ではないのは分かっていたが。

実際に相対してみれば、それが真実なのだと思い知らされる。

 

(小日向、すまない・・・・!)

 

手を抜けばこちらが刈り取られる相手。

大事な友人に手を上げてしまうことを、彼女の待ち人に謝罪した。

 

「んじゃ、報酬分はお仕事しなきゃなんで――――」

 

尖る、闘気。

地面が強く踏みしめられる。

 

「少しお相手願います」

 

割り込ませた刀身に、重い一撃が叩き込まれた。

吹き飛びそうになるのをどうにか踏ん張って、一閃。

手甲で防いだ響は一歩引く。

そのまま両手を引けば、手甲が変化。

よく見かけた刺突刃とは違う、幅広で力強い刃。

 

(ジャマダハル・・・・!!)

 

その武器は刀剣の類であったため、翼も知っていた。

拳による一撃が、斬撃にも成り得る近接武器。

カタールとも呼ばれ、北インドで使用されていた。

挑発的に微笑んで、響はもう一度突撃してくる。

鋭い突きが、頬を掠めた。

刀を手甲に叩きつけて弾き飛ばし、斬り上げ。

振り上げた勢いで、もう一閃繰り出す。

油断なく開いた片手にもう一本刀を握り、今度はこちらが攻勢に。

一閃、二閃、三閃。

時に同時に斬り付け、時にタイミングをずらして放ち、時に右と左で攻撃防御を使い分け。

全ての技術を注ぎ込み、響へ連撃を叩き込む。

一方の響は、時折危なげな部分を見せながらも喰らいついている。

防御しきれず掠めながらも、攻撃をしっかり捌いていた。

 

「ふっ、はッ!!」

「ッ・・・・!」

 

翼の突き一閃。

ここが好機と眉をひそめた響は、腕を振るった。

目論見どおり弾かれた刀は宙を舞い、彼方へ飛んでいく。

もちろん、翼がこの程度で怯むなんて微塵も思わない。

 

「はぁッ!!」

 

『一本減っただけだ』と、距離を取った翼。

大剣に変化させると、斬撃を放ってくる。

響もまた上等だといわんばかりに刃にエネルギーを溜め、同じく斬撃を飛ばす。

それら二つは両者の相中で接触、爆発。

煙が晴れないうちに、互いに突っ込んでいった。

 

「おおぉッ!!」

「でぇりゃッ!!」

 

叩きつける、火花が散る。

ぎりぎりという音は、両者の食いしばった口元を表現していた。

 

「強いな」

「鍛えてますから」

「小日向の為か?」

「ご想像におまかせします」

 

打てば響くような会話を交わし、弾きあう。

砂利を散らして後退。

気付けば汗だくになっていた。

視界を遮りそうな目元だけを拭い、響は改めて前を見据える。

翼も響ほどではないが、雫が顎を伝うのが見えた。

と、こちらを射抜いていた目が、揺らぐ。

 

「・・・・雇えば、我々の側に来てくれるのか」

 

ぽつっと、呟くような問い。

 

「あ、それはいやです」

 

当然のように、にべもなく断られる。

 

「言ったじゃないですか、守るために手放すって」

「だが!それでは!!」

 

肩をすくめる響に、翼は食って掛かった。

脳裏に、過ぎる。

響を追い詰めたと自責して、怪我してないかと心配して。

隣に居ないのが寂しいと、人目を忍んで涙する。

どこまでも友達思いで、一途で、健気な。

折れそうな心を必死で堪える、一人の少女。

 

「それでは、小日向の心はどうなる・・・・!?」

 

そんな未来を、近くで見守ってきたからこその問い。

生半な回答は許さないと、肩を怒らせる。

響は未来の名前が出てきたところで、苦い顔。

何も思わないわけではないらしい。

 

「大切な人、親しい人の危機が怖いというのなら、私達が協力する!小日向のことも家族のことも!もう独りで悩まなくていい!!」

 

だって、君は。

 

「貴女は許されていい人間だ!!陽だまりにいていい人間だ!だから頼む!こちら側へ・・・・!!」

 

告げる言葉は、もはや懇願のそれだった。

彼女が『あちら側』にいる原因が、自分にあるからなお更だった。

たった一つ、たった一つだけでも。

自分が壊してしまったものを、取り戻したいと願った。

壊れた破片は、目の前にある。

掴み損ねたくなかった。

翼の必死ぶりに驚いたのか、響の目は見開かれていたが。

やがて、静かに、穏やかに笑みを浮かべて。

 

「――――ありがとうございます。でもごめんなさい」

 

口にしたのは、拒絶の言葉。

 

「どうしてもわたしは、傍にいられません」

「――――ッ」

 

