チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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難産だった今回。
コナン物以前に、推理物を名乗っていいのかどうか。
悩んできました・・・・。


動機はだいたい過去にある

こんな時に限って、だだっ広く感じる船内を駆け抜ける。

毛利探偵を置いてけぼりにしちゃったけど、途中の警官さんや乗組員が道案内してくれて。

船の奥、エンジンルームにたどり着いた。

 

「ッおじさん!譲二おじさん!」

「ひ、響ちゃんかぁ!?」

 

扉の前の警官さんを押しのけて、扉をほとんど殴るようにして叩く。

向こうから、くぐもった譲二おじさんの声が聞こえた。

 

「おじさん、なんで、なんでこんな・・・・!」

 

・・・・扉が開けられていないということは、そういうことなんだろう。

この向こうには、シャンファさんを仕留めたものと同じトラップが仕掛けられていて。

そこに引っかかってしまったのが、譲二おじさん。

ああ、なんて最悪な展開だ・・・・!

 

「・・・・十分ほど前、卜部さんの携帯にファフニールを名乗るメールが届いたらしい。そこには、ここへ来るようにという指示があったそうだ」

「本来は一人で来るようにと指定されていたそうだけど、シャンファさんのことがあったからと、井出教授が同行して・・・・」

 

目暮警部と、佐藤刑事が説明してくれているけど。

正直、半分も聞き取れていない。

頭の中、高速で流れるのは、どうすればおじさんを助けられるか。

開ければ間違いなく死ぬ。

でも開けないとワイヤーを外すことは出来ない。

自力で・・・・そうだ、おじさん自力で抜けられないだろうか。

か弱いシャンファさんはともかくとして、数々の遺跡を攻略してきたおじさんなら。

何とか抜け出せるかもしれない。

ともなれば、考えることは、わたしに何が出来るか。

何はともあれ、まずはおじさんの状態だ。

それによってやることが変わってくる!

口を開こうとした、その時。

 

「響ちゃん!俺のことは構わず開けてくれ!」

「おじさん!?何言って・・・・!?」

「爆弾だ!爆弾が仕掛けられてるんだ!」

 

ざわっ、と。

みんなが緊張するのが分かった。

 

「爆弾だって!?」

「犯人のヤロウ、どうしても人死にを出したいようだ!」

 

本当だよ!

どんだけ犠牲を出したいのさ偽物さん!?

 

「タイマーは三分切ってる!悠長してると、もろとも吹き飛んじまう!」

「し、しかし、あなたがトラップに引っかかっている状態では・・・・!」

「引っかかったことには引っかかったさ!だが、幸い片足だけで済んでる!あんたらが扉を開けたところで、死にはせんよ!!」

 

よかった、と、反射で考えてしまった。

いや、どっちにしろ失血死やショック死の心配はあるけれども。

少なくとも、即死ではないと分かっただけで。

気分は何とか持ち直す。

 

「何よりな!片足惜しさにダチの娘吹っ飛ばしたなんざ、死んでも死にきれねぇんだ!一思いに頼む!この船にゃ、子ども達だって乗ってんだろ!!?」

 

『子ども達』。

思い浮かんだのは、出会ったばかりの少年探偵団。

・・・・それが、決定打だった。

 

「・・・・おじさん、聞こえる?」

「ああ、聞こえるよ響ちゃん!なんだ!?」

「おじさんを縛ってるワイヤー、扉のどこにつながってる?今のおじさんの姿勢で見えるなら、教えて」

「響ちゃん?」

 

困惑してる佐藤刑事をあえて無視して、おじさんの返事を待つ。

 

「良く見える!ワイヤーは、ドアの上、ドアノブの上の方だ!」

「じゃあ次、この扉は内開き?外開き?」

「確か開けるときに引いたはずだから・・・・外開きだ!」

「そっか・・・・分かった」

 

それだけ聞ければ十分。

念のためにと持ち込んでいた、バタフライナイフを取り出した。

 

「君は、何を・・・・!?」

「今から扉を開けて、譲二おじさんを助けます。爆弾も処理しちゃおうと思うので、皆さんは出来るだけ離れていてください」

「なっ・・・・!」

「無茶を言うんじゃない!井出教授の救出だけならともかく、爆弾までなんて・・・・!」

 

当然、反対の声が上がった。

特に、目暮警部はえらく必死だ。

・・・・この人、なんでかずっとわたしを気にかけてるみたいなんだよな。

現着した時も、わたしを見てものすごく驚いた顔をしてたし。

・・・・それでも、まあ。

本当に、心配してくれてるのが分かる。

だけど。

 

「じゃあ、処理班と爆弾。どっちが早いか確かめてみます?」

「そ、それは・・・・!」

 

しり込みした隙をついて、ドアノブに手をかけた。

呼吸、数回。

どう動くかを、整理して。

 

「あっ、待っ・・・・!」

「――――ッ!」

 

思い切って、開けた。

ギリギリ通る隙間に体を滑り込ませる。

 

「ぐううッ!」

 

ワイヤーがある程度締まったのか、おじさんが苦悶の声を上げていた。

ごめん、だけどこれで・・・・!

