2020最初の投稿です!
アレクサンドリア号から、遠く離れた道路。
広がる呪いから市民を守るために、また、不用意に近づけないために。
検問で物々しい雰囲気となっていた。
「藤尭さん、近隣の避難は完了しました」
「ありがとうございます」
警視庁から派遣された白鳥の報告を、同じく派遣された藤尭がお礼と共に受け取る。
「それにしても警部達、大丈夫でしょうか・・・・」
「高木さんや佐藤さん達の安否も気になります」
市民の安全も確保し、ひと段落にほっとするのも束の間。
これまた同じく派遣された千葉が、白鳥と見合って仲間の安否を気にかけている。
「藤尭さんのお仲間も、確か」
「あー、お気遣いありがとうございます。でもこっちは気にしなくても大丈夫です・・・・殺しても死ななそうな人たちなので」
「・・・・頼りがいのある方々なんですね」
そう言って遠い目をする藤尭に、同じ苦労の気配を感じた二人は。
そっと同調の言葉を述べるにとどめた。
「とにかく、これ以上黒い煙が広がらないよう、監視を継続しましょう。今、この状況にぴったりなシンフォギアが、根っこを叩きに行ってくれているので」
「ええ、もちろん協力させていただきます」
気を取り直して敬礼を交わし合い、改めて問題解決への意欲を盛り返したところで。
遠くから、アスファルトが擦れる甲高い音が聞こえてきた。
何事かと振り向けば、爆走してくるマイクロバスの姿が。
「わっ、わわわわわわわわわ!!!!」
「退避ッ!退避ーッ!!!」
ぎょっとなっている間にも、バリケードを突き抜けそうというか。
とっくに突き破って飛び込んでくるマイクロバス。
S.O.N.G.職員は慣れで、警官達は持ち前の身体能力で。
危なげないながらも、何とか避ける。
一方のバスは派手にドリフトした後、街灯に柔くぶつかったことで停止した。
誰もが思わず身構える中、扉を軋ませながら出てきたのは。
「あら、みんなおそろいね」
「了子さぁん・・・・警察だっているのに・・・・」
「なぁによう、こっちはノイズどころか未確認物体にも追い回されていたのよ」
白衣をなびかせた了子は、運転の激しい車内にいたとは思えない足取りで着地。
藤尭のぼやきもどこ吹く風な一方で、まだ中にいる子ども達や負傷者の保護をてきぱきと指示していく。
「船の方は?」
「はあ・・・・内部は既にガングニールとシェンショウジンが。外のマリアさんの方も、イチイバルとイガリマ、シュルシャガナがもうすぐ到着します」
「上々ね」
そうして、受け取ったタブレットを束の間眺めた了子は。
一息、『ふむ』と考えを巡らせて。
「・・・・コナン君を逃がしている暇は、なさそうね」
「ちょっ、なんやて!?」
「そ、それってどういう意味ですか!?」
零した言葉にいち早く反応したのは、平次と蘭の二人。
特に蘭は、文字通り詰め寄る勢いで食って掛かる。
「い、いや、見捨てるわけじゃないから、ちょっと落ち着いてちょうだい」
タブレットを庇いながら、何とか蘭を宥めてからの、曰く。
黒い煙に対抗できるのはたった一人だけ。
煙の濃度がだんだんと濃くなっている今、例えシンフォギアであろうと、耐性のない者を置いていくのは悪手。
だからまとまって動く必要があるのだが。
煙の速度を顧みるに、コナン達を避難させるために往復すれば。
今検問を張っているこの付近まで広がってしまうということだった。
「幸いなのは、対抗できるたった一人が、呪いや祟りに対して絶対的なアドバンテージを取れること。それこそ、今回のようなケースにはうってつけなの」
「つまり、そいつが傍におる限りは無事やと」
「そういうこと」
幸か不幸か、S.O.N.G.本部も同じ結論に至ったらしい。
了子の読み通り、シンフォギアにコナンを伴わせたまま、作戦を続行させているということだった。
説明を受けた蘭は、何とか冷静になったようだが。
それでも、心配だという気持ちはぬぐえない。
(新一なら、どうしたんだろう・・・・?)