その絶句が、勝敗を分ける。

足音三つ、我に返れば目の前に琥珀の瞳。

 

「――――装者(わたしたち)の弱点は、喉か肺です」

 

荒ぶることなく、淡々と告げて。

 

「げぁッ!?」

 

無防備な喉元へ、蹴りを一発。

急所の一つに衝撃を加えられ、血を吐くと錯覚するほどの痛みが走る。

思わず怯んだその隙を、響は見逃さなかった。

即座に鳩尾へ、続けてアッパーカット。

胴をド突かれ、頭を揺さぶられた翼は、木の葉のように吹き飛んだ。

 

「は――――ぁ、ご――――!!」

 

地面に叩きつけられてもなお、意識はあったようだが。

虚ろな目から読み取るに、ギリギリと言ったところだろう。

まあ、動けたとしてもご自慢の歌は封じた。

油断も慢心も抜きに、負けるとは思えなかった。

 

「ったく、勝ってやんの」

 

当初の目的どおり、殺さずに無力化できたことを安堵していると、そんな悪態が聞こえてくる。

振り向けば、面白くなさそうに舌打ちするネフシュタン。

その手には、金属製の無骨なケースが握られていた。

 

「負けたら負けたで面倒だよ?」

「うっせぇ!ブツは回収した、ずらかるぞ!」

「はいはい」

 

響は『おお、怖い怖い』なんて肩をすくめながら。

去り際にふと、振り返る。

翼はこちらを引き止めるように、手を伸ばしていた。

 

「・・・・・未来を、どうかお願いしますね」

 

自分を暗がりから連れ出そうとした、優しい防人へ。

それだけを告げて、踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュランダルの移送作戦は失敗に終わった。

薬品工場に逃げ込んだはいいものの、それこそが敵の狙いだったのだ。

ネフシュタンに直接攻撃された車は、耐え切れずに横転。

揺さぶられた了子が気を失ってしまっては、奪われるのは時間の問題だった。

もちろん、そうならないために翼を配置していたのだが。

二課の最大戦力たる彼女の前に立ちふさがったのは、響だった。

互角の戦いを繰り広げた響は、最終的に翼を無力化。

デュランダルを奪ったネフシュタン共々、まんまと逃げおおせたのである。

幸いなのは、了子や翼を含めたエージェント達に、死人が出なかったことだろう。

それでも、翼はしばらくの休業をやむなくされたが。

 

「――――そうか、響くんが」

 

二課の息がかかった病院。

手当てを終えた翼の筆談で報告を聞いた弦十郎は、難しい顔をする。

その胸中は、決して穏やかではなかった。

デュランダルを守りきれなかったという不甲斐なさも当然あるが、何より気になっているのは、やはり響。

守りたいと、助けたいと願っていた彼女が敵対したことに、少しどころではない動揺を覚えていた。

 

『申し訳ありません、私が鈍らだったばかりに』

「バカいうんじゃない。人々の為に戦場(いくさば)を舞うお前は、名刀中の名刀だ」

 

眉をひそめて肩を落とす翼の頭を撫で回しながら、弦十郎はそのネガティブな言葉を否定する。

 

「使い続ければ切れ味だって鈍るさ、今はしっかり治療(手入れ)に専念しろ」

『はい、お気遣い痛み入ります』

 

失態を攻めることなく、むしろ激励を送ってくれた叔父へ。

翼は照れくさそうにはにかむのだった。

 

「それで司令、響さんのことはどうしましょう。こうやってはっきり敵対された以上、放っておくわけにも・・・・」

 

微笑みあいが一段落したのを見計らい、翼のマネージャー兼護衛である『緒川慎二』が神妙に問いかける。

確かに彼の言うとおり、事情があるとは言え、二課の人員に手出しをされたのだ。

私情を抜きにしても、このまま見逃すわけには行かない案件である。

 

「それに、未来さんには・・・・」

 

加えて、二課で保護している未来のこともあった。

響の帰りを待ち続けている彼女とは、何か有力な情報があれば教えると伝えてある。

だがこのことは伝えて良いものか、悩むところだ。

元はと言えば、『響が道を外れたのは自分の所為だ』と追い込みがちな部分がある彼女のことだ。

もし、今回のことを知らせたとして、果たして冷静にいられるのかどうか・・・・。

『風鳴弦十郎』個人として、『特異災害対策機動部二課』の司令官として。

持ち合わせている信念と、冷たい現実を吟味して。

翼と緒川が気遣わしげに見守る中。

腕を組み、黙り込み、眉間に皺を寄せて。

悩みに悩んで、悩みぬいて。

 

「――――」

 

やがて彼は、閉じていた目を開いた。




今の今まで、『歌うこと自体を不可能にする』ような敵って出てきてませんよね。

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