ドアノブに乗っかかるように体重をかけて、体を押し上げる。

そして、暗闇で鈍く光っているワイヤーにナイフを当てて、切った。

 

「どあ!?った!!」

「おじさん!」

「大丈夫か!?」

 

一本でつながっていたのか、風を切る音の後で、おじさんが派手に落ちる。

わたしがドアから離れた気配がしたのか、警部達も雪崩れ込んできた。

幸い、足は切断されていなかった。

・・・・ひとまずは、安心。

どっとため息が出ちゃったけど、これで終わりじゃない。

 

「っぐ、ぁ、あそこだ!」

 

痛みを堪えながら、おじさんが指さした先。

今は大人しいエンジンに、シンプルな爆弾が貼り付けられていた。

高木刑事に照らしてもらいながら近づく。

 

「こ、これが・・・・!」

「響ちゃん!井出教授は!?」

 

と、ここで。

了子さんが駆けつけてくれた様だ。

入り口付近で、佐藤刑事に引き留められてるのが見える。

 

「俺なら無事だ!櫻井教授!」

「爆弾も、このタイプなら問題ありません、すぐに解除できます!」

 

サンフランシスコで見たからね。

よく覚えてる!!

 

「・・・・そう、なら任せたわ」

 

信頼してくれる了子さんに、頷いて答えてから。

すぐにとりかかった。

まずはコードをブチッ。

次に制御部を思いっきり突き刺す。

デジタル表示のタイマーがバグって、画面が消えた。

そこからしばらく待ってみたけど、爆発する様子はない。

よし。

 

「解除しましたー!」

 

廊下にも聞こえるようにそう言うと、緊張した空気が一気に晴れ渡ったのが分かった。

・・・・何とかなって、よかった。

とはいえ、譲二おじさんの足は切断されていないだけ。

皮一枚ならぬ骨一本でつながっている、相当な重傷だ。

了子さんが傷口にタオルを巻いていたけど、当てた傍から真っ赤になるほどの出血。

気を抜いていられない。

 

「みなさん、無事ですか!?今、担架を持ってこさせています!」

「ちょうどよかった、怪我人です!医務室で、手当てをしたいのですが!」

「分かりました、案内させましょう」

 

やってきた乾船長によって、担架で運ばれていく譲二おじさん。

了子さんが診てくれるなら、今度こそ気を抜いていいだろう。

 

「またを無茶して」

「マリアさん」

「怪我でもしたらどうするの、あの子が泣くわよ」

「あはは、すみません・・・・」

 

廊下に出ると、早速マリアさんからお小言。

確かに、子ども達が危ないって聞いて思わず飛び出しちゃったけど。

さすがに生身で爆発くらったら死んじゃうよね。

・・・・あの夜も、そんな理由で未来を泣かせちゃったのに。

って、あかん。

その後のアレコレも芋づる式に思い出しちゃった・・・・!

沈まれわたしの顔。

今はASO-4を起こす時ではない・・・・!

 

「・・・・来る時もその顔してたわね」

「出来れば触れないで下サイ・・・・」

 

そんな風に、アホなことに必死だったせいか。

強い疑惑の目を向けるコナン君に、全く気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

(――――なんなんだ、この人は)

 

譲二が被害にあった現場に、駆けつけたコナン。

今は、事態を解決に導いた響の背中に釘付けになっていた。

――――柱を砕く身体能力、身に着けたであろう知識。

それだけならまだいい。

だが、爆弾に対する異常なほどの冷静さや、解体の手際が鮮やかすぎる。

了子の下にいたこと、マリアと知己であること、元不良であったこと。

それらを踏まえたとしても、明らかにおかしいくらいのスペックだ。

 

(オレと同い年って話だが、それにしたって・・・・!)

 

コナンとて、『新一』の頃に培った技術や知識もある。

ハワイで習ったスキルも数知れずであり、同年代に比べて一つ抜きんでていると自負している。

――――それでも。

 

(それでも、この人の能力は異常だ・・・・!)