船があるであろう方を見ながら、蘭は指を組んで祈った。
◆ ◆ ◆
大ピンチのところにやってきてくれたのは、未来だった。
というか、呪いだのなんだのが出てきてるんだし、むしろ出てこないわけがないよね。
というわけで、コナン君抱っこを交代してもらっている。
エルフナインちゃん曰く、コナン君退避させてる暇はないということで。
連れたまま呪いの根源へ突撃している次第だ。
「オッラァッ!!!」
両手が開いたならば、本領発揮するしかありませんよネ。
ってなわけで、全力でボコスカ。
室内っていうのもあるけど、こんな豪華な船で暴れるのって抵抗があったからね。
刃より素手の方が楽ってもんよ。
ノイズはわたしが、脳みそは未来に任せて。
神獣鏡は呪い特攻がついてるからね。
近くにいるだけで呪いが浄化されるので、本当に助かる。
ついでにコナン君の安全も確保されて一石二鳥。
いや、ホント神獣鏡先生万々歳ですわー。
「そいやっさ!!」
拳を突きつければ、スパンッ!と音を立ててノイズが吹っ飛んだ。
この辺りは、これでひと段落かな?
「ちょっと、いいかな」
未来と見合って、クリアリングを完了したところで。
コナン君が口を開いた。
そういえば何か考えてるようだったけど・・・・。
「シャンファさんが、どこに行ったのか。ずっと考えていたんだ」
「口を開いたってことは、まとまったってことでいいのかい?」
「うん」
こっくり頷いたコナン君は、周りを警戒しながらも話してくれた。
「響さん達のやり取りから考えるに、シャンファさんみたいな悪い人は、テレポートみたいな手段でぱっと逃げられるんだよね」
「うん、捕捉出来なくもないけど、それ使われるとたいていは逃げられる」
「でも、シャンファさんはそれを使わなかった」
「単純に、テレポートを邪魔されたくなかったんじゃないのかな?」
「そうかもしれないけど、それじゃあどうしてこんな状況になってるの?」
コナン君の指摘に、はっとなった未来。
確かに、と言いたげな視線をこっちに向けて。
話の続きを聞く。
「多分、シャンファさんはまだ卜部さんを諦めていないんだ。だって、本命が窃盗なら、こんなことせず早く達成して逃げればいい」
「なるほど、ワンチャン狙ってるってワケか」
あの人相当恨まれてるな・・・・。
「それじゃあ、シャンファさんは・・・・」
話を飲み込む横で、同じく理解したらしい未来が、コナン君を見下ろしながら問いかける。
「うん、多分。この煙の大本・・・・」
・・・・自然と、目が同時に動く。
この先は、確か。
――――ツタンカーメンの展示室。
さぁーって、こっからが正念場になりそうだ。
「コナン君、大丈夫?」
「うん、ボクは大丈夫。それよりも早く、この事件を終わらせよう!」
心配した未来の問いかけに、力強く返事するコナン君。
頼もしさにこっちも勇気をもらいながら、先へ進む。
初撃の牽制用に、刃を数本指に挟んで。
わたしが先頭を行く。
一歩、一歩、踏みしめながら、そっと部屋を覗いてみれば。
「――――あら、存外早い到着ね」
黄金マスクのすぐそばで、何やら陣を展開していたシャンファさんが口を開いた。
「そりゃあ、このスモッグを放置するわけにゃいきませんので」
もうバレバレなようなので、隠れることなく突き進む。
いつでも投擲出来るよう指先を意識しながら、やや威嚇するように足を踏み鳴らす。
「投降の勧告です、今行っている儀式をただちに取りやめなさい」
お役所らしく、投降を促してみたんだけど。
対するシャンファさんは、何というか。
「――――ああ、全く」
恍惚というか、いっそうっとりしているような。
有体に言って、大分色っぽい顔で。
部屋に充満するような敵意を、遠慮なく溢れさせて。
「なんて、吉日なんでしょう・・・・!」
瞬間、陣が活性化したと思えば、隣のツタンカーメンが怪しく光る。
この人、あのマスクを媒介になんかしやがったな・・・・!?
