チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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開き直った。


最後のピース

「存外、悪運の強い人ね」

 

「もう時間もない・・・・仕方がないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、意味ありげに電流走らせといてなんだけど。

残念ながらわたしは探偵ではないので、捕まえてひらめきに変えるなんて出来ないんだよなぁ・・・・。

頭を捻り続けながら、蘭ちゃん達がいるであろう食堂への道を歩いている。

爆弾だのなんだの騒がれてたのと、一応わたしの役割が子守だからね。

譲二おじさんはまだ治療中の様だから、邪魔するのは悪いし。

と、言うことで。

 

「響ちゃん!」

 

食堂に顔を出すと、すでにマリアさんが話していたようで。

鈴木相談役他、ひょっこり現れたわたしを心配げに見てきた。

 

「井出先生のことは聞いたよ、その、大変だったね・・・・」

「うん、ありがと。わたしは大丈夫だよ」

 

気遣ってくれる蘭ちゃんに笑いかけてから、マリアさん達の方を見ると。

鈴木相談役が話しかけてきた。

 

「まずは爆弾の解除、ご苦労だった。話を聞いた時は驚いたが、何はともあれ、助けられてしまったな」

「いやぁ、了子さんの教育の賜物ってことで、一つ・・・・」

 

まさか、『マフィアとつるんでたら覚えましたァ!!』なんて言えるはずもなし・・・・。

それに了子さんなら。

あれよりもはるかに複雑な爆弾を、研究の片手間に解除できそうだし。

多少はね?

 

「卜部さんも災難ね、二度も騒ぎに巻き込まれるなんて」

「うん、最初はどうかと思ったけど、ここまでとなるとさすがに・・・・」

 

なんて、園子ちゃんが肩をすくめて、蘭ちゃんが苦笑いを零していると。

 

「まったくだ、こっちとしちゃたまったもんじゃないぜ」

 

当の本人が、頭を掻きながら現れた。

事情聴取は終わったようだけど。

 

「今回の犯行、恨みの線が濃厚だな」

 

恨み?

 

「そうだろ?殺し方が尋常じゃねぇ、わざわざ声明まで出して俺達を閉じ込めて・・・・」

「そりゃあ、そうですけど」

「ターゲットだけじゃなくて、周りの人間を狙うってのも嫌らしいぜ」

 

ふむふむ、なんて耳を傾けていると。

卜部さんの目がこっちに向いて。

あっ、なんか嫌な予感。

 

「お前さん、身に覚えがあんじゃねぇか?おん?」

 

くぁーッ!やっぱりかァーッ!

ルポライターなんてメディア系の職業で、この性格だった時点で何となく予知してたんだよ!

ちっくしょう、さっきの仕返しか!?ええ!?

 

「それってどういうことですか?」

「なんだ、やっぱり言ってなかったのか」

 

そら、言うことじゃないしね!!

 

「こいつは、三年前のライブの生き残りなんだよ」

 

・・・・もはやそれだけで通じるらしい。

マリアさんは『なんちゅうこと言いやがる』って顔してくれてるけど。

それ以外のみんなは普通に驚いてる。

 

「人を踏みつけにしてまで生きのびたんだからな、百や二百は恨まれてるんじゃないのか?」

 

そう見下ろしてくる顔は、どうだとでも言わんばかり。

ちっともかっこよかねぇわ。

っていうか、卜部さんあんた。

子どもらの前でなんちゅー話題繰り出してんだ!

 

「・・・・だったら、それはあなたも同じでしょうね」

「あ?」

 

そんなところへ、一歩前に出てくれたのはマリアさん。

わたしを庇うように片手を横へやりながら。

ガン飛ばす卜部さんを、鋭く睨みつける。

 

「これほど品のないゴシップライターだもの。あることないこと騒がれて、いったいどれほどの人が迷惑被っていることか」

 

・・・・初対面の時の仕返しも兼ねているんだろう。

表情は同じくドヤ顔だけど、卜部さんのに比べたら段違いだ。

もう『たやマ』とか言ってられませんわ。

いよっ!アイドル大統領!輝いてるッ!

頼もしい!優しい!マリアさん!

略して『たやマ』ッ!

アレッ!?

 

「人のことを言う前に、まず自分を顧みてはいかがかしら?」

 

なんて思ってる間に、勝負はついたようだ。

卜部さんは恨めしそうにマリアさんを睨みつけると、食堂から出て行ってしまった。

 

「助かりました」

「だってあなた、このことに関しては強く言い返さないじゃない。危なっかしいったらありゃしない・・・・」

「たはは・・・・」

 

お礼を言うと、お小言をもらってしまった。

いや、だって。

わたしが否定したところで、遺族の悲しみが癒されるわけでも、死んだ人が生き返るわけでもなし。

下手になんか言って傷つけるよりも、黙ってサンドバッグになってた方がよくない?

だいじょぶだいじょぶ、さすがに直接的な手段を取られたらちゃんと自衛するんで!