 

そんな彼ですら、はっきり感じる響の異常性。

コナンの警戒心を跳ね上げるには、十分すぎた。

 

「っと・・・・」

 

響への疑惑も気になるが、今は事件の捜査を優先させる。

人死にが出ていないので大丈夫だろうと思いながらも、マリアをほんのり警戒しながら警官に紛れてエンジンルームへ。

後ろからは平次もついてくる。

佐藤や高木からすればもう慣れっこなもので。

『そこを踏まないように』と注意しながら、コナンにもざっくりと捜査状況を教えてくれたりした。

 

「犯人は、龍臣社長や卜部さんのアドレスを、どうやって手に入れたんだろうね」

「そういえば・・・・」

 

その中で、高木はぽつっと疑問を零す。

 

「確かに、今回の犯人からの声明は、すべてメールで行われている」

「それに、このワイヤートラップのことといい、爆弾といい。計画性も有り」

「やはり、入念な準備をしていたとみるべきでしょうな」

 

目暮、佐藤に続き、小五郎も考察に加わった。

 

「となれば、調べる必要があるのは直近のアクセスデータでしょうね」

 

ここで混ざってきたマリアに、面々が注目する。

人死にが無ければ、そこまでの目くじらは立てないらしかった。

いや、それでも少し険しい視線を向けられたが。

 

「そうか!あんまり前以て手に入れても、変更とかで使えなくなってまうから・・・・!」

「そういうこと、ハッキングにしろ何にしろ、アドレスを手に入れたのはごく最近のはず」

 

平次の考えは当たっていた様で、マリアはこっくり頷いた。

 

「そうとなれば、メールサービスを調べるよう連絡を!」

「頼んだ、佐藤君」

 

飛び出していく佐藤を見送ったコナンは、ふと、入り口の方で哀が手招きしているのを見つけた。

おそらく、今回に関係する情報を集めてくれたのだろう。

 

「行ってきぃ、俺が誤魔化したるから」

「ああ、サンキュ」

「後で俺にも教えてやー」

 

平次に促されたこともあり、コナンは現場から離脱。

『ボウズは御不浄や』なんて言っている平次の声を背中に、哀と合流した。

 

「――――博士にも手伝ってもらって、『ファフニール』について調べていたの。それから、彼女についても」

「彼女?」

 

人気のない廊下で、声を潜めて話し合う二人。

気の利く仲間にコナンは感謝を覚える一方で、哀の口から出た『彼女』という言葉に首を傾げる。

 

「立花響についてよ」

「・・・・ッ!」

 

哀としては『ファフニール』に過剰反応した一人なので、引っかかっただけのようだったが。

コナンからすれば、疑惑が強まった人物ということもあり。

思わず目を見開いた。

 

「まずは『ファフニール』についてだけども」

 

そこから哀が語る内容では。

噂がささやかれ始めたのは、三年前のことらしい。

銃火器が普及している昨今では珍しい、格闘戦に重きを置いたスタイルで。

反社会組織の要人警護や暗殺を担ってきた。

実際、そいつを引き入れた組織は目覚ましい発展を遂げたということだったが。

 

「どの組織も結局壊滅してるんだよな、どうして・・・・?」

「それが、『ファフニール』と呼ばれる所以なのよ」

 

『ファフニール』というからには、当然付随する『財宝』もついてくる。

この場合、奴が庇護下に置いていた少女だというのだ。

 

「滅んだ組織の全ては、この『財宝』の少女に危害を加えようとして」

「返り討ちどころか、身を滅ぼしたってか」

 

だから『ファフニール』か、と。

コナンは納得した。

 

「唯一、『ファフニール』を完全に制御出来たのは、サンフランシスコを拠点にしていた中国系マフィア『山龍(シャンロン)ファミリー』だけという話よ。そして、ここに所属していたという証言を最後に、足取りが掴めなくなっている」

 

ちなみに、そのマフィアも最近はすっかり足を洗い。

食品メーカー『龍飯(ロンハン)カンパニー』として市場に繰り出している、ということだった。

 

「足取りが掴めないってことは、少なくとも死んだってわけじゃなさそうだな」

「そうね、ただ、つい最近まで音沙汰がなかったのも確かよ」

 

今回、このアレクサンドリア号を脅かしている『ファフニール』。

そいつが本物なのか、あるいは名前を無断使用する偽物なのか。

 

「それから、『立花響』のことだけども」

 

考え込むコナンを引き戻すように、哀は話をつづけた。

 