神獣鏡ですらギリギリ打ち消せないほど、黒い煙が吹き荒れて。
思わず顔を庇ってしまう。
「――――ッ」
気流が収まった頃に現れた、威圧。
持ったままだった刃を放って、煙を物理的に振り払えば。
現れたそいつらの姿が見えた。
「なんだ、アレ・・・・!?」
コナン君が驚愕するのも無理はない。
そこにいたのは、同じ種類のバケモノ二体。
ワニの頭に、ライオンの鬣と前足。
後ろ脚としっぽはカバのそれ。
・・・・知っていたからこそ、驚愕を隠せなかった。
「罪人の心臓を喰らう、冥界の獣『アメミット』」
分かっていないコナン君に向けてか。
とっくにわたしを眼中から外しているシャンファさんは、ゆったり手を上げて。
「超えられないなら、あなたはここまでよ・・・・!」
振り下ろされるや否や、二頭のアメミットは飛び出してきた。
「・・・・ッ!」
一頭には拳を、もう一頭には刃を叩きこんで、ヘイトをわたしに向けさせる。
本当なら、わたしと未来とで分担した方がいいんだけども。
今の未来はコナン君を抱えている、無理はさせられない。
思惑通り、二頭の注目がこっちに向いた。
飛びついてきた方は、刺突刃で鼻っ柱をひっかいてやり。
噛みついてきた方はわざと籠手を噛ませてから、怯んでるもう一方に叩きつけてやる。
その隙に、続けて何かの術を発動させようとしてるシャンファさんへ。
刃を複数本飛ばして牽制。
やむなく中断させたシャンファさんに向けて、未来がダメ押しの閃光を放った。
我慢できず舌打ちしたシャンファさん。
同じ『風』の術式を複数展開すると、発生させた竜巻を未来へ撃ちだした。
わたしはもちろんフォローに回ろうとしたけど、復活したアメミット達に阻まれてしまう。
顎を蹴り上げ、横っ面を殴り飛ばして。
距離を取って、構える。
・・・・発生源なだけあって、煙の、呪いの濃さはピカイチだ。
そんな中での戦闘は、はっきり言って命に関わる。
やっぱり、やむなく連れてきたコナン君がネックになってんなぁ・・・・。
シャンファさんもそれが分かっているのか、未来が庇わざるを得ないような攻撃ばかりをチョイスしている。
そんで、突破力のあるわたしは未来から引き離して動物とのふれあい体験・・・・。
くっそう、ずるいぞぉ!!
「・・・・っぁ」
ネックはそれだけじゃない。
白状すると、さっきから眠気がひどくって・・・・。
ほら、今も。
目の前がブラックアウト寸前まで暗くなってしまって。
アメミットの爪が掠ってしまって・・・・。
うん、どう考えてもあれですね。
時計型麻酔銃の!!!残り香的なサムシングですね!!!
くぁー、嘘やん。
このタイミングで来るぅ?
困るよぉ・・・・。
「っと・・・・!」
噛みつきをしゃがんで回避、からの。
ぐるんと横に回って、わき腹へ一発。
バカヤローなめんじゃねぇぞ。
お前らが欲しがってるわたしの敗北は、高くつくんだからね!!!
◆ ◆ ◆
「――――逃げてばかりでいいの?」
「くっ・・・・!」
次々飛んでくるカマイタチをステップで避ける。
時折腕の中のコナンを気に留めながら、同時に敵への警戒も怠らない。
対するシャンファは余裕の一言に尽きる。
苦い顔をする未来とは対照的に、どこか挑発的な顔で嗤う彼女。
(情けないッ・・・・!)
二人の対峙を見続けていたコナンは、同じく苦い顔で思案に暮れる。
文字通り荷物となっている状況で、平静で居られるような人間ではないのだ。
だが、何の役に立つかと言えば、言葉に詰まってしまうのが現状だった。
(いや、違う!)
そんな弱気な考えを、彼自身で一喝する。
(確かに腕っぷしは服部にも負けちまう俺だけど、推理だけは、考えることだけは誰にも負けない自信があるんだ!)
そして、未来の邪魔にならない程度にかぶりを振ったコナン。
もう一度目を開けば、周囲の状況がよく見える。
(あの呼び出されたモンスター・・・・確か罪人の心臓を食べると言っていた。恐らく、古代エジプトでの、死後の裁きに関わる者なんだろう)
視線の先では、大分苦戦してしまっている響。
あの二頭さえどうにか出来てしまえれば、シャンファを抑えて、かつ。
ツタンカーメンから発生している呪いを、解除出来るのではと辺りをつける。
(死後、冥界、つまりはあの世、死者の世界の生き物・・・・それを弱体化させるには・・・・ッ!!)