 

「そういうところよ・・・・」

 

そういう旨の話をして胸を張ると、呆れた顔をされてしまった。

あっれー?

 

「響お姉さん、大丈夫?」

 

首を傾げていると、歩美ちゃんが話しかけてきた。

 

「卜部さんはあんなこと言ってましたけど、僕達は信じてますからね!」

「そうだぞ!ヤイバーみたいな人に、悪い奴はいないんだからな!」

 

続けて、光彦君と元太君が声をかけてくれてっ・・・・!

グワーッ!優しさが身に染みるーッ!

いい子・・・・みんないい子・・・・。

 

「おじ様、なんであんな人を呼んだの?陰口みたいで情けないけど、あんまりだよ!」

「私も、園子と同じ気持ちです!マリアさんにも響ちゃんにも、あんな言い方・・・・!」

 

純粋さに浄化されている横で、蘭ちゃんと園子さんが鈴木相談役に詰め寄っているのが見えた。

一方の相談役は、少し難しい顔をしてから。

 

「実は、儂も彼についてはあまりいい話は聞いておらなんだ」

 

そう、口火を切った。

 

「だが、出版社もこのイベントを報じない訳にはいかなかったんじゃろう。彼を紹介された時、えらく謝られたのを覚えておる」

「もしかして、この前のテロが原因で?」

「ああ、警察と同じく、人手不足でな」

 

まぁじか。

こりゃあ、わたし達も原因に一枚かんでるよなぁ。

思わずちらっとマリアさんを見ると、やっぱり渋い顔。

 

「身から出た錆、かしらね・・・・」

 

物憂げなため息が、なんだか色っぽかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「ったく、どいつもこいつもなんなんだ・・・・」

 

苛立ちを隠そうともしないまま、船内を歩き回る卜部。

その足音は、いら立ちを隠そうともしない。

 

「こっちが出す情報をありがたがるくせして・・・・いちいち目くじら立てやがって・・・・!」

 

喫煙スペースでないにも関わらず、たばこを取り出そうとして。

 

「・・・・あ?」

 

前方から歩み寄ってくる人影。

 

「お、お前・・・・!?」

 

彼女を目の当たりにした卜部は。

驚愕のあまり、咥えたたばこを取り落とした。

 

「――――お久しぶりですネ」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――なるほどなぁ、あの人らにそんな過去が」

 

人目を忍んだ一角。

哀に教えられた情報を、平次と共有していたコナン。

 

「それで、犯人に目星はついとるか?」

「一応・・・・だけど、この事件、変なんだよ」

「変?」

 

コナンから出た新一らしからぬ発言に、平次も首を傾げる。

 

「ああ、誰を犯人と仮定しても、必ずどこかで破綻する・・・・推理がつながらなくなるんだ」

「まだピースが足りとらんっていうことか」

「そうなんだけど、隠れ方が尋常じゃねぇ。しっぽすらつかめないってどういうことなんだ・・・・?」

 

眉間にしわを寄せ、口元に手を当てて頭を捻る。

 

「さすがの工藤も、謎に雲隠れされちゃ。お手上げみたいやな」

 

『かくいう俺もさっぱりや』と、平次は苦笑いしてコナンを慰めた。

 

「最後のピースさえ見つかれば、あるいは・・・・」

 

思考で濁った頭を掻きまわしたコナンは、ため息を一つ。

脳内を一区切りしたときだった。

 

「――――こっちだ!早く!」

「急げ!!」

 

慌ただしく走り回る船員と警官達。

同じ予想をして、互いを見合った平次とコナン。

頷きあって、駆け出す。

 

「何があったんや!?」

「また例のワイヤートラップだ!今度は従業員がやられてるらしい!」

「なんだって!?」

 

トラップも三度目ともくれば、コナンも平次も、驚愕より気構えが勝る。

警備員に紛れて駆け抜ければ、客室の一つにたどり着いた。

だが、様子がおかしい。

トラップが、そして被害者がいるであろう部屋の前には人がおらず。

代わりに、反対側の廊下に人だかりができている。

 

「動くなッ!おとなしくしろッ!」

「くそ、なんて力・・・・うわッ!?」

 

怒号が激しく飛び交っている中から、飛び出してきたのは。

 

「あけさせろおおおおおおおおおおおおッ!」

「ぅ、卜部さん!?」

 

鍛えているはずの警官複数人の体を、軽々跳ねのけながら。

血走らせるその目は、明らかに正気のそれではない。

 

「そこに!そこに!そこに!犯人が!スクープが!」

「だめだ、抑えきれん!」

「警部どのはまだかッ!?」

「毛利探偵でも、その娘さんでもいい!殴ってでも止めさせろッ!」

 

協力して抑え込んでいる警官や船員たちが劣勢に立っている。

どうみても一人で対抗できない人数相手に、善戦どころか圧倒している卜部。

自分達も加勢しようと、コナンと平次が進みだしたところで。

つかつかと歩み寄ってくる人物。

了子だ。

彼女は卜部の頬を両側から掴むと、じぃっと両目をのぞき込んで。

何かを、確信したように頷いて。

次の瞬間。

 