「・・・・彼女、だいぶハードな人生送ってるわね」

「・・・・やっぱり訳アリか」

「ええ」

 

少し、言いにくそうながらも話してくれる哀。

そんな彼女に内心で礼を言いながら、コナンは耳を傾けた。

 

「ことは三年前の、ツヴァイウィングのライブにまで遡るわ」

「三年前でツヴァイウィング・・・・なるほど、生き残りなのか」

「そんな顔をするってことは、工藤君の周りでも?」

「・・・・ああ」

 

よっぽど厳しい顔をしていたらしい。

哀の指摘で気づいたコナンは、力んだ眉間をもみながらかつてを思い出す。

 

「ロクな証拠もなしに、ただ関係あるからってだけで犯罪者扱い・・・・法に則っていない時点で、ただの私刑でしかないってのに、あいつら・・・・」

「・・・・続けるわよ?」

 

切り替えを促してくれた哀に頷きながら、コナンは再び耳を傾けた。

 

「その迫害に耐えられなくなったのか、彼女は失踪。味方になってくれたお友達と二人で、行方知れずになってしまったの」

「・・・・そういえば、新聞で見たな。なるほど、彼女だったのか」

「それで、その捜索を担当していたのが、目暮警部だったそうよ」

「目暮警部が!?・・・・そうか、ということは」

 

『相当気にしているでしょうね』、と、哀が付け加えた。

 

「当時、警察の捜索で最後まで見つからなかったのは、立花響とその友人を合わせた五人。そのうちの三人は、去年のテロ事件の首謀者だとされているわ」

「あの事件の・・・・確か、英雄マリアと翼が誕生したのもそれだったな」

 

顎に手を当てながら、コナンは思考にふける。

 

「・・・・報告はまだあるんだけど、どうする?」

「ん?ああ、悪い、聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

コナンくんが哀ちゃんに連れてかれた後。

S.O.N.G.から通信が来たので対応していた。

今回に関する情報がある程度集まったってことだったんだけど。

了子さんもマリアさんも手が離せないからね。

仕方ないね。

 

「それで、『綾部造船』のことでしたっけ?」

『ああ、こちらでも調べてみた』

 

それから弦十郎さん・・・・じゃ、なかった。

風鳴司令が教えてくれるには。

・・・・いや、一応正式な職員だし。

呼び方くらいそろそろ、ね?

 

『概要はおおむね、そちらに聞いたとおりだった。知らせるのは、その詳細な顛末だ』

 

気を取り直して、耳を傾ける。

事の発端は、週刊誌に届いた匿名の封筒によるタレコミだった。

その中には、当時関西圏で有力企業となっていた『綾部造船所』の幹部の一人が、横領をしているというものだった。

実際、会社が資金難であったこと、帳簿の数字と実在の金額とが合わないという事実があったことも後押しして。

その幹部さんは、内外からバッシングを受けてしまった。

当時社長だった『綾部辰波(たつみ)』さんと、専務にして現社長龍臣さんは。

『何かの間違いだ』『各自冷静な判断を心掛けるように』と宥めていたんだけど。

元々、その幹部さんを含めた三人で興した会社というのもあって、『身内びいきだ』と、むしろ火に油を注いでしまって。

幹部さんへの疑惑や糾弾が、あんまりにも大声で騒がれるものだから。

その二人も、次第に幹部さんを疑い始めてしまったらしい。

結局、そのことが原因で取引が減っていき、芋づる式に収入も減ってしまって、倒産。

当初は、社員の生活を守ろうと奮闘していた綾部社長だったけど。

もはや後の祭りとなった状況で、件の幹部さんの無実が明らかになった。

部下を信じられなかったことを、悩んで、悔やんで、絶望してしまった綾部社長は。

 

『――――倒産の翌年、首を吊って自殺した、ということだ』

 

そこで、報告は一区切りされた。

・・・・感想を述べるなら、似ているなと思った。

ありもしないことなのに、覆せない事実の所為で糾弾された面が。

本当に、よく。

・・・・わたしが、まだ日本を出ないうちに、死んでしまっていたのなら。

お父さんやお母さん、おばあちゃん達が。

後を追ってきてしまったかもしれない。

そう考えると、他人事に思えなかった。

 

『それで、その糾弾された幹部。経営戦略の要となっていた人物の名前は』

 

――――告げられた名前に。

何かがつながった気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰原、それ本当か!?」

「ええ、間違いないわ」

 

まさか、コナン君も同じ状況だったなんて。

この時は知る由もなかった。




いや、インディなら罠で殺せんやろうな、と・・・・。

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