一通りの思考を終えたコナンの脳裏、ひらめきが過る。
未来が攻防で激しく動き回る中、ばっと上を見上げて。
「あ、あのッ!」
『コナン君か、どうした!?』
響が持たせてくれた、S.O.N.G.の通信機へ話しかけた。
すぐに、何度も話した司令官が返事をくれる。
「今何時か分かりますかッ!?」
『時間か?』
『現時刻は、午後四時半ちょうどよ。それがどうかしたの?』
疑問の声が上がるものの、オペレーターが答えてくれた。
その返事に、コナンは確かな手ごたえを。
勝利への活路を見出す。
後は、己自身次第だ。
「未来さん!お願いがあるんだ!!」
「えっ?わっと・・・・!」
急に話しかけられたので、未来は一瞬呆けてしまうが。
何とか攻撃を回避して耳を傾けてくれた。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫それで、お願いって!?」
「うん、あのね――――」
未来が意識を向けてくれている内に、コナンは手短に作戦を伝える。
・・・・当然ながら、ぎょっとした顔を向けられた。
「それじゃあ、あなたが危ないじゃない!」
「分かってる、でも、響さんや未来さんが一生懸命なのに、ボクだけお荷物じゃいられない。見てるだけなんて、出来ないッ!」
「それでも・・・・!」
未来とて、コナンの気持ちが分からない訳ではない。
むしろ状況が状況なら、首が千切れるほどに首肯していただろう。
だが、それはあくまでもしもの話。
そうでなくても、小学生に命を掛けさせるのはためらわれた。
通信の向こうの本部も、難色を示していたが。
『いいんじゃない?やってみようよ』
そんな中、通信越しにコナンを後押しをしたのは。
未だ怪物と攻防を繰り広げている響だった。
『そういうギャンブル、嫌いじゃない』
マフラーをひるがえし、拳と蹴りを叩き込みながら。
こちらに目をやると、にっと笑みを浮かべる。
身内である響の言葉が効いたのか、未来は、まだ心配を拭えないようだったが。
それでも、本部共々腹は決まったようで。
『計算の結果、コナン君が未来ちゃんから離れていられる時間は、わずか十秒。これを過ぎれば、いくら勇気があろうとも危険よ』
『ということだが、それでもやるのか、コナン君?』
問いかけに、コナンは自信満々に笑って。
「――――やるッ!出来るッ!!」
己のみならず、見守る面々も鼓舞するように叫んだ。
そうと決まれば、と、未来は一気に攻勢に出る。
銃撃やレーザーを駆使して、シャンファの注目を引き付ける。
コナンはその間、必死に目を凝らして状況を見続けて。
(――――ここだッ!)
目を見開いて、タイミングを見極めた彼は。
いつでも離脱出来るよう緩められていた、未来の腕から飛び出した。
――――10
両手が開いた未来は、コナンの邪魔をさせまいと飛び出し。
鉄扇による白兵戦も織り交ぜて、攻め手を苛烈にする。
――――9
ここまで来れば、さすがのシャンファも何らかの意図があると気づいた。
自らも蹴り技を中心にした格闘術で応戦を始め、その一方でコナンの行方を探る。
――――8
自らのアドバンテージのはずだった煙が、今度は彼の味方をして、その姿を巧妙に隠していた。
苦い顔をするシャンファの耳に、空気が吹き込まれる音。
――――7
はっとなって目を向ければ、あの強化シューズでボールを打たんとしているコナンの姿が。
「・・・・ッ!」
突風で未来を弾き飛ばした後。
発射されたサッカーボールを、難なく防ぐシャンファ。
どうやら、御自慢のサッカーボールで昏倒を狙ったらしいと読んだものの。
「――――あなたなら、そうすると思ったよ」
――――6
その予想は、見事に裏切られる。
コナンの不敵な声が聞こえた次の瞬間。
彼の小さな体が、飛び掛かってきて。
シャンファが展開した障壁を足場に、さらに高く飛び上がった。
――――5
跳躍にも強化シューズを使ったのか、予想よりも高く飛んだコナン。
再び生成されたサッカーボールを見て、本当の狙いに気付く。
「邪魔はさせないッ!」
――――4
対処しようとすれば、未来が妨害にかかった。