「――――ふんッ!」

 

スパーン!と、いっそすがすがしい位の勢いで。

右頬を張り飛ばした。

 

「ぐへぇっ」

 

思いっきり床に叩きつけられ、束の間呻いた卜部。

やがて、寝起きのような、焦点のおぼつかない目で辺りを見渡しながら起き上がった。

 

「あ、れ?俺、どうしてここに?」

 

『いてて』と頬をさすりながら起き上がった顔は、すっかり正気を取り戻していた。

そろって自分を凝視する面々に気圧され、びくっと肩を跳ね上げて後ずさっていた。

誰もかれもが困惑する中で、了子だけが鋭い目線を解くことはなかった。

 

「な、何があったの!?誰かそこにいるの!?助けてッ!助けてッ!」

 

動きを止めていた面々だったが、客室の中でとらわれていた女性従業員の声で我に返った。

 

「僕がやる!」

 

すぐに行動を起こしたのはコナン。

阿笠製のベルトからボールを吐き出させると、同じく阿笠製のシューズでキック力を増強。

 

「いっけえええっ!!」

 

思いっきり蹴りつければ、ボールがドアを粉砕した。

こうなっては、中に仕掛けられていたワイヤーも締め上げるどころではない。

結果、女性従業員は床にたたきつけられたものの、何とか救出された。

 

「すごいね、さっきの。必殺技みたいだった」

 

怪我がないかを診るために、医務室へ連れていかれる彼女を見送っていると。

響が話しかけてくる。

 

「あ、うん。知り合いの博士が作ってくれたんだ。このベルトがボールを作って、こっちのシューズでキック力をあげるの」

「へぇー」

「それ抜きにしても、たいしたボウズやろ?」

「あはは、うん」

 

(そうと明かせないが)ライバルを自慢する平次にも、笑いながら頷いていると。

 

「響ちゃん!」

「はい?」

 

了子の、どこか芯の通った声。

一緒に振り向いたところへ、何かが投げられる。

響が難なく受け取ったそれは、分厚いスマートフォンの様なものだった。

 

「異端技術の『残り香』を検知するためのものよ。試作品だけど、性能は保証するわ」

 

――――信じられないことを、聞いた気がする。

ぎょっとなったコナンと平次が、了子を改めて見てみれば。

彼女の顔は、何かを確信している表情だった。

 

「それを持って、最初の事件現場に行ってちょうだい。スイッチを押しながら一回りすれば、後は勝手にやってくれるから」

「・・・・りょーかいです」

 

そんなコナンと平次を他所に、響は特に疑問を抱く様子もなく機器をひらひら振って返事。

そのまま軽い足取りで去ってしまう。

ワンテンポ遅れて、コナンと平次も走り出した。

これを逃せば、謎を解く手がかりが永遠に失われる。

二人の脳内には、同じ予感が閃いていた。

 

「――――おっと、ここだ」

 

やがてたどり着いた、最初の事件現場。

まだ濃く残っている血の臭いに、顔をしかめずにはいられない。

だが、響は平然と部屋に入ると、さっそく機器を掲げて。

その場でぐるっと一回転。

コナンと平次が見守る中、数瞬の沈黙を保った機器は。

やがて、けたたましいアラートと共に赤いランプを点滅し始めた。

それを見て、顔を引き締めた響。

コナンが、幾度となく見てきた。

守る者の、戦う者の顔だった。

 

「――――あんたは、何なんだ」

 

だからこそ、口をついて疑問が出てきた。

 

「何者なんだ?何を知っているんだ?今ので何が分かったんだ?」

 

焦りを理性で何とか抑え込みながら、問いを投げ続ける。

平次は、自分より狼狽えているコナンを見て、幾分か冷静でいられているようだったが。

しかし、抱いた疑問は同じだったようで。

遺骸が散乱する中に立つ響を、まっすぐ見据えていた。

対する響は、少し困った顔で沈黙を保っていたが。

ふと、笑みを浮かべて。

 

「・・・・何者かについては、多分、君達と同じだといいな」

 

そう、口火を切る。

 

「わたしには、守りたい人がいるから」

 

いっそすがすがしいまでの笑みは、二人の警戒を削ぐのに十分だった。

 

「で、何を知っているかだっけ」

 

切り替えるように、明るい声を張り上げる響。

ステップを踏みながら、部屋の外に出ていくので、コナンと平次もついていく。

 

「話してもいいけど、その前に」

 

打ち合わせた手を、指だけつけたまま広げて。

得意げな顔に、何を言われるのかと身構えた二人は。

 

「――――耳掃除は済ませてる?」

「「――――へッ?」」

 

思いもよらない言葉に、抜けた声を上げた。

 

「頭をよーっくこねて、柔らかぁーくして聞いてね」

 

そんな二人を面白そうに見守りながら、響はくすくす笑って。

 

「――――ここから先は、オカルトの時間だ」

 

不敵に、口角を上げたのだった。




次回、いよいよ謎解き(予定)・・・・!

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