シャンファは苦虫をつぶしたような顔で、鉄扇を蹴りで防ぐ。
「うおおおおおおおおおッ!」
――――3
かくして、サッカーボールは放たれる。
コナンの渾身のキックでまっすぐ撃ち上がるサッカーボールは。
日光を遮る天幕へ。
――――2
見事ど真ん中を打ち抜き、ワイヤーを引きちぎり。
吹き抜けを飛び越えて。
――――1
天井の窓ガラスを打ち破って、とうとう外へ。
夕方とはいえ、十分な日光が。
展示室に降り注いだ。
その、刹那。
「「ギャアアアアアアアアアアアアッ!」」
――――0
耳をつんざく悲鳴。
弾かれるように目をやれば、せっかく召喚したアメミットが悶え苦しむ姿が。
――――冥界の、死後の世界に住む彼らにとって。
生命の象徴である太陽が、猛毒であることは。
考えるまでもないことだった。
「――――うぉりゃああああああ!!」
悔しがる間もなく、雄叫び。
怪物二頭が居なくなったということは、彼らが抑えていた響が解放されることを意味していて。
未来と入れ替わるように突っ込んでくる響。
比べ物にならないほどの攻勢が、シャンファに『応戦』以外の選択肢を許さない。
「――――これでッ!」
「――――終わりだぁッ!」
そうこうしているうちに、未来が。
無事受け止めたコナンと一緒に叫びながら。
展開した脚部装甲から、破魔の光を解き放った。
◆ ◆ ◆
ッシャオラァ!!勝った!!
アレクサンドリア号事件、完ッ!!
なんて。
まだ目が回復していないのに、ガッツポーズを決めちゃう。
呪いの根っこになってしまったツタンカーメンに、未来がごん太レーザーを叩き込んだことで無事浄化。
シャンファさんにはどさくさに紛れて逃げられてしまったけど、ひとまずは事態のひと段落を喜ぶことに。
「響!」
「響さん!」
一応周囲の警戒を続けていると、未来とコナン君が駆け寄ってきた。
もう抱っこの必要はないので、コナン君は自分の足で立っている。
「未来、お疲れ様!コナン君もありがとー!今回のMVPだ!」
「えへへ、でも、響さんや未来さんがいなかったら、ボクだって危なかったよ」
「どういたしまして、それでも、よく頑張ったね」
言いながら未来が頭を撫でると、照れくさそうに鼻をこするコナン君。
謙遜している彼だけども、助けられたのは事実だ。
物理的に打ち倒すことばっかりに集中しちゃって、コナン君みたいに知恵絞ること忘れかけてたからね。
それに、冥界のバケモノに対して『太陽を使う』という答えに自力でたどり着いたんだから。
いやぁ、ホント、
「・・・・?」
なんて、感心している時だった。
背後で、何かが動いた気がして。
「・・・・ッ!!」
素早く、振り向く。
そこにいたのは、死んだはずのアメミット。
今まさに体を焼き焦がしながら、それでもなお、わたしに牙を突き立てようとして。
迎撃は間に合わないけど、避けられる。
だけど、避ければコナン君と未来に当たる・・・・!
「響ッ!」
「響さんッ!危ないッ!」
心配してくれてる二人に、内心で謝りながら。
せめて腕に食いつかせて、被弾を減らそうと。
覚悟を、決めた時。
『――――騒がしい』
『――――ここを何処だと心得る?』
『――――控えよ』
瞬間、アメミットが目の前で叩き潰された。
すぐ目の前で土煙を上げる、何かの足。
ゆっくり、ゆっくり、見上げれば。
顔が無い、スフィンクスのようなものと、視線がかちあった・・・・気がした。
・・・・え、何?
何これ?
「響、あれ・・・・!」
未来の、何か驚いている声に促されて。
わたしも同じ方を見てみる。
・・・・ツタンカーメンの、黄金のマスクが。
何だか、自分で輝いている様に見えた。
『――――借りが出来てしまったな、遥か
驚愕するこっちもなんのその。
若くて、だけど威厳に満ちた声は。
それっきりを伝えると、輝きを消してしまった。
見れば、あのスフィンクスもいなくなっている。
「・・・・響さん、今のって」
「・・・・多分、だけど」
コナン君と見合って、首を傾げながらもう一度マスクを見てみるけど。
黄金のマスクは、ただ夕日を受けて煌めいているだけだった。
あとはエピローグを残すのみ!